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素人だから言えることもある

久夛良木氏のPS戦略(ホームサーバの戦い・第11章)

Xbox vs PS2(ホームサーバの戦い・第8章) で、マイクロソフト(ビル・ゲイツ氏)側から、ゲーム機戦争の目的を探ってみたが、今度はソニー側(SCE久夛良木健氏)から探ってみたい。

Wintelに挑戦」を探して

 Xbox vs PS2(ホームサーバの戦い・第8章) で、「マイクロソフトの蹉跌—プロジェクトXboxの真実」(ディーン タカハシ著/元麻布 春男監修/永井 喜久子訳/ソフトバンク) の中で、MSXパソコンが失敗した後も、
 しかし、ゲイツはあきらめなかった。彼は1999年にプレイステーション2(PS2)が発表されるよりずっと前に、ソニーのCEO出井伸之に、マイクロソフトのプログラミングツールを使ってほしいと持ちかけている。次に出るPS2用のゲームを作るのがこれで楽になると主張したが、出井は断った。出井によれば、ほかの分野でもマイクロソフトの提案を退けたので、ゲイツはかんかんになったそうだ。(ディーン タカハシ著/元麻布 春男監修/永井 喜久子訳「マイクロソフトの蹉跌—プロジェクトXboxの真実」ソフトバンク)
がきっかけだった。しかし、それはあくまでも、表面上には現れていない。そこで、XboxのWikipediaを読んでみると、
 2000年3月、日本国内のSCEプレイステーション2(PS2)発売のわずか数日後に、マイクロソフトがゲーム機参入を発表。当時ソニーグループはPS2でWintelに挑戦すると宣言しており、SCEがトップに君臨するゲーム業界にマイクロソフトが逆に挑戦するという構図になったことで話題を集めた。マイクロソフト社内での最初期のコードネームは「プロジェクト・ミッドウェー」で、マイクロソフトならではのPCのノウハウを生かしたゲームコンソールとPCの中間(一般名詞midway)の存在を目指すこと、およびミッドウェー海戦になぞらえた日本への反攻開始が意味されていた。噂の段階から開発コードネームとして浸透した「X-BOX」が、そのまま実際の名称にも使われることとなった。製品仕様や発売前の技術デモなどは徹底的にPS2を意識していた。(Xbox Wikipedia)
 そこで、この「Wintelに挑戦」の意味を調べてみた。ASCIIの元麻布春男のソリッド・ステート・サバイバー「プレステ2の挑戦」という記事があった。そこでは、1999年3月2日にソニーのPS2の発表があったという。
 今回のプレステ2の事実上の発表で,筆者が一番注目したのは,ソニー首脳による「ウィンテルに挑戦」という刺激的な言葉だ。実際に発表会に行っていない(呼ばれていない)筆者は,これがどのような文脈から出てきた発言なのか,本当にこの発言があったのかは分からない。だが,多くの内外新聞等が同じような報道をしていることから,文脈はともかく,このような発言があったのだと理解している。

 問題は,この発言の真意である。ウィンテルに挑戦するというが,プレステ2がWindowsを搭載したPCに本気で「挑戦」するとは考えられない。なぜか。理由は簡単だ。PCの本丸は,誰が何と言おうとオフィスである。

 オフィスで表計算ソフトやワープロを使うというのが,(残念ながら)今もPCの主流だ。いくらプレステ2の性能が高かろうと,オフィスに浸透するアプリケーションをすぐに揃えられるハズがない。

 プレステ2がウィンテルPCとぶつかるとしたら,それはおそらく家庭市場だ。現行プレイステーションの出荷台数が全世界で5000万台に達する一方で,PCの普及率がアメリカで5割を超えたという市場調査が発表されている。だが,どちらかといえば,この市場での争いは,家庭市場への浸透を狙うPC業界(米国企業)に対し,それを迎え撃つ家電業界(のゲーム専用機,ほとんどが日本を含めたアジア企業)といった構図と理解した方がシックリとくる。

 オフィスアプリケーションを武器に,残業マシンとして,あるいは将来社会に出た時の準備用としてまず家庭(ただし個人の部屋)に浸透し,それを足がかりにリビングルームにも進出し,家庭のエンターテインメントセンターの座を狙う,というのがPC業界のシナリオだ。(「プレステ2の挑戦」)

 実際、マイクロソフトがリビングに進出したいというのもXbox vs PS2(ホームサーバの戦い・第8章)に書いたとおりである。
 しかし、この「Wintelに挑戦」と言ったソニー首脳は誰なのか。それを見つけたのは、2月21日に発売されたばかりの「美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史」西田 宗千佳著/講談社BIZ) からである。
 出井は、居並ぶ記者たちを前にこう宣言する。
「次世代プレイステーションは、ムーアの法則をも超えるレベルの半導体を搭載している。パソコンを中心とする、インテルマイクロソフト体制へのチャレンジとなる」(西田 宗千佳著「美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史」講談社BIZ)
と、当時のソニー本社の出井社長であることを示していた。

垂直統合と水平分業

 マイクロソフトがゲーム業界に参入する勝算として「マイクロソフトの蹉跌—プロジェクトXboxの真実」(ディーン タカハシ著/元麻布 春男監修/永井 喜久子訳/ソフトバンク) に、こんなことが書かれていた。
 では、なぜマイクロソフトはゲーム機でソニーに勝てると思ったのだろう? それに答えるには、PCの話に戻る必要がある。

ソニーは垂直統合の型の企業であり、必要な部品の多くを自前で調達している。それに対して、マイクロソフトは水平的な戦略をとっているから、部品はそれぞれ専門のメーカーに作らせてコストダウンを図り、それを寄せ集めて作ったハードウェアのてっぺんに自分のソフトウェアをのせるだけでいい。

ソニーは多くの場合自前の技術を使うことを余儀なくされるのに、マイクロソフトはさまざまなメーカーの部品の中から最高のものを選べるので、ソニーよりも優れたゲーム機を作れるはずだ。それはちょうど、最高のコーポネントを集めて安価なPCを作るのとよく似ている。(ディーン タカハシ著/元麻布 春男監修/永井 喜久子訳「マイクロソフトの蹉跌—プロジェクトXboxの真実」ソフトバンク)

 しかし、この考え方はゲームにあわないと久夛良木氏は言う。
 ゲーム機は、単一の製品が大量に出荷される。この時点で、ムーアの法則を生かせる「単品生産」の条件を満たしている。

 そして、ゲーム機が有利であるもう一つの理由は、「LSIを進化させる必要がない」ということである。
 パソコンも家電も、新製品の投入に合わせ、性能を向上させねばならないという点では変わりない。前のモデルとの差をつけなければ、ライバルとの競争に勝てないからだ。


 だが、ゲーム機は違う。一度売り出されれば、世代交代が行われる五年間は、性能を変更させる必要がない。むしろ「同じゲームソフトが動く」ことを保証するために、性能を変えてはいけないくらいである。つまり単品生産でも性能に優劣のあるLSIの生産量をマーケットに合わせてマネジメントする必要がないということだ。

 となると、ゲーム機の場合、ムーアの法則は、どう働くのか? パソコンのCPUやメモリーでは「性能向上」に使われていた高集積化が、純粋に「低コスト化」のみに使われることになるのである。(西田 宗千佳著「美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史」講談社BIZ)

 もし、半導体を自前生産せずに、他社の半導体メーカーに生産させたとすると、ゲーム機の定価は下がらずに、すべての利益はその半導体メーカーに持っていかれることになる。
「PS1の時は、LSIロジック社に委託するしか生産のしようがなかった。でも、PS2ではそうではないからね」 久夛良木はそう断言した。裏を返せば、PS1の時も、できることなら、生産委託などしたくなかったということである。

「他社に利をもっていかれることになるじゃないですか」

 久夛良木はさも当然という口ぶりで話す。

 生産委託するということは、パーツを他社から買うということである。(中略) 半導体製造企業は、半導体製造技術の進歩によるコスト低減を自社の利益を最大化するために使う。 だから製造技術の進化によるコスト低減のメリットを、PS1では100パーセント享受することができなかったのだ。1200億円は確かに莫大な投資額だ。しかしPS1では利益の取りこぼしがあった。久夛良木にとっては、アナリストがなんと言おうと、PS2では取りこぼしのないように準備したにすぎない。
(西田 宗千佳著「美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史」講談社BIZ)

よく、ゲーム機の収益構造を
「家庭用ゲーム機は、ソフトウェアの生産により、多額のライセンス収入を得られるビジネス。ハードウェアは赤字で販売したとしても、最終的にソフトウェアで元が取れる」(西田 宗千佳著「美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史」講談社BIZ)
という考え方があるが、久夛良木氏は、
「考え方の的が外れてます。ハードで黒字化しない限り、健全なビジネスになんかならないんです。ゲーム機の歴史において、ハードで黒字が出せなかったところは、みんな失敗していきましたよ」
 彼が暗に批判するのは、PS1と同時期に販売していたセガサターンのことである。

(中略)

セガサターンは、元々高性能なゲーム機ではあったものの、PS1の三次元CG性能に対抗するために急場しのぎで設計を変更した結果、大量のパーツを使わざるを得ない仕様となっていたのだ。つまりコストカットしにくい設計となっていたのだ。そのためか、当時のセガ・エンタープライゼスは、「ハードウェアの販売は赤字だが、ソフトウェアの収益によって補填する」との見方を示し、事実それに近い戦略を保っていた。

 SCEセガ・エンタープライゼスは争うようにゲーム機の値下げを行い、それが市場を盛り上げた。だが、この値下げ合戦こそ、久夛良木たちの望むところだったのである。(西田 宗千佳著「美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史」講談社BIZ)

 確かに、PS2までは、半導体の自前生産による収益構造は正しかった。 しかし、現在では、PS3の半導体であるセルを東芝・ソニー・SCEとの合弁事業に移管することになり、自前生産の収益モデルが変更されている。

PSBBとXbox Live

実は、PS2ですでにネット配信を始めている。それがPSBBである。
PSBBで、SCEが狙ったことは何だったのだろうか? 久夛良木は明確に答える。
「ウェブとは違うテレビのためのインターネットを創造することですよ」

 実のところ、先のミーティングで考えていたことの一つが、PSBBだったのである。

 PSBBには、通常のウェブサイトを観るためのウェブブラウザは搭載されていなかった。目的は動画や音に特化した「PSBB向けコンテンツ」をテレビ画面に表示することであったり、ネットワーク対戦やオンライン上で他のユーザーと一緒に行う協力プレイであったり、ゲームのダウンロード販売といった機能を追加することであった。

「テレビで、既存のウェブサイトを観るのは現実的ではない。文字も小さくなるし、表現も稚拙だ。ならば、チャンネルを切り替えるような感覚で使えるテレビ用のプラットフォームが必要だ」(西田 宗千佳著「美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史」講談社BIZ)

 しかし、このPSBB、使い勝手が悪く、またコンテンツも集まらず、浸透しなかった。せいぜいFFⅪの利用者くらいだった。その開発をした岡本伸一氏は、
「本当は、もうネットワークの時代にしてしまいたいと思ったんです。ゲームも、できればディスク配布からネット配信にしたかった。プロバイダー経由での販売という形で、PS2のビジネスモデルを変えてしまおうという意図があったのですが…」(西田 宗千佳著「美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史」講談社BIZ)
一方、Xboxではこのネット配信は成功した。
 北米では、これを反面教師とした企業がいた。PS2から遅れること1年半、2001年11月、マイクロソフトは、米国で「Xbox」を発売した。ネットワーク機能を標準では搭載しなかったPS2と違い、Xboxは標準搭載だった。マイクロソフトは、「Xbox Live」というゲーム専用ネットワークを構築し、ネットワークゲーム構築用のノウハウを、サーバー運営費用を、ゲームメーカーに提供したのである。オープンで挑んで失敗したSCEとは、真逆の戦略である。(西田 宗千佳著「美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史」講談社BIZ)
 収益モデルでは、ソニーに負けているマイクロソフトも、さすがにオンラインゲームでは一日の長がある。
 しかし、そんなマイクロソフトXbox360で、HDDを搭載しないXbox360コアシステムについてこんな批判があった。
Xbox 360 コアやアーケードのHDD無しは“ミステイク”」 開発者の声
「私はソニーがPS3でしたように、マイクロソフトが、ハードドライブ必須という選択をすることを願っていました。彼らは初代XBOXではそうしました。何故、彼らが360でハードドライブを必須としないという決断をしたのかわかりません」

「開発者は、ハードディスクの利用で利益を得ます。ハードドライブによってロード時間は早くなります。インストールの時間を短くする、という問題には直面しますが、開発者だけでなく、ゲームをプレイする側もハードライブによって利益を得るのです。私は(ハードドライブを必須としないという決断は)マイクロソフトXbox 360でした失敗のひとつだと考えています」

 確かに、パソコンでは様々な選択肢をつけることは意味がある。ソフトによっては、必要なメモリーやハードディスクが必要になるし、必要のない人間にはハードディスクがなくてもかまわないだろう。後から、つなげればすむからである。しかし、ゲーム機でそれをやると、開発者はハードディスクがない人のためを考えて開発しなければ、そのゲームが動くことの最低限の保証すらできないことになる。PS3とXbox360を同じ条件で動かすためには、コアシステムが足を引っ張ることになるのだ。

次世代DVDとゲーム機

 PS3の開発者たちは、初めからブルーレイありきではなかった。
 PS2にDVDが搭載されたように、PS3では比較的早期から、DVDの後継規格となるブルーレイ・ディスク」(BD)の搭載が決まっていた。どうやら、SCE側は「ディスクよりもネットワーク配信」という意識が強く、ディスク規格にはあまり興味がなかったようだが、ソニー本社側の強い要望もあり、2003年までには内部で正式な決定がなされていた。


「DVDではすでに容量が足りず、二枚組のソフトも出始めている。ならば、最新の企画を採用するのは当然のこと」と久夛良木氏は話す。現実問題、DVDは違法コピーと容量不足に直面しており、次世代への移行は必須だったのである。(西田 宗千佳著「美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史」講談社BIZ)

 たとえば、6月12日に発売されるメタルギアソリッド4では、
メタルギアソリッド4』Xbox 360にはリリース不可……その理由は?
それはBlu-rayディスク二層式による50GBをフルに活用した作品である、ということに尽きるようです。それだけの大容量を使う大作となっているのかは、ゲームをプレイしてみなければ分かりませんが、単純に考えてもXbox 360のゲームタイトルは今も最大であるDVD2層式(約8.5GB)までしかリリースされていないという点で大きく差を付けられています。
マイクロソフトにとっては、ネット配信までのつなぎでしかないかもしれないが、ディスクの容量の差は明確にゲームの質を落とすことになる。HD DVDをゲームディスクに採用しなかったために、容量不足はXbox360の将来に暗雲をもたらしつつある。したがって、本格的なネット配信のインフラ整備か、CNET Japanの「MS、Xbox 360用Blu-rayドライブ開発でソニーと協議中か--英紙報道」に、
単にソニーとMicrosoftは、製造中止が決定し、現在は激安で販売されている、Xbox 360の外付けHD DVDプレーヤーの後継機種について協議しているのではないと伝えている。むしろ、より高価な新しい「プレミアム」モデルのXbox 360にて、すでにPlayStation 3が内蔵しているような、内蔵型のBlu-rayドライブが採用される可能性についても、Financial Timesは明らかにした。
とあるように、ゲームディスク用に採用しなければ、ゲーム機として生き残れなくなるかもしれないのである。
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