人はなぜ、ダークサイドに惹かれてしまうのか・3
ダークサイドと父と母
今回のシリーズは、現代社会のダークサイドを「スター・ウォーズ」と「FF7(ファイナルファンタジー7)」という2つの物語を通して考えてみようと思っている。もともと「ダークサイド」とは、「スター・ウォーズ」の「フォース」の暗黒面をさした言葉だ。スター・ウォーズ用語このダース・シディアスとは、
ダース・シディアスが操る暗黒面のこと。暗黒面とは、おおまかに言えば人間であれば誰もが持っている「裏」「弱さ」のことを意味する。スター・ウォーズの主人公アナキン・スカイウォーカーはダークサイドに堕ちてダース・ベイダーとなった。(はてなキーワード)
ダース・シディアス (Darth Sidious) は、映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場する架空の人物。シスの暗黒卿。その正体は惑星ナブー出身の銀河共和国元老院議員にして、後の元老院最高議長、銀河帝国皇帝となるパルパティーン (Palpatine) である。簡単に言えば、ダース・ベイダーを思いのままに操っていた「銀河帝国の皇帝」のことである。「FF7」で言えば、ダース・ベイダーは「セフィロス」、皇帝は「神羅」ということになる。しかし、ダース・ベイダーが最終的に贖罪の道を選ぶのに対し、セフィロスには贖罪の道はない。ACC(アドベントチルドレン)ではむしろ、「神羅」が贖罪の道を選んでいる。映画「スター・ウォーズ」が、結局ルークとアナキンの父子の話であるが、「FF7」は「セフィロスの母ジェノバの復讐」と「主人公クラウドの自分探し」がメインになる。この両作品の違いで僕は「セフィロス=ダース・ベイダー論」でこんなことを書いた。
一方、FF7の物語は、なぜか父の存在が希薄である。唯一、マリンという女の子を連れたバレットがいるが、その子は実の娘ではなくて事故で亡くなった親友ダインの娘である。むしろ、孤児たちの面倒を見るティファやエアリスが母親のにおいがするし、セフィロスは自分の出生の元になったジェノバに愛着を持ち、「母さん」と呼んでいる。
父と子、母と子の関係は、子供(特に男の子)に とって大きな違いがある。母に見捨てられては生きていけないが、男の子にとって父親は乗り越える対象であり、ある意味、母を取り合うライバルである。ダース・ベイダーとセフィロスの違いは、同じ執着でも意味が違う。父を取るか、母を取るかといえば、母を取るのは、それだけ自分の命に近いからである。ダース・ベイダーは「アナキンの子供たちへの愛情が、ダークサイドから彼を引き戻し、真の悪である皇帝を抹殺して、予言通りフォースにバランスをもたらすのだ。」から、十分復活する可能性がある。ところが、セフィロスの母ジェノバは、宇宙からやってきた星の敵対者であり、真の悪である「神羅や彼をモンスターにした宝条」を滅ぼしたところで、彼の心に平和は訪れまい。父を否定しても生きていけるが、母を否定することは自分の存在を否定することになるからである。
アバランチとニブルヘイム
「スター・ウォーズ」や「FF7」をわざわざとりあげるのは、どちらも単純な「勧善懲悪」ではなく、自分の存在価値を求める共通点があるからだ。当然ながら「FF7」の主人公たちは未婚である。もちろん、ゲームの主人公はゲームプレイヤーが自分を反映するためであり、プレイヤーの多くが少年であるからだ。しかし、彼らの属する反神羅組織『アバランチ』についてこんな文章があった。
神羅カンパニーが魔晄エネルギーを開発し、そのおかげで世界は繁栄した。地上は光で満ちあふれたが、同時に闇はより深いものになった。反神羅グループ「アバランチ」はその闇を世界に知らしめるために活動していた。これは、「FF7」のシナリオを書いた野島一茂氏のゲーム「FF7」と映像作品「FFACC(ファイナルファンタジーアドベントチルドレン)」の間の2年間のストーリーを小説の形で書き起こしたものである。この「アバランチ」に集うメンバーはそれぞれ神羅に対する個人的恨みを抱いている。たとえばティファ。
「魔晄は星を巡る命を吸い出して作ったもの」
魔晄エネルギーは星を破滅へと導く。しかし彼らの地道な活動もむなしく、世の中は何も変わらなかった。一度知ってしまった魔晄の恩恵に背を向けることは難しい。アバランチは状況を変えようと、より過激な活動を選んだ。多くの人が暮らす魔晄都市ミッドガル。そこで消費されるエネルギーを生産している魔晄炉のひとつを爆破してしまったのだ。
爆弾の製造過程でミスがあり、彼らの予想以上の破壊が魔晄炉とその周辺にもたらされた。この事件がきっかけとなり、神羅カンパニーはアバランチ壊滅に乗り出した。たった数人のグループを潰すために神羅がしたことは、アバランチのアジトがあるミッドガルの一部を住民もろとも破壊してしまうという残忍な仕打ちだった。その結果、直接間接を問わずアバランチが原因で失われた命は数え切れないほどになった。(野島一茂著「On the Way to a Smile-FINAL FANTASY 7」スクゥエア・エニックス)
始まりは、ティファがまだ少女だった頃の出来事。故郷のニブルヘイムに神羅が建設した魔晄炉でトラブルが発生し、村が危険にさらされた。その対処のために神羅が派遣してきたセフィロスに父親を殺された。神羅とセフィロスが憎くてたまらなかった。そしてアバランチに参加した。つまり、個人的な恨みが始まりだった。アバランチが掲げていた反神羅、反魔晄のスローガンは、本当の動機を包み隠すには丁度良かった。しかし失われた命は星を守るための犠牲だったとしても多すぎる。ましてやそれが個人の復讐のためだとしたら。(野島一茂著「On the Way to a Smile-FINAL FANTASY 7」スクゥエア・エニックス)この5年前のニブルヘイムの事件が、すべての始まりだった。せめて、セフィロスが派遣されていなかったら。ニブルヘイムに「神羅屋敷」が存在しなかったら。彼らのストーリーはまったく違っていたに違いない。セフィロスは「神羅屋敷」の地下で自分の出生の秘密を発見する。この日から彼のダークサイドが始まる。
ダークサイドに導く怒り、憎しみ、絶望
バレットの神羅への恨みも壮絶だった。<北コレル・ロープウェイ乗り場>遊技場「ゴールドソーサー」で、片腕が銃の男の乱射事件が発生した。バレットは、右腕が銃に改造されている。
エアリス「バレット、どうしたの?」
バレット「すまねえな」
クラウド「何があったんだ?」
バレット「このあたりにオレの故郷があった」
レッドXIII「あった、とは?」
バレット「今はもうない。砂の下に埋もれちまったらしい。……たった4年で」
エアリス「だからって、どうして、さっきの人たちあんなひどいこと言うの?」
バレット「オレのせいだからだ。ぜんぶオレのせいなんだ」
<回想・コレル・全景>
……オレの故郷、コレルは古くからの炭坑の村だった。ほこりっぽくて、のどかで、まずしくて……そんなちっぽけな村だった。 「魔晄炉」という名を初めて耳にする、あの時までは……
<回想・コレル・村長の家>
村長「どうする?反対してるのはダインだけだが……」
ダイン「俺は絶対反対だ。コレルの炭坑をすてるなんてできない相談だからな!」「コレルの炭坑は、俺たちのじいさんたち、おやじたちが命がけで守ってきたものだ」「俺たちの時代になってすてることなんてできない!」
バレット「でもよ、ダイン。今の時代、石炭なんて誰も使わない。時代にはさからえないんだ」
スカーレット「そう、時代は魔晄エネルギー」「だいじょうぶですよ、ダインさん。魔晄炉完成のあかつきには我々神羅カンパニーがみなさんの生活を保証します」
バレット「な、ダイン。オレは女房のミーナにこれ以上苦しい生活をさせたくないんだ」
ダイン「そんなの俺だって同じなんだ!」「でも、それでも俺には炭坑をすてるなんてできないんだよ!」
村長「ダイン……わかってくれ」
<回想・コレル・全景>
こうしてコレル魔晄炉は建設され……完成した。オレたちは豊かな生活を夢みていた。しかし…………オレとダインが村をはなれているほんのわずかの時間の出来事だった。コレル村は神羅の軍によってやきはらわれてしまったんだ。大勢の村人たちも……オレたちの家族も……みんな……いっしょに……
<北コレル・ロープウェイ乗り場>
クラウド「神羅の軍?いったい何のために!?」
バレット「魔晄炉で爆発事故が起こったんだ」「神羅はその事故の責任をコレル村のオレたちに押しつけた。反対派のしわざだと言ってな」
ティファ「ひどいっ!」
バレット「ああ、たしかにな。でもよ、オレは神羅以上に自分を許せなかったんだ」「オレさえ魔晄炉に賛成しなければ……」
ティファ「自分を責めちゃだめよ。そのころは、みんな神羅のあまい言葉におどらされていたんだから」
バレット「だからよ、だからこそ オレは自分にハラが立つんだ!!」「あまい言葉にのせられたあげく 女房を……ミーナを失い……」(Y&Y-Instrumentality of FINAL FANTASYⅦ)
レッド13「闘技場の事件は片腕が銃の男のしわざだと聞いた。……あんたか?」
バレット「もう1人いるんだ……片腕に銃をもつ男。4年前、あの日から……」
<回想>
バレット「あの日…… 建設中の魔晄炉を見物にいった帰り道だった……」
村長「バレット! ダイン!大変だ! 村が襲われた! 神羅の兵だ!」
バレット「なにっ!!!」
<バレット、ダイン、村が焼き払われている光景を、丘の上で見下ろす>
バレット「なんてこった……」
<バレット、その場にひざをついて嘆く>
ダイン「おい、バレット! まだ終わっちゃいねえ!」「みんなが、待ってる!!俺たちの村へ帰るぞ!」
村長「バレット! ダイン! 村をたのんだぞ…」
<村長、撃たれる>
バレット「チッ!! おやっさん!!」
<兵士が奇襲をかける>
ダイン「おい、バレット! 急ぐんだ!」
バレット「クッ……!!」
ダイン「バレット!! ここはこらえろ!!」
スカーレット「キャハハハハハ!!」「下手な鉄砲はいくら撃ってもあたんないんだよ!!」「キャハハハハハ!!!ほら、遊んでないで援護しな!!」
ダイン「あぶねえ!!」
<ダイン、がけから転げ落ちる。→バレット、手をつかんで、ダインが落ちるのを防ぐ>
バレット「ダイン!! 離すんじゃねえぞ!!」「いいか!! 村へ帰るんだろ!!」
ダイン「ああ……。離すわけねえ……」「俺たちの村に帰るんだ………みんなが待ってる…」「エレノアが…マリンが……俺たちの帰りを……」
<しかし、銃弾がそれぞれつかんでいる手に直撃。→ダイン、落下>
<回想終了>
バレット「オレの右腕は もう使い物にならなかった」「……しばらく悩んだけどよ」「オレは右腕をすて この銃を手に入れた」「オレからすべてを奪っていった神羅に復讐するための新しい右腕……」「そのときの医者から聞いたのさ。オレと同じ手術を望んだ男がもう1人いるってことをな」「ただし、そいつは左腕が銃になっている」
クラウド「…………」
エアリス「でも……それならダインもあなたと同じ、でしょ?」
ティファ「そうよね。神羅にだまされたんだもの」「きっと、いっしょに神羅と戦ってくれるわ」
バレット「……わからねえ。わからねえが、オレはダインにあやまらなくちゃ気がすまねえ」「だからよ、1人でいかせてくれ」
クラウド「好きにすればいい」「と、いいたいところだがダメだなここで、アンタに死なれると夢見が悪そうだ」
エアリス「バレット ここで終わりじゃないよ」
ティファ「星を救うんでしょ?」
バレット「へっ! ティファ、もうわかっただろ?」「星を救うなんてカッコつけてるがオレは神羅に復讐したいだけなんだ。自分の気がすむようにしたいだけなんだよ!」
ティファ「……いいじゃない、べつに。私だって似たようなものだわ」
エアリス「わかりやすいよ、そのほうが。バレットらしいもん」
クラウド「というわけだ、バレット。さて、バレットと俺と……」
<パーティー組替え:クラウド・バレット・ティファ>
ダインの部下「今日のボスはすげぇキゲンが悪ぃや… いや、ありゃあキゲンがいいのか?」
<ダインのアジト>
バレット「……ダイン……おまえなのか?」
ダイン「なつかしい声だな……」「忘れようにも忘れられない声だ……」
バレット「いつか会えると信じていた…… オレと同じ手術を受けどこかで生きていると……」「聞いてくれダイン。おまえに……」
<バレット、ダインに近寄るが、銃弾ではばまれる>
ダイン「声が……聞こえるんだ」
バレット「……?」
ダイン「聞こえるんだよ、エレノアの声が。おねがいだから……バレットをうらまないでってさ」「だから、あんたを追っかけるのはやめといた……」
バレット「……自分の愚かさは知っている。許してくれとは言わない」「でもよ……こんなところで何をしてるんだ?」「関係ない人間を殺してどうなる? なぜだ?」
ダイン「……なぜ!? 理由を聞いてどうする!?」「それで殺された人間はなっとくするのか?神羅の言い分を聞けばコレル村の人間は了解するのか!?」「理由なんてどうでもいい!」「与えられるのは銃弾と不条理… 残されるのは絶望と無の世界… それだけだ!!」
バレット「…………」
<ダイン、そこら中に銃を撃つ>
ダイン「それでも聞きたいか? ……ならば教えてやろう」「俺はな、壊してしまいたいんだよ」「この街の人間を」「この街のすべてを」「この世界のすべてを!」「この世界にはもう何もない。コレル村、エレノア……マリン……」
バレット「マリンは……マリンは生きている」
ダイン「……?」
バレット「あのあと、オレは村にもどった。もう逃げられない…そう思った」「だからせめて、最後はミーナのそばにいたいと思った」「そこであの子を…… おまえの娘、マリンを見つけた」
ダイン「……」
バレット「マリンはミッドガルにいるんだ。一緒に会いに行こう、な?」
ダイン「そうか……生きているのか……」「わかったよ、バレット。やはりおまえと戦わなくてはならないな」
バレット「なんだと!?」
ダイン「エレノアが1人でさみしがってる。マリンも連れて行ってやらないとな」
バレット「ダイン……正気か!?」
ダイン「マリンだって母さんに会いたがってるだろ?」
<ダイン、バレットに銃を撃つ>
バレット「やめろ、ダイン!オレはここで死ぬわけにはいかねえんだ!」
ダイン「そうかい。俺はあの日から命はすててるぜ」
バレット「やめてくれ! おまえとはやりたくねえ!」
クラウド「バレット!」
バレット「クラウド、手を出すな!これは、オレの問題だ!!」(仲間たちの過去2)