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「ソニーPS3撤退?」記事の日米メディア屈折度

 今回のエントリーは、安倍元首相の「慰安婦責任」発言を取り上げた「メディアは屈折する」、PS3ゲーム「メタル・ギア・ソリッド4」の小島秀夫監督の「PS3ではMGS4を作れない」発言を取り上げた「メディアはやっぱり屈折する」の第3弾である。

ソニー1000億円の赤字と伝言ゲーム

今回の金融危機で、トヨタと同様、海外輸出に頼るソニーも莫大な赤字を抱えていることが明らかになった。
 ソニー、今期営業赤字 14年ぶり、1000億円規模

 世界的な消費低迷でソニーの業績が急速に悪化している。2009年3月期の連結営業損益(米国会計基準)は昨年10月に予想した2000億円の黒字から一転、1000億円規模の赤字(前期は4752億円の黒字)になる見通しだ。営業赤字は1995年3月期以来14年ぶり。金融危機が深刻化した昨秋以降、欧米中心に液晶テレビなどの販売が落ち込んでいるうえ、円高で採算が悪化している。輸出企業の業績低迷は自動車から電機に広がってきた。(日経ネット1/13)

 ギズモードジャパンがこんな記事を伝えている。
ソニー、CES終了後に大発表か! 重大な事業見直しを明らかに

えっ、もしやプレステ撤退?

英Times紙が、CES 2009終了後の早い時点で、ソニーが驚天動地の大発表を行うと伝えてきましたよ。社内事業の徹底的な見直しを進め、かなり抜本的な改革によって、いくつかの主要事業を解散終了する見込みが高いのだとか。

いやぁ、ソニーといえば、昨年末にも1万6000人規模の人員削減を含む、なかなかシビアな事業改善計画を打ち出してきていましたけど、これを受けても、多くのアナリストは、まだまだ業績回復に至るには不十分という見解を発表したりしてましたからね。これまで就任以来、約3年もの間、我慢に我慢を重ねてきたソニーCEOのHoward Stringer氏が、ついに伝統的に聖域とみなされてきた所へも切り込む、鉄拳制裁を振るうことになるそうです。

それにしても、一体どの事業部が、今回の大幅見直しのターゲットとなってしまっているのでしょうか? ここはもう想像でしかありませんけど、やっぱり苦しい部門は結構ありそうですもんね。PlayStationでは、厳しい競争を強いられていますし、アップルのiPod台頭で、ウォークマンも敗北状態…。BRAVIAで液晶テレビ市場で攻勢をかけたいところですが、果たして果たして、どの主要事業の打ち切りが発表されてしまうのか?

 これじゃ、ニュースじゃなくて、予想記事。この元のギズモードの原文では、
What "Major Divisions" Is Sony Shuttering Next Month
 このタイトルはわかりやすい。ソニーが来月撤退する主要事業は何?という感じだ。中では、1例として、WALKMANPLAYSTATIONがあげられているが、わざわざPS3を名指しであげているわけではない。その大元の記事は、タイムズの記事。
Sony on brink of upheaval as analysts back British chief
これは、自動翻訳を読む限り、記事の中にはPS3は出てこない。(コラムの記者コメントにはある。)
多くのアナリストがあまりにも遅れが発生すると考えて-来月初めに、その変更、ソニーの日本国内の事業に工場閉鎖の形で課せられたのは、最大のシェアを、いくつかの主要部門の廃止を発表する可能性があります。(自動翻訳)
はちま起稿「ソニー大改革」のニュースが伝言ゲームでいつの間にか「PS3撤退」に」では、この流れを順番に説明している。
Times誌「SONYが大改革を行う。工場閉鎖といくつかの主要部門」


GIZMODOの元の英文 「ソニーはどんな"主要な事業部"を閉鎖するの?」


GIZMODO日本語版 「もしやプレステ撤退?」 翻訳者:湯木進悟


mixiニュース 「プレステ撤退? SONY重大発表へ」


ライブドアニュース 「ソニー、CES終了後に大発表か! 重大な事業見直しを明らかに」えっ、もしやプレステ撤退?〜(文面はギズモードと同じ)


ソニー 14年ぶり営業赤字へ NHK


ソニー 否定せず肯定もしない「本日、当社の2008 年度連結業績予想に関して一部報道がありましたが、 当社が発表したものではありません。現時点で、それ以上のコメントはございません。」

こうなってしまえば、ニュース・メディアはニュースではなくてバラエティー化しているのではないか。これではまるで「あるある大事典」?
 「われわれは科学番組を作っているのではない。報道でもないんです。われわれは情報バラエティー番組を作っているんです」(調査報告書P136)
 もっともギズモードが何でもありなのは「テレビ最悪の日」で見たとおりであるが。さまざまなニュースが現れるのは、視聴者の多様化のために当然である。しかし、いつのまにか真実性が消えてしまって、単なる意見であれば、それはブログと変わらない。それで、報道局から給料をもらっているのでは、ユーザーの信頼性は消えてしまうだろう。

sacred cow-slayingとリストラちゃん

 Timesの記事で気になる言葉があった。sacred cow-slaying(神聖な牛のような殺人)という言葉だ。WIRED JAPANではこの言葉を聖牛の生贄としている。
ロンドンの『Times』紙が5日(現地時間)伝えたところによると、ソニーは2月に「全面的な」リストラを行ない、「いくつかの主要部門の廃止」を実施する可能性があるという。

同紙では、ソニー社内の複数の消息筋がこの計画を「聖牛の生贄」と呼んでいると伝える一方で、ソニーのリストラはもともと大幅に遅れていたものだ、という数人のアナリストの発言を引用している。

一方のソニーはロイター通信に対し、「現時点では追加のリストラ策を発表する予定はない」と話している。(ソニーの大規模なリストラ策」と「リストラちゃん」)

 そこで聖牛の生贄について検索すると
生贄の神話は、ミトラ神話だとこうなる。

「はじめに唯一なる創造神がいた。この創造神は、世界の種子をつくり、それを岩のなかに封じ込んだ。あたかも、母の子宮の中に子どもが宿っているように、世界の種子は岩の中に宿っていた。岩の中は巨大な空洞であり、下半分には原初の海が広がっていた。世界の種子は、光のささない闇の中、小さな島のように広大な海の中央にじっと動かず浮かんでいた。島の上には、あらゆる植物の起源となる一本の聖樹とあらゆる動物の起源となる一頭の聖牛がいた。

あるとき、炎の主にして太陽神であるミトラが、火打石からほとばしる火花のように、島の中央にある聖なる岩から炎と閃光とともに飛び出し、世界の主になった。ミトラは、島の中央で最初の供儀を執り行い、聖牛を献じ、聖樹を細かく砕いて樹液を取り出した。ミトラが供儀をおこなうと、太陽が現れ、三倍の高さのところまで昇った。これに伴って、空洞の天井も持ち上がり、天空になった。ミトラの執り行った供儀により、大地と海は三倍に広がり、現在のようになった。ミトラの供儀により、聖牛と聖樹からあらゆる種類の動物と植物が生まれた。ミトラは、世界を監督する七名の神々(原アムシャスプンタ)の長になり、彼らを率いて世界統治を始めた。」(生贄としてのイエス)

ソニーの「主要部門の廃止」がこの聖牛の生贄の話とどう繋がるのかわからないが、いわば「起死回生」の一策のことなのだろう。そういえば、創始者井深大もクリスチャンであり、「トリニトロン」の名前もキリスト教のトリニティからきたことはよく知られている。
三位一体を意味する英語“Trinity(トリニティ)”と、電子管の英語名“Electron Tube(エレクトロン・チューブ)”との造語で、ソニーの登録商標となっている。

(中略)

トリニトロン方式は、1本の電子銃から3本の電子ビームを出力する、「1ガン3ビーム方式」を採用しているため、電子銃の口径を大きくすることが可能で、シャープなフォーカスが得られるといった特徴がある。(トリニトロンWiki)

そして、三位一体とは、
1.キリスト教で、父と子と聖霊が一体(唯一の神)であるとする教理。キリスト教の大多数教派における中心的教義の1つ。

2.3つの物を一つに併せること。三者が心を合わせること。3つに見えている物が本質的には同じものであること。小泉純一郎内閣総理大臣であったときに提唱した「三位一体の改革」も、これをふまえた用語といえる。(三位一体Wiki)

とある。そして、なぜかWIRED JAPANでは「リストラちゃん」なるメイドのキャラが載っている。
なお、掲載した画像は「リストラちゃん」だ。[「リストラちゃん」は、2007年6月にソニーのリストラ可能性が報道されたときに、筆者Chris Kohlerが書いた英文記事から生まれたキャラ。筆者は同記事で、日本では米国と違ってリストラに抵抗があり、なかなか行なわれないことを紹介したが、このとき、日本の言葉「リストラ」はリストラクチャリングを縮めた言葉で「キュートなニュアンス」があると書き、読者からそのような含意は無いと指摘された。

このやりとりで筆者は、「従業員を解雇しづらい日本へのパーフェクトなソリューション」としてリストラちゃんを思いついた。「メイド服を着て、萌えで従業員の気を紛らせ、コーヒーとビスケットを給仕しながら、ご主人さまは、クビですよね(はーと)と、礼儀正しく解雇する」という] (ソニーの大規模なリストラ策」と「リストラちゃん」)

まあ、WIRED JAPANの記事でもタイムズ以上のネタがないようで、だから「リストラちゃん」の話題を載せたようだ。そのネタ元は「Solving Japan's Layoff Problem With Cuteness」。ギズモードでもワイヤードでも、予想記事しかないと、話を作る(ブログ化する)しかないわけで、日米、双方ともニュース・メディアの信頼性を落としているとしか言うしかない。そして、彼らはこういうのであろうか。
われわれは科学番組を作っているのではない。報道でもないんです。われわれは情報バラエティー番組を作っているんです」(調査報告書P136)

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