夢幻∞大のドリーミングメディア

素人だから言えることもある

ユニクロと岩波書店〜信頼社会の発想と安心社会の発想

今日の夜7時のNHKニュースで、企業の就職の発想の違いが明らかになった。

国内外から多様な人材を獲得しようと、大手衣料品チェーンのユニクロは、来年度から国籍など関係なく1年を通じて、随時社員を採用することになり、3日、就職希望者を対象にした説明会を開きました。
東京・港区で開かれた説明会には、大学生や外国人留学生、中途入社を希望する人などおよそ770人が参加しました。新しい採用は1年を通じて、随時行われ、国籍や新卒、中途入社の区別がないうえ、大学1年生や2年生も応募できます。1年生と2年生の場合は、最終面接をいつでも受けることができる資格を得たうえで、卒業時期に合わせて最終面接を再度、受ける必要があります。ただ、就職希望者は適性があるのか、みずから確かめてもらうために店舗で実際の仕事を体験する、いわゆるインターンシップが義務づけられています。ユニクロでは来年度1300人程度を採用する計画で、海外出店を拡大するなかで外国人の採用も増やしており、新しい採用方法を導入することで国内外から多様な人材を獲得したい考えです。ユニクロを運営するファーストリテイリング柳井正会長は、「お互いにじっくり相手を選ぶことができるので、一番よいと思うし、優秀な人材も来てくれるようになると思う」と話しています。(ユニクロ“国籍関係なし 随時採用” )
同じニュースで岩波書店の話も。
東京の老舗出版社「岩波書店」が定期採用の応募資格について、「岩波書店の著者や社員の紹介があること」と明記し、いわゆる「コネ」を条件にしていることが分かりました。厚生労働省は、「コネを条件にした募集方法は聞いたことがない」として問題がないかどうか調べることにしています。
岩波書店では、再来年度、定期採用する社員の募集要項の中で、応募資格を「岩波書店の著者の紹介状、あるいは岩波書店の社員の紹介があること」と明記しています。岩波書店では、ことしの春、入社する社員の採用から同様の方法をとっていたということです。厚生労働省はコネを条件にした募集方法は聞いたことがないとしていて、岩波書店の募集方法に問題がないかどうか調べることにしています。岩波書店は、「数名の定期採用に対して、多い年には1000人を超える応募があり、受験する人の数を制限するため社内で協議し、現在の方式での絞り込みを行っている」と話しています。

若者の就職問題に詳しい独立行政法人労働政策研究・研修機構小杉礼子研究員は「問題の背景には、インターネットの普及で就職活動をする学生の多くが一部の大企業などに大量に応募し、絞り込みを行う企業側のコストがかさんでいるという事情があるのではないか」と指摘したうえで「学生にとっては応募したくても門前払いされるので理不尽としかいいようがない。公正な機会を設けることが望ましい」と話しています。(岩波書店の“コネ採用”で調査へ)

岩波書店が、コネ採用を打ち出すことで、応募者を減らすということは、建前上、就職の機会均等が、現実はコネ優先であったことを示す。ある意味、無駄な書類選考がいらないので、かえって応募者にもっと可能性のあるところに応募してもらいたいという親心と見えなくもない。
一方、ユニクロの採用制度の日本慣例廃止は、人間の能力は一度の書類選考では計れないということを示している。この発想の差はどこにあるか。

僕は、「ソーシャルメディアの安心と信頼 (「見えないから安心」と「見えたから不安」・3) 」で、「信頼社会」と「安心社会」について濱野智史氏の言葉を引用した。

(社会心理学者の山岸俊男氏は)「アメリカは信頼社会で、日本は安心社会」というものなんですね。アメリカというのは社会の流動性が高くて、見知らぬ人と会う機会が多い。だから、まず、初めて出会った見知らぬ人であっても、とりあえず相手を信頼しないと何も始まらないわけです。だから、まずは相手を信頼するんだけど、その代わりに契約などでがちがちに固めて、ちょっとでも約束を破ったら信頼しないようにする。こういうふうに、個人ベースで相手を信頼するかどうかを判断していく社会のことを、山岸さんは「信頼社会」と呼んでいます

これに対して、日本はそうじゃなくて、長期的に同じ関係にいるかどうかが大事なんですね。「マフィア型(やくざ型)信頼」とも言っているんですけれども、要するに盃を交わした間柄は義兄弟、みたいな人間関係ですね。「長期的に付き合って、情がわいていれば裏切らないだろう」というタイプの人の信頼の仕方をする。学校だったら、「同じクラスで一致団結して、仲がいい時間を過ごしました。だからみんな一生の友達です」みたいな感じ

でも、これは結局人を信頼しているんじゃなくて、場を信頼しているだけなんです。あくまで共同体全体を一括で信頼しているだけであって、アメリカ社会のように、個人をひとりずつ信頼できるかどうかを見ているわけではない。山岸さんはこれを「信頼社会」じゃなくて「安心社会」だと呼んでいます。
よく、「日本は契約社会じゃなくて、なあなあな関係でやっていくことが多い」という話がありますよね。それはまさにこういうことであって、「情がわいたら裏切らないだろうから、がちがちに契約しなくていいよね」といのうが、日本の社会の特徴なんです。(濱野智史・佐々木博著「日本的ソーシャルメディアの未来」ソーシャルメディア・セミナー編/技術評論社

岩波書店は、「岩波書店の著者の紹介状、あるいは岩波書店の社員の紹介があること」というコネによって、相手を信頼する「安心社会」の発想を表している。一方、ユニクロは、どこの出身かとかコネとかという「安心社会」の特徴をそぎ落とし、その個人の実力を実際に経験させて判断する「信頼社会」の発想があることがわかる。ニュースを見てても、それぞれのニュースの根元に、日本的発想の違いが埋まっている。
ブログパーツ