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読売新聞「iPS細胞心筋移植」誤報の原因

山中伸弥氏のノーベル賞受賞の話題に持ちきりの今に起きた今回の読売新聞の誤報は、なぜか日本テレビの「バンキシャ!」の事件を思い出す。これは、岐阜県庁裏金誤報事件と呼ばれ、

2008年11月23日の放送で、建設業者の男が出演し、岐阜県の土木事務所が架空工事による裏金を捻出していたと証言。これについて、岐阜県が調査したところ、証言内容が虚偽だったと判断。2009年2月27日に日テレ関係者が岐阜県に対し謝罪し、2009年3月1日の放送で訂正・謝罪放送を行った(この訂正放送自体も内容が不十分だったとして後にBPOから勧告を受けている)。その後、岐阜県は証言した男を岐阜県警偽計業務妨害で告訴し、男は2009年3月9日に逮捕された(逮捕された容疑者は「謝礼金が欲しくてやった」と供述。後に起訴され、懲役5年の求刑に対して懲役3年、執行猶予5年の判決が出ている)。さらに、責任をとる形で3月16日付で久保伸太郎社長が辞任し、3月22日の放送で社長辞任を報告した上で改めて謝罪放送を行った。また、関係者の処分については、報道局長の役職罷免と番組関係者4人対して出勤停止の処分を下した。7月10日にBPOより勧告を受けた。この事件の検証番組は8月24日未明(8月23日深夜)に放送された。これに先立ち、8月23日のバンキシャでこの事件の検証特集が放送され、当時の社長・チーフプロデューサー・報道局長がVTRで謝罪したほか、番組の終わりに福澤をはじめとするバンキシャ関係者一同が謝罪した。(真相報道 バンキシャ!-Wikipedia)
という事件である。それについては、日本テレビ「バンキシャ!」はこうして騙されたというエントリーを書いたが、この事件には背景があり、会計検査院が公表した自治体の不正経理問題が注目された時期であった。そこで、「バンキシャ!」スタッフは、インターネットの募集サイトを通じて証言者を募ったことから、それを利用した男がいたことだった。

同じようだなと思ったのは、山中教授に「iPS細胞」によりノーベル賞を受賞したこの時期にわざわざ読売新聞が「iPS細胞心筋移植」のニュースをぶつけてきたことだった。これは便乗と言ってもおかしくないし、いささか怪しいと思っても、それを載せる読売新聞に脇の甘さがあったことは、日本テレビの「バンキシャ!」と同じような責任があるのではないかと思うくらいだ。

おそらく、電子版の記事は、間もなく消えるので、10月13日朝刊を探して参照してもらいたいと思うが、注目すべきは次の記事だった。

「米ハーバード大学客員講師」を名乗る森口氏が、iPS研究の話を読売新聞記者に持ちかけてきたのは9月19日だった。


 10月1日には、論文草稿と自ら行ったという細胞移植手術の動画などが電子メールで送られてきた。森口氏はこの論文を科学誌「ネイチャー・プロトコルズ」に投稿したと説明した。


 取材は4日午後に約6時間、東大医学部付属病院の会議室で行われた。森口氏は「2月に重症の心不全患者(34)にiPS細胞から作った細胞を移植し、うまくいった」と概要を説明した。

 記者の質問に対しても森口氏は、関連論文などを紹介しながら説明し、示された写真やデータなどの資料にも特に疑わしい点はなかった。投稿したとされるネイチャー・プロトコルズ誌が、専門家の審査を経て掲載が許可される有力専門誌だったことも、本紙が業績を信頼した理由だったが、12日現在、この論文は同誌に掲載されていない。

 記者は常に科学部の医学担当次長らに取材経過を報告、相談しており、4日の取材後も内容を伝え判断を求めた。森口氏は論文をランセットやネイチャーなどの有力専門誌に掲載したと主張しており、医学担当次長らは同氏の業績に一定の評価を与えていたが、さらに慎重に、この研究の評価を専門家に仰ぐよう記者に指示した。

 再生医療の第一人者である大学教授に森口氏の論文草稿について意見を聞いたところ、「本当に行われたのなら、6か月も生存しているというのは驚きだ」とのコメントを得た。こうした取材を踏まえて9日昼、担当次長が部長に概要を説明。部長は記者に「物証は十分か」と確認したうえ、できるだけ早い掲載を指示した。こうした経過をたどり、「iPS心筋を移植 初の臨床応用」という記事を11日朝刊1面で報道した。さらにニューヨークで森口氏にインタビュー取材し、11日夕刊1面で「死の間際 iPSしかなかった」との続報を掲載した。

 ◆肩書、ハーバード大に確認せず

 振り返れば、取材の過程で何度か、森口氏の虚偽に気づく機会はあった。

 「ハーバード大客員講師」という肩書は、過去の新聞記事などで使われてはいたが、ハーバード大に確認していれば、否定されていただろう。

 過去に森口氏が一流専門誌に発表した論文も、その後の確認取材で、専門家の厳格な審査「査読」を受けない自由投稿欄が多かったこともわかった。事前に詳しくチェックすれば、こうした不自然な実態を見抜けた可能性が高い。

 また、〈1〉前提となるはずの動物実験の論文が確認できない〈2〉倫理委員会で承認されたとの確証がない――といった点を軽視せず、取材を積み重ねていれば、今回の誤報は避けられただろう。(2012年10月13日07時04分 読売新聞)論文・動画 記者にメール

これなどは、10月8日にノーベル賞の発表があることを前提に時間を見計らって、森口氏が読売新聞に持ちかけたと思うしかない。10月4日に森口氏に取材しており、11日の朝刊発表まで1週間もありながら、裏取りをしなかったというのは、あまりにもお粗末の1語に尽きる。それをそのまま流したテレビもあったようだが、裏取りをしていない点で同罪である。(検証なきメディアは価値がない(マスメディアは人から腐る・2) 参照)「真相報道 バンキシャ!」の検証をしたBPO放送倫理検証委員会は、
 放送界のほとんどあらゆる不祥事が、あとになって振り返ってみれば、自分(たち)でも唖然とするような小さな見過ごし、些細な判断ミス、ちょっとした無知、単純な思い込み等から始まっている。それらが積み重なったとき、番組はあっという間に色褪せ、壊れていき、番組そのものも放送局も放送界も、視聴者の信用を失っていく。(後略) (日本テレビ 『真相報道 バンキシャ!』裏金虚偽証言放送に関する勧告)
放送は新聞に、番組は記事に変えれば、意味は同じだ。新聞の誤報の原因として「戦後の3大誤報」「平成3大誤報」〜グリコ・森永事件の時効に関連して〜というブログでは、次の7点を挙げている。

●誤報の原因

1、スク−プ合戦。             
他社はもちろん同僚も知らないスク−プはなんといってもジャ−ナリストの原点であり、使命でもある。それだけに、ジャ−ナリスト個人の功名心をかりたて誤報を招きやすい。当然、スク−プは社を挙げて大きく扱う。

2、速報主義
これも、他社にさきがけて出そうという点でスク−プと同じだが、新聞は締め切り時間に、テレビは放送時間に間に合わせようとして無理をした時によく起きる。災害、事件、事故の第一報の死者の名前や数などに多い。

3、確認不足
1、2とも共通しているが、十分事実関係の裏をとらずに未確認のまま記事にした場合。警察の話を鵜のみにしたり、聞きかじった程度で記事にして誤報になった例は多い。

4、センセ−ショナリズム。        
 取材者が出来事の異常性や意外性に遭遇した時、事実の判断を狂わせることがある。

5、リ−クにのる
取材先が故意に間違った情報を流し情報操作することがある。それをよく点検せず、記事にした場合。政治ニュ−スによくある。

6、外国情報のたれ流し。          
文化の異なる外国のメディアが報道する不確かなニュ−スをそのまま伝えた場合。

7、予定稿の使用
 組閣、裁判、死亡記事など、予め考えられるケ−スを想定して書いておいた原稿を間違って使用した場合。コンピュータ−時代になって特にその傾向が見られるようになった。

今回の原因は、バンキシャ!と同じように、3と5だが、確認さえしていれば十分に防げた誤報であった。


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