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素人だから言えることもある

東芝が勝ち馬に成れなかった理由(ホームサーバの戦い・第6章)

本当に流れは決まったのか

 本田雅一のリアルタイム・アナリシス:“東芝、HD DVD撤退で調整へ”報道を読み解くによれば、
 東芝本社はHD DVD事業に関して、昨年末までの積極的な発言から一転し、今年に入ってからは「数多く行っている事業の1つでしかない」と西田厚聰社長が発言するなど、かなり冷めたコメントへと変化していた。1月のワーナーショック以後、レンタル事業者のネットフリックス、家電量販最大手のベストバイ、さらに流通最大手のウォルマートがBD支持を打ち出すなど、流通側のBDシフトが明確になったことで、予定よりも早く撤退への方向を模索し始めたと推測できる。

 リーク報道のタイミングからすると、情報がリークされたのは土曜日の午後だろう。このタイミングならば翌日の新聞記事には間に合い、月曜日に東芝が動き始める頃には“東芝HD DVD撤退へ”が周知となり、既成事実化してしまっているのは間違いない。そうなれば、東芝全体の組織としても撤退の方向へと踏み出しやすい。

 今までHD DVD報道のメインであった東芝上席常務 デジタルメディアネットワーク社 藤井美英社長の意向ではなく、本社からのリークではないかという。とすると、藤井氏はずしの動きなのかもしれない。

勝ち馬に成ることと勝ち馬に乗ること

 「勝ち馬に乗る」とは、今回のブルーレイvs HD DVDの場合、ブルーレイを支持する映画会社やシャープや日立など二番手以降の家電メーカーである。「勝ち馬に成る」とは、松下・ソニーのことである。

 東芝は、ブルーレイを選べば「勝ち馬に乗る」ことはできたが、「勝ち馬に成る」ことはできなかった。東芝は、HD DVDによって「勝ち馬に成る」ことを目指したのではないか。

 僕は「勝ち馬に乗りたい」でこんなことを書いた。

 そもそも東芝やNECがなぜ、ブルーレイ陣営にいなかったのか。おそらく、そのままいれば松下やソニーの陰に隠れて埋没し、「勝ち馬に乗れた」かもしれないが、「勝ち馬」とはみなされなかった。それよりも、HD DVDという「勝ち馬」になれるチャンスがあると見切ったのではないだろうか。
 しかし、このような争いは、例の「VHS・ベータ戦争」から端を発したともいえるかもしれない。
 「せめてこれくらいの大きさのカセットがいいなあ」井深が見せたのは、文庫本サイズのソニー手帳である。本格的な家庭用にするためには、とにかく小さくすることが第一だ。(ソニー広報センター「ソニー自叙伝」ワック株式会社)
 ある意味、ベータ方式の問題点はカセットのサイズから始まったため、1時間という短さであったためだ。それに対してVHSは映画が録れる2時間と長時間なことであった。ソニーは「勝ち馬」となるために映画会社を買収していった。コロンビア、トライスター、MGMそれぞれの過去からの数千本の映画コンテンツはソニーにとって有力な資産となる。プレイステーションはもともと、任天堂ファミコンに接続するディスクシステムであった。しかし、幻の機器となってしまい、改めて独自に同じ「プレイステーション」の名前で発売し、現在では世界中に1億台を超えるという。次世代のBD DVD陣営にソニーはかつてのライバル松下をひっぱりこんだ。すべては「負け馬」であったソニーを「勝ち馬」とするためである。
 ソニーが勝ったのは松下を引き入れたことと、アメリカの映画会社ソニー・ピクチャーズを持ったためである。

HD DVDはフォーマット戦争の引き伸ばしのために利用された

たとえば、「マイクロソフト・ユニバーサルが「フォーマット戦争を継続させなければならなかった」理由と著作権問題(ホーム・サーバの戦い・第3章)」の中で、
 「フォーマット戦争を継続させなければならない」ためにパラマウントHD DVDに単独サポート参入を決めたのである。その理由は何か。簡単である。できるだけ消費者を買い控えさせたいのだ。

(中略)

 なぜ、ワーナーがブルーレイ移行に態度表明をしてから数日でパラマウントまでブルーレイに移行(現状では噂であり、パラマウントは移行していない)するのか。それは、マイクロソフトの「フォーマット戦争を継続させなければならない」工作が終わったことを意味する

 と書いた。米映画業界は、本音を言えば、ブルーレイでもHD DVDでもかまわない。それは、「本当に次世代DVD、華開くのか」に、
 一方、マイクロソフトやアップルもそのコンテンツをダウンロードさせるためのセットトップボックスを作り始めている。Xbox360やアップルテレビはHDD容量は少ないものの、セットトップボックスになりうることには変わりは無い。

 このように、視聴者に直接映像を届けることが可能になると、ブルーレイとHD DVDの存在価値はどうなるか。DVDレコーダーやプレイヤーを作っているのはソニーや、松下、東芝など日本企業がメインだ。製造には莫大なロイヤリティーがメーカーに手に入る。コンテンツホルダーとしては、ソフトを大量に売りたいが、売れ残りは増やしたくない。

しかも、売れる時期は広告を出す時期の数週間でその後、急速に売れ行きが落ちる。映像や音楽コンテンツは、どれだけヒットするかを見極めることは大変難しい。また、広告に金をかければ売れるものでもない。そうなると、むしろ、ディスクを製造するよりダウンロード販売したほうが、製造コストは廉価で済むし、わずか1本でも可能だ。こうなると、コンテンツホルダーダウンロード販売をメインに考えていくのではないか。そのことは、つまり日本の家電産業外しである。ユニバーサルが未だに、ブルーレイに入らずにHD DVDに固執する理由、実は日本外しのためではないだろうか。

 いわば、東芝は「勝ち馬になりたい」ために、数百億円の資金を使って、HD DVDにアメリカ映画業界を引き入れたが、結局アメリカに都合よく使われていたわけである。
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