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メディア不況がやってくる(ホームサーバの戦い・第46章)

キンドルと出版社の戦い

 13日の今日、朝日新聞にこんな記事があった。
電子書籍化へ出版社が大同団結 国内市場の主導権狙い

 拡大が予想される電子書籍市場で国内での主導権を確保しようと、講談社、小学館、新潮社など国内の出版社21社が、一般社団法人「日本電子書籍出版社協会」(仮称)を2月に発足させる。米国の電子書籍最大手アマゾンから、話題の読書端末「キンドル」日本語版が発売されることを想定した動きだ。

 携帯電話やパソコン上で読める電子書籍市場で、参加予定の21社が国内で占めるシェアはコミックを除けば9割。大同団結して、デジタル化に向けた規格づくりや著作者・販売サイトとの契約方法のモデル作りなどを進める。

 日本の出版業界では「今年は電子書籍元年」とも言われる。国内の市場は2008年度は約464億円だが、5年後には3千億円規模になる可能性があるとの予測もある。成長をさらに加速させそうなのが読書専用端末の普及だ。アマゾン(キンドル)のほか、ソニーやシャープなども、新製品の開発に乗り出している。

 国内の出版社がとりわけ恐れるのは、巨大ネット書店でもありキンドルという端末も持つアマゾンの存在だ。

 著作権法ではデジタル化の許諾権は著作者にある。大手出版社幹部は「アマゾンが著作者に直接交渉して電子書籍市場の出版権を得れば、その作品を最初に本として刊行した出版社は何もできない」と語る。日米の「綱引き」で作家の取り分(印税)が紙の本より上がる可能性は高い。出版社から見れば、作品を獲得するためにアマゾンとの競争を迫られることになる。(電子書籍化へ出版社が大同団結 国内市場の主導権狙い

 この記事は、ネットと新聞一面は同じだ。この記事を読む限り、電子書籍化は、作家にはメリットがあるが、消費者にはそれほどメリットがないように見える。紙で読む習慣を捨てて、一台数万円もする電子ブックリーダーをわざわざ消費者が買うのかと思える。しかし、ネットでは書かれていないが、30面に関連記事があった。
電子書籍新団体・作品争奪戦を警戒・コスト減、消費者に利点も

 さらに、書籍・雑誌の売り上げが長期低落傾向にある中、電子書籍という新市場にビジネスチャンスを見いだしたいという思惑もある。

 今後、予想されるのは、作家や作品(コンテンツ)の争奪戦だ。日本の出版社が恐れているのは、巨大企業アマゾンによる人気作家の「一本釣り」。仮にアマゾンが、紙の本に比べて著者への報酬を大幅アップする条件を提示した場合、電子書籍化する権利をアマゾンに委ねる作家が出てくるかもしれない。

 国内の出版社は「作品は作家と編集者が共同して作り上げたもの」と関係の深さを強調することで、日本文芸家協会日本ペンクラブなど著作権者団体に協力を求めていく方針だ。

 消費者にとってはどうか。電子書籍は印刷、製本、運送、返品、倉庫での管理といったコストがかからない。再販価格維持制度(再版制)も適用されないため、消費者は紙の本より安い価格で購入できる可能性が高い。

 紙の本では短編集として刊行したものを1編ずつ「ばら売り」したり、紙の本は出さずに電子書籍のみで発売したりするなど、品ぞろえが豊富になるという予測もある。(朝日新聞 1/13 30面)

 30面で書かれているのは、出版社が今までの印刷・製本との関係をかなぐり捨ててまで、電子書籍化を模索している姿であり、世界一巨大な書店のアマゾンが世界一巨大な出版社になった事実である。これは、「アップルもグーグルもソニーも向かう方向は同じ(ホームサーバの戦い・第44章)」で、
自動車がメカレスになって生産過程が変わったように、今までお店で買っていたコンテンツが電子コンテンツに変わると、今度はショップが必要なくなる。つまり、産業革命であり、流通革命なのだ。問題なのは、今までそれで商売されてきた人たちの仕事が影響されていくことになるのだが
と語ったことである。その影響される業種とは「印刷、製本、運送、返品、倉庫での管理」であり、ほとんどが下請け・中小・零細企業である。当然ながら、書店も含まれる。これらの業種の仕事の激減が、新たなメディア不況の発端になる。

紙で読むのは高級品の時代

 新聞や書籍は、大量に紙を消費する。CO2削減には、逆効果だ。日本だけ、電子書籍化が遅れれば、欧米から攻撃されるかもしれない。しかも、これから日本の優れた書籍・コミックを電子化して欧米に輸出するとなると、海外と日本の書籍との二重価格になる。つまり、抵抗しているうちにガラパゴス化してしまうのだ。わざわざ、海外に輸出された電子コミックを日本国内に逆輸入する業者も現れるかもしれない。完全に、本の読み方が変わる。

 読み方が変わるというところで思い出した映画がある。1966年に公開された「華氏451」という映画である。物語はこうだ。

 華氏451度は、本が自然発火する温度である。

 すべてが機械化されたこの時代は、あらゆる知識や情報はすべてテレビによって伝達され、人々はそのとおりに考え、行動していれば平和な生活ができるのである。そこでは読書は禁止されており、反社会的という理由で、本はみつけ次第、消防士(英語でFireman)たちによって焼きすてられた。モンターグはその消防士の一人である。

 ある日彼は妻のリンダにうりふたつの若い女クラリスと知り合う。テレビのままに動く無気力なリンダの空虚な生活にひきかえ、クラリスは本に熱意を持っていて、モンターグにはとても刺激的だった。そこでモンターグは生まれてはじめて本を読み、その魅力にとりつかれてしまった。それを知ったリンダは、夫が読書をしていることを手紙にかいて密告した。

 モンターグは消防士を辞職する旨を消防隊の隊長に申し出たが、とにかく今日だけは、ということで出動した。ところがなんと行く先は意外にも彼自身の家だったのである。庭につまれた自分の本を焼きすてるように命じられたモンターグは、本ばかりか家そのものまで焼こうとした。そんな彼を制止し、逮捕しようとした隊長にモンターグは火焔放射器を向け、殺してしまった。

 殺人犯として追われたモンターグは逃走し、淋しい空地にたどりついた。そこはいつか、クラリスが話してくれたことのある「本の人々」が住む国だった。そこでは、人々は、すべての本が焼かれても、それを後世に残せるようにと、本を暗記していた。やっと本を読む自由を得たモンターグはエドガー・アラン・ポーの暗誦をはじめるのだった。(華氏451-Wikipedia

 もちろん、電子書籍化とこの映画は関係ない。ただ、電子書籍化の普及結果が、アマゾンの管理でなされる不安が共通している。出版社は多い方がいい。比較できるからだ。世界一巨大な書店アマゾンが同時に世界一巨大な出版社になる不安がそこにある。しかも、これをきっかけに、本離れが加速する危険も高い。
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