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マイクロソフト・ユニバーサルが「フォーマット戦争を継続させなければならなかった」理由と著作権問題(ホーム・サーバの戦い・第3章)

 PC Watchの「元麻布春男の週刊PCホットライン・ジョブズ基調講演、MacBook Air以外の話題」にこんなことが書かれていた。

 iTunes Movie Rentalsでもう1つ注目されるのは、米国の主要映画スタジオすべてが顔を揃えていることだ。日本のメーカーが主導するBlu-ray DiscHD DVDといったパッケージメディアでは、それぞれの陣営に分かれているのに、Appleのサービスには全員出席というのでは、日本の家電メーカーは足元を見られていると思わずにはいられない(そのきっかけを作ったのは、一本化できなかった日本のメーカー側なのだろうが)。

Blu-ray DiscHD DVDだと分かれて戦っている間に、おいしいところ(北米市場)は全部Appleが持っていく、といった展開にならなければ良いのだがと懸念されてならない。それではミュージックプレーヤーの分野でiPodに叩きのめされたことの二の舞だ。

 たしかに、アメリカ国内はすべて一本化されており、いささか計略的とも思わざるを得ない。そこで、今までのエントリーをまとめ、新しい情報を加えた上で、アメリカの戦略と日本の対応の問題点を挙げてみたい。

アメリカ側がフォーマット戦争を引き伸ばした理由

 僕は「パラマウントHD DVD単独化でやっぱり見えてきた米映画業界の戦略」の中で、本田雅一氏の記事「Blu-rayとHD DVDを巡る新展開? 誰がためのフォーマット戦争維持なのか?」の中から
コンブロー氏の「現在、HD DVD市場は危機的な状況であり、ユニバーサルが両フォーマットをサポートすれば、HD DVD市場は維持できなくなる。だからこそ、HD DVD単独サポートを続けることでフォーマット戦争を継続させなければならない

 という言葉が重要である。つまり、「フォーマット戦争を継続させなければならない」ためにパラマウントHD DVDに単独サポート参入を決めたのである。その理由は何か。簡単である。できるだけ消費者を買い控えさせたいのだ。

と書いた。その時期に、マイクロソフト(東芝という説も)側から180億円の金が動いたという噂が流れた。つまり、その時期までは、マイクロソフトは、「フォーマット戦争を継続させなければならな」かったのである。
 そして、今年のCESでビル・ゲイツ氏の態度が180度変わった。
マイクロソフトの変心とコンテンツ配信の時代」「ブルーレイにパラマウント・マイクロソフトも乗り換えという噂」の時には、
 なぜ、ワーナーがブルーレイ移行に態度表明をしてから数日でパラマウントまでブルーレイに移行するのか。それは、マイクロソフトの「フォーマット戦争を継続させなければならない」(「ワーナーブルーレイ一本化とフォーマット戦争」)工作が終わったことを意味する。
 「ワーナーブルーレイ一本化とフォーマット戦争」のCNET Japanの「MSとバイアコム、広告とコンテンツで5億ドル規模の提携」や、「家電・コンピュータ業界がコンテンツの囲い込みを急ぐわけ」で紹介した「マイクロソフト=NBCユニバーサル、ディズニー、MGMスタジオ」など、コンテンツ配信の下準備が整ったことだからだ。
 その下準備とは、冒頭の記事の
「日本のメーカーが主導するBlu-ray DiscHD DVDといったパッケージメディアでは、それぞれの陣営に分かれているのに、Appleのサービスには全員出席というのでは、日本の家電メーカーは足元を見られていると思わずにはいられない(そのきっかけを作ったのは、一本化できなかった日本のメーカー側なのだろうが)。」(「元麻布春男の週刊PCホットライン・ジョブズ基調講演、MacBook Air以外の話題」)
という言葉に表れている。いわば、日本のメーカーはアメリカの手の内で遊ばされているのである。

ダウンロード違法化問題

 さらに、政治側からの著作権問題のごたごたがある。これは、「著作権者たちのいらだち」で、違法ダウンロード違法化問題は、「アメリカ年次改革要望書」ですでに外圧として記載されていたことを指摘した。
 「著作権法の「非親告罪化」とアメリカ年次改革要望書」でとりあげた(日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書 2006 年12 月5日 (仮訳)19-20頁)にこんな項目があるからだ。
II. 知的財産権保護の強化

日本の知的財産推進計画に掲げられた目標や、日米の知的財産権体制の結束をより深めるという両国の相互利益に合致するよう、米国は日本に以下の提言を採用するよう求める。

II-A-2. 著作権保護期間の延長 一般的な著作物については著作者の死後70年、また保護期間が生存期間と関係のない著作物に関しては発表後95年という現在の世界的傾向と整合性を保つよう、音声録音および著作権法で保護されるその他すべての著作物の保護期間を延長する。

II-A-3. 職権の付与 起訴する際に必要な権利保有者の同意要件を廃止し、警察や検察側が主導して著作権侵害事件を捜査・起訴することが可能となるよう、より広範な権限を警察や検察に付与する。

II-A-4. 偽作版 特に大学構内において違法に書物が複製されることを効果的に防止するため、著作権法をもって取り締まる。

II-A-5. 映画の海賊版 海賊版DVD製造に利用される盗撮版の主要な供給源を断ち切るために、映画館内における撮影機器の使用を取り締まる効果的な盗撮禁止法を制定する。

II-B. デジタル・コンテンツの保護 デジタル・コンテンツ関連規則や規制の透明性を確保し、オンライン上の著作権侵害を有効に防止する。

II-C. IPマルチキャストに係る強制実施権 IPマルチキャストやインターネット上でのテレビ番組再放送に係る日本の施策の変更が、市場を基盤とした解決策を目指すことに一義的な重要性を置き、国際的義務に従うものとなるようにする。

II-D. 私的利用に関する例外 私的利用の例外範囲を限定し、ピア・ツー・ピアのファイル共有といった家庭内利用の範囲を超えることを示唆する行為が、権利者の許諾なしには認められないことを明らかにする。

 最近の話題で言えば、II-A-2. 著作権保護期間の延長については、「著作権保護延長とディズニー」に、II-A-3. 職権の付与については、「著作権法の「非親告罪化」とアメリカ年次改革要望書」に、II-A-5. 映画の海賊版については、「映画盗撮防止法と国会質問」に触れている。そして、年次改革要望書の言うとおり、「映画盗撮防止法」ができたのはご存知のとおりである。
 今回のダウンロード違法化問題は、II-D. 私的利用に関する例外に関するものと思われる。そこで「著作権者たちのいらだち」の日本語文ではわかりにくいという指摘があった。ナガブロ氏のブログ「ぶっちゃけ、P2Pソフトによるファイル共有は、最初から違法です。」から引用する。
すなわち、アップロード行為が違法であることは、現行法上もすでに明らかであるところ、現在の検討課題はダウンロード行為を違法とすることができるかという点にあるのです。
 そんなわけで、GIGAZINEがこのアクションの原因としてあげる年次改革要望書も、ダウンロード行為をターゲットにしているはずです。ところが年次改革要望書の文面はこんな風になっています。

II-D. 私的利用に関する例外 私的利用の例外範囲を限定し、ピア・ツー・ピアのファイル共有といった家庭内利用の範囲を超えることを示唆する行為が、権利者の許諾なしには認められないことを明らかにする。
年次改革要望書(仮和訳)、20頁

 「家庭内利用の範囲を超えることを示唆する行為」というのが一体何を意味するのかよくわかりません。ところが英文の方を読むと、一目瞭然なのです。

D Private-Use Exception. Take further steps to strengthen the protection of digital content and preventing online piracy by narrowing the scope of the private-use exception so that activities with implications beyond the home. such as downloading copyrighted works from peer-to-peer networks. are not permitted without right holder authorization.
年次改革要望書(英文)、15頁

 ここには、「P2Pネットワークからの著作物のダウンロード」(downloading copyrighted works from peer-to-peer networks)と明記されています。
 以上の各点からすれば、GIGAZINEの記事は「年次改革要望書を受けて、ファイル交換ソフトを使ったコンテンツのダウンロード行為が違法とされようとしている」と、こう読まれるべきです。

 もちろん、アメリカ年次改革要望書の目的が、将来、Apple TVなどのHDレンタルが実現した場合の法整備にあることは明確である。日本側の足並みを乱したという理由はないが、しなくてもいい委員会で時間を引き延ばしたといえるのではないだろうか。

ダビング10問題

 また、ダビング10問題は、いまだに続いている。「権利者の要請によるDRM」を条件に補償金を順次廃止へ——文化審(IT pro)。池田信夫氏のブログ、「B-CASは独禁法違反である」にこうある。
 CAS(conditional access system)は、有料放送のシステムとしてはどこにもあるが、無料放送にCASをつけている国は日本以外にない。FAQにも書いたことだが、事の起こりは、BSデジタルを有料放送にするか無料放送にするかで民放の意見が割れたことにある。当初はみんな強気で、有料放送でやる予定だったので、ITゼネコンに委託して100億円かけてB-CASセンターを作った。それを使ってTVショッピングをやるとか、いろんな夢を描く業者がいて、私に役員になってくれと頼んできた企業もあった。私が「BSデジタルは危ない」と止めても企画会社をつくったが、やはり失敗して企画会社を清算した。
そういう現実をみて、各局とも弱気になり、当初は無料放送でやって、視聴者が増えてから有料に切り替えようということになった。ところが、困ったのはB-CASセンターの100億円をどうやって回収するかである。WOWOWだけならもともとCASはあるので、B-CASは必要ない。そこで彼らが考えたのが、とりあえずB-CASを全受像機に入れておき、有料放送になったとき、切り替えるという方針だった。
しかしBSデジタルの出足は悪く、各社は数百億円の赤字で、とても有料化できる情勢ではなかった。おかげで受像機の出荷も少なく、B-CASは赤字を垂れ流していた。そこで彼らが考えたのが、無料放送である地デジにB-CASを導入するという方針だった。これによってBSよりはるかに多くの「審査料」が取れるからだ。しかし、無料放送にCASを入れる大義名分がない。そこで出てきたのが、コピーワンスによって「著作権を守る」という理由だった。
 つまり、著作権を守るというのは後付だというのである。BSでは、本来の目的である有料化のめどは立っていない。むしろ、ネット配信で有料化の動きが加速している。しかし、有料化できるコンテンツが日本にあるのかどうかはなはだ疑問であるが。

 ともかく、フォーマット戦争や年次改革要望書による外圧、著作権論争による対応の遅れなど、あまりにもアメリカ側に都合よく引き伸ばされ、巌流島で戦う前に「小次郎(日本)敗れたり」となったわけである。

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