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素人だから言えることもある

3DSはソフトに、VITAはネットに力を注ぐ理由(ホームサーバの戦い・第97章)

3DS拡張パッドの謎

9月15日以後の東京ゲームショウを前にして、任天堂SCEのカンファレンスは終わった。両社のこれからのゲームの未来の取り組みについて、ますます違いが明確になった。任天堂は、3DSの1万円値下げという、近来にない思い切った政策をとり、今回のカンファレンスでは怒涛の33タイトルを発表をした。任天堂は、かつてよりも、ソフト会社に時間を割り当てた。日経新聞には、こんな記事があった。
モンスターハンター・シリーズのゲーム・ソフトは、任天堂据置型ゲーム機「Wii」対応版は発売済みだが、同社の携帯型ゲーム機向けに発売されるのは今回が初めて。それだけに、3DSの販売不振にあえぐ任天堂にとって、モンスターハンター3Gへの期待は大きい。実際同ソフトに対して任天堂は“破格”の扱いである。発表会ではモンスターハンター・シリーズのプロデューサーである、カプコンの辻本良三氏が登壇。約1時間と限られた発表会の中で、新作ソフトの中では最も多くの時間を割いて紹介された。(任天堂、3DSのてこ入れ策を発表 人気ソフトを大量投入「過去にない充実ぶり」)
しかも、ユーザーには不恰好だと評判がよくないモンハン専用の「ニンテンドー3DS専用拡張スライドパッド」が発表された。これは、一見するとPSPで評判の高かったモンハンを任天堂としては初めて携帯機3DSに呼び込むための仕様変更に見えてしまう。日経新聞でも、
専用拡張スライドパッドは主に、モンスターハンター3Gといった高い操作性を求める、対応アクション・ゲームに向けたもの。モンスターハンター3Gと同時に発売するとあって、「モンスターハンター3Gのために開発したのではないか」(ゲーム業界関係者)と見る向きが多い。(任天堂、3DSのてこ入れ策を発表 人気ソフトを大量投入「過去にない充実ぶり」)
と書かれているくらいだ。右パッドといえば、PS VITAに導入した2本のアナログスティックのエピソードが思い出される。それまで、PSPでは3DSと同じく、左にスライドパットが一つあるだけだった。4gamer.net.でSCEワールド・ワイド・スタジオの吉田修平氏がこんなインタビューに答えている。
吉田氏: 我々が携帯ゲーム機事業に参入する前は,任天堂さんのゲームボーイが,割と子供向けと言いますか「低年齢向けの遊び」という部分にフォーカスしていたんです。そこに対してPSPは,「もう少し上の年齢層が遊べるエンタテインメント」というコンセプトで進めて,そのミッションについては達成できたと考えているんですよね。
でも,発売当時こそ「4.3インチ液晶」「“PlayStation 2”のようなグラフィックス」という部分でご好評をいただいたと思うんですが,なんと言いますか,PSPは「PlayStation 2レベルのゲームを外に持ち出せる」というところで止まっているな,という思いがあるんです。

4Gamer: 何が足りなかったんですか。

吉田氏: いえ,もちろん我々(SCE WWS)も,いろんな挑戦を,本当にいろんな取り組みをやってきたつもりではいたんです。けれど,そこで新しいゲームのフランチャイズを生み出せたかというと,ね。結局,我々が作ったなかで一番売れた作品は「ゴッド・オブ・ウォー」だとか,据え置き機で生まれたシリーズ作品が携帯機でも遊べます,というものでしかなくて。
その一方で「モンスターハンター」シリーズみたいな作品が他社さんから出てきて,それが爆発的なヒットになっていくのを見て,やっぱり,なんと言うか,その「PSPじゃないと出来なかったもの」「PSPだからこそ出来た遊び」っていうものを,私たち自身が生み出せなかったって思っちゃうんですよ。

4Gamer: モンスターハンターのヒットにはいろんな要因があるとは思うんですけど,「持ち寄って遊ぶ」というプレイスタイルは,やっぱり携帯ゲーム機ならではの面白さだと思います。同じ場所で,顔を突き合わせながらゲームを遊ぶというのは,オンラインゲームで知らない人と遊ぶのとはまた違った楽しさがありますし。

吉田氏: そうですよね。あの一緒に遊ぶっていうところは,新しい遊びを生み出す「ハードのポテンシャル」としてすでにあったんだな,という。だから,そういう新しい遊びというものを,もっと早い段階で,自分たちでもちゃんと提示できていたら,状況は今よりももっと違っていただろうなと。そう思うわけです。
ですので,PS Vitaに関して言うと,「PS Vitaじゃないと生まれなかった遊び」が出来るような仕掛けを提示していかなければという部分は,より強く意識として持とうと考えています。

(中略)

吉田氏: スマートフォンがあって,そこでカジュアルなゲームが出て,スマートフォン上でもどんどんグラフィックスが良くなっていく中,そこで満たされるユーザーさんも当然いらっしゃるとは思うんです。でも,それと同時に「もっと凄いゲームを遊びたい」「もっと快適に遊びたい」というニーズも,やっぱりあり続けると思うんですよ。
だから,PS Vitaという専用機,ポータブルゲーム専用機としての存在意義ってなんだろうというと,基本的には「凄いゲーム」「それじゃないと遊べないゲーム」が遊べるっていうことですよね。それが第一だと考えています。

4Gamer: ゲーム専用機ならでは,という意味だと,やっぱりインタフェース的な部分での差別化は大きいとお考えですか?

吉田氏: そうですね。これもまたPSPでの経験から来る話なんですけど,例えばPSPは,グラフィックス的な意味では良いハードだと思いましたが,インタフェースに関しては,欧米ではなんというかいろいろと問題もあるなという思いがあって。

4Gamer: ……問題,ですか?

吉田氏: 日本ではそこまでは言われないことなんですけど,3Dのシューターとかアクションアドベンチャーが人気ジャンルとして確立されている欧米では,アナログスティックといいますか,もっと具体的に言うとツインスティックがないことに関しては……。

4Gamer: ああ,なるほど。

吉田氏: そこは,ハードウェアの設計として,「申し訳なかった」といいますか。ツインスティックのコントローラというのは,たぶんSCEが最初にやったと思うんですけど,3D空間の中でキャラクターとカメラを自由に動かせるっていうのは,昨今のゲームでは,もうほんとに“なくてはならない”ものだったんです。
なのに,それがPSPでは物理的に,ハードウェア的に出来なかったわけです。だから,あの4つのボタンを使ってカメラを操作したりして,あるいはスムーズなカメラ操作ができないことで,敵の動きを遅くさせたり,AIを多少弱くしたり,ゲームデザインの足かせになってしまっていた側面もあると思うんです。

4Gamer: それでPS Vitaでは,ツインスティックを採用したんですか。

吉田氏: PS Vitaでやっとできた,という思いがあります。

4Gamer: でも一方で,ポータブル機には,持ち運びやすさとか,小ささとか,そういう要素の必要性もあるわけですよね。PS Vitaの設計を考えるうえで,何を重要視して,どういう取捨選択をしていったのでしょうか。

吉田氏: はい。当然ポータブル機ですから,「小さくて薄くて軽くて,持ち運びやすいほうがいいだろう」という考え方もあります。しかし,そこを重視していくと,結局のところゲームとしての迫力だったり操作感を妥協しないといけないわけです。
これは,我々が「PSP go」で本当に痛感したところでもあって。PSP goは,あれはあれでいろんな取捨選択をして出した製品だったわけですが,結果として,ちょっと小さく作りすぎたとか,ボタンが薄くなって押しにくくなってしまったとか,多くの反省点があったんです。

4Gamer: PS Vitaの大きさや形は,やはり議論が割れたポイントだったんですか?

吉田氏: PS Vitaの開発の中では,それこそ二転三転したところだったと思います。スクリーンの大きさも最初から5インチって決めていたわけじゃなくて,大きかったり小さかったり。形もスライド式にしようか,今みたいな形にしようか,開発スタッフのみんなが悩みに悩んでいた時期があったんですよ。
でもある時,「5インチのスクリーンにして,形をPSPのようにすると,昔は使えなかった“本物のスティック”が盛り込めるかも。携帯機に使えそうな小さいスティックが開発できた」という話が出てきて。その瞬間,みんなが「それだーっ!」と声を揃えたような,もう空から光が指すような瞬間があったんです(笑)。

4Gamer: 光(笑)。

吉田氏: 試作機が出来上がってきて,手に取ったときの“しっくり感”というか,こうスティックを触ってグリグリ動かした時の嬉しさといったら,それはすごいものでした。まさに「これだーっ!」っていう(笑)。

4Gamer: でも,確かに携帯機で品質の高いツインスティックが使えるのは大きいですよね。FPSとかもそのままに近い感覚で遊べるようになりますし,例えばモンスターハンターなどにしても,ツインスティックの方が快適に遊べるのは間違いないですから。

吉田氏: はい。ツインスティックに関しては,携帯ゲーム機初,業界初ということで,妥協なく作れたと我々も自信を持っている部分です。(ゲーム専用機は無くならない――SCEの吉田修平氏に聞く“PlayStation Vita”のコンセプト)

今回の、SCEのカンファレンスは、任天堂に比べると、サプライズもなく、地味なものだった。そして、PS Vitaのスマホ的機能、ニコニコ動画、ツィッター、Facebookなどとの連携について時間をとった。これを見れば、PS Vitaは一段とスマホに近づいているように見える。特に、任天堂の岩田社長の次のような発言が気になった。
――任天堂は多数の有力ソフトを抱えている。スマートフォンなどにゲームを配信することはあり得るのか

「まったく考えていない。それをすれば任天堂任天堂でなくなる。ハード(ゲーム機)を持っている、(社内に)ハードの開発チームがあることはものすごく大きな強みだ。強みを生かすのは経営のイロハのイだと思う。(スマートフォンへのゲーム配信は)ある瞬間、利益を出すという意味では正しいかもしれないが、私は短期の収益だけに責任を負っているのではなく、中長期の任天堂の競争力に責任を負う立場なのでそのように考えている」(任天堂、スマホにゲーム配信ありえず 岩田社長インタビュー)

これは、2011年1月に発表したソニーのPlaystation suite(プレイステーション・スーツ)のことを意味しているのだろう。Android系の他のメーカーのタブレットやスマホ向けにPSのゲームを配信するアプリである。主にPS1の容量的に比較的軽いゲームが動く。ソニーは、SCE以外に、テレビ、タブレット、ウォークマン、またソニー・エリクソンのような提携会社のスマートフォンなどさまざまな端末を作っている。これらの多くが、Android系なので、ゲームコンテンツの再利用として、有効に活用できるのだ。

一方、任天堂としては、WiiやDS、3DSしかないので、他に展開することはできない。また、外に配信すると、コンテンツは売れても、自らのゲーム機からユーザーが離れる可能性もある。孤高と言われようと、任天堂とソニーは、立場が違うので、おのずから戦略は変わっていくのである。吉田氏は、ソニーはよそ者であるという。

4Gamer: では,ゲーム業界がIT業界など,より規模の大きい産業に“飲み込まれてしまう”といった見方についてはどうですか? かつての映画産業とテレビ産業の関係だとか,映画産業が放送や出版などといった産業と融合してメガ・コングロマリット化していった,みたいな話にちょっと近い議論なのかなとも思うんですけども。

吉田氏: そういう見方をすると,マイクロソフトにとっても,ソニーにとっても同じことなんじゃないですか? さっきエレクトロニクス産業からの参入という話があったように,PlayStationを立ち上げる時,「ソニーがゲームをやってもうまくいくはずがない」と,業界やアナリストの方は言っていたわけで。けれど,結果として成功することができたから,それが逆にソニーの主力ビジネスの一つになっていったわけですよね。
だから,狭い意味で「ゲーム業界」とくくってしまうのはちょっと違うと言うか。我々自身が元々は外部から来た“よそ者”だったと思うのですが,それが多くの人にPlayStationを遊んでいただいた結果,育てていただいた結果として,「ゲームの業界の一員」と見ていただけるようになったと。そういうことなんじゃないかなと思います。(ゲーム専用機は無くならない――SCEの吉田修平氏に聞く“PlayStation Vita”のコンセプト)

任天堂があくまでも、ゲーム業界にこだわろうとしているのに対して、自らをよそ者として、「ゲームの業界の一員」と見ていただけるようになっただけにすぎないので、スマホにゲーム配信もありだと考えているわけだ。

任天堂とソニーの戦略の違い

ソニーが、ゲームを様々なデバイスで見られるようにするという考え方は、PSPリマスター(PSPで発売されていたゲームがHD化されてPS3でも見ることができるという機能。)やコナミの小島プロダクションが提案するトランスファリング(PSPリマスターとトランスファリングはゲームにとって何を意味するか(ホームサーバの戦い・第96章) )参照)でも共通する。ここにあるのは、携帯機と据え置き機のセーブデータを共有できるというPSN独特のアカウントシステムがあるからだ。一方、任天堂にはそのようなシステムはない。ハリー・ポッターがWiiとPS3で配信された日(ホームサーバの戦い・第40章) では、こんな言葉を引用している。
例えば、新型PS3を買った人が、今まで持っていたPS3でダウンロードしたゲームを移動したいと思えば、それは可能です。どういうやり方をするかというと、再ダウンロードという方法を使います。PS3やPSPで利用できるオンラインショップのPlayStation Network(以下PSN)には、PlayStation Networkアカウント(以下PSNアカウント)というものがありまして、必ず最初にこのPSNアカウントを設定しなければPSNのサービスを利用することが出来ない仕組みになっています。

ダウンロードされたゲームは、このアカウントで管理されているので、新しくハードを購入した際は、ゲームを購入した際に利用したPSNアカウントで接続することで、再ダウンロードが可能になります。
ポイントは、アカウントで管理されている、というところです。PSNアカウントで本人の確認を行っているので、別のハードに乗り換えても、IDとパスワードを入力すれば再ダウンロードをすることができます。

(中略)

DSiショップにはユーザー登録という仕組みがありません。ユーザー登録が無いので、ダウンロードしたゲームやアプリを他のハードに移動しようと思っても、本人確認をするシステムがないんです。本人確認をするシステムがないのに、どうやって管理をしているのかというと、ユーザーではなく、ハードの方を確認していると思われます。

DSiショップに接続した本体を個別に認識しているんですね。例えば、ニンテンドーポイントプリペイドカードDSiポイントを登録したら、登録した時に接続しているDSiを覚えていて、その本体で接続する限りは登録したDSiポイントを使うことができます。しかし、他のDSiで自分が登録したDSiポイントを利用することはでない、という具合です。

同じように、ダウンロードしたゲームも、ユーザーを確認する仕組みはありませんが、ダウンロードした本体と関連付けされて管理されているということです。よって、新しくDSiLLを購入しても、移動することはできません。DSi同士でも駄目です。ちなみに、同じ本体であれば再ダウンロードは可能です。もちろん、移動の手段としては利用できませんが。(DSiウェアがDSiLLに引継できない訳)

このアカウントシステムの違いが、現在まで続いているということなのだろう。かつて、ゲームや電化製品は売り切りが当たり前だった。インターネットが登場して、ゲーム機がネットにひもづけられると、今度は、絶えずメンテナンスしたり、バージョンアップしたりする。そのためには、どうしても本人確認のアカウントシステムが必要になる。任天堂のシステムは、ネットにつながらない「売り切り」の時代にいまだに生きているのか。

海外展開で問題になるのは、据え置き機は売れるのに、携帯機が売れないという問題だ。それは、据え置き機のハイビジョン画質に比べて携帯機が貧弱な部分も一つの理由である。SCEがPS VITAを高画質にしたのも海外のユーザーにPRするためだった。それがいつの間にか、PS VITAとPS3の連携を生み出した。PSNのアカウントシステムのユニークな特徴も、これを可能にした。吉田氏は、このように答えている。

4Gamer: ビジネス面はどうですか? 
とても素朴な疑問として,例えば日本だと,携帯ゲーム機がゲーム市場の主流になっている一方で,現状,海外では必ずしもそうではない。しかし今後,この流れが海外にも波及していくのか,ポータブルゲーム機の市場がより大きなシェアを握れるのか。この部分は,実はかなり大きな論点だと思うんです。

吉田氏: まず日本の市場からお話をすると,それこそポータブル機でのゲーム開発が近年は重要視されていますし,ポータブル機で生まれ育ったタイトル作品が出てきたり,あるいは据え置き機の人気シリーズがポータブル機へ移って来たりで,ゲームが好きなユーザーさんが多く集まっているのが,今のポータブル機(PSP)の市場だと思うんですね。
そこに対して,ある種,正統進化させたものを投入するということは,普通に受け入れられるだろうと考えています。それはビジネス的にもそうですし,ゲームの内容や開発という意味でも,これだったらもっといいものが作れる,面白いものが作れるというのが“見えやすい”といいますか。良いムードを作れているな,と考えています。

4Gamer: なるほど。

吉田氏: 一方で,アメリカやヨーロッパといった,ポータブルが主ではない地域でPS Vitaはどうなんだっていう,さっきのご質問に関して言うとですね,それは逆に,なんで日本でポータブル機が人気なのか,という話の裏返しだろうと思うんですよね。

4Gamer: では質問を変えますが,日本で携帯ゲーム機が主流になっていった理由はなんだとお考えですか?

吉田氏: もちろん,いろいろな要因があるとは思っていますが,自分たちを含めて,ちょっとネガティブな分析をすると,日本のユーザーさんが遊びたいと思うようなゲームを,日本のメーカーが据え置き機に向けては十分に作れていなかった,ということは大きいと思うんです。

4Gamer: それはゲームデザインとして,という意味ですか?

吉田氏: それもありますし,ビジネス的な要因も含めて,ですね。欧米では,据え置き機向けの大きなゲームを作る土壌や環境,技術的な部分だったりハリウッド映画のような演出的なノウハウだったり,あるいは資金的な問題やチームマネジメント,そういったさまざまな課題をクリアして,据え置き機で楽しめる,据え置き機でしか楽しめないゲームを作る手法に長けた人たちが活躍できた。その結果として,据え置き機に面白い,凄いゲームがたくさん集まって,メインストリームに成り得たと思うんですよね。

4Gamer: 確かに国内向けのゲームに関しては,開発費の問題や技術的な理由から,携帯ゲーム機しか選択肢がない,という状況はあったかと思います。

吉田氏: 日本のゲーマーの方たちが,据え置き機で凄いグラフィックスのゲームを遊びたくないかというと,当然そんなことはないと私は思うんですよ。でも,日本のパブリッシャが日本向けのゲームを作るにあたっては,実質的な選択肢が携帯ゲーム機しかなかった。据え置き機ではリスクが高すぎて,なかなか踏み出せないでいた。その結果として,携帯ゲーム機に主力のIPが集まっていって,ユーザーさんもそこに流れていった……そういう側面はあったんじゃないかと。

4Gamer: なんと言うんですかね。日本のゲームメーカー,パブリッシャさんだったりデベロッパさんからすると――たぶんみんな思ってる気がするんですけど――やっぱりポータブル機向け(日本市場向け)で作ったタイトルが,もっと海外でも売れてくれれば,それに越したことはない,そう考えているところは少なくないと思うんですよ。
で,そのさっき言った,ハリウッド型の大作ゲーム――ブロックバスタータイトルなどと呼ばれるものですが―――は,それこそ50億円とか100億円という規模の開発費をかけて,一つのゲームを作りこんでいる。それと同じ事を,今の日本のゲーム産業の中でやろうとすると,資金調達を含めてちょっとできるとものではない,それが実情じゃないですか。

吉田氏: リスクが大きいですよね。

4Gamer: そういう状況の中で,さっきも言ったような“ねじれ現象”もあり,日本のゲーム業界が苦境に立たされている背景がある。ただ,そのねじれ現象がもし改善されるなら,PS Vitaが海外で大きなマーケットを構築して,PS Vita向けのゲームが全世界でちゃんと売れるような環境が作られるなら,それは,日本のゲームメーカーにとっても大きなチャンスになり得るんじゃないかと思うんです。

吉田氏: その意味でいうと,PSPのローンチ直後などは,わりとハッピーな時代があったんですよね。欧米でもPSPのゲームがたくさん売れたという。けれど,欧米ではその流れをちゃんと維持できなかった。だからPS Vitaでは,欧米で機器が普及するということと,そのうえで遊べるゲームをユーザーさんに提供し続けるという,その両方を継続していくところにまで気を配っておく必要があると思います。
そして,それが達成できれば,PS Vitaというプラットフォームが日本のゲームデベロッパーさんにとって,自社のIPを海外市場に持って行きやすい手段になると思います。比較論なんですけど,PS Vitaだと50億円とかかける必要がないので,何百人みたいな開発体制も必要ないですし,据え置き機とはまた違った戦い方ができるマーケットになると思います。

4Gamer: では実際問題として,欧米におけるPS Vitaのそもそものニーズというか,どういう遊ばれ方,どういう買われ方を想定していますか? もっと具体的に言うと,どういうゲームが売れると考えていますか?

吉田氏: もちろん,先ほどもお話したような「PS Vitaならではの」「PS Vitaでしか遊べない」ゲームが一番重要だとは考えていますが,その一方で,据え置き機用のタイトルがそのままPS Vitaで遜色なく遊べるだけでも,相当なインパクトがあるんじゃないかなと思っているんです。
弊社の「アンチャーテッド」なんかもそうですが,PS Vita版を見ていただくと,やっぱり「これは凄いね!」って言ってもらえるんですね。だから,海外での人気ジャンルであるFPSや3Dアクションのフランチャイズが,PS Vitaでも展開できるというのは,メーカーにとってもユーザーにとっても意味のあることだろうと思うんです。とくにメーカーからすると,これまで培ってきたノウハウや技術がそのまま利用できるというのは,大きなメリットだと思いますし

4Gamer: ツインスティックもありますし,これまで以上に移植というか,マルチプラットフォーム展開はやりやすいかもしれません。

吉田氏: ええ。ですから,PS Vitaの戦い方と言いますか,欧米におけるPS Vitaのコンテンツを想定したとき,その作られ方/売れ方という意味では,PS Vitaならではの作品と,据え置き機の凄いゲームを外に持ち出せるという,2つの軸があるのかなと。日本と欧米では,それぞれ環境が違うとは思うんですけど,それぞれでPS Vitaの存在価値,存在感を出していくことが可能なんじゃないかと考えています。

4Gamer: そういえば,KONAMI小島監督が提唱していた「トランスファリング」も面白い考え方ですよね。遊び方の提案自体もユニークなんですが,個人的には,PS3版を買うとPS Vitaのダウンロードコードも一緒に付いてきて,どちらでも遊べるという売り方は,とても面白いと思いました

吉田氏: そうそう。どちらか選ぶのではなくて,両方入ってるんですよね

4Gamer: あれはゲームへの接し方が変わる可能性があるなと素直に思ったんです。PS Vita版とPS3版をそれぞれ買うのではなくて,どっちでも遊べる権利がついて来るなら,PS3しか持ってない人でも,自然とPS Vitaが欲しくなったりもしそうですし。

吉田氏: PS Vitaの開発の途中で,当然,小島さんにもご意見をうかがったんです。その時はトランスファリングっていう言葉ではなかったんですが,「こういうことがしたいんです」「据え置き機でも携帯機でも,同じゲームがどこでも遊べるようなものがやりたいんです」とおっしゃられていて。
我々自身も「Ruin」(国内発売未定)というアクションRPGで似たようなことをやろうとしているんですが,セーブデータをクラウド(サーバー)上に置いて,その時々で最適な環境(デバイス)で遊ぶというプレイスタイルは,これからのゲームの一つのあり方になるんだろうなとは思っています。(ゲーム専用機は無くならない――SCEの吉田修平氏に聞く“PlayStation Vita”のコンセプト)

今年の冬は、3DSが売れるか、PS VITAが売れるかはわからない。スマートフォンと同様に、ゲーム機も変容せざるを得ない時期が来ているのだと思う。
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