夢幻∞大のドリーミングメディア

素人だから言えることもある

メディア教徒たちへ

 メディアは物事を噛み砕いてわかりやすくしようと努力する。それは当然なのだが、わかりやすいことというのは、わかりにくいことを省く行為なのだ。真実は、わかりやすいことの中よりわかりにくいことのほうに含まれることが多い。そして、伝えられる人間は、わかったと思った瞬間に思考停止する。考えることをやめるのである。わかりにくいことを伝えられれば、人間は一生懸命、考える。

 教育再生問題で議論されていることがこの「わかりやすい知識」の量を増やそうとしているように思えてならない。知識量がいくら増えたところで、思考力が増えなければ本当の実力にはならない。一番大切なのは、ものを考える力なのではないか。

 前項「メディアと沈黙の螺旋」の元になった本に Erisabeth Noelle-Neumann著池田謙一・安野智子訳「沈黙の螺旋理論—世論形成過程の社会心理学・改訂版」(ブレーン出版)というものがある。

 この理論を考えたエリザベート・ノエル-ノイマンはドイツ人。社会心理学の理論誌なのでひどく冗長で引用しにくい。ともかく、ドイツ人の感覚と日本人の感覚の違いに考えさせられるエピソードがあった。

 まず、最初の発想にメディアについて考慮されなかった。日本人が研究に参加して初めて、マスメディア論との関係が明らかにされたという点である。さらに、ドイツ人は自分の意見は他人に影響されないと硬く思い込んでいた。だが、よく調べてみると、多数派の意見に十分振り回されていることがわかったのである。日本人はご承知のように、「郷に入れば郷に従え」とか「その場の風を読め」とかいって、自分の意見など主張するものではないと思い込んでいた。いや、本当は自分の意見などなかったのかもしれないが。

 日本人は無宗教だと言われるが、実はメディア教徒たちなのではないか。高視聴率だとか、ベストセラーだとか、さまざまな教祖たちに振り回されているのではないだろうか。そして人間にとって一番大切なもの「考える」ということを忘れてしまったのではないか。
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