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素人だから言えることもある

WEGAがVEGAでなかった理由(テレビが壊れた・2)

WEGAは5つの候補のひとつ

 これは「テレビが壊れた」の続編である。今回、WEGAが壊れたことをきっかけにして、WEGAにまつわる話を「ソニーの遺伝子—平面ブラウン管テレビ「ベガ」誕生物語に学ぶ商品関発の法則」の中から、引用しながら語ってみたい。

 WEGAというシリーズが発売されたのは、1997年夏(プレスリリース)、プレスリリースには7機種写っているが、実は1996年末に「ベガ」のネーミングがされないまま、1機種が発売されている。プレスリリースにはこうある。

昨年末に開発・商品化した28型に加え、今回 新たに32型の平面ブラウン管も開発・商品化いたしました。
 平面ブラウン管「FDトリニトロン*」は、画面全域に歪みのない自然な映像と照明や外光などの映り込みが少ない鮮明な映像を再現します。フラット画面により、通常の映像表示はもちろんマルチメディアディスプレイに求められる多画面や文字情報の表示においても、画面の隅々まで歪みのないシャープな画像を実現します。
 ベガとは、七夕で有名な琴座の「織女星」の意味で、平面ブラウン管の持つ「織姫が織りなす布のように、まっすぐで美しい縦と横のライン」をイメージして命名しました。(プレスリリース
 この「織女星」の説明は、「テレビが壊れた」でも、
WEGA(SONY) テレビ。七夕で有名な琴座の「織女星」の意味。平面ブラウン管の持つ「織姫が織り成す布のように、まっすぐで美しい縦と横のライン」をイメージして命名。ちなみに、WEGAはドイツ語。英語表記ではVEGA。ロゴ作成時にデザイン面を考慮したことなどにより、ドイツ語を採用することとなったそうです。(「Re:『なっちゃん』はなぜ『なっちゃん』か〜企業回答篇〜」)
 もちろん、「織女星」の話は、ネーミングが決定されてからの後付け。松下の「画王」が売れていた時代である。よりインパクトのある名前が望まれていた。
ネーミングのコンセプトは、商品コンセプトと同じ。すなわち、
(1) 三歳児でも認識でき、発音できる名前
(2) マスマーケットを対象にした名前
(3) ソニーらしいユニークな名前
この条件を満たすビッグネームを作り出す。
高瀬(竜一郎、ソニー宣伝部、1996年当時)をはじめ、宣伝部のメンバーの意識の中にあったのは、90年に発売された松下の「画王」だった。第一次フラット戦争で勝利を収めたのは、ネーミングの訴求力も大きかった。求められるのは、「画王」をはるかにしのぐネーミングだった
ネーミングの候補は600以上にもなった。商品特性に由来するもの、スケール感を感じさせるもの、外来語、複合語…その一つ一つを検討し、候補案を絞り込んでいった。(勝見明著「ソニーの遺伝子—平面ブラウン管テレビ「ベガ」誕生物語に学ぶ商品関発の法則」ダイヤモンド社)
そして1997年1月、5つの候補に絞られた。
このときまでに絞られたのは「タイガ」「ビガ」「ドガ」「ガンガ」「ベガ」の五つ。語感だけでなく、それぞれ意味づけもされていた。例えば、「タイガ」は“大河”に通じ、おおらかなイメージと壮大なスケール感がある。
しかし、会議では結論が出ず、結局、プロジェクトチーム内で「ビガ」と「ベガ」に絞り込まれた。この二つは会議でさほど反応があったわけではなかったが、それが残されたのは、ある思惑があったからだ。実は「ベガ」は高瀬が“隠しカード”として持っていたものを、候補の中に滑り込ませたものだった。(勝見明著「ソニーの遺伝子—平面ブラウン管テレビ「ベガ」誕生物語に学ぶ商品関発の法則」ダイヤモンド社
「ビガ」というのは、「美画」とでも書くのだろうか。「平画」とあわせて、当時のネーミングセンスはすごい。

20年前に既に商標登録されていたWEGA

高瀬と「ベガ」の出会いは、その六年前、当時、宣伝部門のボスだった出井から、こんな話しを聞かされたことがきっかけだった。
ベガという名前を聞いたことがあるかい。うちがヨーロッパでかなり前から商標権を持っている名前でね。大賀さんも気にされているようで、何かに使えないかね」(勝見明著「ソニーの遺伝子—平面ブラウン管テレビ「ベガ」誕生物語に学ぶ商品関発の法則」ダイヤモンド社)
 そこで、特許電子図書館で商標登録を調べてみた。さすがに、ヨーロッパはわからないが、日本の商標ならわかる。検索してみると、WEGAは4件出ており、すべてソニーが持っている。その一番古い商標登録を見ると、昭和50年(1975)2月24日に出願されている。ネーミングが決定された1997年の実に22年前である。面白いのは、2004年のWEGAまでベガと読まず、ウェガと読んでいたことである。また、1986年に出願された二つ目の商標登録の商品区分が
化学品(他の類に属するものを除く)薬剤、医療補助品
となっており、WEGAの使い道に悩んでいたことが伺われる。(検索結果のURLは時間経過により切られてしまうので記載しなかった)

 さて、出井氏から、「ベガ」の依頼を聞かされた高瀬氏は、

 そのとき特に使い途は思いつかなかったが、「ベガ」という言葉の響きが心の隅に残った。
濁音とインパクトの強さ−平面ブラウン管テレビのネーミング作業を始めたとき、ふと、蘇ったのがこの名前だった。
「ベガ」は、織姫星の名前、夏の夜、牽牛星(彦星)と銀河をはさんで向かい合う伝説は、夏に発売する商品にふさわしい。夜空の星座は、星と星を結ぶラインが織り成すもの、真っすぐなものを真っすぐに映し出すこの商品のイメージと重なる。しかも「ベガ」は、漢字で「平画」と書けるのも何かの巡り合わせか…。(勝見明著「ソニーの遺伝子—平面ブラウン管テレビ「ベガ」誕生物語に学ぶ商品関発の法則」ダイヤモンド社)
 高瀬氏は、「ベガ」に決定した。だが、まだ一波乱あった。

VEGAが使えない

 「ベガ」を世界中に通用させるには、世界中の商標権を取らねばならない。
ドイツ語で「ベガ(織姫星)」を「WEGA」と綴るが、英語では「VEGA」となる。ところが、ソニーの知的財産部からの回答では、アメリカのある企業がすでに「VEGA」を商標登録しており、北米ではもちろん使えないし、日本でも「ベガ」は使えても「VEGA」は使えないというのだ。商標を買い取ることも不可能とわかった。(勝見明著「ソニーの遺伝子—平面ブラウン管テレビ「ベガ」誕生物語に学ぶ商品関発の法則」ダイヤモンド社)
 アメリカのある企業の一例として、Nixon社の腕時計「VEGA」がある。また、先ほどと同様に、特許電子図書館から日本の「VEGA」の商標登録を調べてみた。実に44件、一番古い出願は1960年であった。これほど多くの出願が可能なのは、商品区分が細かく分かれているからである。
WEGA」はソニーが商標権を持っており問題なかったが、これでは英語圏の人間は「ヴェガ」と読む可能性が高い。日本の場合、そのつど、読みがなをふる方法もあるが、流通コミュニケーション上、はなはだ非効率だ
暗礁に乗り上げたかと思ったところで、ここでも、追いつめられて知恵が出た。窮余の一策は、「W」を「V+V」に分け、「VV」にするというアイデアだった。
もともと「W(ダブリュー)」は「二つのU(ダブル・ユー)」の意味であり、フランス語では「ダブルヴェー」と発音して、まさに二つの「V(ヴェー)」だった。
「V」と「V」を横に少し重ねあわせ、一方の色のトーンを変えれば、英語圏の人にも「V」に見えるし、デザイン的にも、単なる「V」より逆に見た目のアクセントが強まり、パターン認識的に効果がある。
さらには、「Visual(ビジュアル)」+「Value(バリュー)」といった意味合いを持たせることも出来る。
商標上にも、「VEGA」とは別のものと扱われ、問題ないことがわかった。(勝見明著「ソニーの遺伝子—平面ブラウン管テレビ「ベガ」誕生物語に学ぶ商品関発の法則」ダイヤモンド社)
なお、WEGAのロゴを見たかったら、http://www.sony.jp/products/Consumer/wega/newlineup/を訪ねて欲しい。
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