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素人だから言えることもある

「成功とは、意欲を失わずに失敗に次ぐ失敗を繰り返すことである」

チャーチルの言葉

映画「おかえり、はやぶさ」を見てきた。一本目の「はやぶさ/HAYABUSA」について書いた映画「はやぶさ」の「失敗は成果だ」という話、二本目の「はやぶさ 遥かなる帰還」について書いた「ボロをまとったマリリン・モンロー」に続く最後の三本目である。僕は、これらのエントリーでタイトルにしたことは、映画の中で必ず二回登場するシーンがあるキーワードだからだ。二回も同じ言葉が出れば、これが映画が言いたいことだったのかと誰でも気づくだろう。

さて、タイトルにした「成功とは、意欲を失わずに失敗に次ぐ失敗を繰り返すことである。」という言葉はイギリスの元首相ウィンストン・チャーチルの言葉である。確かに、失敗につぐ失敗をかいくぐってきた「はやぶさ」にふさわしい言葉のようにも思える。ところで、チャーチルのWikipediaにも書いてあるように、この言葉は出典が記されていない。いくつかの資料は調べてみたのだが、チャーチルは執筆作も多く、演説原稿も膨大で、チャーチルがこの言葉をどこでしゃべったか、または書いたかが分からない。

それでも、チャーチルが言ったことは確からしい(なお、一部ではウィリアム・ウォードという説も)。そして、この映画を作った本木克英氏は、映画のプログラムの中で、JAXAにこの言葉が貼ってあると証言している。

劇中、「成功とは、意欲を失わずに失敗に次ぐ失敗を繰り返すことである」というチャーチルの言葉を記した紙がJAXA内に貼られていますが。

本木 あれも実際にJAXAのなかに貼られているもので、今回の大きなヒントになりました。(映画「おかえり、はやぶさ」プログラムより)

なお、JAXAのページで、チャーチルの言葉を検索してもヒットしない。おそらく、この言葉が貼られているのは、JAXA全体のものではなくて、研究者個人のものなのだろう。

熱情なくして科学なし

JAXAのメールマガジンで興味深い記事があった。それは去年4月の記事。
首都大の海老原先生はジェネシスミッションのPI(代表研究者)を務めるドン・バーネット博士と旧知であり、足掛け8年にわたってこのミッションに関わっていたので、たいへん残念な思いをしたといいます。また、こうした前例もあっただけに「はやぶさ」カプセルの回収ミッションでも「開傘せず、激突」は想定シナリオに含まれていました。

ジェネシスミッションは、サンプル回収の最後の段階でカプセルの破損という、ほとんどミッションの存在意義を崩しかねない危機に直面しました。もともとごく微量のサンプルだっただけに、地球上の物質に汚染されてしまえばまったくの台なしに……。しかし、壊れた回収機構を前に、関係者は知恵を絞りました。そこで新たなサンプルハンドリングの手法や技術が数多く生み出され、新たな議論も生まれました。

ドン・バーネット博士のオフィスには、“No science without enthusiasm.”(熱情なくして科学なし)という言葉が掲げられていました。まさにその通りに博士は困難に立ち向かい、サンプルを回収し、それを使っての研究成果も引き続き報告されています」と海老原先生は言います。このときに編み出されたサンプルハンドリングの手法や知見は、イトカワのサンプルハンドリングにも役立てられているそうです。危機にあっても強い意欲を失わなければ道は開けるという、今だからこそいっそう心に響くお話を伺うことができました。(JAXAメールマガジン 第149号)

これなどは、チャーチルの言葉のエピソードがごく普通だったことが想像できる。

はやぶさ」でなければ「ATOM」だった

ISASのメールマガジン294号では、川口プロジェクトマネージャーが知られざる秘密を明かしている。
当時、打上げオペレーションに参加する方を中心に投票を行い、複数の候補を出して、その中から宇宙研内の協議によって、名前を選抜していました。

はやぶさ」と並んで、というか、「はやぶさ」という名をむしろしのぎ気味だった候補に、ATOM(アトム)という名がありました。的川先生を中心に組織票が投じられていた案で、この名は、ごぞんじアニメの名称ではありますが、Asteroid Take-Out Mission の頭文字という奇抜でユニークな案でした。

はやぶさ」は、それに対抗して?上杉先生と私が旗を振って出した案です。MUSES-C探査機の試料採取は、1秒ほどの間に着地と離陸(Touch and Go)を行って実施されるものだったので、その獲物を捕獲する様子から、「はやぶさ」とあてた案でした。

協議の中で、的川先生が、「最近の科学衛星は、「はるか」とかおとなしい感じの名前や3文字の名前が多いので、濁点も入った勇壮な「はやぶさ」もいいね」とおっしゃっていただき、「はやぶさ」に決まったというのが経緯です。

最初がHで始まると海外で読まれるときに、たとえば「あやびゅさ」になる難点にも気づいてはいましたが、関係の方々からも賛同を得て、今日の名前となっています。もちろん、その昔、東京ー西鹿児島を走った「特急はやぶさ」とか、鹿児島県の地名であり「隼人」にもちなんだ面もあります。漢字で書くと、「はやぶさ(隼)」という字は、下にサンプラホーンが伸びていて、上にハイゲインアンテナがあり、ちょっと上下の位置は違うものの太陽電池も横に張り出していて、漢字1字をみても大変探査機らしい名だと、私は感じています。(ISASメールマガジン 第294号)

成功率0.3%とJAXAの熱意

さて、「成功とは、意欲を失わずに失敗に次ぐ失敗を繰り返すことである」の成功とは、当然ロケットの打ち上げ成功だけを意味しているわけではない。何かにチャレンジして、成功するか失敗するかそのパーセントを調べた人がいる。失敗学の畑村洋太郎氏である。
私の経験からいって、何か新しいことや未知な分野に挑戦しようとすると、99.7%は失敗します。そう考えると、物事がうまくいく確率は0.3%。日本に昔から“千三つ”という言葉があって、「何かの賭けをしたとき、うまくゆくのは千に三つぐらいしかない」という手意味で使われてきましたが、私の経験からすると、新たに挑戦したことが成功する確率もまさに“千三つ”です。この成功率の低さに怖じ気づいて、目をつぶり、根拠のない楽観をするのでは失敗学は始まりません。この成功確率の低さを十分に認識し、失敗に真正面から取り組む覚悟を決めなければいけないのです。(畑村洋太郎著「決定版 失敗学の法則」文藝春秋)( 成功と失敗のセレンディピティとニワトリ会議)
ちなみにタレントの「せんだみつお」は、1000のうち3つしか本当のことを言わないというところから名づけられた。それはともかく、チャレンジしても99.7%は失敗する。だから、最初からあきらめるのか、「意欲を失わずに」挑戦し続けるのかという問題になる。それにはポジティヴに物事をとらえることが大切だ。映画「はやぶさ」の「失敗は成果だ」という話にも引用した、
非常に前向きで、悲観的な考え方がまるでないのです。「できる」ということを最優先で考える。たとえそれに多少の問題があったとしても、やろうとしていることができるのだから、それでいいじゃないか、ということです。マイナス面に目を向けるのではなく、プラスを見る。(川口淳一郎著「高い塔から水平線を見渡せ!」NHKテレビテキスト仕事学のすすめ2011年6月)
というJAXAのメンバーの態度がなければやってられないだろう。JAXAでも、宇宙の電池屋、曽根理嗣氏が宇宙教室体験談でこんな言葉を子供たちに投げかけている。
「そうですね。一番大切なことは諦めないことだと思います。どんなことがあっても諦めないし、絶望しない。そういう考え方をいつももつことでしょうか。僕が宇宙への夢を抱いたのは、中学生のときです。スペースシャトル・コロンビアが初フライトに成功するのをテレビで見て、これしか自分の将来はないと思った。大学受験では失敗を繰り返したし、なかなか進むべき道筋が見えない中で、それでも諦めずに進む道を探し続けてきた。

今も、仕事としてこういうことをしていると、挫折を受け入れてしまいたくなることも多い。でも自分自身が決して絶望しなければ、道はまたキッと見えてくるといつも言い聞かせています。『はやぶさ』の運用もしかり。運用に参加している一人ひとりが、故障した探査機を前にしてもう駄目だと投げやりになっていたら、今の『はやぶさ』は遠の昔に『死に体』となっていたと思います。」(ISASメールマガジン 第171号「宇宙教室体験談」)

また、名誉教授の小山孝一郎氏がトーマス・エヂソンのこんな言葉を引用している。
――私が心の努力に疲れ果てて問題を考えることをやめると、そのときこそ問題の真の解決がやってくる――

――大切なことは君の頭の中に巣くっている、常識という理性を綺麗さっぱり捨てることだ。もっともらしい考えの中にあたらしい問題の解決はない。――

――なぜ成功しない人がいるかというと、それは考える努力をしないからだ。殆どすべての人間は ‘もうこれ以上アイデアを考えるのは不可能だ’というところまで行き着き、そこでやる気をなくしてしまう。いよいよこれからだというのに――

――問題は君の考え方のほうにあるのだよ。自然界の秘密を解き明かすのに、人間の理性に頼っていては駄目だよ――(ISASメールマガジン 第388号「エヂソンの言葉と私の地震前駆現象の研究」)

JAXAのメンバーひとりひとりがいかに前向きにへこたれずに進んでいることがうかがえるだろう。
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