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素人だから言えることもある

「新型うつ」の無理解と不愉快

新型うつと、フリーライダーと社内失業者

NHKスペシャル 職場を襲う "新型うつ"」の放送以降、評判を見ると、ネガティブな意見が多い。たとえは、NHKスペシャル 職場を襲う "新型うつ"のtogetterを見ればわかる。しかし、これらのツィッターがなぜこんなに否定的なのだろう。それは、職場の中の若者の存在が、ひどく怠け者に見えるからだ。僕は、最近、病気ではないが、この「新型うつ」と似たような若者のケースを取り上げたことがあるのを思い出した。それは「リスクゼロ企業ほどタダ乗り社員(フリーライダー)が多い」で取り上げた、フリーライダー
フリーライダーとは、「集団において、その集団が生み出す財の便益は享受するが、財の生産のためのコストを負わない者」をいう。簡単にいえば、会社という組織や、周りの頑張って働く社員に「ただのり」をする社員のことである。(週刊ダイヤモンド」8月28日号「解雇解禁 タダ乗り正社員をクビにせよ」34ページ/河合太介著「フリーライダーを見過ごせば企業はジワジワと衰退する」)
仕事ができないくせに、会社から給料をもらっている者。会社を休んで遊んでいるなんてもってのほかだと考えている人から見れば、とんでもないことだと思えてしまう。これなどは、会社社長の藤井氏と尾木氏の議論に典型的だ。
藤井(輸入家具販売会社経営) そこまで若者を許容するのはいかがなものかというのは、正直感じます。
今は、うつにかかった方を中心に議論をされてますけれど、結局、うつになっていない人たちもたくさんいて、その人たちにすべての負荷がかかっているのも現実であるという事は忘れてほしくないですよね。
それは会社の経営にも、のしかかっているし、社会を弱くしているのは間違いない。
尾木 僕はね、そういう考えが、時代遅れだと思うんですよ。そうじゃないと思うの。それを変えて行かなくて。会社があってじゃなくて、労働の質の問題なんですよ。会社の問題じゃなくて、日本を会社で考えたら、藤井さんの考えのようになっちゃうんです。藤井さんの考えでいったら、藤井さん、うつになっちゃうよ。(抜き書き「NHKスペシャル 職場を襲う "新型うつ"」(2) )
本当にフリーライダーだったら、おそらく「新型うつ」を免罪符にして大いに利用してやろうと考えるだろう。もう一つは、「600万人の社内失業者」のケースだ。彼らは、いわば企業内の余剰人員である。とりあえず、入社はできたが、上司は忙しくて社員教育できず、ほったらかしにされてしまう。同僚から見れば、同じ給料もらっているのに、何で遊んでいるんだという事になる。おそらく、彼らもフリーライダーの同類とみなされてしまうことになる。

職場環境の激変が彼らを作った

抜き書き「NHKスペシャル 職場を襲う "新型うつ"」(2) の中で、精神科医の斎藤環氏の言葉を並べてみると、「新型うつ」の構造がわかりやすい。
斎藤環(精神科医) ちょっとホワイトボードを。昔のうつはですね。責任感が強くて、まじめな方がなりやすい病気と、言われてましたけれども、今の傾向としてはですね、どちらかというと、自己中心的で、見る人によっては、不真面目とも見える。症状としては、基本的にうつ病と同じなんです。それから、面白いのは特徴ですけれど、生き方というのがポイントですね。その人の生き方と病気の症状があいまいなんですね。かつてのうつ病というのは、勤勉でまじめだった人が、全然動けなくなってしまうと。これはどうしてだろうと、不思議に思うんですけれど、最近の軽いうつは、もともとちゃらちゃらしているのがもっといい加減になっちゃったという風に見えるというときもある。そういう意味で生き方と区別がつきにくいという傾向が特徴であると思います。なので、治りにくい。

(中略)

斎藤 最近のうつの増加は社会構造の変化と無関係ではないだろうと、思うんですね。極端に言えば、高度成長期は、一生懸命頑張って仕事に取り組んで、生産性を上げていればよかったともいえますけれども、最近は、ニューエコノミー的なですね、経済構造の中で、場の空気を読んだりとか、あるいは、コミュニケーションスキルが問われたりとか、昔から見れば、かつてより適応の在り方がすごい複雑化していると思うんですよ。そういうところから、結構、こぼれる人が増えても仕方ないのかなと。

(中略)

斎藤 精神医学でも常套句がありまして、「子供のころは手のかからないいい子でした」という病歴があったらだいたいやばい。子供が手のかからないいい子を演ずるために、どれだけの周囲にアンテナを張り巡らせて、配慮して、非常にぎこちなくふるまっているか、逆に想像すべきなんですけれども、手のかからないいい子という紋切型表現がはらんでいる闇は深いと私は思いますけれどもね。

(中略)

斎藤 私は、人薬という言葉を使ったんですけれど、今、難しいのは人薬なんですよね。カウンセラーも医者も、お金払えば話聞いてくれます。本当に価値を持っているのは、コストと無関係に、親密な会話ができる仲間や同僚、これは全員が手に入れることができるとは限らないことが、不幸なところで。

(中略)

斎藤 自分で任務とかを務めたという事が自尊心であり、自己肯定感であり、そういったものを職場から得られる。私は人薬といいましたけれども、場合によっては、仕事も薬になると思っているんですけれど。一方的なコミュニケーションで、無理な成長を押し付けられるよりは、その人のハンデに合せた職場を用意してあげたほうが、結局は、能率も効率も上がるという実感ですね。(抜き書き「NHKスペシャル 職場を襲う "新型うつ"」(2) )

本来だったら、たとえば、社内失業者だったら、職場にいたたまれなくなって、抑うつ状態になってしまうのだが、これが「新型うつ」になってしまうのは、職場のコミュニケーションが断たれてしまったからではないか。仕事の楽しさを教えてもらえず、達成感がないので、アフター5に楽しみを求めるしかない。ドラマのように、気を使ってもらえる上司がいればいいが、社内失業者であれば、当然上司にそんな余裕はない。職場で飼い殺しの状態にある彼らは、「新型うつ」の環境に逃げ込むしかなかった。いわば上司の「無理解」と同僚の「不愉快」がこの病気を作ったのかもしれない。
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