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「ジャスト・イン・タイム」方式への疑問

トヨタ過労死裁判

責任感が強い人ほど長生きできない日本のシステム」でトヨタ過労死裁判を取り上げたが、その報道は、東京の全民放では報道されなかったという。

トヨタ過労死事件 CNNほか海外メディアが注目も在京民放は無視、一貫して冷たいトヨタ」(ライブドアニュース)

 トヨタで死んだ内野さんの妻が国を相手取った裁判で過労死が認められ(11月30日名古屋地裁判決)、2007年12月14日に判決が確定した。本件はCNN、英『エコノミスト』、ロイター、APなどが世界中に報じたが、国内民放でしっかり時間をとって経緯を報じたのは大阪地区での毎日放送だけ。東京では「なかったこと」にされ、トヨタの巨額の広告宣伝費に抑え込まれた格好となった。法廷ではトヨタ社員2名が「残業でなく雑談していた」と証言したほか、トヨタは「国に控訴しないよう働きかけて」という要望書さえ受け取らず、終始冷たかった。

(中略)

 自動車工場だから、健一さんの仕事はライン作業が中心である。定時の後、あるいは定時前に長時間残業が課せられていた。しかも彼が担当していた品質検査業務は肉体的にも精神的にも過酷なものだったと、判決には次のように記述されている。

「〜不具合が発見された場合には、自分よりも上位の職制である後工程のGL(編集部注・グループリーダー)やCL(編集部注・チーフリーダー)に対して謝罪をするとともに、不具合を発生させた部署に連絡をして、ラインを動かしながら修理をするのか、ラインから車を下ろして修理をするのかなどの対処方法について、折衝を行っていたものである。

 無駄を出さないことが絶対的な目標とされるトヨタ生産方式の下では、不具合処理における折衝が必然的に苛烈なものとなり、折衝の相手が上位の職制であることもあって、上記のライン外EX(編集部注・エキスパート=班長)としての業務は、健一に大きな心理的負担を与えるものであった」

 トヨタは「ジャスト・イン・タイム」方式を採用している。
 自動車の生産ラインはいろいろな工程があるが、健一さんの部署の前段階がプレス工程、後の工程は塗装・組み立て工程だった。健一さんは組み立てラインの外にいて、ライン作業者からの情報を受けて、前工程や後工程にフィードバックしていた。

 トヨタでは品質管理が徹底していて、総合的品質管理(TQC活動)が非常に重視される。「ジャスト・イン・タイム」方式といって、必要なものを、必要なときに、必要なだけつくる方式だ。

 たとえば、1台の自動車をつくる過程で、組み立てに必要な部品が必要なだけ、そのたびに生産ラインの脇に到着する。こういうやり方が徹底されると在庫がほとんどなく、とても効率的だ。(トヨタで死んだ 30歳過労死社員の妻は語る(2))

 確かに、これほど効率的でコストカットに優れたシステムはない。しかし、そのことは、すべてが順調に動いたときのみである。その問題点は、
・生産計画を工程能力を常時100%可動するものとして決める事が多いため、不測の事態に対しては脆弱である。

・道路渋滞、荒天、事故、災害等によって、部品の納入が遅れもしくは不可能になった時、生産に必要な部品類の在庫を切り詰めているが故にすぐに生産不能に陥る。(このシステムを採用していない工場では、通常生産の継続に必要な量の部品をある程度安全在庫として確保している)

・納入遅れによる生産影響のみならず、工場内の工程間においても、一部機能の停止が瞬く間に工場全体にまで波及する。

・このように、不測の事態が起こった際の被害が大きいため、稼働維持に関しての関係者への重圧が大きい。(ジャストインタイム生産システムWiki)

 思い出して欲しい。新潟中越沖地震が起きたとき、部品工場の稼動がとまり、トヨタの生産ラインが停止したことを。

福知山線脱線事故

「ジャスト・イン・タイム」と聞いて、思い出すのは、福知山線の脱線事故である。これもまたダイヤに決められたその時間に止まらなければならない仕事だからだ。僕は、「守るということ」と題して書いたことがある。
100人以上の死者を出した脱線事故があった。真相を追究していくと一分半程度の遅れを取り戻すために時速100キロ以上のスピードでカーブを曲がりきれずにマンションに激突したという。ここの路線は競合の私鉄との競争が激しく、時間厳守が望まれていた。

つまり「時間を守る」ことを優先したために乗客の「命を守る」ことができなかったのだ。本来、「時間を守る」=「命を守る」が当たり前だと思っていた人々に、実はこの「時間を守る」=「命を守る」というバランスは大変危ういものであることが判明したのである。乗客の命をとられた遺族は、鉄道会社の責任を追及する。最初、鉄道会社は「8メートルのオーバーラン」だとか「置石があった」とかいって自分たちの責任を回避しようとした。つまり、鉄道会社は「自分の地位を守」ろうとしたのである。

一つの大きな事故はこの3つの「時間を守る」=「命を守る」=「自分の地位を守る」をバラバラにする。実は「安全」とはこのような危ういバランスの上で成り立っているのだ。

 おそらく、民放各局が報道しなかったのは、トヨタというスポンサーの怒りを買って自分の地位が飛ばされるのを避けたのであり、トヨタ社員が「残業でなく雑談していた」と証言したのも、自分の地位を守るためであった。過労死した社員もまた、自分の地位を守る=時間を守る(=生産ラインを止めないこと)ために働いたのだが、自分の命を守ることができなかった。過労死の状態まで働いたのは、このまま死ぬとは思わなかったに違いない。人間は、自分の死期がわかれば、慎重になるが、普通はいつまでも長生きできると思っている。

Time is Money or Time is Life ?

 「ジャスト・イン・タイム」方式は、かつて日本の会社が家族的な時代なら、成り立っていただろう。現在のように、毎日のように派遣社員が入れ替わり立ち代り入り、昨日と今日の顔ぶれが違う状態では意思の疎通が図れない。その分、心労は増大しているはずだ。「ジャスト・イン・タイム」も究極のコスト・カットシステムである以上、「コストカットが無駄を作り出す」のルールから逃れられない。そう、在庫はなくても作れば作るほど廃車は出るのだ。効率が良い分、無駄が増えていくのである。ともかく、「時は金なり」よりも「時は命」で働きたい。
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