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ある漫画家の反乱


ブラックジャックによろしく」作者、HPで過去の作品無料公開


 IT mediaにこんな記事が出ていた。



「ブラックジャックによろしく」第1巻など作者サイトで無料公開

漫画家・佐藤秀峰さんが公式サイト「佐藤秀峰 on Web」でこのほど、「ブラックジャックによろしく」などヒット作を含む漫画作品約500ページ分を無料公開した。有料の漫画配信も8月中旬から行う予定だ。


  「ブラックジャックによろしく」といえば、1-13巻で1000万部を越える大ベストセラーだ。だが、今回の決着にいたるまでに、佐藤氏は編集部とさまざまなトラブルを抱えていたらしい。同じ、IT mediaの「ねとらぼ」では、



「ブラックジャックによろしく」休載の裏側、作者がWeb漫画で告白

 「ブラックジャックによろしく」「海猿」などヒット漫画の作者・佐藤秀峰さんが公式サイトの「プロフィール」として公開しているWeb漫画がネットで話題になっている。両作品を連載していた出版社の雑誌編集部との間に起きたトラブルが、赤裸々に描かれているのだ。

 Web漫画は、公式サイトの「プロフィール」をクリックして現れる電子書籍ビューアで読める。佐藤さんが漫画家を目指して上京し、厳しい下積みを経てデビュー後、「海猿」のヒットに恵まれたが、小学館編集部と作品の方向性で衝突を繰り返して連載終了。「ブラックジャックによろしく」では、講談社編集部が佐藤さんに無断で作品の2次使用許可を出すなどトラブルが何度もあり、長期休載・連載誌移籍に至ったと描かれている。


 そこで、「佐藤秀峰 on Web」に飛び、漫画制作日誌を覗いてみる。


漫画は誰のものか、作者とは誰なのか


 佐藤氏は、ある漫画家のメールを受け取り、自分と同じだと感じたという。



自分は自分の漫画を、誇りを持って描いている。描いた内容については、責任をとれる自信がある。だけど、自分は漫画を描いているのだろうか?それとも描かされているのだろうか?編集部とは一体、何なんだろうか?編集者とは一体、何なんだろうか?今の成功は、自分の実力によるものなのだろうか?それとも、大手出版社の力のおかげなのだろうか?」(7月20日制作日誌)


 そして、自分の作品を振り返る



漫画は一体、誰の物なのでしょうか?それは作者である漫画家の物であり、読者の物であり、出版社の物であり、恐らくどんな言い方も成立すると思います。では、どこからが漫画家の領域なのでしょうか?

例えば僕が描いた「海猿」という漫画は、僕1人で作り上げたものではありません。「原案、取材」のクレジットで単行本にお名前が入っている小森さんという方が、「海上保安庁」を舞台にした漫画を作ろうということで、当時、小学館ヤングサンデー編集部に在籍していた編集さんと取材を行ったのが始まりでした。

そして、その取材を元に、小森さんが「原作」の物語を書きましたが、ヤングサンデー編集部内で連載の企画として検討された結果、その「原作」が連載、漫画化するという判断には至らず、結果的に海上保安庁物という「企画」だけが編集部に残りました。

僕はある日、海上保安庁を舞台にした漫画を描いて欲しいという依頼を編集部から受け、その際に小森さんを紹介されました。資料を読み、小森さんのコーディネートにより、海上保安庁の取材を行いました。そして、何度か打ち合わせが行われた後、僕は物語を考え、原稿を描きました。事実だけを簡単にまとめると、これが「海猿」が出来上がるまでの経緯です。(7月20日制作日誌)


 ひとつの作品には膨大な人間がかかわる。そうなると、あの話は、俺が考えたものだという人間が現れるのだ。



例えば、打ち合わせの席で、編集さんが物語の展開について、すごく良いアイデアを出したとします。そのアイデアを、漫画家さんが採用してネームを描いた場合、その物語は編集さんが考えたことになるのでしょうか?あるいは、取材でお聞きしたお話を漫画の中に取り入れた場合、その物語は取材相手が考えたことになるのでしょうか?「『海猿』の本当の作者は自分だ」と名乗っている人を、僕は何人も知っています。(7月20日制作日誌)

(中略)

そんな話を聞く度に、少し悲しくなります。あれ程、僕が思い詰め、身を削って描いた物語が、僕の考えた物ではないと言われることは、僕にはよく理解できません。

「じゃあ、打ち合わせもしないし、ネームも見せません。勝手に描くから、面白ければ雑誌に載せてください。載せるなら、原稿料は払ってください。」

ある時期から、そのスタイルを貫いてきました。その結果、編集サイドからは何と言われているでしょうか?

「自由にやらせてやった自分たちの判断が正しかった。」

今思うと、僕は自己矛盾を起こしていました。僕は、編集部も雑誌もいらないと思ったから、自分でホームページを立ち上げ、そこで作品を発表しようと思いました。(7月20日制作日誌)


 思えば、佐藤氏の編集部とのトラブルの原因は、その作品が佐藤氏のものではなく、編集部から見れば出版社のものだと思い込んでいたのではないか。そして、佐藤氏を通らずに勝手に利用されることに悩み、自分の力が届く、純粋に自分のものだと言い切れる世界としてネットを選んだのではないだろうか。


iPhone電子書籍出版権


 7月24日の制作日誌にはiPhoneのエピソードが載っていた。



数ヶ月前、モーニングツーがネット上での雑誌の無料公開に踏み切ったことは、漫画業界に籍を置く人ならば、まだ記憶に新しい出来事です。そして、今回のiPhoneでの有料販売となりました。

これは、まず、雑誌の無料公開を作家さんに了承させることで、電子書籍出版権を出版社の物にした上で、次に有料コンテンツの配信も同列に黙認させる手法と言えます。

読者の皆さんにはよく分からないかもしれませんが、僕たち作家が原稿料をもらった時点で、出版社に渡している権利は紙の雑誌への掲載権だけです。

「私(作家さん)は出版社さんに、雑誌に作品を掲載し、世の中に自分の作品を流通させる権利を譲渡します。その代わり、その掲載料として、原稿1枚あたり●万円ください」というお金です。

それをオンライン化する際には、これまで電子書籍出版のための別に契約書が必要でした。例えば、現在ある携帯での漫画配信サービスの多くでは、ダウンロード数に応じて、作家さんに利益の一部が支払われます。(7月24日制作日誌)


 ところが、有料コンテンツなのにもかかわらず、作家には支払われていないという。



今回の件では、編集部はまず無料配信の販売促進物だからという触れ込みで、作家さんにネットでのオンライン配信を認めさせています。(その説明を受けていない作家さんもいますが、他の作家さんには説明があったと仮定してお話を進めますね。)

(中略)

作家さんは「単行本の宣伝になるならいいかぁ。雑誌も売れない時代だしね…。」と思って、その話を了承しただけのつもりかもしれませんが、実はその時、電子書籍出版権という作家さんが持つ大事な権利を、ほとんど無意識に講談社さんに譲渡してしまったことになります。

原稿料を1回だけ払えば、オンライン上のどこで出版社が作品を使っても、文句がいえない権利をただであげてしまった訳です。だから、今回、別途お金を支払うという話もないのでしょう。

文句を言ったら、その作家さんの作品のiPhoneでの販売は中止してくれるかもしれませんが、今言った電子書籍出版権の話をされるでしょう。利益の一部を作家に分配してくれるかと言うと、ハードルは高いと思います。

さらにいうと、iPhoneでの作品の販売を許した作家さんは、今後、自由に自分の作品をオンライン配信できない可能性もでてきます。

モーニングツーは、作家さんから電子書籍出版権を手に入れ、いよいよ収益を上げられるモデルに移行しました。(7月24日制作日誌)


 作家自身が、すべてを編集部任せにしているので、権利関係に疎かったのだろう。しかし、自らのコンテンツを守るのは自分しかないという典型的なエピソードである。


 普通、雑誌を買うとき、その作品目的で買っているが、他の作品には見向きもしないという読者も多い。最近では、新作は、書店で立ち読み、単行本になったら購入するというシビアな読者も増えている。佐藤氏のネットでの売れ行きいかんでは、著名なクリエイターほど、雑誌を離れ、有料配信が増えていくのかもしれない。


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