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素人だから言えることもある

テレビメモ「怪獣」と「我慢」(2)雑感・「怪獣」編

怪獣は外国人?

テレビメモ「怪獣」と「我慢」の中で、「怪獣」の正体として興味深い話が出てきた。たとえば、飯島敏宏氏の証言。
飯島 いわゆる軍国少年として育ってきて、本当に“井の中の蛙、大海を知らず”極端に狭い世界で生きてきたのが、いっぺんにパーッと開けたでしょ? 教科書は全部塗り替えられて、パーンとアメリカさんでしょ。それで民主主義でしょ。世界には自分と違う人種もいるんだとわかってくる。その中から出てきた発想なんです。ユニバーサルな発想で。
これは、それまでの軍国日本が、あくまでも鬼畜米英として敵対する日本独自の世界観で凝り固まっていたということだ。これは、ドナルド・キーン氏は日本人の何に感動したのか(2) で調べた日本兵とアメリカ兵の日記の違い。
アメリカ軍の兵士は、日記をつけることを禁じられていた。敵が日記を手に入れた時に、戦略的な情報を提供してしまう恐れがあったからである。しかし日本の兵隊や水兵は、新年ごとに日記を支給され、日々の考えを書き留めることが務めとされていた。彼らは上官が日記を検閲することを知っていて、それは日記に記された感想が十分に愛国的かどうか確かめるためだった。そのため兵士たちは、日本にいる間は日記のページを愛国的な常套句で埋めたものだった。(ドナルド・キーン著/角地幸男訳「私と20世紀のクロニクル」中央公論社)
いわば軍国日本は、敵を鬼畜化することで、日記を管理しようとしていた。一方、アメリカは日記によって情報が漏れることを恐れた。日本が精神論に傾くのに対して、アメリカは戦争=情報戦であることを熟知していた。

怪獣は地球人が生み出した害悪?

飯島氏はまたこんなことを言っている。
飯島 当時は、アメリカザリガニって昭和20年代にアメリカから持ち込まれて、跳梁跋扈してたんですよ、日本の川にね。だから、きっと人間が滅びた後は、ザリガニだろうと言われた時代なの。
NA ザ、ザリガニ? ちょっと、飯島さん。そりゃいくらなんでも安易すぎやしませんか。
飯島 地球人に対する反面教師みたいな。僕たちみたいになっちゃうぞという宇宙人、そういう警鐘を鳴らす宇宙人。(テレビメモ「怪獣」と「我慢」)
そしてナレーターはこんなことを言う。
バルタン星人は侵略者でなく、宇宙難民だったのだ。世界各国で核実験が繰り返された1960年代、人類はこのままいくとバルタン星人と同じ運命をたどるかもしれない。そんな思いが飯島さんたちにあった。当時、日本でも様々な社会問題が起こっていた。怪獣はそんな社会のひずみ、そのものだった。
汚水だらけの東京湾で突然変異、ゲスラ。石油コンビナートで大暴れ、ベスタ―。原爆事故の放射能で巨大化、ラゴン。
日本経済が急激に成長を遂げる中、怪獣たちはその光と影の象徴だった。(テレビメモ「怪獣」と「我慢」)
それならウルトラマンは、これらの社会のひずみの処理屋か。怪獣を殺せばその社会のひずみはなかったことになるのか。このウルトラシリーズを企画した金城哲夫はこういった。
「ぼくは怪獣にも人権というか、いや、獣権というか、そんなものがあると思うな」
「獣権? だったらその怪獣をやっつけるウルトラマンはなんですか」
「だから、ぼくは何度も言ってます。ウルトラマンは怪獣の殺し屋ではない」
「でも怪獣を退治している。」
「殺すつもりはないんです」
「えッ?」
「お前、やめろよ、そんな悪さやめろ。早く帰れ、山でも海でも、巣に帰れ」
「ウルトラマンが?」
「そうてす。諭しているんですよ、初めは、それでも悪さをやめないから懲らしめるんです」
「懲らしめる?」
「そうです。それも仕方なく懲らしめるんです。よーく見てご覧なさい。ウルトラマンの顔。怪獣に話しかけていますよ。怪獣にもいろいろな性格があるから、きかん気の強いヤツ、生まれながらの乱暴者とか」
たしかに金城には怪獣に心情移入した作品が多かった。怪獣が暴れるには、それなりの理由があるはずだ。人間が一方的に怪獣を悪者にしてやっつけることを許さなかった。(上原正三著「金城哲夫―ウルトラマン島唄」筑摩書房)( 大伴昌司と金城哲夫(2)(ウルトラ幻想曲・3) )
金城哲夫は、ウルトラセブンで怪獣に心情を入れた作品を数多く書いた。特に「ノンマルトの使者」は有名だ。ノンマルトとは、
現代の人類の登場以前に地球で栄えた知的生命体。その昔、現在の人類の侵略により、海底へと住処を追われた。海底で平和に暮らしていたノンマルトは、海底にまで人類の魔の手(開発)が伸びてきたことを悟り、イギリスの原子力潜水艦グローリア号を奪取して地上を攻撃し、さらに怪獣ガイロスを使って船舶を襲わせた。しかし、事ここにいたってはノンマルトの「人間は侵略者」という言い分と人類側の海洋開発とは相容れず、結局最後はウルトラ警備隊の反撃によってグローリア号とノンマルトの海底都市は破壊され、ガイロスもセブンに倒された。(ノンマルト-Wikipedia)
これは先住民族と現代人との戦いとも読むことができる。人間の尊厳性とは何か。結局、権力のある側が正義なのか。だから、飯島氏はこういう。
飯島 どんどん生活はよくなってくる、皆さんのね。でもその代わり、どんどんあるものは悪くなっていく。これをどうしたらいいか考えて、ああいうふうに作品の中で言っていたわけでしょうね。(テレビメモ「怪獣」と「我慢」)
文明が進化するごとに、新たな悪が生まれる。悪は怪獣となって、現代社会に立ち向かう。ウルトラマンのいない現代に。
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