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素人だから言えることもある

小泉の呪い

犬の敵討ちと郵政民営化

 読売新聞にこんな記事があった。
飼い犬殺した厚生省」実は筋違いだった…小泉容疑者「えっ

 捜査関係者によると、小泉容疑者は22日夜に東京・霞が関の警視庁に出頭した直後から、「自分の犬を殺したのは、保健所であり厚生省。自分は犬の敵を討つために生きてきた」などという供述を繰り返している。

 出頭翌日の23日に山口県柳井市の実家に届いた手紙の中でも、「1974年4月に保健所にチロが殺された。その敵を討った」などとつづり、犬の処分の日付や曜日も書き込んでいた。

 こうした小泉容疑者の主張について、取調官が「あなたの言っていることは筋違いではないか」と指摘すると、それまで「官僚は悪い」などと冗舌に話していた小泉容疑者は「えっ」と驚いた様子で、言葉に詰まったという。(読売新聞11月27日)

 しかし、この単純化はなぜか。例え、保健所の管轄が厚労省としてもこれほど単純に厚生事務次官の殺害まで思い至るというのはあまりにも理解できない。せいぜい、保健所の襲撃ならば理解できるのだが。小泉といえば、小泉元首相を思い出す。選挙戦術ではこんなフレーズがあった。
・「自民党をぶっ壊す」と語り、自民党内の抵抗勢力との対決姿勢を演出し、世論の人気を背景に選挙で大勝した2001年の参院選の「小泉ブーム」を再現した。

・「官か?民か?」という単純で分かりやすい選択を国民に求めることにより、「公的年金流用問題」、「大阪市の厚遇問題」などで高まった「官」に対する国民の不信感なども背景に、郵政民営化賛成の世論をつくった。

郵政民営化法案に反対した自民党議員の中には、「郵政民営化には賛成であるが、議論が尽くされておらず、国民の理解が得られないと判断し、継続審議が必要だ」「この郵政民営化は、国民の貴重な財産である郵貯や簡保が外資に奪われる」「この法案では民営化された会社による民業圧迫につながる」と主張 し、反対した議員も存在した。しかし、小泉首相のメディアにおける発言が大きく注目されたことにより、「反対派はすべて郵政族であり、郵政民営化を頭ごなしに反対する勢力」という小泉首相の意見を国民に印象づけた。 (小泉劇場Wikipedia)

 このわかりやすいフレーズは、とてもテレビ的であり、小泉氏のような主流派でない人間にとって有権者を味方につける唯一の方法である。テレビを通して、わかりやすい言葉で国民に呼びかけるという方法しか選挙に勝てる方法がなかったのだ。
 僕は、「テレビ人間論」で佐藤二雄氏の「テレビとのつきあい方」を引用して、テレビ社会の特徴をこう書いた。
(1) スピード病

  ものごとを持続的に考えようとしなくなる。これは致命的だ。何度か登場したハルバースタム氏も「テレビには記憶がない。過去に興味はない。過去は消し去る のみ」と言い切る。なにもテレビのみが元凶ではないが、世の中あげて「忘れたがり」「その場限り」「こらえ性なし」になっている

(2) 目立ちたがり病

 いわゆる全員総評論家現象と言われるものですね。みんなが平気でテレビに出たがるし、テレビに出ている人たちを自分の分身のように見ている」

 「そうそう、テレビ局は、制作者の意図を汲んで一応その線に添って話してくれる人だと安心なので、ご用聞き的存在の万能評論家が政治・経済・文化・風俗…なんであれの番組を引き受ける。私たちも、そんな人は専門知識を有しているはずはない、ほどほどの突っ込みでも仕方がないとわきまえてテレビを見ている。そしてそれがテレビだとなる。ときたま「そうでない人」が現れる、すると、私たちは「これはテレビではない」とチャンネルを回してしまう。ますますテレビ的なものが固まるわけだ

(3) オール甘口病

 甘口病は、わかりやすさですね」

  「それも、「すぐにわかったつもりになるほどのわかりやすさ」だ。テレビではこのわかりやすさが二重になっている。番組を作るほうは、これでもかこれでもかと口当たりのいい糖衣でくるむ。視聴者のほうもちょっとでも抵抗を感じたらポイ捨てしてしまう悪いくせがついている。というのも“ちょっと待っていまのところがわからない”なんていうのはテレビのルールにはないことを、送り手、受け手ともに承知している。(佐藤二雄著「テレビとのつきあい方」岩波ジュニア新書

 当然、そのテレビの特徴に合わせた政治家が現れる。臨床心理士の矢幡洋氏は「アイドル政治家症候群」(中公新書ラクレ)の中で
アイドル政治家症候群とは、

(1)従来よしとされてきた政治家のパーソナリティーを大幅に逸脱するパーソナリティーの政治家が、従来よしとされていた言動を大幅に逸脱した政治的行動をとる

(2)ニュースを提供してくれる政治家を歓迎するマスメディアは、もし人々がそれを喜ぶのであれば、人々が期待する方向に沿った無批判的な報道を行う

(3)有権者は、期待を裏切るネガティヴな情報をもはや好まず、ひたすら熱狂の度を加える

という政治家・マスメディア・有権者の三つの領域の複合した現象ということができる(矢幡洋著「アイドル政治家症候群」中公新書ラクレ

 このわかりやすさが、現在ではテレビ政治家タレントの主流になっている。テレビに登場する政治家たちを見よ、いずれもがこの3つの特徴を備えているではないか。

「官僚は悪」だというわかりやすさ

政治家にとって、官僚を悪者に仕立て上げることで、自分達の政治生命の延命を図っている。なぜなら、官僚は反論しないからである。また、マスコミもそれを利用し、ネタがないときには、いつも「官僚の無駄遣い」がテーマになっている。官僚の悪口を唱えることで、視聴者の溜飲を下げ、視聴率アップに貢献している。小泉容疑者の「犬のあだ討ち」も、保健所の襲撃であったはずが、マスコミで年金問題が取り上げるたびに、いつの間にか厚労省の官僚が悪いという考えにすり替わっていったのではないか。また、最近の劇場型犯罪の犯罪者の傾向として、今ブームになっているところとか、話題になっている場所で事件を起こせば注目されるという計略が働いている。小泉容疑者も、話題になっている厚生省の官僚を襲った点や、警視庁に出頭すれば注目されると考えている点でも「劇場型犯罪」の範疇に収まっているのは理解できよう。
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