鶴岡八幡宮の大イチョウと「陽だまりの樹」
1000年も生きていたという大イチョウが倒れたという記事があった。
鶴岡八幡宮の大イチョウ倒れる 「実朝暗殺の舞台」この記事を読んで、思い出したのは、手塚治虫の「陽だまりの樹」だ。そこで、その中から藤田東湖の台詞を引用してみる。
鶴岡八幡宮(吉田茂穂宮司)のご神木とされる大イチョウは10日午前4時40分ごろ、根元から倒れているのが見つかった。けが人などはなかった。
大イチョウは1219年、鎌倉幕府の3代目将軍源実朝が八幡宮の参拝を終えたところ、この木に隠れていた公暁(くぎょう)が暗殺したとされる伝説から「隠れ銀杏(いちょう)」とも呼ばれる。800〜1千年余りの樹齢とみられ、鎌倉時代に体を隠せる大樹なら現在の木は2代目という説もある。
鶴岡八幡宮によると、同4時15分ごろから、詰め所で警備員が5分おきぐらいに「ドンドン」という音を聞いていた。同40分ごろに、雷が落ちるような大きな音がしたため外に出たところ、大石段そばの大イチョウが根元から南側に倒れていたという。鎌倉市消防本部によると、当時は雨はあがっていたが、平均7〜8メートルの北風が吹いていた。
大イチョウは根元部分が空洞のようになっていた。八幡宮によると、これまで台風で枝折れしたことなどがあるだけで大きな被害はなかった。今年は2月に雨が多く地盤が緩んでいたという。神職の一人は「関東大震災にも耐えたのに……」と絶句していた。(朝日新聞3月10日)
ご両人…この桜の樹を見なさい。「陽だまりの樹」は、手塚治虫の先祖の手塚良庵(後に良仙)を中心とする幕末の物語である。陽だまりの樹を象徴するものはさまざまに受け取れる。たとえば、地球とすれば、地球温暖化問題かもしれないし、日本の政治ととれば、白蟻共や木食い虫共は官僚主義とも取れる。しかし、たまたま1000年も長生きした鶴岡八幡宮の大イチョウが倒れたのも、根元の空洞化が疑われる。そして、それは日本全体のあらゆるシステムが制度疲労を起こし、意外に短期間で倒れる可能性を象徴しているのではないだろうか。
これはこの富坂でも一番の老木だそうでな。なんでも、家康公ご入国の際、若木だったそうな……
つまりこの樹は、徳川三百年を生きてきたことになるな。
ここは陽当たりもええし風も強うない…この桜はぬくぬくと三百年、太平の世に安泰を保ってきたわけじゃ……
ところが知らぬ間にこれこのとおり白蟻や木食い虫の巣になってしもうたわい。もうこれはあと十年ももつまいて。
徳川の世はこの陽だまりの桜の樹のようなものじゃ……
太平の夢をむさぼるうちに幕府の中にも外にも……白蟻共や木食い虫共がわいて、木を食いあらしおった。
おのれの派閥だけを考えて逃げ腰で無責任なくせに利をむしばむやからが、政府の中にやたらにふえておるわ、獅子身中の虫共だ。
このままでは幕府は…いや日本は滅んでしまう!
先生!?おっしゃるとおりに思えます。
私達はどうすればいいのですか、お教え下さいッ。
いくつになられる?
二十六歳です。私は二十一です。
そうか……若くてうらやましいのォ……貴君達はなんでもできるだろう。ただ孟子にこういう言葉がある。
「天 まさに大任をこの人におろさんとするや その筋骨を労し その身を空乏にする」
——わかるかね?
人は安泰の時には仕事をなまけ、苦しい時には励むものだ。だから苦しみにあうことは、次の発憤のきっかけになることだ。……苦しむことだ。若い時は苦しめば苦しむほどよい。
これからの十年、たぶん日本は未曾有の大事件にみまわれるだろう。