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素人だから言えることもある

失敗の中からしか希望は生まれない

パンドラの箱の伝説を知っているだろうか。パンドラのWikipediaにはこう書いてある。

プロメーテウスが天界から火を盗んで人類に与えた事に怒ったゼウスは、人類に災いをもたらすために「女性」というものを作るよう神々に命令したという。

ヘーシオドス『仕事と日』によればヘーパイストスは泥から彼女の形をつくり、神々はあらゆる贈り物(=パンドーラー)を与えた。アテーナーからは機織や女のすべき仕事の能力を、アプロディーテーからは男を苦悩させる魅力を、ヘルメースからは犬のように恥知らずで狡猾な心を与えられた。そして、神々は最後に彼女に決して開けてはいけないと言い含めて箱(壺ともいわれる 詳細は後述)を持たせ、エピメーテウスの元へ送り込んだ。ヘーシオドスは『神統記』においてもパンドーラーについて触れ、神々からつかわされた女というものがいかに男たちの災いとなっているか熱弁している。

美しいパンドーラーを見たエピメーテウスは、兄であるプロメーテウスの「ゼウスからの贈り物は受け取るな」という忠告にもかかわらず、彼女と結婚した。そして、ある日パンドーラーは好奇心に負けて箱を開いてしまう。すると、そこから様々な災い(エリスやニュクスの子供たち、疫病、悲嘆、欠乏、犯罪などなど)が飛び出した。しかし、「ελπις」(エルピス)のみは縁の下に残って出て行かず、パンドーラーはその箱を閉めてしまった。こうして世界には災厄が満ち人々は苦しむことになった。ヘーシオドスは、「かくてゼウスの御心からは逃れがたし」という難解な言葉をもってこの話を締めくくる。

バブリウス『寓話』は、これとは違った物語を説く。パンドーラーは神々からの祝福が詰まった箱を与えられる。しかしエピメーテウスがこの箱を開けてしまう。祝福は飛び去ってしまったが、ただエルピスだけは残って「逃げてしまった良きものを我々に約束した」という。

この神話から、「開けてはいけないもの」、「禍いをもたらすために触れてはいけないもの」を意味する慣用句として「パンドラの箱」という言葉が生まれた。パンドーラーはその後、エピメーテウスと、娘ピュラーと、ピュラーと結婚したデウカリオーンと共に大洪水を生き残り、デウカリオーンとピュラーはギリシア人の祖といわれるヘレーンをもうけた。
(パンドーラー-Wikipedia)

パンドラの箱に入っていたものは、災厄か、祝福か。また残ったエルピスとは何か。太宰治の「パンドラの匣」では、
君はギリシャ神話の「パンドラの匣」という物語をご存知だろう。あけてはならぬ匣 ( はこ ) をあけたばかりに、病苦、悲哀、嫉妬、貪欲、猜疑、陰険、飢餓、憎悪など、あらゆる不吉の虫が這い出し、空を覆ってぶんぶん飛び廻り、それ以来、人間は永遠に不幸に悶えなければならなくなったが、しかし、その匣の隅に、けし粒ほどの小さい光る石が残っていて、その石に幽 ( かす ) かに「希望」という字が書かれていたという話。(太宰治著「パンドラの匣」新潮文庫)
このエピソードを災厄の詰まった箱だと解すると、そのような危険なものは初めから手を触れるなと考えることもできるし、あらゆる災厄を乗り越えなければ希望は手に入らないと考えることもできる。

また、こうも考えることができるのではないか。災厄とは、膨大な数の失敗であり、エルピスはようやく手に入れた成功である。失敗学の畑村洋太郎氏は、

私の経験からいって、何か新しいことや未知な分野に挑戦しようとすると、99.7%は失敗します。そう考えると、物事がうまくいく確率は0.3%。日本に昔から“千三つ”という言葉があって、「何かの賭けをしたとき、うまくゆくのは千に三つぐらいしかない」という手意味で使われてきましたが、私の経験からすると、新たに挑戦したことが成功する確率もまさに“千三つ”です。この成功率の低さに怖じ気づいて、目をつぶり、根拠のない楽観をするのでは失敗学は始まりません。この成功確率の低さを十分に認識し、失敗に真正面から取り組む覚悟を決めなければいけないのです。(畑村洋太郎著「決定版 失敗学の法則」文藝春秋)( 成功と失敗のセレンディピティとニワトリ会議)
つまり、希望を手に入れる確率はわずか0.3%しかないということになる。ベストセラー本の半分は、ダイエット本なのだそうだ。その次に売れるのがハウツー本。これらの中身を一言で言えば、いかに失敗しないで成功するかが書かれている。だが、この考え方は根本的に間違っている。ハウツー本に頼った人間が何万人いようと、その成功率は結局0.3%である。むしろ、誰かがその道を通ったのだから、かえって成功率は落ちているとも考えられる。言い換えれば、誰かの通った道よりも、誰も通らなかった道の方が成功率が高いとも考えられるのだ。試験が近いと、ポイントが書かれた参考書が売れる。これだって、ハウツー本と同じである。そのような本に頼っていると、自分の頭で考えることをしなくなる。できるだけ多くの失敗をして、誰も考えたことのない方法を編み出した方が希望への道は近いはずだ。
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