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ソニーとアップルのストリーミング戦争(ホームサーバの戦い・第70章)

新型アップルテレビはストリーミング


 アップルは、9月1日、新型のアップルテレビを発表した。



 米Appleは1日(現地時間)、テレビなどに接続して、ネットサービスの動画や音楽などが楽しめるセットトップボックス(STB)「Apple TV」の新モデルを発表。予約受付を開始した。9月中に発売予定で価格は99ドル。日本での展開は未定。
 2007年に発売した従来のApple TVと異なり、HDDなどのストレージは備えておらず、レンタル方式のストリーミングコンテンツをHDMI出力するSTBとなっているiTunes Storeで配信されるレンタル方式(30日以内、視聴開始後48時間)の、映画(4.99ドル)やABC、ABC Family、Fox、Disney Channel、BBC Americaなどのテレビ番組(99セント)などのコンテンツを視聴できる。(米Apple、99ドルのストリーミングビデオ端末「Apple TV」−NetflixやYouTubeにも対応)



 日本の予定は、未定だが、注目すべき点は、レンタル方式のストリーミングコンテンツをHDMI出力するSTBというところだ。なぜ、アップルはこの方式を選んだのか。



アップルTVは2007年に発売されたが、人気商品とはなっていない。ジョブズ氏は同イベントで出席者らに、「たくさん販売したが、これまでのところ大ヒット商品とはなっていない」と認めた。その上で、オンライン音楽配信ソフト「iTunes(アイチューンズ)」上で購入したビデオを保存するこれまでのアップルTVは平均的な消費者には複雑すぎたとの見方を示した。(米アップル、インターネットテレビの最新モデルを発表)



また、シリコンバレー通信の瀧口範子氏は



 もちろんインターネットからのストリーミングもできたが、今回の発表によると、新しいApple TVはストリーミングするだけになる。つまり、iTunes Storeから映画やテレビ番組を買ってダウンロードするのではなく、レンタルするだけ。そのため、ファイルを保存したり、コンピューター経由でiTunes Store からダウンロードしたコンテンツをシンクロしたりする必要がなくなるというわけだ。
 この発表をした際に、ジョブズが使った言葉が面白かった。
 「コンピューター業界の人間はどうしても分からないようだが、普通の人々は映画やテレビ番組は、コンピューター画面なんかで見たくないと思っている
 「普通の人々は、保存したファイルを管理したり、シンクロ作業したりすることなんかやりたくないと思っている
 この「普通の人々」という表現がたびたび登場するのを、私は興味深く聞いていた。つまり、これはアップルのリビングルーム進出宣言でもあるのだ。それもややこしい機器の接続やらシンクロなどなしに、それひとつですぐに映画やテレビ番組が見られるようにするということなのだ。(ジョブズが繰り返した言葉が示す「アップルの目の付け所」)



 つまり、今までのアップルテレビは、結局、コンピュータの延長で、「普通の人々」は、わざわざダウンロードすることすら面倒くさいと考えているのだ。これは、iPadが「普通の人々」に爆発的に売れたことと共通している。「普通の人々」はコンピュータのキーボードにアレルギーがあり、避けていたからだ。


ソニーはQriocity


 ソニーは、今日、9月2日、ソニーオンラインサービスとしていたネーミングをQriocityに名前を付けかえた。やはり、ここでも出てくるのがストリーミングクラウドである。



 ソニーは、昨年11月に、仮称「Sony Online Service (“ソニーオンラインサービス”)」として発表したネットワーク対応機器向けのサービスを、「Qriocity(“キュリオシティ”)」と命名しました。“Qriocity”は、様々な機器を通じて、お客さまに高品質のエンタテインメント体験を提供するネットワークサービスのプラットフォームです。ソニーは、“Qriocity”を通じ、ビデオ、音楽に加えて、将来的にはゲームや電子書籍を含む、様々なデジタルエンタテインメントコンテンツおよびサービスを、同社のネットワーク対応機器に向けて提供すると共に、革新的なエンタテインメント体験の実現を目指します。


 “Qriocity”が提供するサービスとして、ソニーは、今秋より、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペインの欧州5カ国において、プレミアムビデオ配信サービス「Video On Demand powered by Qriocity (“キュリオシテイ”ビデオオンデマンド) 」を開始します。"Video On Demand powered by Qriocity”は、20世紀フォックス、ライオンズゲート、MGMスタジオ、ユニバーサル・ピクチャーズ、パラマウント・ピクチャーズ、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、ウォルト・ディズニー、ワーナー・ブラザースなどの映画会社が提供する数百タイトルもの最新の映画や、ローカルスタジオによる人気のコンテンツをお楽しみいただける高品質なストリーミングサービスです。多数のタイトルが、ハイビジョンおよび標準(SD)画質で提供され、2010年モデルのネットワーク対応の液晶テレビ<ブラビア>、ブルーレイディスクプレーヤーおよびブルーレイディスクホームシアターシステムで視聴が可能です。本サービスは、2010年4月より、米国にて開始しております。


 また新たに、ソニーは、“Qriocity”が提供する第二弾サービスとして、クラウドベースの音楽配信サービス 「Music Unlimited powered by Qriocity (“キュリオシテイ”ミュージックアンリミティッド)」を年内を目処に開始します。"Music Unlimited powered by Qriocity” では、お客さまはクラウド上で管理された数百万の音楽コンテンツにアクセスし、お楽しみいただくことが可能です。サービス開始時には、"Video On Demand powered by Qriocity”と同様、2010年モデルのネットワーク対応の液晶テレビ<ブラビア>、ブルーレイディスクプレーヤーおよびブルーレイディスクホームシアターシステムに加え「プレイステーション3」およびVAIOを始めとするパソコンでお楽しみいただけます。また、ソニーのポータブル機器にも準備が整い次第、順次拡大していく予定です。(“Qriocity”によるプレミアムビデオ配信サービス 今秋より欧州で開始〜クラウドベースの音楽配信サービスも、年内に向け開始予定〜)



 なぜ、ソニーやアップルがこの時期に同じような発表をするのか。そのヒントになるような記事が3月のCNET Japanにあった。



 iTunesユーザーがAppleのクラウドに自分の映画やテレビ番組を保管できるようになるには、その前に、Appleが映画スタジオ各社と契約を結ばなければならない。これは簡単にはいかないかもしれない。スタジオ各社は、Appleの計画がApple以外のデバイスやサービスともうまくやってゆけることを確かめたいと考えている。
 Forrester ResearchのメディアアナリストJames McQuivey氏は、ハリウッドは壁に囲まれた庭にはまったく興味がないと語る。
 「スタジオ各社は、誰かが専有しているプラットフォームに縛り付けられることを、非常に懸念している。各社が望むのは、消費者が、デバイスやサービスとではなく、コンテンツと関係を持つ世界だ。各社は、iTunes(経由)で購入されたコンテンツがNokiaの携帯電話でも再生できることを、Appleに認めさせ保証させる立場にある。それはまったくApple的でない」(McQuivey氏)(「iTunes」による映画ストリーミングの可能性--アップルのクラウド戦略が持つ課題)



 つまり、アップルとしては独占契約をしたいのだが、そのことは、他社にもストリーミングを認めることになる。もちろん、アップル製品でしか再生できない仕組みを作ることができる。それは、今までiTunesでなし遂げてきたことだ。だが、アップルの前にはDECEがあるからだという。



 Digital Entertainment Content Ecosystem(DECE)は、ファイルフォーマット、デジタル著作権管理、認証テクノロジの標準規格の策定に向けて、そうそうたるメディア関係者が名を連ねるコンソーシアムだ。これには、Adobe Systems、Best Buy、Cisco Systems、ComcastIntel、Hewlett-Packard(HP)、Lions Gate Entertainment、Twentieth Century Fox Film、Microsoft、Netflix、パナソニック、4大レコード会社(Universal Music Group、Sony BMG Music Entertainment、EMI Group、Warner Music Group)、サムスン、ソニー、Warner Bros. Entertainmentなどが参加している。(「iTunes」による映画ストリーミングの可能性--アップルのクラウド戦略が持つ課題)



 今まで、アップルがアップルテレビに比較的消極的だった理由はここにある。独自の規格で独自のデバイスにこだわったアップルにとって、DECEによりオープンの道をとらざるを得なかったのだ。


やがて、iPadで映画を見る時代がくる


 今回のアップルテレビは、iPadには使えなかった。だが、最終的に僕が「アップル・ソニー(SCE)・任天堂の次世代機を大胆に予測してみる。(ホームサーバの戦い・第69章) 」で、



 音楽・動画・電子書籍ときて、何か足らないと思ったら映画コンテンツがあった。Apple TVがもう一つブレイクしないのは、アメリカでは同じような機器が室内にあるからだ。映画を外に持ち出そう。これが、今度のiPad。ただ、iPadには映画を溜め込むハードディスクがない。だから軽いのだが。内臓のApple TVを使って、ストリーミング画像を鑑賞。購入したコンテンツは、アップルのクラウドサーバーに置いていつでも見ることができる。ただ、10時間のバッテリーじゃ不安とか、長時間持っていられないという人のために、AC電源やスタンド、さらにHDMI端子も用意される。



と書いたように、方向は定まっている。それは、



映像・画像・音楽・書籍・ゲームなどのあらゆるコンテンツがデジタル化され、同時に通信コストが急激に下がる中、その手のコンテンツを制作・流通・消費するシーンで使われるデバイスやツールは、従来のアナログなものとは全く異なるソフトウェア技術を駆使したデジタルなものになる。アップルはそこに必要なIP・ソフトウェア・デバイス・サービス・ソリューションを提供するデジタル時代の覇者となる」(アップルの30年ロードマップ)( アップルのホームサーバ計画(ホームサーバの戦い・第43章))



アップルにとって、映画のコンテンツだけを別扱いすることは考えられない。また、ソニーオンラインサービスについては、「ソニーがiPad市場に参入する(ホームサーバの戦い・第52章) 」で触れている。そこでは、



現在はゲーム機だけが対応しているが、テレビ、パソコン、携帯端末もネットワーク対応機器に拡大し、映画やゲーム、音楽、書籍などを提供する「ソニーオンラインサービス(仮称)」を立ち上げる計画。2012年度末までにネットワーク対応機器は3億5000万台への拡大を目指す。2012年度までにネットワークサービス全体の売り上げ規模を年間3000億円にする目標だ。
 平井EVPは、オンラインサービスについて「できるだけ早く立ち上げたい。(テレビ、パソコン、携帯端末など)対応機器がサービス開始のときにすべて揃うわけではないかもしれないが、来年中にサービスを開始したい」と語った。(ソニー、映画・音楽などオンラインサービス開始へ=平井EVP)



 アップルは、デバイスをiPodやiPone、iPadに集中させるだろう。ソニーは、Qriocityの対応機器を増やすことでソニー製品への囲い込みを進めていくだろう。ホームサーバの戦いは、クラウドとストリーミングの登場でより加速していくに違いない。


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