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素人だから言えることもある

私たちは、インターネットで引き起こされたパラダイムシフトの真っ只中にいる

2本のクローズアップ現代

 8月26日のNHKクローズアップ現代「グローバル・インフレ”の衝撃〜転換する世界経済 日本は〜」を見た。解説にはこうある。
 去年8月のサブプライム・ショックから1年、世界経済は危機に直面している。住宅バブルの崩壊が引き超した信用不安が世界的な景気低迷・後退局面を招いた。一方、行き場を失ったマネーが商品市場に流れ込んだ結果、原油などの資源や穀物の価格が従来のレンジを大きく逸脱して高騰、世界は経験したことのない"新しいインフレ"に見舞われている

30年ぶりの世界的なインフレ、景気低迷・後退局面が同時進行し、スタグフレーションの懸念が広がっているだけに対応が難しい。

中でも、安価な原材料を輸入し高価なハイテク製品を輸出してきた日本の危機はとりわけ深刻で、産業構造の転換が急務となっている。資源高で海外への所得移転が続き企業の利潤率は低下、労働者の賃金も下がり続けているからだ。私たちの暮らしを脅かし始めた巨額のグローバルマネー、その実態を追うと共に、世界的な経済構造の変化に日本はどう対処すれば良いのか、考えていく。

 資源国からの相次ぐ値上げで、本来の強みであった日本の加工貿易が危機に瀕しているという。今まで築き上げた経済構造ではこの波を乗り越えられないのだ。

 そして、8月27日のクローズアップ現代は、「日雇い派遣禁止 さまよう若者たち」である。

日雇い派遣」最大手のグッドウィルが相次ぐ法令違反で廃業に追い込まれたことをきっかけに、「日雇い派遣」で働く若者たちの再就職が問題となっている。

特に地方の場合、求人が少ない上に、雇用保険が派遣元企業に義務づけられていなかったため、ほとんどが失業給付を受けることができない。さらに、日雇い派遣原則禁止の流れは強まりつつあるが、運送業や量販店など、様々な業種で欠かせない存在になっており、特に中小企業では容易ではない。グッドウィル廃業であぶり出された課題から「派遣労働」のあり方を考える。

 本来、限定的であった「日雇い派遣」が規制緩和により、あらゆる業種に及び、「日雇い派遣」がなければ成り立たない業種が増えているという。これは、「日本、スラム化の予感」で指摘したように、
グループ企業派遣として定着してしまった派遣会社は、むしろ労働力のコストカットのために企業としてはなくてはならない存在となる

もともと、日本は物価高の高コスト社会である。コストカットはやりつくし、これ以上のコストカット化できない現在、本社を海外に移すか、グループ企業派遣によってより安い労働力を使うかしか方法はないのだ。

そのため、正社員はできるだけ削減し、残りの労働力を非正規雇用でまかなうことになる。したがって、企業としては、「正規雇用、パートの区別なく同一労働=同一賃金の原則」はありえない選択肢である。

 ここにある姿は、ギリギリまで追い詰められた日本のジリ貧の姿がある。2つの番組に共通するのは、過去の栄光にすがりつくノスタルジア軍団たちの断末魔である。今までの常識を覆す抜本的な対策しか今の日本を救う方法はない。だが、果たして、その方法が正しいかどうかは、誰も試したことがない。前例がないと動かない官僚たちでは、希望に導くことはできないかもしれない。ともかく、こうなった原因を過去のエントリーから探ってみよう。

フラット化する世界

 ソニーの元会長の出井氏の発言ではないが、「インターネットは地球に落ちた隕石である」。なお、正確には
 インターネットは、恐竜を滅ぼした隕石のように、産業界の姿を変える。新ビジネスが出てくる一方で、適応できない会社は滅ぶだろう。さらにブロードバンドネットワークも出現する。我々にとっては絶好の機会だ。(1999年COMDEXのスピーチ「ソニーとSONY」日本経済新聞社)(インターネットはテレビ局の解体を加速するか)
 この隕石は、知っている人間も知らない人間にも影響を及ぼした。ひとつは、時間と距離の超越。今までは、限られた地域の中で、商売をしていればよかった。あの大型スーパーがくると、町の商店街が寂れるとか、いや集客率が上がって繁栄するかもしれないとか。

消費者の行動範囲が限られているために、想定できた。ところが、インターネットが普及するとターゲットは世界規模になり、世界中に注文、配送すら可能になった。今まで、見えていなかったものが見えてくると、今まで成り立っていた商売が、成り立たなくなってくる。たとえば、「個人情報が輸出される「フラット化する世界」」では、コストダウンのために、ブルーカラーだけでなくホワイトカラーまで輸出せざるを得ない産業をとりあげた。

 製造業の分野では続々と生産拠点を中国へ移し、コストダウンを図ってきた日本企業。そして今、人事や経理などホワイトカラーの仕事までもが次々に中国へ移っている。大連や上海などの都市では、日本語を話せる人材の育成を強化し、日本のサラリーマンの5分の1以下という人件費を武器に、日本企業の仕事を大量に請け負っているのだ。中国にホワイトカラー業務を移した日本企業は2500社に上る。(NHKスペシャル 人事も経理も中国へ)
 人件費の安い労働力を求めて派遣会社は、世界中に出店している。日本の製造産業に労働力を供給するためだ。製造現場が海外に移っている反面、国内では、その少ない工場をめぐって海外の労働者と日本の労働者が少ない賃金を求めて争っているのが現状である。これでは、価格競争で世界に負けるのは当然である。

 さらに、典型的な例として、コンビニ弁当をとりあげた。500円のコンビニ弁当を作るために、世界を4周している現実を「コストカットが無駄を作り出す」で紹介した。

すべてがコスト・カット主義で、より安い材料を求めるために、人件費の安い国になり、効率主義を求めるために、より広大な作付け面積を求めたためである。
 そして、これらのことは、すべて「フラット化する世界」のトーマス・フリードマンの言葉
フラットな世界には代替可能な仕事と代替不可能な仕事の二つしかない・・・フラットな世界の最も顕著な特徴の一つは、たくさんの仕事が代替可能になったことだ。
に集約できる。したがって、方法はひとつしかない。代替可能な仕事は、新興国に任せ、代替不可能な仕事、価格が高くても日本でしかできない仕事を開発し、育てていくしかない。これはまた、レッド・オーシャンからブルー・オーシャンに至る道でもある。

レッド・オーシャンからブルー・オーシャンへ

 ぼくは、「ものづくりは人づくり」の中で、 『ブルー・オーシャン戦略』(ランダムハウス講談社)を紹介した
 この本では,競合他社と価格や機能で血みどろの戦いを繰り広げなければならない既存市場を「レッド・オーシャン(赤い海)」,競争自体がない未開拓の市場を「ブルー・オーシャン(青い海)」と呼んでいる。「コスト削減」や「差異化」などを勧めるこれまでの経営書は,どれもレッド・オーシャンで勝つための方法を説いているとし,それとは違うブルー・オーシャンを創造することを提唱。そのための具体的な方法を解説している。(「他社とは違う土俵で勝つ」ためのブルー・オーシャン戦略
 そしてその考え方は、端的に「iPhoneとブルー・オーシャン」で引用した、「ハーバード・ビジネス・レビュー」の編集長の次のブログの言葉から伺える。
これは戦後の日本企業がやってきたことと同じです。ソニーは安かろう、悪かろうの日本製品を一流にしたいと考えました。このときに微細化技術を使えばブルー・オーシャンに行き着くだろうなどとは考えなかったはずです。何も制約のないところで、進んで行ったらブルー・オーシャンに行き着いたのです。

大切なのは決定論ではないところです。決定論に縛られると、「ウチにはこのようなリソースがないからやめよう」「やったことが無いからリスクが高い」と考えるわけです。もちろんこれらは間違いではありません。しかし、これではイノベーションが生まれて来ないのです。(ブルー・オーシャン戦略の本質

一方、Wiiというのは高齢者まで楽しめるものになっています。それゆえに不要とは言わないけれども、あえてそのハイスペック仕様に背を向けたことが、成功要因になっているわけです

そうすると、携帯電話の機能をおさえたものとどこが違うのかと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。Wiiはプレイステーションとは違うところに解がある、ということを見つける作業過程が違うのです。具体的にいえば、Wiiはノンカスタマーの声を聞きました。ここがキーになっていたと思います。(ヒット商品は戦略ミスから生まれる

 この言葉から、最近のエピソードを思い出した。例の北京オリンピックでも活躍したSPEEDO社の水着のことである。そのレーザーレーサーについて、スパゲティが発想のもとだという報道があった。この報道についてのイノベーションの面から書いたブログがあった。タイトルは「レーザー・レーサーはオープン・イノベーションの典型例だ
 これまで水着の開発は選手の着心地と動きやすさを重視してきたが、LRは選手の締め付け力を重視する。これまでの10倍の締め付け力があるという。
 イノベーションのきっかけはNASAとの共同研究。当初は摩擦の小さな生地の開発を依頼、100種に及ぶ生地を持ち込んだ。

ランスとNASAの研究担当者が昼、スパゲティを食べていて、NASAの研究者がふと呟く。「茹でる前の硬いスパゲティの方が、茹でた柔らかいスパゲティより、水の抵抗が少ない」体を締め付けることで水の抵抗を下げるアイデアが生まれた瞬間だ。

(中略)

 逆に教訓もある。(1) 自社の外に自社の人間より優れた人たちがいる、(2) 客の言うことを聞いていてはイノベーションは起こらない、(3) イノベーションのキーは専門知識ではない。

 つまり、イノベーションはカスタマー(水泳選手)の言うことを聞いていないから、レーザーレーサーは成功したのである。レッド・オーシャンではカスタマーの言うことを聞いて、商品を作るが、ブルー・オーシャンは、カスタマーの言うことを聞かないほうがいい。

派遣制度からは人は育たない。

 このような、ユニークな発想をするためにもスキルアップが必要になってくる。それに上司もそのアイデアに乗る度量が必要である。ところが、派遣社員はもちろん、正社員も忙しすぎてそんなことを考えている暇はないのだ。ぼくは、「ものづくりは人づくり」の中で松原コンサルティングの松原友夫氏の言葉を引用した。
 知的産業で派遣という契約形態は,技術者,それも優秀な技術者を駄目にします。派遣形態の場合,右向け左向けと命令されて仕事をすればよいので,人を受け身にするばかりか,時には悪い条件で働かされ,精神的にも,体力的にも,耐え難い状態になることがあります

といって技術者が学んで効率を上げると,ソフトウエア会社の儲けは減ってしまいます。大学でソフトウエア・エンジニアリングをしっかり教えようという動きがありますが,産業体制がこのままでは無駄に終わるでしょう。大学で習ったことを実践する場所も機会もないまま,若手は開発現場をたらい回しさせられるわけですから。(改めて考える「日本のソフトウエア産業,衰退の真因」と復活策)

 SEでもこんな状態なので、日本の現状は、お先真っ暗に見える。僕は、このエントリーの中で、日本復活のヒントは書いた。しかし、具体的に書いたところで、意味はない。それぞれが自分の頭の中で考え、どう行動するかにかかっているのだから。そして、みんな、同じ方向を見ている必要はないのだ。確かに、ブルー・オーシャンは現実にあるのだから。
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