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素人だから言えることもある

大量消費時代の終わり

ビッグスリー破綻が象徴する低賃金=低コストの幻想

 Tech-onに「米ビッグスリー没落の教訓」というコラムがあった。著者は、藤野技術コンサルタントの藤野 清氏。
 驚いたのは,当時既に米国の製造業の凋落の兆しを感じたことだ。我々の機械の米国におけるアフターサービスを依頼する候補として,我々は当時有名なダイカストマシンメーカーであった米レスター社を考えていた。ところが,同社に行ってみて,販売しているダイカストマシンを見て唖然(あぜん)とした。我々が10年以上前に勉強させてもらったものから,全く進歩していない古色蒼然とした機械だったからだ。

 ビッグスリーがクルマを安く造る上で,何かと口うるさく賃金も高いUAW全米自動車労働組合)の勢力が強い米国内で生産するという選択は難しい。それなら,賃金の安い国で生産すればよいのだとばかりに,ビッグスリーは機械の生産効率を高めることをせず,従来のままの機械を低賃金国の工場に設置する方法を採った。これにより,米国の機械メーカーは設計変更や改善などする必要がなく,設計者の仕事はなくなった。MBA経営学修士)のような学位を持つものの,短期的な視野の経営者としては,物(技術)をよく知っている設計者をセールス・エンジニアとして活用する方が,短期的な業績は良くなるというわけだ。

 こうした背景から,気がついてみると,我々のような日本の機械メーカーに技術力で追い抜かれ,かつて我々が羨望の眼差しで見ていた,経験豊富で鍛え抜かれた優秀な設計者は,米国の機械メーカーから姿を消していた。その結果,米国メーカーの機械は改善が一向に進まず,我々に全く対抗できずにバタバタとつぶれていった。(米ビッグスリー没落の教訓)

 そこにあるのは、社員をコストとして考える発想だ。社員の創意工夫が、社員のやる気を出し、ユニークな製品ができる。ところが、大量生産・大量消費では、社員が機械と成り果て、創意工夫の余地がない。藤野 清氏はこんな言葉で締める。
 米国発の金融危機の影響を受け,あのトヨタでさえ,2008年度の連結決算における営業利益の見込みを1兆円も下方修正すると発表した。だが,同社にとって本当の危機は足下の金融危機などではなく,トヨタのトップが口を酸っぱくして社内に発し続けているという「慢心と傲慢」にあるのではないか。慢心と傲慢こそ,ビッグスリーが没落を余儀なくされた真の原因だからだ

 日本の製造業がビッグスリーの没落を教訓とし,米国の製造業の失敗の轍を踏むことなく,今後も日本国民の生活を守れるように願っている。(米ビッグスリー没落の教訓)

 僕は、「壊れる日本人」で、高橋伸夫東京大学教授の言葉を引用した。
 もっと長い目で見て、若い人材にお金をかけて育てないといけないのだ。これは将来会社を支えてくれる人材を確保するための「投資」のはずだ。コスト意識を持つことは一見合理的だが、これでは「人材」に対する扱いではない。使い捨ての「消耗品」と同じ扱いなのである。今、 その付けが回ってきているのかもしれない。成果主義という選択肢を捨てる覚悟をするところから、本当の意味での企業革新が始まる。成果主義という安易な選 択肢を捨て去って、初めて企業や組織にとって、一体何が重要で、今、何をしなければならないのかが見えてくるはずである。必要なことは人件費にコスト意識を持つことではない。10年後、20年後の未来を考えた人材への投資こそが、今、求められているのである。(高橋伸夫・東京大学教授著「虚妄の成果主義」日経BP社)
 かつて、アメリカは家電王国だった。日本は、アメリカのホームドラマで見た大きな冷蔵庫や、大きなテレビにあこがれた。おそらく、パナソニックもソニーも東芝も、アメリカに自分たちの夢を刺激され、現在のような世界中に家電を売るような企業になった。一方、アメリカでは家電産業は没落した。同じことが、自動車産業に起きておかしくはない。ホンダの社長は、
「ビッグスリー」が破綻した場合,「短期的にはマイナス,長期的にはプラス」---ホンダ福井社長

──なぜ,ビッグスリーの破綻が日本メーカーにとって「良いことではない」のか。ビッグスリーが破綻寸前に追い込まれたのは公平な競争の結果であって,日本メーカーにとってはむしろチャンスなのではないか。

 基本的にはその通りだ。だが,直近の状況を考えると,米国の自動車市場の重要さは非常に大きいものがあり,それに対する(消費環境に与える)インパクトを考えると,破綻の仕方によっては非常に好ましくない状況になると言っている。長期的には「優勝劣敗」だから,お客様に選ばれるメーカーが成長し,そうではないメーカーが衰退するのは当然のことだ。

20代の消費意欲減退

 しかし、この発言は、自分たちの車を買ってくれる消費者の意向を無視している。日経MJが2007年8月にこんな調査をしている。
MJ若者意識調査 巣ごもる20代

 車は不要。モノはそれほど欲しくない。お酒もあまり飲まない。行動半径は狭く、休日は自宅で掃除や洗濯にいそしむ。増えていくのは貯金だけ——。首都圏に住む20代の生活意識や行動を調査した結果、堅実・小規模な暮らしを好む若者たちの「ミニマムライフ」が浮き彫りになった。彼らの消費意欲を喚起する手だてはあるのか。若者自身へのインタビューと企業取材を交え、探ってみた。

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この記事に対して、評論家の大前研一氏がこんなことを書いている。

先日、トヨタが富士重工と共同でスポーツカーの開発に乗り出すという発表がありました。

「若者の車離れ」に歯止めをかけたいという狙いだと言います。

私に言わせれば、天下のトヨタでさえ、ここで大きな戦略ミスを犯しています。

先ほどのアンケート結果を見てわかるように、今の若者にとっては、とりわけスポーツカーなどというものは全く“欲しい”ものではありません。

この時点で、トヨタは明らかにずれていると言わざるを得ません。(大前研一「ニュースの視点」)

また、M1・F1 総研でも、2007年1月に「若者のクルマ離れ」を検証によると、
1.「経済的理由」・「都市部固有の要因」・「趣味の多様化」が、M1・F1 層の「クルマ離れ」の主な要因

◎「車を欲しいと思わない」M1・F1 層の理由

・ 1 位・・・今の生活では特に必要性を感じないから(74.1%)

・ 2 位・・・車の維持費・税金が高いから(52.0%)

・ 3 位・・・他の交通機関で事が足りているから(51.9%)

・ 4 位・・・車以外のものにお金をかけたいから(43.9%)

・ 5 位・・・車本体を買う金銭的余裕がないから(36.9%)

とある。20代の若者の多くが非正規雇用という面が色濃く現れているのかもしれない。しかし、現代人の価値観が家の外に興味を持つのではなく、家の中に興味を持つ傾向があるのではないか。それは、
4.車をプロデュースしたら買いたいと思う企業・ブランドとしては、「SONY」や「アップル」が上位に。

「VAIO」や「iPod」のようなスタイリッシュなデザインの車やAV 機器、IT 機能の充実が強く望まれていることがうかがえる

◎M1 層における「車をプロデュースして欲しい企業・ブランド」ランキング

・ 1 位・・・「SONY」(15.5%)

・ 2 位・・・「アップル」(6.3%)

・ 3 位・・・「松下電器パナソニック)」(5.6%)

◎F1 層における「車をプロデュースして欲しい企業・ブランド」ランキング

・ 1 位・・・「SONY」(11.8%)

・ 2 位・・・「アップル」(4.6%)

・ 3 位・・・「無印良品」(3.4%)

 いわば、部屋の中のかっこいいAVのように、車も自分の部屋の延長として考えている。だから、車が一番にほしいというのではなく、二番目、三番目でかまわないし、別になくたっていいと考えているのではないだろうか。

作れば売れた時代の終わり

もちろん、収入の減退も大きく影響しているが、かつての若者のように無茶な浪費もしなくなった。ほどほどの収入でちまちました趣味。そんな傾向すらうかがえる。しかし、それではユニークなアイデアは生まれないだろう。全体に消費減退となれば、まず新製品は売れなくなるだろうし、古着や中古家電のオークションで済ますのではないだろうか。また、今回、アメリカが金利ゼロになったとき、こんな声があった。

米ゼロ金利で産業界悲鳴 日銀の協調利下げに期待

 米連邦準備制度理事会(FRB)が、政策金利の誘導目標を年0〜0・25%に引き下げることを決定したことから、17日の東京外為市場は1ドル=88円台と円高水準が加速した。外需依存度の高い日本の産業界にとっては世界経済の低迷に追い打ちをかける逆風となりかねず、円の独歩高に対する懸念の声が一段と高まり、円高是正に向けた金融政策を求める声が相次いでいる。

 経済同友会の桜井正光代表幹事は同日の定例会見で「円高は企業にとって大きな業績の重しになる」と警戒感を示した。同様にソニーの中鉢良治社長も「通常の部品調達や人件費などの削減で収益改善できる範囲を超えており、このままでは国内で製造できる企業はなくなる」と、悲鳴にも似た危機感を募らせる。

(中略)

 川崎重工業の大橋忠晴社長は「これだけ円が急騰すると、為替対策型に(事業の)かじを切る必要がある」と、国内生産態勢を見直す考えを示す。プラントや油圧機器、オートバイなど同社の輸出比率は55〜60%に達する。

 また、大橋社長は「国内市場は成熟しており、活路は海外だが、輸出という形態は無理がある」と述べ、中国など海外拠点での生産拡大を積極化する構えを見せる。

 国内で製造できなければ、当然海外に製造工場がいくことになる。そうすると、日本に非正規雇用はおろか、社員すら存在しなくなる。また、法人税や所得税など主な税収は極端に落ちるだろう。この1年で日本経済は完全な様変わりをすることに間違いない。
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