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素人だから言えることもある

「お笑い番組」の変質は、コント55号vs「全員集合」から

前工程の舞台と後工程のVTR

 コント55号vsドリフターズではない。あくまでも「全員集合」という番組がテーマである。この「全員集合」は、最近のお笑いの歴史において、唯一のテレビ局とタレントが一緒になって作った番組である。他のお笑い番組は、タレント主導であったり、テレビ局主導であったりして、どちらかにバランスが傾いていた。したがって、コント55号の番組は、あくまでもコント55号主体であり、番組別にテーマを決めることはできない。

 さて、「全員集合」の何が凄いのか。それは舞台でお笑いをするということである。それなら、吉本新喜劇とか松竹新喜劇があるではないかと思う。あれは、あくまでもコメディであり、喜劇であって、ストーリー重視であり、「お笑い番組」とはテーマがずれる。

 さて、今の日本のテレビで「全員集合」が作れない理由で、

ハプニングとアドリブの「笑い」に対して、時間をかけて徹底的に練りに練り上げた「笑い」を中心とする、バラエティー・ショー番組を作ろうと思った。(居作昌果著「8時だョ!全員集合伝説」双葉社)
とプロデューサーの居作氏の言葉を引用した。彼は喜劇ではなく、バラエティー・ショー番組と言っている。確かに、歌あり、コントありのバラエティー・ショー番組であった。最近では激減している舞台を使ったバラエティは「カックラキン大放送」など、その時代では、主流であった。スタジオコントとの違いは、失敗しても撮り直しがきかないという点である。お笑いの場合、受けるだろうと思って出したギャグもすべることがよくある。そのため、リハーサルにリハーサルを重ね、緻密に計算していく。たった一回の舞台のために。その意味では、「全員集合」というのは舞台俳優の演劇の作り方に似ている。舞台の前工程に時間をかけるタイプである。

 一方、現代の「お笑い番組」はどうか。放送時間に比べて、収録に時間をかけるVTRが主流である。収録に時間をかけるのは、面白いシーンをつまみ出し、構成するためである。さらに、テロップを加え、オチやギャグを強調する。いわば、後工程に時間をかけるタイプである。

テロップは電波少年から

 前工程に時間をかける舞台と後工程に時間をかけるVTR、舞台では、タレントにスポットが当たるが、VTRではタレントはそのスポットライトがどこにあるのかわからない。特に、最近の大量にタレントが登場する番組は、出ていても出なかったことにされる危険性がある。

 ところで、このテレビでテロップでつっこむという習慣はどこから来たかといえば、実はコント55号にヒントを得て作った電波少年である。ぼくは、総ツッコミ時代の原点はコント55号で土屋元プロデューサーの言葉を引用している。

(土屋) 55号のコントって、二郎さんって言う人をどこまで振り回すか?っていうのが形だったでしょ。 ある程度までは決まったパターンがあるんだけど、それがどこまで行くかは分からない、だからおもしろい。二郎さんというキャラクターのドキュメント。いいツッコミが決まれば、それはどんどん止まることなく 広がりを見せていく。相手を素人に変えても同じ事が言えるよね。うまくやりさえすれば、どんな些細なことだって こっちがどんどん広げて、演出していけるんだよ。それを俺は『電波』で活かしたかったんだ。だから編集やナレーション、テロップでつっこむことで 成立させていったんだよ。(高須光聖オフィシャルホームページ「御影屋」)

お笑いの変質はテレビ局の無責任システム

 もちろん、どちらが悪いというわけではない。当時は、両者ともきちんと責任を取るプロデューサーが存在していたし、個性的な番組としては成り立っていた。ところが、現在の「お笑い番組」のプロデューサーたちは、その特徴(テロップつっこみ)を悪用し、お笑い番組が単なるタレントのネタみせ番組と成ってしまった。

 元フジテレビのプロデューサー、横澤彪氏は、「お笑い」つまらなくなったワケ 横澤彪さんに聞く(上)の中で、

横澤 どの番組が、ではなく傾向として2点不満がある。1つは似たような番組が多すぎる。もう1つはお笑いを細切れに扱い過ぎている。1点目は、視聴率が高い他局番組を安易に真似しているということ。自分たちが番組をつくっていた時は、いかに他人と違うことをやるか、少しでも違う点を出したい、とやってきた。とても大変だし、当たるかどうかバクチみたいな所もある訳だけど、そうした苦労をするエネルギーが欠けている気もする。

——お笑いを細切れに扱い過ぎている、というのはどういう意味ですか。

横澤 短いネタや一発ギャグをショーケース的に紹介する傾向が強すぎるんだ。芸人は「ギャグで受けギャグで死ぬ」と以前から言われてきた。ただ、ギャグだけじゃ、すぐに飽きられてしまう。しっかりネタを作り上げないと。今のテレビの現状を考えると、瞬間的というか、細切れというか、そんな傾向が出てくるのは分からない訳ではない。それでも、大げさに言うとネタへの冒涜だ、と思える番組が多すぎる。

 当たれば、同じタレントを多用し、たちまち消耗させてしまう。本来は、番組と共にタレントを育成しようと考えるべきである。それが、同じような番組が増えたために、視聴者から総スカンを食っている。かつてのベストテン番組の乱造が歌番組を激減させてしまったように。


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