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新聞は引用の仕方でこんなに変わる

赤旗の記事からOECDの雇用アウトルック(見通し)2009を読む

 9月19日の赤旗にこんな記事があった。
貧困層の8割 ワーキングプア/OECD 日本に警告

 日本の労働者の貧困は、先進国のなかでも深刻な水準にある—経済協力開発機構OECD)は2009年の雇用見通しのなかで、日本の労働者の貧しさを警告しました。
 それによると、日本では現在の景気低迷以前から、ワーキングプア(働く貧困層)が、貧困層の80%以上を占めていたと指摘。これは、OECD加盟諸国平均の63%を大きく上回っています
 また、日本は職に就いている人が最低1人以上いる家計に属する人の11%が貧困だと指摘。OECD加盟国のなかでトルコ、メキシコ、ポーランド、米国に次いで5番目の高さです。そして、日本の税と所得再分配制度は、「労働者の貧困緩和にはほとんど効果をあげていない」と述べています。
 日本で労働者の貧困が顕著になっている理由について、「非正規労働者の割合が比較的高いこと」をあげています。日本では、非正規労働者の割合が1985年の16%から2008年には労働者全体の3分の1を上回るに至った経過にふれ、景気低迷期には「失職に対してより脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれている」と分析。日本の非正規労働者の多くは雇用保険に入っていないため、「失業すると多大な経済的困難に直面する可能性がある」としています。
 OECDの分析は、非正規労働者を増やす要因となっている労働者派遣法の抜本改正をはじめ、最低賃金の引き上げ、失業者への生活援助の抜本的強化などが差し迫った課題となっていることを裏付けています。(貧困層の8割 ワーキングプア/OECD 日本に警告)

 そこで元記事を探す。
OECD雇用アウトルック2009

日本は世界的な景気低迷期に大規模な雇用喪失を経験した。
7月の失業率は過去最高の5.7%に達したが、これは2007年末時点から失業率が2ポイントアップし、新たに130万人が失業したことを意味する。
最も深刻な影響を受けたのは製造および建設部門である。日本の労働市場が弱まっていることは、労働力の減少が加速していることでも明らかである。2004年以降労働参加率は堅調に伸び続けてきたが、2008年と2009年では約74%に留まっている。若年層(15〜24才)の労働参加率は、2009年7月時点で2年前より約10%近く減少し、35万人減となっている。

日本の景気刺激策が雇用に与えた影響は特に大きい
これは、減税や政府支出(2008年のGDP比で4.7%:OECD諸国中では、韓国、米国、オーストラリアについで大きい)といった景気刺激対策パッケージが比較的大規模なものであったこと、ならびに、雇用に対する財政乗数が比較的高いことによるものである。 OECD雇用アウトルック2009では、2010年の日本の雇用の減少率は、財政政策が何も講じられなかった場合よりも1.3%から2.0%縮小すると見ている。
日本は、職を失った者を再び就業させるために重要な手段を講じた
失業者に対する職探し支援や他の再就職サービスへの年間支出額は、経済危機を受けてほぼ倍増した。新たな取り組みとしては次のものが挙げられる。地方政府レベルでの職の創出のための新たな臨時基金、雇用助成金の受給資格拡大・基準の緩和、高齢労働者や非正規雇用の若者、就業困難者、小規模事業者を含む様々な層を対象とした職業体験プログラム、ハローワークの増員である。

所謂失われた10年−1990年代以降、若年層は労働市場で安定した立場を得ることにおいて多大な困難に直面しており、この状況は現在の景気低迷により悪化している。
15〜24才の失業率は、過去12ヶ月で2.4ポイント上昇し、2009年9月に9.9%に達した。OECD雇用アウトルック2009の分析によると、OECD諸国全体にわたり、若年層の雇用は、それより年長の層と比べ、景気変動に影響される度合いが2倍以上高い。中等あるいは高等教育修了資格を持たずに労働市場に参入しようとする若年層は特に弱い立場に置かれている。従って、若年層に学業の継続や職業訓練への参加を奨励する方策は、現在学校を卒業した者が新たな失われた世代になることを防ぐために、極めて重要である。

1980年代以降、日本では非正規労働者の割合が増加し続けているが、労働市場状況が悪化するにつれ、その福祉への懸念が高まっている。
非正規職
−主にパート職であるが、短期、日雇い、有期雇用契約労働者も含む−に就いている人の割合は、1985年の16%から2008年には全体の3分の1を上回るまでになった。景気低迷期においては、非正規労働者は失職に対してより脆弱な立場に置かれている。短期および日雇い労働者の雇用は2009年7月時点で、12ヶ月前から3.6%減少している。他方、正規雇用については1.1%の減少となっている。日本の非正規労働者の多くは失業保険に入っていないため、失業すると多大な経済的困難に直面する可能性がある。しかしながら、日本は経済危機の影響を受けた非正規労働者を救済するために幾つかの歓迎すべき政策手段を講じている。それは、非正規労働者が失業給付を受給しやすくすること、より多くの非正規労働者に対する短期雇用支援適用の拡大、失業保険に入っていない求職者の職業訓練参加を可能にする新しい形の所得支援などである。

非正規労働者−正規労働者と比較して労働時間が短く、時給が安い−の割合が比較的高いことは、日本で労働者の貧困が顕著になっていることに繋がっている。
OECDの分析によると、現在の景気低迷以前から、ワーキングプアは日本の貧困層の80%以上を占めていた。OECD諸国平均ではその割合は63%である。日本では、職に就いている者が最低一人以上いる家計に属する個人の約11%が貧困にある。これは、OECD諸国中トルコ、メキシコ、ポーランド、米国に次いで5番目に高い。日本の租税および所得再分配制度は、失業状態にある家計の貧困削減という点では比較的優れており、社会保障給付は子供のいる家庭を貧困から救い出すために充分であると言える。しかしながら、労働者の貧困緩和には殆ど効果をあげていない。

 赤旗が引用した部分を太字で示した。当然ながら、OECDが褒めた部分は一行も書いていない。僕は、別に赤旗を批判するために、このエントリーを書いたわけではない。新聞記事というものは、いかに自分たちに都合がよく書かれるかという例で出しているに過ぎない。さて、赤旗の最後の三行が重要である。これこそが、赤旗がこの記事を載せる理由だからである。OECDの記事には、どこにもどうすべきだとは書いていない。ところが赤旗ではこう書いている。
 OECDの分析は、非正規労働者を増やす要因となっている労働者派遣法の抜本改正をはじめ、最低賃金の引き上げ、失業者への生活援助の抜本的強化などが差し迫った課題となっていることを裏付けています。(貧困層の8割 ワーキングプア/OECD 日本に警告)
 つまり、日本共産党の主張する労働者派遣の原則禁止、最低賃金引き上げなどの理由付けに書いているのだ。

OECDはどうすべきだと書いているのか

 それならOECDはどうすべきだと書いているだろうか。実は、9月30日にOECD対日経済審査報告書2009が出ている。「労働市場をどのように改善できるか」から引用してみる。
非正規雇用者比率は,1990年の20%から2008年には34%へと上昇したが,非正規雇用の報酬は正規雇用に比べて著しく低いことから,平均賃金と民間消費を引き下げる要因となった.また,非正規雇用者比率の上昇は,企業の非正規雇用者に対する訓練等の投資が低いことから,長期的な生産性に対して悪影響をもたらしている.更に,正規と非正規労働者の間には賃金格差ほどの生産性格差がないということから,公平性の問題も憂慮されている.つまり,労働市場の二重性が,多数の労働者−特に若者−を,雇用保障がほとんどなく,限られた訓練機会しか与えられない低賃金な職に追い込んでいる.更に,非正規雇用者は,限られた社会保障しか与えられていない.この二重性を反転させるには,企業が非正規雇用を拡大する要因に対処することが必要であり,これには包括的なアプローチが必要であり,特に,社会保険料負担の低下等によって労働コストの節約を図る点と雇用の柔軟性を確保する点である.社会保険制度の適用対象となる非正規雇用を拡大すること,正規労働者の雇用保護を引き下げること,そして非正規雇用者の就業見込みを高めるような職業訓練の改善等が含まれる.同時に,女性によるフルタイム就業を阻害する税や社会保障制度にみられる要因を排除して労働参加率を高め,より魅力的な就業機会を提示し,育児支援施設等の質的改善と量的拡大を含めた柔軟な働き方を提供するといった方策が重要である.こうした変化は,よりよい「ワークライフバランス」に資するものであり,結果として出生率の低下にも歯止めをかけるものと期待される.(OECD対日審査報告書2009年版)
 OECDから見れば、正規と非正規の格差が問題であり、正規労働者の賃下げなど正規労働者の雇用保護を引き下げること非正規労働者とのバランスを計り、雇用の柔軟性を確保することこそが将来の日本の雇用のあり方だと説いている。もちろん、このことは、赤旗には永久に書けない点であるが。
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