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素人だから言えることもある

貧困と孤立、そしてウィークタイズ

孤立は正社員にまで広がっている

 ETV特集作家・重松清が考える 働く人の貧困と孤立のゆくえ」を見た。解説によると

 去年暮れから年始にかけて開設された「年越し派遣村」。仕事とともに寝る場所までも失う派遣など非正規労働者の現実を目に見える形で示した。政府は、講堂を宿泊場所として提供し、補正予算に失業者への緊急対策を盛り込むなどして対応。野党3党が派遣法の抜本改正に動くなど、政治を動かす原動力となった。

 作家 重松清さん(46歳)は、普通の人が、仕事場や学校、家庭で、「孤立」し、時に自分自身や他人を傷つける事件に追い込まれてしまう様を、小説やノンフィクションで見つめ続けてきた。重松さんは派遣村に、「長く働いても何の技術も身につかない仕事と働き方があふれ、簡単にクビを切られる」現実にショックを受けるとともに、「孤立」を抜け出す希望を見たという

 派遣村には、派遣切りにあうなどして失業した505人とともに、1692人のボランティアが集まった。実行委員会は、連合、全労連全労協という労働組合ナショナルセンター、路上生活する人たちを支援するNPOや弁護士、非正規の労働者が個人で加盟するユニオンなど。重松さんは、垣根をこえて生まれた、人と人とのつながりに、「孤立を脱する物語」の可能性を見いだすという。派遣村から10ヶ月、関係した人々は今どのように現実と向き合っているのだろうか。

 番組では、重松清さんとともに、「派遣村」を担った弁護士やユニオンの活動現場を訪ね、いま働く人たちの直面する「貧困」と「孤立」の現実と、そこを抜け出す道を考える。

 番組に登場する派遣社員たちは、職場では友人を作らないようにしていたという。友人を作っても、翌日には、離れてしまうかもしれないからだ。それでも、重松氏は、首都圏ユニオンの活動に、孤立した派遣社員を助ける「人間のつながり」を感じたという。

 そもそも、重松氏は、派遣社員の問題を考え始めたのは、2008年6月の秋葉原の連続通り魔事件だったという。僕は、その頃、「「誰でも良かった」犯人は、誰でもなかったそ の他大勢の一人」というエントリーを書いている。僕は、彼が送信していたメールが心に残っている。

人が足りないから来いと電話が来る 俺(おれ)が必要だから、じゃなくて、人が足りないから 誰が行くかよ(毎日新聞)
 年末には、年越し派遣村。政治的に利用されたといわれる、「派遣村」だが、現実に、労働人口の3割まで非正規になり、正社員にも「なんちゃって正社員」「名ばかり正社員」という実質、派遣社員程度の賃金で働かせる正社員が増えている。そして、彼らは首になることを恐れて長時間労働にしがみついている。当然ながら、会社では主張できないから、孤立状態である。このように、孤立していけば、結局、体を壊してやめるか、自分か弱かったんだという「自己責任」につぶされてしまう。

希望を見出すウィークタイズ

 番組で重松氏が、垣根をこえて生まれた、人と人とのつながりに、「孤立を脱する物語」の可能性を見いだすという。この垣根をこえてという点が重要である。それがウィークタイズの条件であるからだ。

 僕は、「家族の期待は、子供の人生を変える」で「希望学」から引用した、ウィークタイズに注目している。

 希望があると語る人には、自分には友達が多いという認識を強く持っている場合が多い。友達が少ないと答えた人に比べると、友達が多いと答える人は、希望があると答える確率がおよそ3割高くなっていた。友人という自分にとっての身近な社会の存在が、希望の自負に影響をしている。友達が少ないと自己認識している人は、希望も持ちにくいのだ。

 友達の存在はどのようなプロセスで希望に影響を与えるのだろうか。その詳細な道すじは、今のところ、まだわからない。ただ、友達という自分にとっての他者の存在が、希望を発見するための重要な情報源になっている可能性は高い。なかでも社会学者のグラノヴェクーが「ウィークタイズ」と表現したような自分と違う世界に生き、自分と違う価値観や経験を持っている友だちからは、自分の頭で考えるだけで得られなかった様々な多くの情報が得られたりするものだ(『転職』1998年)。(玄田有史編著「希望学」中公新書ラクレ)

 そのウィークタイズとは、
 弱い紐帯ウィーク・タイズとも.グラノヴェッターがネットワーク分析の過程で見い出した知見.身近でなく,やや疎遠,もしくは日頃はそれほどの交流のない人々との絆のことを指す.

 そのような人々は日頃の付き合いの弱さという点で弱い絆と呼ばれる.しかし,自分にとって身近にない存在であるが故に,身近な絆の範囲にはない,より異質な情報を持った存在である

 グラノヴェッターのアメリカでの研究では,転職の際に「弱い絆」からの情報で転職を行った方がより転職への満足度が高い,などの結果が見られている.自分にとって身近にない存在であるが故に,身近な絆の範囲にはない,これまでに得られなかった異質で新しい情報が得られるため,と説明されている.(弱い絆とは)

 さらに、こんなブログもあった。
 就職活動には、ゆるく結んだネクタイの関係(ウィークタイズ)を持つ人間関係が大切だという。

 反対の意味の「ストロングタイズ」は強い結びつきの人間関係を指し、例えば同じ職場や同じ学校のように強い結びつきの付き合いの事を言います。
 この場合は、同じ価値観や同じ目的意識の集団なので、自分の新しい価値観の醸成や、思いがけない自分の可能性の発見には繋がりにくいと言います。また、新しい世界も広がらないでしょう。

 「ウィークタイズ」は、(Tシャツやポロシャツではなく)ゆるく結んだネクタイのように、たまにしか会わないが、適度の緊張感を持って互いに信頼感を持つ人間同士の関係・・・・薄いけれども、繋がった人間関係を言うそうです。
 ウィークタイズの関係は、自分が日頃気がつかない長所を見つけたり、思いがけない可能性に気づかせたりしてくれます。自分の意識していなかった能力や可能性を見つけることにより、新しい適職に就く可能性を秘めているわけです。(ウィークタイズ(弱い結びつき)山いろいろ/ウェブリング)

 つまり、重松氏は、ユニオンの実行委員会がウィークタイズの役割を果たしていると考えているのではないだろうか。団体交渉をするとき、必ず数人の仕事に悩む派遣社員たちも同行する。こうして、首を切られた派遣社員は、自分にはこんなに仲間がいるんだと感動するし、付いていった人も自分のことのように考える。そして必ず、メンバーには交通費を払う。交通費さえ、払えない人もいるからである。

 また、ユニオンのメンバーは、最低賃金で一週間暮らす実験をする。派遣社員の悩みを自分のものとするためだ。ただ、労組だけのウィークタイズでは、どうしても経営者側との対立構造になり、問題は解決しないのではないだろうか。経営者や政治家を巻き込んで、本当の人間らしい生活とは何かを追求していかなければならないのだ。


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