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素人だから言えることもある

ケータイホームレス・さまよえる日本人論(5)

オランダの奇跡

 「責任感が強い人ほど長生きできない日本のシステム」で述べたように、できる人間ほど過労死寸前まで働かせながら、一方では安定した生活ができない「ケータイホームレス」を生んでいる日本の就職環境は、あまりにも問題が多い。どちらのケースも、結局「ホーム」から遠ざけている点では、共通点がある。「ホーム」があるからこそ、明日への活力になるのであり、安息の地になるのである。

 「日本沈没」の話では、ユダヤ人の話が出てきたが、「さまよえるオランダ人」と「さまよえる日本人」二枚のグラフと国の誇りでも、「誇りのもてない国」としてオランダ人が登場した。今回は、結論としてオランダ人のことを取り上げてみたい。

  オランダというと、我々にはチューリップと風車の国という美しいイメージがある。そのような国が自分の国を誇りに思えないなんて。そこで「物語オランダ人」(倉部誠著/文春新書)を読むと

 ヨーロッパ暮らしにあこがれ、美しいオランダに赴任した著者が出会ったのは、根強い反日感情、そして聞きしにまさるケチで自分本位な人たちだった。辟易するような隣人、愛犬の糞を片づけない淑女、責任を回避する会社員—。それほど個人主義的な、自由平等をよしとする社会なのに、王室は安泰、国民総背番号制も実施されている。労働者は過保護なほど守られ、リストラとは無縁だし、拝金宗徒といわれながらも、対外援助活動や環境保護に熱心で、国際的発言力も強い。同性愛者同士の結婚、安楽死の容認…。この国には日本の未来を考えるヒントが沢山ある。(「物語オランダ人」の帯より)
 内容を紹介すると、オランダでは残業をすることが法律で禁じられている。残業をしたかったら、ほかの人間を雇わなければならない。つまり、ワークシェアリングが徹底されているのである。労働者には年間5週間の休暇が約束されている。さらに、結婚式は休日に行うことはほとんどない。他人の休む権利はそれほど大切なものだ。また、自分の誕生日は自分でプレゼントを買う。さらにオランダ人同士でおごることはない。たまたま日本の上司がおごれば図に乗って高級店を要求する。社員の一割は常に休む。医者の証明書はいらないし、その間に副業をしてもおとがめはない。それでいて入社したら一年間は首を切れない。また学校でも生徒の間違いを教師は正すことができない。「君の意見はユニークだけれど、僕はこう思うよ」と遠慮がちに話しかけるだけである。

 実は、オランダには「オランダ病」と言われる苦い経験があった。

オランダ病

 1970年代、北海におけるオランダの天然ガスの発見とその輸出ブームは、オランダに膨大な為替収入をもたらし、一方で、政府支出の膨張によって社会福祉制度が次々に拡充されたものの、他方で、為替レートの過剰な上昇により、他の貿易部門、特に製造業部門などの国際競争力を阻害し、ブームが去って一次産品の価格が下落したとき、財政支出が膨張したまま、企業の国際競争力は失われ、失業者は増大し、オランダ経済は大不況に陥った。1983〜84年の急激な失業率の上昇は、こうした状況をドラマチックに示している。豊富な資源開発の帰結としての経済低迷をあらわす「オランダ病」という言葉が経済用語として国際的に定着している。(図録▽失業率の推移)
オランダの奇跡
 オランダのドラマはそこで終わらなかった。その後、全世界が「オランダの奇跡」と呼ぶほど経済の復活を遂げたのである。失業率は、図で見るように、1980年代後半から1990年代にかけて着実に低下し、1999年からは日本のレベルを下回っている。こうした経済再生の要因としては、賃金抑制の政労使合意とパートタイム労働の正規化の2つがあげられる。

 どん底経済から再起をかけて、オランダの政府、経営者団体、労働組合全国組織の三者は、1982年から1983年にかけて、いわゆるワッセナー合意に達した。 ワッセナー合意の要点は、

 (1) 労働組合は賃金抑制に協力する。

 (2) 経営者は雇用の維持と就労時間の短縮に努める。

 (3) 政府は減税と財政支出の抑制を図り、国際競争力を高めるための企業投資を活発化し、雇用の増加を達成する。 というものだった。(図録▽失業率の推移)

オランダ・モデル
 オランダでもパートタイム勤務の社員が冷遇されていたが、パートタイム勤務の社員が待遇面で受けていたいろいろな差別を禁止し、これがオランダ・モデルと呼ばれるようになった。すなわち、

 (1) 同一労働価値であれば、パートタイム労働社員とフルタイム労働社員との時間あたりの賃金は同じにする。

 (2) 社会保険、育児・介護休暇等も同じ条件で付与される。

 (3) フルタイム労働とパートタイム労働の転換は労働者の請求によって自由に変えられる。 という制度になった。この結果、夫婦の自由な勤務形態の組み合わせが可能となり、雇用が促進されたという。(図録▽失業率の推移)

 このまま、単純に日本に持ち込んでも、現状を回復できるとは思えない。おそらく、ワークシェアした部分を中国にもっていかれる可能性もないわけではあるまい。企業としてはよりコストを下げて生き延びることが最大の目的だからだ。ただ、このままできる人間を食いつぶしていっては、企業自身の延命すらできないだろう。「さまよえる日本人」にいかに「ホーム」を与えていくか、「ワークシェアリング」はそのひとつの回答かもしれない。そして、それこそがこれからの日本の発展を左右される最後の手段だと思うからである。
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