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素人だから言えることもある

HD DVD敗北のもうひとつの説(ホームサーバの戦い・第7章)

 前項「東芝が勝ち馬に成れなかった理由」で、僕は、HD DVDは、米映画業界とマイクロソフトが仕組んだ「ネット配信のためのフォーマット戦争引き伸ばし」説を展開した。
 しかし、日経トレンディでは、増田和夫氏の「【緊急寄稿】東芝HD DVD撤退へ! ハリウッドは「IT」を選ばず「光ディスク」を選んだ」が目を引いた。そこでは、

 今回の予想以上に早い統一劇に、ハリウッド(米国映画産業)の意志が大きく働いたことは確かだろう。ハリウッドは「BDかHD DVDのどちらを選ぶか」で語られる場合が多いが、大局から見ると「ハリウッドはITを選ばずに、日本の家電メーカーの光ディスクを選んだ」と言えそうだ。

 技術的にネット配信が現実的ではない、あるいは配信の実現まで待てないという事情もあるだろうが、ハリウッドがIT産業とのコラボレーションに危険を感じていることは確かだろう。映画コンテンツがサーバーから配信されるようになれば、コンテンツ上映の実権をIT産業に奪われてしまう危険があるからだ。上映回数や課金などの情報もIT産業から受け取らねばならなくなる。Googleマイクロソフトをはじめとする巨大なIT産業とタッグを組めば、「軒先を貸して母屋を取られる」──そうした危惧(きぐ)がハリウッドにはあるのだろう。

 そこで語られるのは、ネット配信はそこまで進まないこと、日米対決よりも、マイクロソフトを中心とするIT産業に危惧を抱いていることだ。確かに、「土管はできた。流すものがない。」で、
 CNET Japanの「料金、速度競争は自らを土管にする行為」--ソフトバンク孫氏、スペインで講演」のニュースで、
「Microsoftという小さい会社があった。20年以上昔の話だが。当時、Microsoftは子犬のようなもので、Hewlett-PackardやIBMから『かわいいね』といわれるような存在だった。それが急激に成長し、いまや巨人となった。携帯電話会社は同じ過ちをしてはいけない」
と引用したが、映画会社のようなメディア産業にとって、IT産業は新参者であり、今までの日本の家電産業との付き合いよりも、危機感を感じているのは理解できる。また、長期にわたって続いた脚本家組合のストライキの原因も、
脚本家組合の要求は、制作物がオンラインなど新メディアで二次利用された場合は収入の2.5%を支払うというものだ。現行のビデオやDVD等へのコンテンツ二次利用に関する脚本家への支払い割合は1985年の契約で定められたもので、二次利用収入の0.3%(20ドルのDVDに対する取り分は5セント以下)でしかない。昨年の映画興行収入は96億ドルだったのに対し、DVDの売り上げは234億ドルに達しており、収入源の柱は二次コンテンツ利用へと移行している。そしてストリーミングビデオや、YouTubeの到来である。

映画テレビ制作者同盟側(AMPTP)は、インターネット・ダウンロードはまだ利益を生んでおらず、今の段階で、収入のシェアを支払うことを余儀なくされれば、新たなオンライン・コンテンツの製作に支障をきたすと主張しているが、脚本家組合はDVDの失敗(コンテンツ二次利用収益配分の低さ)は繰り返せないとして、強硬な姿勢を崩していない。
(長引く米脚本家組合ストライキ(番組ネット配信の利益配分が争点)、アカデミー賞授賞式もキャンセルの危機?)

これもまたネット配信の問題であった。さらに、DVD収入が落ち込み、次世代ディスクに希望を持たなければならない米映画業界の立場もある。バラエティ・ジャパンの「米ホームビデオ業界2007年のDVD売上が3.6%減」によると、
 また、フォーマットをめぐる戦争がDVD売上に影響を及ぼしているという見方もある。デジタル・エンターテインメント・グループによれば、HD DVDやまだ市場に残っているVHSを含めると、年間売上は237億ドルとなり、一昨年の242億ドルの2%減にとどまるものの、新フォーマットは標準DVDの売上不振を埋めるまでにはいたっていないようだ。同社によれば、2007年のブルーレイとHD DVDの総売上は3億ドルで、その内訳は明らかにされていない。

 ブルーレイに1本化する決断を下したワーナー・ブラザーズの幹部が語るように、両フォーマットを支持する姿勢が消費者の混乱を招き、DVD売上不振につながっていることは大いに考えられる。フォーマット戦争の早期解決も、ホームビデオ業界の起死回生の鍵を握っているようだ。

 米映画業界は、ネット配信まで待ってられないし、また、IT産業に牛耳られるのもいやだ。だから、ブルーレイ一本化を待ち焦がれているというわけである。ということは、ブルーレイ陣営もそこに希望を見出すこともできる。増田氏は、
パッケージメディアとして見た場合、BDは意外に息の長いメディアになるかもしれない。光ディスクであるBDはプレス製造によって低コストで大量生産できるが、対抗馬であるHDDやフラッシュメモリー、ホログラムディスクなどはプレスによる量産が利かないため、パッケージメディアとしては失格だからだ。
と意外にブルーレイは息が長くなるのではないかと予測している。
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