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素人だから言えることもある

著作権者たちのいらだち

初音ミクと著作権

 一連の初音ミク騒動を見ていると、「初音ミク」というコンテンツを収益源とするために、本来の著作者をよそに、周りの人間が争っているように見える。つまり、著作者の範囲が明確でないためだ。おそらく、この騒動はテレビでは起こらなかったろう。というのは、放送法でテレビ局の特権があるためだ。

 僕は「ネットがテレビを放送する日」で著作隣接権に触れている。

放送事業者の著作隣接権として定められているのは、�複製、�再放送(この用語は一般の語感とは違い、著作権法上は「いったんある放送局で放送した番組を、他の放送局を放送すること」を言う)と有線放送、�送信可能化(放送番組をネット上で利用可能にすること)、�テレビジョン放送の伝達(大型スクリーンに映し出すなど)についての許諾権である。

  しかし同時に、�放送のための一時的固定と、�商業用レコードは許諾を受けずに利用して後刻2次使用料を払えばよい、といった規定があるため、放送の素材として著作物を利用することが容易となっている。(ネットがテレビを飲み込む日」)

 この特権がテレビ局有利になり、著作権問題を誘発させない。つまり、「初音ミク騒動」はインターネットメディアだから起こった問題なのだ。しかし、本来「著作者は誰か」という問題は明確にしてから対応すべきであったのに、テレビ局の特権がそれをうやむやにしてきたのである。

 また、コンテナーとコンテンツの関係がある。たとえば、「初音ミク」を制作したクリプトン・フューチャー・メディアとはコンテンツメーカーであり、それを配信するドワンゴはコンテナーである。ところが、配信会社(テレビ局、プロバイダー…)というコンテナー自身が、あたかもコンテンツ・メーカー(制作会社)のような顔で、著作権者の顔(=著作隣接権)をしてきた。

著作隣接権とは何か

著作権法によって、著作物を公衆に伝達するために重要な役割を果たしている実演家、レコード製作者、放送事業者および有線放送事業者を保護する制度。 実演家は自然人、レコード制作者や放送事業者は事業体。 著作権、著作隣接権はそれぞれ独立した権利。 「隣接権という言葉は権利にある種の階級制を持たせたり、ある分野が他の分野に従属することを表す言葉であってはならない」 (クロード・マズイエ=法学博士)。 ( 著作隣接権Q & A )

 僕は「コンテナーからコンテンツを取り戻せ」で、こんなことを書いた。
 アメリカではコンテンツとコンテナーが分離されているために、インターネットでも自由に商売ができるが、日本はコンテンツがコンテナーにがんじがらめに掬い取られているゆえに、インターネット上では商売ができない。
 ここに、テレビ局がインターネットで商売するのに消極的な理由がある。テレビ局の特権が自由に活用できないためだ。コンテンツがコンテナーとの請負関係である限り、このような騒動は数限りなく起こるであろう事は明白である。

ダウンロード違法化問題

 この問題は、将来、日本がコンテンツ大国になるための、試金石に見える。いわば、かつての海賊版大国であった日本が、アメリカにも日本のコンテンツがいかに著作権保護に気を配っているかを見せるために審議会で審査して法律を作りましたよといっているようなものだ。というのは、「著作権法の「非親告罪化」とアメリカ年次改革要望書」でとりあげた(日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書 2006 年12 月5日 (仮訳)19-20頁)にこんな項目があるからだ。
II. 知的財産権保護の強化

日本の知的財産推進計画に掲げられた目標や、日米の知的財産権体制の結束をより深めるという両国の相互利益に合致するよう、米国は日本に以下の提言を採用するよう求める。

II-A-2. 著作権保護期間の延長 一般的な著作物については著作者の死後70年、また保護期間が生存期間と関係のない著作物に関しては発表後95年という現在の世界的傾向と整合性を保つよう、音声録音および著作権法で保護されるその他すべての著作物の保護期間を延長する。

II-A-3. 職権の付与 起訴する際に必要な権利保有者の同意要件を廃止し、警察や検察側が主導して著作権侵害事件を捜査・起訴することが可能となるよう、より広範な権限を警察や検察に付与する。

II-A-4. 偽作版 特に大学構内において違法に書物が複製されることを効果的に防止するため、著作権法をもって取り締まる。

II-A-5. 映画の海賊版 海賊版DVD製造に利用される盗撮版の主要な供給源を断ち切るために、映画館内における撮影機器の使用を取り締まる効果的な盗撮禁止法を制定する。

II-B. デジタル・コンテンツの保護 デジタル・コンテンツ関連規則や規制の透明性を確保し、オンライン上の著作権侵害を有効に防止する。

II-C. IPマルチキャストに係る強制実施権 IPマルチキャストやインターネット上でのテレビ番組再放送に係る日本の施策の変更が、市場を基盤とした解決策を目指すことに一義的な重要性を置き、国際的義務に従うものとなるようにする。

II-D. 私的利用に関する例外 私的利用の例外範囲を限定し、ピア・ツー・ピアのファイル共有といった家庭内利用の範囲を超えることを示唆する行為が、権利者の許諾なしには認められないことを明らかにする。

II-E. 著作権法における教育例外規定 日本の著作権法第35条の教育例外規定が、著作物の通常利用の解釈と矛盾せず、権利者の合法的利益を不当に害さない特定の場合にのみ適用されることを確保する。

 II-A-2. II-A-3. II-A-5.については、「著作権法の「非親告罪化」とアメリカ年次改革要望書」でとりあげたが、今回の「ダウンロード違法化」問題は、II-B. II-D.に対応していることは明らかである。たとえ反対が多勢であっても、政府としては、法律化せざるを得ないかもしれない。なぜなら、日本は「テロ特措法問題」で一回、ミソを付けてるからだ。

 政府の意向はともかく、「コピーワンス問題からほの見える日米のテレビと映画の立場」でとりあげたように、アメリカ国内ではほとんどコピーフリーの状態である。アメリカ国内で法律を通そうと思っても通らないだろう。なぜ、日本ばかりと考えるのだが、それはアメリカにとってはいまだに日本は「占領国」という証明なのかもしれない。

メディアの有料化

新聞は生き残れるか」等で新聞のネットビジネスの危うさを語ったが、メディアサボールの「オンラインメディア、ニュースサイトの有料・無料化議論の行く末は」では、
 ニューヨークタイムズは過去記事の無料化に踏み切った。また、ウォール・ストリート・ジャーナルも無料化を検討しているという。一方で、有料化に踏み切った雑誌もあった。

 一方で新たに有料化に踏み切ったのは、ITベンチャー企業系の情報を扱うレッドヘリング誌。同誌では印刷媒体を廃止し、電子版1本への移行を決めた。

 同社が発行するのはデジタル雑誌と呼ばれるもので、PDFフォーマットを使ってページ切り替えができるなど、より紙媒体に近いインターフェースを採用する。切り替えの狙いは、印刷費など製作コストの削減とオンラインならではのグローバルな読者獲得を見越したもの。

 2009年終わりまでに50万人の読者獲得を目指すという。ただ、ウェブサイトを通じたニュース配信は他のメディアと同様に無料で行っているため、デジタル雑誌でどこまで差別化が図れるのか不透明な部分もある。

 印刷媒体を廃止すれば、確かに紙や印刷に関する経費はかからない。しかし、日本ではそこまで思い切ったことができるのか。「ニュースが消える日」で、
 ニュースもまた同様である。大きなニュースサイトなら様々なニュースを取り揃えられる。ところが弱小なニュースサイトでは、かなりとがったユニークなコンテンツで勝負しなければならないだろう。
 ニュースサイトもまた、新たな収益モデルを探して、様々な模索を繰り返すのだろう。ともかく、ダウンロード販売がビジネスとなると、著作権と広告が主な収益源となってくることには間違いない。そのために、どれだけ優良なコンテンツを囲い込むかが、それぞれのサイトの目的となっている。誰も、広告を目的にサイトを訪れるわけがない。面白いコンテンツだから、訪れるのだ。だから、優良なコンテンツを求めて、著作(隣接)権者たちのいらだちは止まらない。
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