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素人だから言えることもある

「誰でも良かった」犯人は、誰でもなかったその他大勢の一人

6月8日の日曜日、歩行者天国の秋葉原で白昼堂々と通り魔殺人が行われた。(GIGAZINEなど)彼は25歳、派遣社員として自動車工場で働いていたという。しかし、派遣社員というのは微妙な職業である。社員ならば、その会社に所属することで、少なくとも自分は「何々の社員」であるということを名乗れる。もちろん、そのことが自分のなりたかった職業であるかどうかは無関係であるが。

ところが、派遣社員は、立場によるが、自分が何者かがわかりにくい。スキルを磨くようにできてないのだ。単純作業の繰り返し、そこには誰でもできる仕事はあるが、特定の人間しかできない作業ではない。つまり、自分が員数として必要だからであり、彼しかできないわけではないのだ。

人が足りないから来いと電話が来る 俺(おれ)が必要だから、じゃなくて、人が足りないから 誰が行くかよ(毎日新聞・誰でもよかった:秋葉原通り魔事件/上(その1) 孤独な心情、サイトに)
犯人は、自分らしさを求めることを辞めたとき、すべての人間とのつながりを切っていく。それは希望を自ら断ち切ることである。
彼女がいれば、仕事を辞めることも、車を無くすことも、夜逃げすることも、携帯依存になることもなかった. 希望がある奴にはわかるまい(Nine Gates of Heaven in Hatena)
もちろん、彼女がいる、いないと希望とは関係ない。しかし、人間としてのつながりの象徴として理解できる。僕は「この国には希望だけがない」の中で、僕は村上龍氏の「希望の国のエクソダス」からこんな言葉を引用した。
この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」(「希望の国のエクソダス」村上龍著/文藝春秋)
「自分は誰か」ということは、日本のように個人主義が弱い国(利己主義ではない)では、その場その場で流されるだけで、まるで根無し草のように漂うだけだ。多くの学生たちは、「自分らしさ」を求めて放浪したり、煩悶したりして漠然としながらも自分のやりたい方向を見つけるのだが、犯人はそれをあきらめてしまった。

このような人間は多い。僕はやはり、「この国には希望だけがない」の中で、やはり村上龍氏の「13歳のハローワーク」からこんな言葉を引用した。

何をすればいいのかわからない」というのが、現在の日本を読み解くキーワードではないのか、ということだ。

多くの政治家や官僚、不良債権を抱える多くの銀行、債務に苦しむ多くの衰退企業、貸し渋りに喘ぐ多くの中小企業、リストラされた中高年、フリーターの若者、社会的ひきこもりの人びと、犯罪に走る少年たち、ホームレスの人びと、彼らはダメになっているのではなく、「何をすればいいのかわからない」のではないだろうか。

「何をすれば」というときの、「何」は、生きる意味や人生の目的といった曖昧なものではなく、どうやって充実感と報酬を得るのか、という仕事に結びつくものではないかと思う。「13歳のハローワーク・おわりに」村上龍著/冬幻舎)

何をすればいいのかわからない」とは、自分がどんな職業に向いてるかわからないということであり、特に、派遣社員の立場がその悩みを大きくしている。

派遣社員でもいい、そこから自分に向いた職業を探せばいいではないかという人もいる。しかし、現状の派遣社員が決して正社員予備軍でなく、ただの消耗品であることは彼ら自身が知っている。
日経ものづくり」のコラム「少し,気が重い一億総付加価値時代」(木崎 健太郎氏)によれば

誰にでもできる仕事(製造現場で言えば多分,ロボットにでもできる仕事)をしているのではもう給料は十分にもらえなくなる。そうなると自分にしかできない付加価値を個人個人が求めなければならなくなります。いえ,自分なりの付加価値を追求することを否定するつもりはありません。しかし日本人一億人全員がそうならなければならないのでしょうか?

(中略)

 ところが現代の日本では,基本的な労働に携わる人は,いつまでもそこから抜け出せないという構造になってしまっているようなのです。文芸春秋2008年6月号の「ルポ 世界同時貧困」にありましたが,日本のワーキングプア層はスキルも高くなく,職業訓練も受けられない。「10年働いたのに時給が10円しか上がらなかったといった仕事を続けるしかない」(同記事から)という人も増えているようです。

 日雇いを長年続けている人(といっても30歳代)の立場では「この生活から脱出する方法はもうないんだと気付くときがあります。そのときの絶望感は,多分,普通の人には分からないでしょうね。70歳まで生きたとして,この生活があと30年以上も続くのかと思うと,死んだ方がマシかなって思いますよ」(同記事から)。

派遣社員の構造が、彼らの希望をつぶしていく。非正規社員が、国民の三分の一に迫る現在、希望なき国民がこれほど増えている。これは大変危機的状況である。
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