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素人だから言えることもある

成功と失敗のセレンディピティとニワトリ会議

ノーベル賞受賞者の言葉

前項「失敗を許さない国」で学んだのは、日本の経営者は、失敗を恐れるために誰もチャレンジをしないということだった。成功者とはいったいどういうものか。たまたま、10月13日に放送されたクローズアップ現代に、日本のノーベル賞受賞者のインタビューがあった。最近の成功者の例として彼らの言葉に注目した。解説
日本で17、18人目となるノーベル賞をダブル受賞した北大名誉教授の鈴木章さん(80)と米パデュー大特別教授の根岸英一さん(75)。医薬品や次世代照明と期待される有機ELなど、生活を支える多くの製品をより安全に、より安く、大量に生み出す画期的な炭素の合成法「クロスカップリング」をそれぞれ考案し今年度のノーベル化学賞受賞につながった。世界中のメーカーが恩恵を受けているとされ、私たちの生活にも浸透している2人の研究成果は、60年代から世界を席巻し続けてきた日本の有機化学研究の一つの到達点だった。「資源のない日本のような国にとって理科系の発展は重要」と強調する2人。番組では、ノーベル賞受賞後初めてとなる鈴木氏のスタジオ生出演と根岸氏の衛星生中継を行い、クロストークを展開。「2人の科学者」の共通の恩師への思いや、次世代を担う若者たちへのメッセージなどを通して、科学技術立国を目指す日本の未来を見つめる。
僕は、彼らのインタビューからメモしてみた。
ハーバード・ブラウン博士の言葉(VTR部分)

「大きな樫の木も小さなどんぐりから」成功するためには些細に見えることもおろそかにしてはならない

鈴木氏の言葉

「教科書に載るような研究をせよ」いつでも新しい研究、誰もやってないような研究をしよう

重箱の隅をほじくるような研究をするな

『セレンディピティ』思いがけず大きな発見をする能力
偶然に出てくるんじゃなくて、いろんなことに対する興味とか、それを見つけるおおらかな気持ちとか一生懸命頑張るとか、そういう気持ちがあればセレンディピティに接することができる。一生懸命努力することによって幸福の女神が微笑むチャンスがある。

日本のような資源のない国は、将来伸びるためには、我々人間が工夫して新しいものとか新しい方法を作ってこれを世界の人たちに認めていただく。

根岸氏の言葉

「新しい大陸を見つける」
「孜々営々と妥協のない形で論理的にあくなく探求していく」
「永遠の楽観主義を持って追求する」

競争を通じてできるかどうかを見極める。世界で勝負をする。

論理性とか、手堅いサイエンスを追求する手法。疑っても疑っても疑いきれないものが真理。

鍵括弧部分は、二人の受賞者が恩師のハーバード・ブラウン博士の言葉を引用している事を示す。その中で、『セレンディピティ』という言葉が気になった。
セレンディピティ(英語:serendipity)は、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能を指す言葉である。何かを発見したという「現象」ではなく、何かを発見をする「能力」を指す。平たく言えば、ふとした偶然をきっかけに閃きを得、幸運を掴み取る能力のことである。(セレンディピティ-Wikipedia)
鈴木氏も言っているように、単なる偶然でなく、長年の研究努力によって身についた能力のことである。もちろん、成功率は大変低い。「失敗学の法則」(文藝春秋)で東大名誉教授の畑村洋太郎氏は、
私の経験からいって、何か新しいことや未知な分野に挑戦しようとすると、99.7%は失敗します。そう考えると、物事がうまくいく確率は0.3%。日本に昔から“千三つ”という言葉があって、「何かの賭けをしたとき、うまくゆくのは千に三つぐらいしかない」という手意味で使われてきましたが、私の経験からすると、新たに挑戦したことが成功する確率もまさに“千三つ”です。この成功率の低さに怖じ気づいて、目をつぶり、根拠のない楽観をするのでは失敗学は始まりません。この成功確率の低さを十分に認識し、失敗に真正面から取り組む覚悟を決めなければいけないのです。(畑村洋太郎著「決定版 失敗学の法則」文藝春秋)
これほど成功率が低いと、初めから失敗するとしてチャレンジをあきらめてしまったら、その企業は死んだも同然である。まず、その失敗から何を学ぶかが重要なのだ。

ニワトリを殺すな

おそらく、「失敗を許さない国」の経営者たちは、失敗した社員を散々つるし上げてきた会議に何度も遭遇してきたに違いない。リスクゼロ企業ほどタダ乗り社員(フリーライダー)が多いフリーライダー(タダ乗り社員)の事を引用したが、それをまとめた新書「フリーライダー あなたの隣のただのり社員」(河合太介+渡部幹著/講談社現代新書)にこんなエピソードが紹介されている。
挑戦してうまくいかなかった場合に、批判されるような組織です。
ホンダ(本田技研工業)創業者の本田宗一郎氏は、このような組織を「ニワトリ会議」をする組織として、将来の成長を止めてしまうものだと厳しく戒めました。
ニワトリは、傷ついたニワトリがいると、それを寄ってたかって皆でつついていじめ、しまいには殺してしまうことさえある動物だそうです。本田宗一郎氏は、挑戦したがうまくいかず失敗に終わった人を、傷ついたニワトリになぞらえて、このような戒めをしたのです。
失敗には二種類あります。一つは、手抜きをした、きちんと準備をしなかった、全力を出さなかったといった類の失敗です。これは、二度とそのようなことがないようにと、厳しく指導することが必要です。
一方で、失敗には、「全力で挑戦した。しかし結果が思うようにはいかなかった」という類の失敗もあります。
このような失敗を捉えて、「だから無理だったんだ」「何をやっていたんだ」「君のせいだ」「前のままの方が良かったんだ」等の言葉でなじったとしたら、その挑戦をした人はどのような気持ちになるでしょうか。ましてや、その結果、昇進が止まるなどの人事上のペナルティが与えられるとしたら、どういう感情になるでしょうか。
おそらく強い無力感を覚えるでしょうし、余計なことはやらないほうがいい、と言う感情が芽生えるでしょう
自分がそうした目にあわなくても、周りの人がそのような仕打ちにあっているのを見ていたら、組織全体が同じような感情になります。
新しいことへの挑戦は、そう簡単に成果が出ないことは誰もが体験しているはずです。本田宗一郎氏も、「新しいことへの挑戦は99%が失敗する」と語っています。ユニクロを経営するファーストリテイリング社の柳井正会長も、自著のタイトルが『一勝九敗』というくらいです。
それゆえ、挑戦という行動に人は臆病になりやすく、それだからこそ、挑戦という行動は組織にとって貴重な行動なのです。その貴重な行動の芽をつんでしまうのが、「ニワトリ会議」をする組織のマネジメント体質なのです。(河合太介+渡部幹著「フリーライダー あなたの隣のただのり社員」講談社現代新書)
この本田宗一郎氏の「ニワトリ会議」の話をもとにした「ニワトリを殺すな」(ケビン・D・ワン著/高橋裕二監修/幻冬舎)という本がある。著者のあとがきで
(ホンダが元気がいいのに対し)その一方、日本全体を見渡してみると全く元気がない。皆、下を向いて歩いている。
私は、日本の現在の状況を「哲学不況」と称している。つまり、己の哲学を持たないまま生きる組織や個人が増殖したことの帰結としての不況という考え方である。
価値観を他人との比較に求めたり、さらには他人に自分の価値観を依存したりする風潮。その流れとしてのマニュアルやコピーの氾濫。結果として、何が正しくて何が間違っているのかを自己の道徳基準で判断できない組織や個人の増加。そうした組織や個人がもたらす、いたるところでの品質崩壊(政治品質、教育品質、医療品質、警察品質、経営品質、製造品質……)。そのことによる国民の、社会・未来に対する不安心理の高まりと消費の抑制。(ケビン・D・ワン著/高橋裕二監修「ニワトリを殺すな」幻冬舎)
チャレンジを恐れたトップが、自分たちの生み出した製品に対する自信のなさがそこに見える。他社と自分の会社の違いは失敗から学ぶことしかない。この本に「創造」のための教訓として次のようなまとめがあった。
失敗を奨励せよ。

・経験のないことをやって誤るのは本当の失敗ではない
・進歩のためにはまず第一歩を踏み出すこと。「試してみよ」だ
・ただし、失敗したら原因を追究し、正しく反省せよ
・正しい失敗・正しい反省をした人を攻撃してつぶすな(ケビン・D・ワン著/高橋裕二監修「ニワトリを殺すな」幻冬舎)

そして、挑戦を忘れた人には決して『セレンディピティ』が微笑まないこともこのまとめに補足してもよいかもしれない。
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