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素人だから言えることもある

日本のメディアがなぜ誤報の問題よりも犯人叩きが大事なのか

記者クラブは官僚システム

前項読売新聞「iPS細胞心筋移植」誤報の原因をただの森口氏叩きだと思ってはいけない。読売新聞とあろう大マスコミがこの程度の誘惑で陥落してしまう弱点を抱えていることこそ問題である。ところが、他のメディアはその弱点を問題にせず、そんな弱点などないかのように一斉に森口氏を叩いている。

日経ビジネス外国人ジャーナリストが驚いた日本メディアの惨状という日経が書いてすぐ消した記事がある。そのキャッシュの中で、ニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラー氏がこう答えている。

――日本のメディアはウォッチドッグ(監視役)としての機能を果たしていると思いますか。

ファクラー:彼らはそういう機能を果たすべきだという理想を持っていると思いますが、情報源とこれほど近い関係になると実行するのはかなり難しいです。

 これは記者クラブだけの問題ではありません。もっと大きな問題です。日本の大メディアは、エリートが支配している階級の中に入っているということです。東大、慶応、早稲田出身でみんなが同じバックグラウンドと価値観を持っている。みんな官僚に同情的で、彼らの側に立ってしまうのです。

 3.11の時、この面をはっきり見たと思います。本当に監視役になっていたのなら、「フクシマは大丈夫だ」「メルトダウンはない」という記事は書かなかったのではないでしょうか。もっと厳しい記事が書けたと思います。それができなかったのは、彼らが政府と距離を保っていないからです。

 大メディアは、政府と対峙することなく、国民に対峙する報道をした。私はこの点を痛烈に批判しました。大メディアが報道していたことが間違いだとわかったのは、何カ月も経ってからです。監視役としてみるなら、日本の大メディアは落第だったと思います。でも、メディアを監視役ではなく、システムの一部としてみるなら、起こるべくして起こったことだと言えるでしょう。

この例などは、冒頭の森口氏叩きと共通している面がうかがえる。つまり、メディアが監視役だったら、お互いに裏取りをしていないことを批判するのが当たり前である。監視システムが壊れているからだ。ところが官僚のシステムの一部だと捉えれば、このシステムに潜入した森口氏の行動がシステムを破壊したから、森口氏叩きは当たり前となる。官僚システムとしては、政府に対して、システムが万全であることを強調したいのだ。つまり、マスメディアは国民側に向いているのではない。政府側を向いている。

僕は、そもそもマスメディアが官僚主義であることは何度も書いた。例えば、ブログ・ジャーナリズムは誕生するかでは、

 少し前には、森喜朗首相時代に、記者会見の指南書事件というのがありました。講演で「日本は神の国だ」という趣旨の発言を行い、窮地に立たされた首相が記者会見で釈明することになった。その会見に向け、どうやれば会見を切り抜けることができるかを、首相官邸記者クラブのNHK記者が文書にして、首相側に伝えたとされる事件です。この例など、大手マスコミの立ち位置をよく示していると思います。

 日本のメディアの病気のうち、一番の問題は、この「当局に弱い」「権力に弱い」という部分だと思います。その反対に、弱い者には非常に強く出る。弱い者、弱りかけているものは、それこそ容赦なく叩く。犬は溺れさすことはしないけれど、溺れた犬はいっぱい叩くわけです。私は逆だろうと思うのです。溺れた犬をどうするかは、日本の法律に従って粛々と当局がやればいいわけで、そういう意味ではメディアは強きに弱く、弱きをくじいてますね。

(中略)

 そして、これが一番重要なのですが、何をどう報道するかという肝心な問題を突き詰める前に、「デスクは許してくれないだろうな」とか、「会社の編集部はどう評価するだろうな」とか、目が社内を向いてしまっている。会社組織だから、上司の指示に従うのは当然という側面もありますが、そこに議論がない。議論する前に、自己規制してしまっている。そういう例が実に多いのではないかと推察します。要は、新聞社やテレビ局の組織が官僚組織に似た存在になってしまったのではないか。

 自分で判断しない・できない、責任も取らない・取ろうとしない。上司の顔色をうかがう、組織内の評価ばかり気にする、だから仕事は過去の例に即して進める…こうやって言葉にすると、みもフタもないですが、それが取材現場の実感ではないでしょうか。(湯川鶴章著/高田昌幸著/藤代裕之著「ブログ・ジャーナリズム—300万人のメディア」野良舎)

官僚主義では、まず自分の組織を第一に考える。そして次に考えるのは自分の保身だ。そのために組織の誤謬性などあってはならない。それを理由に組織を削減されてはたまらない。したがって簡単に誤報が起きる弱点なんてことは存在してはならず、とりあえず森口氏を叩いてその場を濁すことを考えているのである。
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