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アップルはなぜ、パソコンをケータイにしたか(ホームサーバの戦い・第18章)

アップルとグーグル」(小川浩・林信行著/インプレスR&D) という本を読んで、なぜ、アップルはiPhoneなるケータイを作ろうと思いたったのか。興味がわいてきた。

「電話を再発明する」

 iPhone 1.0の発表は2007年1月9日の「Macworld San Francisco」の基調講演の席上でされた。
 「電話を再発明する」---Jobs氏がMac OS X搭載の携帯電話機を発表によると、
 iPhoneは,解像度160ppiで3.5インチのタッチパネル式液晶を備えたスマートフォンで,携帯電話機能や電子メール機能,Webブラウザ,内蔵型の「Googleマップ」機能,iPodと同等の機能が備える音楽/静止画/動画再生機能を備え,指で操作する。「携帯デバイスには,様々な機能が必要で,洗練されたOSが必要」(Jobs氏)なので,OSには「Mac OS X」を採用した。搭載するWebブラウザは当然ながら「Safari」となる。


 Jobs氏はMac OS Xを搭載するiPhoneが「デスクトップ級のアプリケーションとネットワークを搭載する」と強調する。「われわれはソフトウエアを愛している。だからソフトウエアによって,電話のブレイクスルーを実現する」と語り,「ソフトウエアに真摯に向き合う人間は,自分の手でハードウエアも作り出すべきだ」というAlan Kay氏の言葉を紹介した。

 そのときに、同時に発表されたのはApple TVであり、その日は、
 なおAppleは同日,社名をApple ComputerからAppleに変更した。Macworldの基調講演でも,Apple TVとiPhoneの発表が全てで,新OS「Leopard」などには全く触れられなかった。今回の基調講演は,Appleがパソコン・メーカーから,名実ともに総合デジタル家電メーカーに生まれ変わった日だと言える。(「電話を再発明する」---Jobs氏がMac OS X搭載の携帯電話機を発表)
iPhoneのOSがMac OS Xになった点を冒頭の「アップルとグーグル」(小川浩・林信行著/インプレスR&D) の中で、
 進化したケータイを中心としたデジタルライフスタイルは、今までのようにデスクトップとケータイで分離される世界ではなく、完全に統合された共通プラットフォームと、共有されたデータで動いていく世界である。であるから、その世界を制御するためのシステムも同じでなくてはならない。それを理解しているのがアップルとグーグルである。アップルはMac OS Xを中心に、そしてグーグルはリナックスをベースに開発し、ウェブを使う上での共通仕様を発表している。マイクロソフトがXP、ビスタ、CEなどの複数OSを抱えて苦しんでいることとは対照的である。

(中略)

アップルはすでに、iPod touchiPhoneのOSをMac OS Xに切り替え、OSとその上のブラウザー、そしてMavBook AirにもiPhoneと同じマルチタッチテクノロジーを採用し始めている。つまり、OS、ブラウザー、ユーザーインターフェイスと、基盤からユーザー視点の使い勝手にいたるまでを、極力統一しようとしている

 iPhoneは、その意味で、マックが(パソコンが)ケータイの形に本格的に変化した最初の例証だ。(小川浩・林信行著「アップルとグーグル」インプレスR&D)

江島健太郎氏のコラム「iPhoneという奇跡」では、
 そしてほかでもないiPhoneは、まさにいま、「携帯インターネット端末」の代表たる歴史的地位を確立しつつあるのです。StarTACの栄光は人々の記憶から忘れ去られても、iPhoneは長く語り継がれていくことでしょう。

 そして、Macとともに誕生しWindowsで完成したパーソナルコンピュータという概念が、とうとうiPhoneの登場によって携帯電話と合流してしまったのです。


パーソナルコンピュータにとっての携帯電話とは、典型的な「イノベーションのジレンマ」ですが、アップルは、この決して当事者には克服できないと予言されたジレンマを乗り越えてしまいました。メールやちょっとした調べ事など、ほとんどの日常的な用事が携帯端末だけで完結するようになり、ヘビーデューティーな限られた用途でしかパソコンが使われなくなっていくであろう未来を先取りし、自ら先手を打ったのです。技術経営的な観点からみても、お見事というほかありません。 (「iPhoneという奇跡」)

 江島氏は、パソコンの将来がケータイに集約されていくだろうと考えているのだ。

「ケータイの未来」

 「アップルとグーグル」(小川浩・林信行著/インプレスR&D) でも、
 今はまだiPhoneはパソコンの周辺機器のようなポジションに甘んじているが、ここから先、iPhoneが十分なシェアを奪うことに成功した暁には、アップルは明確に次世代デジタルハブ戦略を打ち出してくるだろう。(小川浩・林信行著「アップルとグーグル」インプレスR&D)
とし、その前段で、
 そして、ケータイの重要度は今後、ますます高まってくる。現在の携帯電話はそもそも自宅の外に持ち出される電話というコンセプトから始まっていることでもわかるように、外出先で使うツールとしての機能が高度化し、利用シーンが拡大している。これからは、自宅の中、家庭内での利用の拡大が新たなフロンティアになってくる可能性が高い。つまり、ケータイはことごとくスマートフォン化し、今後はすべての家電製品との連携の中で、本当の意味でのデジタルハブになっていく可能性があるのである

 たとえば、パナソニックやソニーなどの日本の家電メーカーが本当に世界の携帯電話市場のトップシェアを握っていたら、自社のビデオ機器やテレビをすべてケータイから遠隔操作できるようにするだろう。携帯電話をハブにした新しいエコシステム(生態系)を作り上げることができれば、強大な影響力を世界レベルで広げていくことが可能になる。(小川浩・林信行著「アップルとグーグル」インプレスR&D)

 この考え方こそ、iPhoneはやがてネットサーバーの端末になる(ホームサーバの戦い・第14章)で語った
現在では、まだApple TVとの連携は発表されていないが、将来は、Apple TVでダウンロードされた映画をiPhoneに飛ばし、時間的に見れなかった映画を外出先でも見られるサービスが行われることになるだろう。
と同じ考え方である。

「日本のケータイを阻むもの」

 しかし、パナソニックやソニーなどの日本の家電メーカーが本当に世界の携帯電話市場のトップシェアを握っていないのは、日本の携帯電話の主導権が端末メーカーではなく、ドコモやソフトバンクなどの通信事業者であるキャリアにあるからだという。

キャリア主導の産業構造が携帯メーカーを骨抜きにによると、

通信キャリアが市場構造を牛耳る

 ここで注目すべきは,日本の携帯電話メーカーは,日本市場の携帯電話の取引形態により大きな制約を受けていることである。

 日本市場の携帯電話の取引形態は海外市場と大きく異なる。一つの大きな違いは,携帯電話メーカー自身が直接消費者に販売を手掛けていないことである。日本メーカーは自社ブランドで消費者に直接販売するのではなく通信キャリアへの端末のOEM提供者になり,販売は通信キャリアが一手に担っている。

 携帯電話端末の開発においても,通信キャリアは仕様の決定権を持ち,絶対的な主導権を握っている。加えて,通信キャリアがメーカーに対する発注量や価格をコントロールする特殊な市場なのである。

 この仕組みにより,市場から吸い上げた資金は一旦すべて通信キャリアに集中することになり,産業内の資源の配分は通信キャリアの意向で決まる。実際,消費者が支払う通信サービス料金は端末料金の8〜10倍にも上り,サービス市場と端末市場に不均衡が生じている。


サービス料金で資金を回収している通信事業者に,産業の高付加価値化の資源が偏っているのである。海外市場と違い,日本の携帯電話市場はすべてが通信キャリアを中心に回る構造であり,携帯端末メーカーは独立性を失っている。要するに,通信キャリアのビジネス・バリューチェーンから見た一つのパーツになってしまったわけである。

 そのため、端末メーカーである日本の家電メーカーがケータイを武器にデジタルハブ化することは不可能であり、ましてや国を越えたホームサーバの戦いなど不可能になってしまった。不思議なことに、この構造、日本のテレビ局の構造とよく似ていないだろうか。通信事業者は、放送局であり、端末機メーカーは番組制作会社である。ぼくは、コピーワンス問題からほの見える日米のテレビと映画の立場で、Joostに見るグローバルTVの可能性と限界(後編):日本のテレビ局はなぜインターネット事業に消極的なのかを引用した。
日本ではいわゆる在京キー局が(別会社に制作を委託するにしても)番組の著作権を保有するケースが多い。米国とは異なり,番組(コンテンツ)と放送ネットワーク(メディア)が分離していないのだ。つまり番組はテレビ局の「所有物」である。その所有物を,自らの基幹事業であるテレビ放送と競合するIT企業(Joost)に使わせる理由がすぐには見当たらないというわけだ。
ここに、コンテンツメーカーや端末メーカーが、電波を持つ通信事業者や放送局に服従せざるを得ない基本構造が見えるのである。そして、この両業界が結局、「パラダイス鎖国」といわれる理由でもある。


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