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素人だから言えることもある

抜き書き「探検バクモン 愛と欲望のマンガ道」

9月19日にNHKで「探検バクモン 愛と欲望のマンガ道」を見た。かつて、爆笑問題が登場するこのシリーズでは、抜き書き・爆笑問題のニッポンの教養「TVはいつまで笑うのか・横澤彪」を書き起こしている。今回は、日本のマンガの歴史に対しての興味深い話があったので書き起こしてみる。ところで、解説はこうだ。

マンガは、子どもたちの夢と欲望を映し出す鏡だ!今回は、日本屈指の蔵書数を誇るマンガ図書館「明治大学米沢嘉博記念図書館」に潜入する。
まずは、通常は公開されないマンガ雑誌の書庫へ。雑誌の表紙やグラビア、マンガに描かれたヒーローとヒロインは時代と共にどう変わっていくのか?週刊少年マンガの草分け、「少年サンデー」「少年マガジン」の変遷と対決の歴史を追う。
一方の少女マンガ。1960年代、「ステキな男性像」をかたちづくったのは、当時の日本を席巻した○○ブーム?!その後、今に残る名作が次々登場するが、少女たちの欲望は止まらない。その代表作、ボーイズ・ラブのさきがけとされる「超過激」な名作マンガを発見!
さらに、この図書館の秘密基地に潜入すると、「マンガの神様の直筆原稿」など、ここでしか見られない超貴重なお宝が続々登場!そして、マンガが発展していくきっかけを作ったスーパーアイテムとは?
探検の友は、フォークシンガー・なぎら健壱。子どもの頃にマンガ家を目指したほどの芸能界屈指のマンガ好きも大興奮!
今や世界を席巻する日本のマンガ。その魅力の源はどこにあるのか?愛と欲望のマンガ道へようこそ…。(探検バクモン 愛と欲望のマンガ道)
NA 今回の潜入先は、マンガだらけの図書館、
田中裕二 「あしたのジョー
太田光 少年時代だ。懐かしいなあ。
田中 「エースをねらえ」
太田 男も大好きだったでしょ。
NA 時代も変われば、マンガも変わる。マンガは欲望を映し出す鏡なのだ!
太田 撮影、篠山紀信
田中 かわいいねえ。優香ですよ。
太田 かわいいですね。
NA そこはまさに禁断のラビリンス。
なぎら 二人の少年の愛
太田 少年なの これ!?
田中 こんなマンガがあったんだ!
NA ここでしか見られない超貴重なお宝も続々!
太田 お~原画?!
NA 世界中の人々を魅了する日本独自のマンガ文化。その秘密を源流に探れ!
太田 今見てもわくわくするのにね。
NA 愛と欲望のマンガ道へ、いざ!
<OP VTR>
田中 こちら「米沢嘉博記念図書館」という。
太田 米沢牛でも食えるの?
田中 いや、米沢牛じゃない。米澤さんという方。
太田 図書館か。「まんがとサブカルチャー」
田中 そうなんですよ。
太田 へえ、楽しみだ! マンガか。大好きだからね。マンガしか読まない。
田中 小説の方が読むでしょ。(戸を開ける)わっ、すごいですね。
太田 うわ! 「プリンセス」だ。「花とゆめ」。
田中 太田さん、お客さんがいるみたいだから、邪魔だと、あれだから…。
太田 あんまり関わらないほうがよさそう。ちょっとずつ、こっちに近づいてきてる。何気なく。
田中 あれ?
なぎら健壱 ああ、驚いた。
太田 驚かないでしょ。何してるの?
なぎら 君たちのように、過去を探している人間。
太田 過去、探してないし。
なぎら それのまあ、言ってみりゃ、その船頭だな。
NA なぎら健壱、子どものころからあらゆる漫画を読み尽くしてきた芸能界屈指のマンガ好きが参戦だ。
なぎら ここ、ご覧のとおり、懐かしい。この辺なんか知らないでしょ。「100万人のよる」ですよ。
田中 「100万人のよる」って何? 
太田 いやらしい感じ?
なぎら そう、いやらしい感じの。
太田 ホントだ。エロ本だ。
なぎら そっちじゃないのよ。こっち。(と反対側の棚をさす)
田中 今、なぎらさんが言ったからでしょ。
なぎら こういうね懐かしいマンガ、これはお二人は、マンガ読む前の時代でしょ。
太田 前ですね。
田中 (マンガ化された「ウルトラマン」をさし)「ウルトラマン」はマンガじゃないもんね。
太田 あ、アトムが
田中 アトムがいる。アトムって「少年パンチ」。アトムって「少年パンチ」に連載してた?
なぎら ううん。「少年」っていう雑誌。
田中 これは何ですか? 「少年パンチ」。
なぎら 「パンチ」というのは、付録として当時人気が出ちゃったもんでね。付録があんなに大きくなっちゃった。
田中 付録なの!?
太田 「助さん格さん」だって。
田中 水戸黄門じゃないんだ。
なぎら もっと前よ。
田中 助さん格さんがメイン。真ん中に黄門様がいるのに。
なぎら 邪魔なのよ。
太田 「カメラマン金太郎」だよ。サラリーマンじゃない。
田中 サラリーマンじゃないのね!
なぎら 寺田ヒロオさんね。手塚治虫さんがいたトキワ荘に最初に入った方。
太田 そうか! すごい、これ、ずーと見ちゃうね。「マガジン1000号」!
なぎら いらっしゃいませ。
太田 いやいや、「いらっしゃいませ」じゃない。
NA 明治大学が運営する米沢嘉博記念図書館、蔵書は何と14万冊以上、ここでしか見られない激レア本がいっぱい! 日本屈指のマンガ図書館だ!
(立ち入り禁止の戸の前)
太田 立ち入り禁止ですよ。
田中 ここ、立ち入り禁止。一番入っちゃいけないの…。
太田 「なぎら禁止」って書いてある。
(戸が開く)
なぎら これ、自動ドア。
(中の人物、あいさつ)
なぎら どうも。
森川 こんにちは。明治大学森川嘉一郎と申します。
田中 明治大学の先生なんですね。
森川 マンガ・アニメやゲームの研究などをしております。
NA 森川嘉一郎、マンガなどサブカルチャーに精通する気鋭の研究者だ。
まずは、一般には非公開のマンガ雑誌の書庫に潜入せよ。
太田 撮影、篠山紀信
田中 篠山紀信麻丘めぐみ。かわいいねぇ。
森川 おたしのしみのところ、恐縮ですが。
田中 「お楽しみのところ」を「おたしのの」って言いましたね。
森川 今日のミッションでございます。
田中 あ、ミッション。はい。
ミッション開ける時は、みんなそろっていて下さい。太田さんも。
なぎらさんはともかく、太田さん! ミッションのところですから気にして下さい。

<ミッション 最強のヒーロー・ヒロインを探せ>

NA かつて胸躍らせたヒーロー・ヒロインを探せ!
田中 なっち。モーニング娘。時代ですからね。
なぎら 私は、ありましたよ。
田中 もう見つけたんですか!?
太田 (具志堅の表紙をとる)
田中 具志堅、現役時代ですよ!
太田 これは、いいよ。
田中 ねえ。
太田 スパーク!具志堅用高(マガジン表紙タイトル)。
なぎら まだ九九ができる頃だ。
田中 まだできるって、今でもできるでしょ。
森川 (ホイッスル)ピ〜ッ!
それではこれにて、発表していただきたいと思います。
太田 僕は、この具志堅用高
田中 マンガじゃねえし。
太田 でもまあ、ヒーローです。
田中 もう1個持ってるのは何ですか。
太田 これはヒロインです。「エースをねらえ」。岡ひろみ
お蝶夫人に憧れてテニス部に入るんですけど、宗方コーチは、「こいつはただ者じゃない」って見抜いてて、「次の試合はお前がエースだ」っていきなり抜擢されちゃう。それを夢見て我々は、中学校でテニス部に入って、「来るぞ 来るぞ」って。「君だ!」って。
何にも言われない!
田中 当たり前だ。
太田 3年間ボール拾いやって過ごすというね。
田中 僕はね「みゆき」が好きなんです。
太田 あ、いいね! 「みゆき」
田中 絵も上等。この絵も画期的だった。マンガで水着。
太田 かわいいよ、やっぱり「みゆき」。マンガで水着ってね。
(ページをめくって)あ〜もういきなりですよ。なぎらさん、ほら。これ、たまんなかったです。当時、俺らは。
なぎら ダメだな、これ。少年誌じゃないな。
森川 なぎらさんは?
なぎら (「13号発進せよ」の表紙)「鉄人28号」と双璧だったんですよ。「13号発進せよ」。高野よしてるさん。これが
田中 え、知らない。
なぎら テレビのアニメ化の話があったんですけど、しなかったんですね。もしあの時、アニメにしたら当時で億という金が入ったろうという。それと、我々子どものときの大ヒーロー「月光仮面」。もともとは、川内康範(こうはん)の小説ですね。悪の首領のこの顔を見てください。まず、これで道端で捕まりますよ。
田中 こいつ、なんだよ。

NA 週刊少年漫画の黎明期、爆発的な人気を誇ったのが、サンデーとマガジンだ。創刊はともに1959年。この2つのマンガ雑誌には、時代時代の子供たちの夢や憧れが凝縮されている。
1950年代、子供たちにとってヒーローと言えばスポーツ選手。創刊号の表紙を飾ったのは、野球選手と相撲力士だった。
太田 すごいよ。王さんのインタビューが載っている。
「今日の対阪急戦で秋本投手からホームランを打ってほっとした」「プロ入り初のホームラン」。
田中 オープン戦だ。
太田 「これからもボックスに入ったら自由に打てるようもっと練習しよう」
田中 するよ〜、この後するよ〜。この人はこの後するんだよ。
太田 お前は大丈夫だよ。心配すんな。世界一になる。
田中 めちゃめちゃ畳が擦り切れるほど練習するからね。
NA しかし、時代とともに少年たちのあこがれは変わっていく。まずは「サンデー」の背表紙に注目。
森川 最初、こうやってマンガのキャラクターが背表紙に多かったわけなんですね。80年代の中ごろから、こうやって実写のアイドルが。
太田 これ、80年代、中頃ですか。
森川 そうですね。
NA 80年代はアイドル全盛時代。あこがれのアイドルに、男の子はみんな首ったけだった。
森川 こういう子供の雑誌に水着がっていう傾向ですよ。
なぎら マンガとそういうアイドル好きがオーバーラップしてるっていうか、子供のものからちょっと年が上がったってことかな。
NA そしてこのころ、マンガも変わった。
田中 でましたよ、あだち充先生が。
太田 あ「タッチ」。これはもう、よく覚えている。
田中 「ラフ」だ。
太田 「タッチ」じゃないのか。
NA 「ラブコメ」の登場だ。ついに少年たちは恋に目覚めたのだ。その後、より大胆に少年たちの欲望は加速していく。
田中 ちょっとギャルっぽいね 優香。
なぎら あ〜そうだね。今の優香と違うな。
太田 巨乳ですよね。
なぎら 我々の時は全くそういうクラビアの人たちとか出てこない時代でね。それを目当てでマンガ買うってこともあるの?
田中 そういう人もいました。
太田 エロ本買えないから。エロ本買うわけにいかないから、大人のそういうのも、買いたいんだけど、これで我慢するんだよ。

NA 一方の「マガジン」。全く違う戦略で勝負をかける。
森川 「サンデー」に対抗をずっとしているわけですけど、そのために「マガジン」も新趣向を打ち出して。たとえば表紙のデザインを
なぎら 横尾忠則だ。
田中 えー。
太田 横尾忠則なの!?これ。
なぎら これね4週か5週、続けてやったのよ、横尾さんが。
真ん中に星飛雄馬がいて、モノクロで周りに漢字でちゃんと毛筆で書いてあるのが名作なのよ。
太田 斬新だね!
森川 「マガジン」の載っている背表紙を飾っているキャラクター、大体ドロドロしている。「サンデー」に比べて。劇画調。
太田 劇画調ですね。
NA ライバル誌「サンデー」は手塚治虫藤子不二雄など人気漫画家を囲い込んで着実に売り上げを伸ばし、そのスタイルを築き上げていく。
そこで「マガジン」は新人を起用。新ジャンルを切り開く。
森川 どうしても「サンデー」っていうのは、手塚スクールのカラーが強い。それに対して「マガジン」は、手塚が描かなかった唯一のジャンルである「スポ根」を中心に押していくことになるわけですね。それがまあ、雑誌のカラーの構造になって2つの雑誌のライバル関係の構造にも同時になっていく。
NA 「ラブコメ」そして「スポ根」。ライバル2誌の戦いは、マンガの進化を加速させ、新たなジャンルを、次々と生み出していったのだ。

一方少女マンガの世界。そこはおませな少女たちの欲望のラビリンス。少年誌に遅れること4年、日本初の週刊少女マンガ雑誌が誕生。その表紙を飾るのは、裕福できれいな金髪の女の子たちだ。
田中 お姫様だね。
森川 マーガレット王女ですね。
太田 お姫様が好きなんだ。やっぱり。
田中 きれいだね!
森川 それから、エリザベス女王。それから美智子さま
太田 美智子妃殿下だ。きれいだなあ!
森川 今の雑誌だと、各国の女王とか王女様を載せたりしないですね。当時のあこがれの様相が。
田中 憧れね。
NA 1960年代後半、その流れを変えたのが、グループサウンズだ。グラビアもマンガもグループサウンズ一色。このころ少女マンガに登場する素敵な男性像が出そろったといわれている。ジュリー(沢田研二)のような美しい王子様、ショーケン(萩原健一)のようなちょっと不良(ワル)、憧れの男の子との疑似恋愛の世界に少女たちは引き込まれていく。
70年代、恋愛マンガは更なる進化を遂げ、次々と名作が生まれていく。少女マンガ黄金期の到来だ。しかし、少女たちの欲望は止まらない。
森川 これが「風と木の詩」の初回の最初なんですけど。
太田 うわ、すげえ!
田中 「竹宮恵子が熱筆ふるう」
太田 やっちゃってんじゃん。
森川 2人の少年の愛。
太田 少年なの!? これ。
田中 すごいね。「ボーイズラブ」ってひとつの分野になっている。1976年?
太田 76年に、もう、これ?
田中 こんなマンガがあったんだ!
NA 少年たちの愛と葛藤を描いた問題作。同性愛という当時としては過激なモチーフ。少年たちの美しい世界は、少女たちをとりこにした。
森川 こうしたものに感化を受けて、例えば「JUNE」という少年愛を専門とした雑誌が創刊されたり、アニメの美少年の登場人物の男性同士を恋愛的関係に見立てたりといったように、後に「やおい」とか「ボーイズラブ」と呼ばれるようになる分野がどんどん展開されていくようになるわけですね。

NA 子供たちの欲望を形にしてくれるマンガ。60年代以降、マンガを卒業できない若者が急増。大人たちは眉をひそめた。そんな中「ガロ」や「COM」など前衛マンガ誌が相次いで創刊され、マンガはアートの領域まで広がっていく。
森川 特徴はこちらのキャッチコピーですね。「まんがエリートのためのまんが専門誌」。これはマニア向け。
田中 普通の「マガジン」とか「サンデー」とかっていうよりも、ちょっとこう、コアな世界。
森川 実験的なんです。
太田 ムラムラするよね、この曲線が。ほら!
田中 え、何もないんだ! 文字が。
なぎら こういう実験ですよ。
森川 なぎらさんは、こういう実験的なマンガがお好きだったんですか?
なぎら 一時、興味を持ちましたね。というのは時代がそういう時代になって、映画なんかもATGで、不条理な訳のわからないものがはやっている時代であったから。そうすると、何かね、不条理さって面白かったですね。
太田 ちょっと攻撃的です。体制に対する、
田中 学生運動の時代?
なぎら そうです。
田中 だいたいね。
NA マンガはカウンターカルチャーの波に乗り、若者の絶大な支持を集める。「まんがは時代の最先端」そんな空気が流れていた。
なぎら (「COM」の)その中に投稿の所があります。よく見て下さい。ここです。
田中 いずみやしげる?
太田 いずみやさん!?
なぎら あの、いずみやです。
田中 何やってるの? これ。
なぎら マンガの投稿してるんです。
太田 すごーい。これ。
田中 この時は、マンガ家になりたかったの?
なぎら そう。
田中 そうなんだ。
なぎら 私もそうなんです。
田中 え? なぎらさんもマンガ家になりたかったの?
太田 そうなの? マンガ描けるんですか?
なぎら 描いてましたよ。
太田 こういう投稿したり?
なぎら 投稿…した。
こういう物語じゃないけども、何か、絵、描いて出したね。

NA 次に、一行は都内某所に移動し、この図書館の秘密基地へ。
田中 ここは、なかなか来ない場所ですよね。
森川 ちょっと、ここは秘密の場所なんですけれど。
田中 なんかすごいことになってる。
太田 何ですか? これ。
森川 これは全部、マンガ本が中に入ってるんですね。
NA 巨大なフロアを埋め尽くす膨大なマンガ。実は今、明治大学では、あるプロジェクトが進められているのだ。
この図書館ともう一つのマンガ図書館を合わせ、アニメ、ゲームも含め200万点を収蔵する世界最大級のサブカルチャー・ミュージアムを目指すというのだ。
この蔵書の陰には、一人の男のマンガへの執念があった。6年前に亡くなった米澤嘉博。人呼んでマンガ収集の鬼。米澤は有名な作品のみならず、これまで顧みられなかったマンガをも体系的に捉え直すという前人未到の研究に挑むため膨大なマンガを収集した。
森川 米澤さんは、ずっと家でマンガ本を保管して家がマンガ本でいっぱいになると引越しをされて、残された家を倉庫としてつぶしていく。という形でですね。転居した後に、マンガの倉庫としてつぶされた家が点々としているという。本人は「ヤドカリ生活」と呼んでたんです。
なぎら お金たまらないだろうね。
太田 マンガに食い殺されてるよね。
田中 全部マンガになってっちゃうから。
森川 それだけ使命感がおありになった。
NA 米澤が自らに課した掟がある。.それは、「すべてを受け入れる」
森川 マンガのコレクターって、例えば手塚さんとか石ノ森さんとかそういう宝石のような作家さんのコレクションを作られている方はいっぱいいらっしゃるんですけれど、米澤さんの場合は、例えば、今、コンビニなど、あるいはマンガの書店などで並んでいるこういう大人の女性向けの雑誌。
なぎら ちょっと、エッチなやつ。
森川 レディースコミックと呼ばれる分野ですね。これは日常的に今は手に入るんですけれど、コレクターがいないんで、
なぎら 残しておかないもんね。
太田 後々貴重になるのが分かっている。
森川 みんな読んでたものなのに、後から読めないということになってしまうのを防ぎたいという危機感を、米澤さんはお持ちで、むしろコレクターがいない種類のマンガを意識的に集められております。
マンガというのはあらゆる文化がそうであるように、玉石混交で、たいていコレクターはその宝石の部分だけを集めたがるんですが、米澤さんは「石がないと宝石も生まれない」という考え方の持ち主で、むしろその、ピラミッドの底辺の部分の厚さが頂点の高さを支えている。底辺こそ大事、ということを考えてたんですね。

NA 今や世界を席巻する日本のマンガ。なぜ、それほどまでに、多くの人々をひきつけるのだろうか。
森川 「ロストワールド」という作品があります。これがその最初のページの原画。
太田 お〜! 原画?! いくら?
森川 ちょっと値段がつかないですね。
太田 2億出しましょうか。
田中 うそつけ。
NA 1948年に発行された手塚治虫の長編マンガ「ロストワールド」。その最初の1ページだ。この作品は日本マンガのある類型を作り上げたといわれる。
森川 この「ロストワールド」はですね、作品の物語の作り方というところに大きな特徴があったんですね。例えば、ここにしゃべるウサギのようなキャラクターがいます。
太田 いますね。かわいらしい。
NA 人間の言葉をしゃべるウサギ。そのセリフに鍵があるという。
「動物の脳みそを手術で人間の脳みそにつくりかえるんですよ。だから人間みたいになってしまうんです」
森川 動物がしゃべるってことにSF的な理屈を与えてる訳なんです。別に、ミッキーマウスやドナルドダックは脳を改造されたから、しゃべるわけじゃないんで。手塚はアメリカとかヨーロッパではミックスされることのなかったディズニー的なものとSF的なものをミックスすることによって、逆にアメリカにもヨーロッパにもない新しい表現をここに生んでいて、それが日本のマンガやアニメのその後の特徴にもなっていくわけです。
太田 みんな憧れて、これでマンガ家になるわけですからね。
NA ファンタジーの世界と科学的なリアリティー。この2つの融合はその後の日本のマンガの大きな潮流となっていった。
(画面には、その融合の例として
銀河鉄道999」「機械の体」で永遠の命を手に入れた人々と貧しい生身の人々が分かれた未来社会を描く物語
風の谷のナウシカ」文明が滅んだ後、新たな脅威となった自然との共生を模索する物語
新世紀エヴァンゲリオン」人類の脅威と戦う前線に立たされた少年少女たちの戦闘と日常の物語)
ロストワールド」の革命は実はもう一つある。それがこちら。登場人物の少女の胸があらわになったこのシーンだ。
森川 これを見て当時の少年たちは、衝撃とエロスを感じた。日本のマンガアニメというと、少年向けのような絵柄で、しかも非常にエロティックな表現を内包している。これまたその後の日本のマンガやアニメの特質になっていくわけです。それを考えていくと、傾向として、アメリカとかヨーロッパでは、「親が子供に与えるマンガ」が作られるのに対して、日本の場合は、自分でお小遣いを使って、子供が「自分が読みたいもの」を買う傾向が強いわけなんですね。だから非常に多様なものが生まれる。

NA 子供たちの欲望がマンガとなり、そのマンガが更なる欲望を掻き立てる。その連鎖が日本のマンガを進化させてきたのだ。そして今、マンガは読むだけのものから、自ら体験するものへと変貌を遂げた。そのきっかけとなったのがこの作品だ。
(画面は赤塚不二夫作「ひみつのアッコちゃん」の動画に)
アッコちゃん 「テクマクマヤコン テクマクマヤコン小さな女の子になあれ!」
NA アッコちゃんが何にでも変身できる魔法のコンパクトを使って繰り広げるドタバタコメディー。1969年にアニメ化され爆発的な人気を誇った。実はアニメと赤塚不二夫の原作には決定的な違いがある。それは?
森川 「テクマクマヤコン」という呪文は、アニメから登場したものなんですね。
田中 マンガの時はないんだ。
森川 マンガの時は、しかもこれ見て頂けると、普通に壁にかかっている鏡なんです。
太田 ホントだ。コンパクトじゃない!!
NA 原作のアッコちゃんはなんと大きな鏡を使って変身している。そこにはある秘密が隠されていた。
森川 これは、アニメーションのビジネスと大きく関係がある。(コンパクトを取り出す)こちら。
太田 これ持ってたよ。
田中 これはうちにもあったね。
森川 これですね。スポンサーが憧れの対象に自分を変身させるアイテムを、おもちゃにしやすい形にする。
太田 グッズ
森川 それが大成功したので、それ以降、彼女が必ず変身する、
太田 そうだ。「クリイミーマミ」
森川 変身するときにアイテムを使う。それをおもちゃとして売り出すと、飛ぶように売れるわけです。
太田 これは持ってましたもん。
田中 お前なんか男一人っ子で遊んでた。だから、すごい。
太田 アッコちゃんは見てたからね、男でも。サリーちゃん、アッコちゃんは。
森川 それが大成功したので。
太田 これ一日中、言ってた事あります。「テクマクマヤコン」。もしかしたら変われるかもしれないと思って。
田中 今も?
太田 今はね、戻れてない状態です。あのころ、こうなったんです。
田中 そうなったわけ? ラミパス ラミパス ルルルルル〜
太田 ちょっと言わないで。子供に戻っちゃう。
田中 いいよ、戻ってくれよ。すげえ視聴率取るぞ、お前。
(画面は再び赤塚不二夫作「ひみつのアッコちゃん」の動画に)
アッコちゃん 「ラミパス ラミパス ルルルルル〜 よかった。やっとアッコに戻れたわ」

NA マンガはアニメやおもちゃとのメディアミックスという魔法を手に入れさらなる市場を獲得していく。欲望のるつぼ、マンガ。それを求める人々は今も増え続けている。コミックマーケットの入場者はついに50万人を突破した。
それでは最後に極め付きのお宝をご紹介しよう。
(森川、金庫から本を取り出す)
なぎら あっ!「新宝島」。
森川 そうです。当時の「新宝島」。
太田 ちょっと、気を付けてくださいよ!
NA 手塚治虫の長編デビュー作「新宝島」。1947年の初版本はほとんど現存しないという。かつて読んでは捨てるものだったマンガ。今では芸術作品のように扱われている。
森川 こちらは非常に影響力を誇ったマンガの単行本だということで、
太田 今見てもワクワクしますもんね。
森川 コレクターの間では、100万とも200万ともいわれる値段が結構ついたりいたします。
太田 1000万出しますよ。
田中 うそつけ。
なぎら だけど皮肉なものですよ。かつて「ポンチ絵」とかいわれで、マンガ見るとバカになるからと言われたものが、一番当時の世相を反映している。というのは実に皮肉ですね。
田中 だからこそ、大人は見せたくないと思ったのかな。
太田 バカになった人いないもんね。マンガ読んでバカになった人。

NA それでは爆笑問題の探検報告!
田中 ちょっと、今日は、時間が足りないっていうか。
太田 まだ全然話し足りないです。
田中 逆に消化不良になっちゃったね。
太田 ドカベンのこと一言もしゃべってない。どういうことなんだって思います。
田中 ルパンの話もドカベンの話も、ブラックジャックの話もしていない。もう考えられないです、我々。いやぁ、でも懐かしいのばっかり。
太田 人の数だけマンガがある。

(ラストの文章)みんなマンガで大きくなった。そしてマンガはMANGAになった。
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