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素人だから言えることもある

偽装大国ニッポン

 マクドナルドの店長が管理職でないという裁判が結審した。月137時間という、残業時間にもかかわらず、管理職ということで、残業代が支払われなかったという。このような裁判は、コナカ以来である。朝日新聞では、

 判決は、管理監督者には重要な職務と権限があり、賃金などの待遇も一般の労働者より優遇されていることが必要だとした。そのうえで、店長は社員の採用ができないこと、営業時間やメニュー、商品価格の設定も自由に行えないことなどから、そうした権限はないと認定。待遇面でも、評価によっては部下が店長の平均年収を上回ることなどから「不十分」とし、「管理監督者に当たらない」と結論づけた。(マックの店長は「管理監督者」にあたらず 残業代認める)
 その高野広志氏を取材した記事が日経ビジネスにあった。日経ビジネス2005年10月24日号「現代のチャップリンは叫ぶ・私たちはもう限界です」という特集のハンバーガー店"管理職店長"1日15時間労働で「死を思う」という記事で、(雑誌ネットで立ち読みできる)
 高野さんの仕事は、なぜここまで過酷になったのか。問題の根っこにあるのは、個店の業績管理制度だ。

 店長が忙しすぎるのであれば、アルバイトを新たに採用し、人手を増やせばいい。しかし、高野さんの場合は、そんな単純な方法で、問題を解決するわけにはいかなかった。

 足かせとなったのは、本部との間で取り決める売り上げ、利益の目標だ。日本マクドナルドでは毎年、店長とエリアマネージーの話し合いで、店ごとの業績目標を決める。

 そして、いったん決めた目標は、「よほどの理由がない限り下げられない」(高野さん)。そうした仕組みの中で、高野さんは人を増やしたくても増やせないという状況に追い込まれた。

 (中略)

 店の経営環境が厳しく、売り上げ目標は達成できない。ならばせめて、利益だけでも…。高野さんは自らの査定のことを考え、コストカットに乗り出したが、現実にできることはアルバイトの人件費削減しかなかったという。

 アルバイトを減らせば、当然、店長の仕事はきつくなる。そんな中で、高野さんは、人手とは別の面からも厳しい試練が襲ってきた。(以下略)

 管理職とはいうものの、自主裁量権が与えられているわけではない。ましてや、独自のメニューがあるわけでもなく、せいぜいアルバイトの首を切ることしかないという。まるで、鵜飼いの鵜となって、首はしっかりと会社に縛られて身動きできず、魚を一斉に飲み込む競争をさせられているようで、おぞましいことこの上ない。それでも、みんな管理職を目指すのか。このような名ばかりの管理職をコナカの労組は「偽装管理職」と呼ぶのだという。

 「ジャスト・イン・タイム方式」への疑問でとりあげたトヨタ過労死裁判でも、残業時間は、月106時間(地裁)とも144時間とも言う。両者の共通点は、中途半端に責任を持たせられ、ひたすら自分の体力を消耗する方向に引っ張られていったことだ。これを断ち切らなければ過労死の道に引きずりこまれるのに。一方、マクドナルドの会長は、「今後は現場の状況を本部が、より正確に把握できるようにする。だが、成果を上げられない人までフォローするつもりはない」(日経ビジネス)。成果を上げられないのは、能力が劣っているからといわんばかりである。

 しかし、商品が偽装なら、売っている社員も偽装というのだから、まさに「偽装大国ニッポン」というしかない。これでは中国の偽装を笑えない。だって、向こうは、消費者は偽装であることを知っているのだから。それにだまされるのは、日本の観光客だけ。海外でだまされ、国内でだまされるとしたら、なんと日本人はお人よしの集まりか。

 さて、問題なのは日本の偽装は、偽物を扱っているのではなく、本物を扱っている点である。偽物だったら、この店ではもう買わないと思えばいいのだが、本物だけにそのイメージの低下は避けられない。また、悪意で売ってるわけではなく、仕方なく売っている部分もある。(もったいないと食品偽装)

 本物を偽装してまで売らなければならない理由は何か。それは私たち、消費者が良かれと思って作った法律にある。もちろん、必要な法律もある。しかし、各省庁が主導してできた法律は、それぞれすり合わせができていない。海外から環境問題に関するニュースが飛び込んでくる。その対応のたびに法律が増えていく。たとえば、生産地表示が必要だとしても、省庁によって管轄が違ったり複合食品だったりすると、その部分の法律がなく抜け道になる。法律を作れば作るほど、その矛盾が拡大する。やることは増えるのに、売り上げのために人を増やすことができない。法律が複雑になればなるほど、コストがかかる。ところが、その基準に合わせるために必要な人員がいない。それでさらに、従業員の仕事は過酷になる。消費者が食品に対する疑惑の目を持つたびに、法律は厳しくなり、そのことが従業員に過労を強いる。なんという矛盾であろうか。

 先ほどのマクドナルドの場合、こんなケースがあったという。「日経ビジネス」から、

 日本マクドナルドは、ここ数年、6〜8週間おきに複数の新商品を投入してきた。2000年からの約5年間で発売した新商品、期間限定メニューは合計100近くに上る。本部がこうした策を講じるのは、顧客にとっての店の価値を上げるためだが、現場には少なからず混乱が生じる。増えた食材の発注作業が煩雑になり、調理や注文の取り方など、店長がその都度、従業員を指導しなければならない案件が増えた。
 もちろん、ライバル店との競争もあるだろうし、コンビニなども同じように絶えず目先を変えなければ、顧客を獲得できないことも考えられる。

 メディアが報道すれば報道するほど、風評被害は拡大する。食品の偽装は、リークで火がつくが、管理職の偽装は、裁判で戦わなくては、話題にならない。多くの国民が、その現場を熟知しているが故である。死ななければ、どれほど厳しい職場でも、こんなものだと思っている。わざわざ声を上げないのは、「自分の地位を守りたい」からである。そして、おそらくこう言うだろう。「昔からやってきたのに、なぜ悪いのか」(明大リーダー部)

 この言葉は、おそらく社会保険庁の職員であったり、時津風部屋の兄弟子であったり、「あるある大事典」のスタッフであったり、ミートホープの従業員だったり、あらゆる偽装やリンチを起こした人間たちの言葉でもある。そして、それは自分たちの組織がいかに偽装まみれであることを証明している。それはまた、もうちょっとで人間的な生活を忘れてしまった日本人の悲鳴の言葉でもある。「昔と同じようにやってきたのに、なぜこうなったんだろう」私たちは、彼らに超人を求めてきたのかもしれない。
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