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素人だから言えることもある

トヨタが再び敗れる日(改題)

NHK「自動車革命」

 NHK「自動車革命」を見た。石油から電気への変換は巨大な産業革命だという。
100年に一度と言われる経済危機。20世紀を牽引した石油の時代の大転換。今、技術や産業のあり方からライフスタイルまで「自動車の常識」が大きく変わる時代が訪れている。(自動車革命 第1回 トヨタ 新時代への苦闘)
 来週の第2回では、
シリーズ2回目は、世界各地で同時多発的に勃興する電気自動車メーカーの動きと、電気自動車に社運をかける日本メーカー日産の最前線の動きに密着する。中国の農村部で「電気自動車ブーム」が起きている。町工場が雨後のタケノコのように生まれ、今まで自動車と縁のなかった層が新たな市場として活気づいている。新興メーカー中には、ヨーロッパに進出するなど、自動車メーカーと市場争いを繰り広げるところも出てきた。一方アメリカでは「グリーンニューディール」を推進するオバマ政権のもと、グーグルなどシリコンバレーのIT企業を中心に「21世紀の産業革命」を起こし、世界のイニシアティブを握ろうという動きが進んでいる。これに対し、世界の自動車メーカーで初めて本格的な電気自動車の量産化を打ち出した日産は、ガソリン車の購買層をターゲットに市場の開拓を推し進めている。市民の意識改革の難しさ、充電インフラ整備など様々な課題をかかえながら、新時代を切り開こうとしている。国益も交錯する競争の現場、情熱を傾ける人々の姿を追いながら、世界を覆いつつある「革命」の現実を提示していく。(自動車革命 第2回 恐るべき革命児たち“スモール・ハンドレッド”の衝撃(仮))
 石油から電気に変わることで、今まで巨大な製造工場が必要だった自動車工場が、部品点数も3万点から1万点ですみ、小さなベンチャー企業でも自動車産業への参入が簡単になってしまったという。

薄型テレビが敗れた日

 そういえば、薄型テレビの価格破壊も似たようなものだった。日本の家電の薄型テレビ、一時、20万円以上だったものが、アジアのベンチャー企業の参入で一挙に数万円になってしまったのだ。パイオニアのテレビ事業撤退もこの頃である。
年に2〜3割と言われるペースで急速に低価格化されてきた。大手メーカー製品では2004〜2005年に本格普及の目安と言われた1インチあたり1万円程度に到達した。2005年夏に大手量販店が台湾製などの格安液晶テレビ(32インチで10万円前後)を発売して価格破壊に拍車をかけた。2007〜2008年には大手メーカー製品でも1インチあたり2500〜5000円が当たり前になり、小型製品では2000円を切る物もある。このためメーカーは薄利多売を余儀なくされ、競争力の弱いメーカーが撤退・縮小する業界再編が2007年頃から表面化している。2008〜2009年の世界的不況で価格下落のペースがさらに進み、それでも売れ行きが伸び悩んで各メーカーは大幅に収益が悪化した。(薄型テレビ-Wikipedia)
 このままでいけば、自動車産業も危ない。トヨタは大学と共同で独自のリチウムイオン電池を開発しているという。トヨタが単なる自動車組み立て産業になってしまうことを恐れているのだ。実は、この発想の元かもしれないが、こんな記事があった。「リチウムイオン電池を“薄型テレビ”にしてはいけない-宮田秀明の「経営の設計学」」という記事である。
 薄型テレビの価格低下には驚くばかりだ。DRAMのたどった道をそのままたどっているのだが、このままでは2次電池も同じ道に進む可能性が高いだろう。2次電池メーカー同士が熾烈な技術開発競争を繰り広げつつ、生産性向上活動を必死に進め、激しい価格競争を行い、製品の持つ高い付加価値を減損させてしまうというシナリオである。
 一方では、外資のコンサルティング会社、国内の商社などが環境ビジネスへの取り組みを強化している。リチウムイオン電池や電気自動車のような優れた技術に目をつけ、その価値を倍にして、粗利70%のビジネスで大きな利益を得ようとしているのだ。それ自体は悪いことではない。このような活動によって「社会システムイノベーション」が推進されるからだ。しかし、日本の製造業はこのような勢力とのつき合い方を変えるべきではないだろうか。電池メーカーが、彼らの下請けになってはいけないということだ。
 この中で、もっと小さな苦労で大きな利益を得ようとしているのが、外資系コンサルティング会社である。環境・エネルギービジネスは最も高い成長性が期待できると考えられているからだ。その中でもリチウムイオン電池は宝物のようなものなのだが、いずれコモディティー化して、ビジネスモデルやシステムや知財の価値の方が大きくなると読んでいるのだろう。
(中略)
  このままではリチウムイオン電池も、DRAMや薄型テレビのように、コスト競争、品質競争の世界へ押し込められてしまうだろう。リチウムイオン電池に薄型テレビと同じ道を歩ませてしまったら、日本の産業競争力は取り戻せないままになってしまう
 「でも、たくさん電池と電気自動車を売ってくれるいいパートナーですから」と言うのはあまりにもお人好し過ぎるだろう。外国企業は、いずれ電池と電気自動車の調達は競合他社と競わせて、どこからでも調達するように変わって環境ビジネスを世界中に広めるだろう。
 そこで宮田氏は、こう提言する。
 リチウムイオン電池を使うビジネスモデル、資源エネルギーの消費を減らすビジネスモデルを開発し、それをビジネスとして成立させることに力を集中すればいいのだ。
 2次電池の効能を倍にすることをビジネスにし、2次電池で30%の粗利を確保して、同時にそれを賢く使う方法をシステム化して、生まれた価値の70%を粗利にするビジネスに取り組むことだ。このビジネスモデルのうまみを素早く嗅ぎ取った外国企業に負けてはならない。ましてや、このような外国企業と無防備な提携をすることはやめるべきであろう。
 2次電池と電気自動車を生かすビジネスモデル、つまり新しい環境エネルギー社会システムを開発し、その知財をしっかり保全していく戦略は日本にとって最も大切なものだ。
日本の製造業にその力がなければ、情報システム会社や商社や電力会社との連携ビジネスも大切な選択肢であろう。こんな経済環境下でも確実な利益を出しているのは総合商社である
 ところで、もうひとつ紹介したい記事がある。実は、「パナソニック「愛情サイズ」ビデオカメラはブルーレイディスクに衝撃を与えるか?」のエントリーに引用した豊崎禎久氏の「デジタルビデオカメラ市場に見るパンドラの箱」(アットマーク・アイティモノイスト)という記事だ。
 SDメモリカードを使うメカレス型デジタルビデオカメラは技術的に製品化が容易となり、この領域での差別化が難しくなるだろう。この事象は、すでに薄型テレビのファブレス型液晶テレビのビジネスモデルなど、デジタル家電製品で証明されている
 メカ機構が搭載されているが故に、そこに独自の自社技術が存在し、自社の製品を守り、海外メーカーの参入障壁を作り上げ、かつ製品に付加価値を生み出してきた。優秀な日本技術者は模倣されにくい技術を作り上げることが、技術者自身のモティベーションを高め、日本企業の利益を守り続けてきたのである(メカ機構が多いカーオーディオ分野はこの模範事例であった)。
 SDメモリカード搭載のデジタルビデオカメラの開発主導権は、システムメーカーから、サムスン電子や東芝などNAND型フラッシュメモリメーカーに移ったといえよう。今後、この製品の差別化は、SDメモリカード容量と「ブランド(これは次ページに関係)」でしかないであろう。SDメモリカードAVCHDデジタルビデオカメラの市場投入は、国内家電メーカーの戦略のミスである。
(中略)
 ジェイスターでは、こうした携帯型音楽プレーヤ・メーカーなどの市場参入を未然に防ぎながら、AVCHD対応機市場をさらに拡大する方策としてブルーレイディスクの採用が有効だと提言してきた。ブルーレイディスクは、GaN(窒化ガリウム)系材料を使う青色半導体レーザーという最先端部品を採用する。GaNウェハを供給できる材料メーカーは、現在国内に2?3社体制でしかない。この青色半導体レーザーの調達は、特許と製造できる企業数が世界で少ないため、一筋縄ではいかない。しかも青色半導体レーザーに対応する光ピックアップ・モジュールに加えて、本来メカのローダー開発には、非常に高い技術力とノウハウが必要になる。半導体レーザーや光ピックアップ・モジュール、ディスク駆動装置の開発・製造は、日本企業の最も得意とするお家芸である。
 従って、これらの電子部品が欠かせない日立製作所が市場投入したブルーレイディスクのデジタルビデオカメラが主流になれば、国内デジタル家電メーカーが世界のデジタルビデオカメラ市場を支配しやすくなるはずであった
 ところがSDメモリカード型メカレスという“パンドラの箱”を開けてしまった以上、国内デジタル家電メーカーは、世界市場での地域製品戦略を考え、電子部品を大量調達し、価格下落とアップル社など強力なライバル企業との競争に打ち勝つために、画像エンジンなどSoCのプラットフォーム化と微細化に依存しない(シリコン貫通電極技術などを活用した)大容量メモリデバイスの開発を促し、海外企業の新規参入に備えをしておく必要がある。
 今までの文章を読んできた読者には、豊崎氏の提言は理解できるだろう。つまり、自動車にしてもビデオカメラにしても、日本独自の高いメカ技術は、大変高い参入障壁になっていたのである。ところが、ビデオカメラでは、メモリーカードによって、メカレスになり、自動車では、電池になることで今までの巨大工場が不要になってしまった。トヨタは、リチウムイオン開発に力を入れるというが、世界中のベンチャーも同じことを考えているといわざるを得ない。どこまで、トヨタが他社より先んじているかどうかは、誰にもわからないのだ。


追記 NHK「自動車革命」から見る、日本の巨大企業がアジアやヨーロッパのベンチャー企業の格安製品の嵐に飲み込まれる構図のタイトルが長いので「トヨタが再び敗れる日」に改題
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