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素人だから言えることもある

振り込め詐欺の組織から見る「壊れる日本人」の縮図

「出し子」という名の派遣社員

 NHKクローズアップ現代振り込め詐欺 なぜ減らないのか」を見た。ATMのビデオ画像から切り出された手配写真の犯人は、「出し子」と呼ばれる現金を引き出す役の人間だ。毎日新聞の記事にこうある。
 出し子の画像公開を巡っては、千葉県警が今年7月に公開し、容疑者逮捕に結びつけた例がある。しかし、容疑者の画像・写真の公開は通常、令状を取ってから行う。令状請求前でも公開する今回の方針は異例といえる。

 背景には、振り込め詐欺被害が昨年後半から還付金詐欺を中心に激増し、過去最悪だった04年と同じペースで推移している現状がある。本人確認の甘いレンタル携帯電話など犯罪ツールの匿名化が捜査の壁となり、検挙が追いつかない状況が続き、警察当局は抑止効果が期待できる画像の公開が不可欠と判断した。

 ただし、出し子の場合、詐欺グループがインターネットやタブロイド広告などで募集している場合が多く、犯罪全体への関与の度合いが薄い場合も考えられる。内部で議論を重ねた末、複数のATMで引き出すなど、グループの一員の可能性が高い出し子に限り、公開することにした。(2008年10月1日毎日新聞)

 最近、詐欺の世界も派遣社員(もちろん、正確にはアルバイト。ただ、首謀者とは直接契約を結ばないので、顔を知らず、その構造が派遣社員と似ている)を使うらしい。防犯泥棒大百科というブログでは、
「出し子」とは、振り込め詐欺グループで現金引き出し役を担う人をいいます。

この振り込め詐欺は、「オレオレ」と電話をする人間ばかりが全面に出ているようですが、分業化が進んでおり、その他登場人物(弁護士役、警察官役など、相手の職業や手口の内容で登場人物が変わる)など「だまし役」、現金引き出し役、指定されたATMに出し子を連れていく運転手兼口座管理役、使用する携帯電話の契約者、振込み先銀行口座開設者など「道具屋」・・といろいろな役に分かれています。インターネットの裏サイトの求人情報を見て、軽い気持ちでグループの一員となる未成年も多いということです。(防犯泥棒大百科「出し子」

 先月、逮捕された「出し子」の例が出ていた。
 調べによると、無職男はコンビニなどの現金自動受払機(ATM)などから現金を引き出す「出し子」役。配管工と塗装工の両被告は指定されたATMに出し子を連れていく運転手兼口座管理役だった.無職男は一緒に行動する2名の両被告の名前を知らなかった。また、3人は顔も名前も知らない首謀者を「X」と呼び、その指示で行動していた。無職男は福岡市の街頭で「スカウトされた」と供述している。(防犯泥棒大百科「出し子」
 最低限の人間関係で、いつでも関係を切れる状態にしているとは、派遣制度の特徴を見事なまでに活用しているといえる。一方、被害者は、肉親であることを最大限に活用し、自分たちの作ったウソのストーリーに参加させることに成功している。
手法が周知され、電話口での対応法や対策も広く知られる様になった。その一方で、この様な詐欺があると承知していても、いざ、電話で緊迫した声、悲哀に満ちた声を聞かされると、冷静さを保つのは困難で、どうしても犯人のペースに乗せられやすいという実験も紹介されている。また、被害者に対する調査では、大半がこの様な詐欺の存在を承知しており、調査の一例において28%の人は行員等に振り込め詐欺の可能性を指摘されているにも関わらず大金の送付を実行してしまったという。各種の対策はなされているが未だに類似の詐欺の根絶には至っていない。(振り込め詐欺Wiki
 そんな馬鹿なと思っても、簡単にだまされるのは、親族である相手の行動をそれほど知らないからだ。いつの間にか、地域・親戚・家族のコミュニティが失われている日本の悲しい現状がそこにある。

なぜ、日本人はコミュニティを失ったか

 前項「壊れる日本人」のコメントでこう書いた。
問題は、社員の評価を一面でしか評価できないことです。もっと長所、短所、将来性など、総合的に評価できる人間が誰もいない。「モモ」の話を出したのは、 決してアドバイスしないことです。普通の人は、その能力を引き出すために考えるから、上からの目線でアドバイスしてしまう。それは、効率的であるかもしれ ないけど、決してその社員のためにならない。言われればそうかと思うかもしれないけど、決して本人は納得していない。ただ、考えずについてくだけです。ところが、「モモ」はアドバイスしない。そうなると、自分で考えるのです。それを理解するまで、大変な時間がかかる。会社は、決してそんな時間をかけていられない。だから、考えずについてくる社員だけが集まってくるわけです。
 このような「モモ」のような役割は、地域や宗教のような他人の集まり、特に、さまざまな年代が集まる、直接、利害関係のない人たちの「世間」というコミュニティでなされてきた。欧米の社会と日本の社会の違いを考えると、かつての大家族制度や因習・伝統という田舎では、コミュニティも強かった。そのような社会では、お互いに触れ合いながら、自分が何者かを知ることが出来た。ところが、都会化の名の下に、この地域や宗教のコミュニティが急速に薄れ、核家族になると同時に、自分が何者であるかを知る機会が消えた。ケータイはある意味、家族から離れ、友人とのみつながるコミュニケーションツールになる。僕は、「メディアはなぜ孤立化を好むのか」で、ケータイの特徴を
このメディアは、人工物だから自分の都合でON・OFFできる特徴がある。メールができなかった時代の携帯電話は、相手の都合を気にしなければならなかった。だが、メールができるようになって、そんな相手の都合も関係なくなる。その瞬間、自分のパーソナルな空間がその分広まったような気分になる。そしてこの友達関係も簡単にON・OFFできる関係となってしまった。
と書いた。ケータイやパソコンのコミュニケーションツールは、自分の世界を広げる。しかし、一面では、コミュニティという生の人間関係を遠ざける結果となった。振り込め詐欺の被害者の多くが60代というデジタルデバイド世代であり、家族の分断がそこに秘められていないのだろうかと思ったしだいである。
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