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久夛良木氏は、クラウドについてどう考えていたか(ホームサーバの戦い・第61章)

PSはネットに溶けていく

 iPad以後(ホームサーバの戦い・第58章)Steve Jobsの2015年のiPad考(ホームサーバの戦い・第59章)2015年にクラウドコンピューティング革命が起こる(ホームサーバの戦い・第60章)と3章にわたって、これからのホームサーバの戦いについて語っているが、気になったのは、恐らくiPadに対抗できる唯一の日本企業であるソニーの未来計画である。ソニーがこれから展開するソニーオンラインサービス(SOLS)の計画の元は、Playstation Network(PSN)であり、そのコンセプトはPSを考え出した久夛良木健氏にも脈々と流れているからだ。そこで過去の言動から、久夛良木氏は、将来のPSについてどう考えていたかを調べてみることにした。

 久夛良木健氏はソニーを離れるとき、こんな謎の言葉が報道されている。

 久夛良木会長に独占インタビューをおこなったEE Timesの記事には、今後二年間に渡るPS3の計画いわば「クタラギ・プラン」のほか、プレイステーション4, 5, 6の構想など興味深い話題が触れられています。といっても具体的な記述はあまりなく、これから日本版にインタビュー内容が載るかもしれないため一部だけ抜き出すと:

・プレイステーション4, 5, 6の構想は当然ある。将来のプレイステーションはネットワークに溶けてゆく
・取締役会へはみずから退任を申し出た。
・PS3のコスト削減計画・今後二年分の設計モデルについてはすでに遺してある。
・ソニーとは友好的な関係を続けるが、(久夛良木氏の)将来のプロジェクトはほぼソニーとは独立したものとなる。
・欧州でPS3が発売された今、公に次のプランを語ることができるようになった。
・プレイステーションの次の挑戦は、ネットワーク上に新世界を築くこと。(SCE久夛良木会長、プレイステーション4, 5, 6は構想済み)

 なお、EE Timesの記事はすでに削除されていた。この「将来のプレイステーションはネットワークに溶けてゆく。」とはいったいどういう意味か。2007年の記事なので後追いはできなかったが、似たような言葉がブルータスのPS特集号(2009/10/15)の久夛良木健氏のインタビュー記事にあった。
 PS2の発売時、「PS3が今後出るとしたら、どうなりますか?」と聞かれ、「きっとネットに溶けていくことでしょう」と答えました。本当はPS3はネットに溶かしかったんです。ネットに溶かしつつゲームの「リアルタイム性」を実現するために、Cellの構想が生まれた。でも発売当時はインフラや流通の問題もあり、まだまだ世界レベルでの実現が難しかった。(BRUTUS 2009/10/15「プレステのトリセツ」マガジンハウス)
 PS2やPS3では、ネットとつながることはできたが、ネットに溶けていくことはできなかった。だが、その動きはより早くなりつつある。ジョブス氏の言うように、2015年であるかどうかは知らないが。

PSがクラウド化するとどうなるか

 ゲーム機はHD化し、高機能・高容量化しつつある。でも、当然ながらそれにも限界がある。久夛良木氏は、
 ゲーム機やパソコンや家電製品、すなわち「クライアント」機器は、これまでどんどん機能が高度化して、単体でやれることが複雑になってきた。
 でもそれも限界になりつつある。ネットと親和性のないリッチクライアントだけでは「できることの限界」が見えてきた。ユーザーはさらに柔軟で使いやすい、自分の嗜好に近い商品やサービスを求めている。その上で画期的な新体験を望むわけで、ハードウェア機器本体にとどまらない、もっと大きなプラットフォームが必要になる。今後はネットに繫がることが基本となり、クライアント機器のコンピューターとしての情報処理能力自体はさほど問われなくなるでしょう。すなわち「シンクライアント」と、それに対応したクラウドコンピューティング時代の到来です。(BRUTUS 2009/10/15「プレステのトリセツ」マガジンハウス)
 そして、これからは「モノ」よりも「体験」の時代だという。
 大量にモノを作り、大量に販売することが20世紀の繁栄をもたらした。ハードにしろソフトにしろ、工場で大量に「コピー」して届ける時代だった、と言っていい。
 でもネットの時代になればコピーして配る必要はない。トポロジーがすべて変わる。今は革命前夜みたいなもの。みんな、大量生産されたモノ自体が欲しいのではなく、ワクワクする体験や新たな感動を待っている。
 これからは職人やクリエイターが心を込めてそれぞれ個人のために作り上げた手作りの商品やサービス、そしてエンターテインメントコンテンツに、より注目が集まることになるでしょう。
 人間が本質的に感じているのは、心で感じる「体験」。必ずしも物理的な体験である必要はない。旅行にしても、大渋滞の高速道路や何時間も狭い飛行機に閉じ込められて「行く」ことが目的ではなく、目的地に辿り着いてから体験することが本質でしょう? 将来のゲーム機は、グラフィックではなく「体験」をレンダリングするようになるかもしれない。ネットを介して様々なことを「体験」できるようになれば、新しい画期的なエンターテインメントジャンルがまた生まれるかもしれない。(BRUTUS 2009/10/15「プレステのトリセツ」マガジンハウス)
 クラウドコンピューティングが起こるためには、やはり「マスから個人へ」の転換が必要らしい。さて、CNET Japanの記事「久夛良木健氏と麻倉怜士氏が描く、テレビの未来とは」には、未来のテレビの形が語られている。その中から、久夛良木氏の意見に注目してみよう。
 久夛良木氏は今後、あらゆる動画がネット上に存在し、テレビはそれを映し出すだけの装置になると予言する。「IPTVになれば、無数のコンテンツが世界中に存在することになる。電波の場合は周波数が有限のため、チャンネルという概念があったが、これからはチャンネルではなく、コンテンツを見るというエクスペリエンス(経験)の時代になる」(久夛良木氏)
 ユーザーはいつでも好きなときに、好きな端末でネット上にある膨大なコンテンツの中から、好きなものを楽しめるようになるというのが久夛良木氏の考えだ。これまでユーザーは、テレビ局が放送した番組をリアルタイムに見るか、HDDレコーダーなどに録っておく必要があった。しかし今後は、ネットにつなげば好きなものを自由に視聴できるようになると予測する。
 「今まではチャンネルのあるものがテレビだった。しかしこれからは、画面が付いているものはみんなテレビだということになる。どこでもドアのように、見たいものがすべてどこでも見られるようになる」(久夛良木氏)
 YouTubeニコニコ動画など、ネットで動画を見られる環境は整いつつあるが、検索などの仕組みはまだ発展途上だ。今後はこれらの分野の技術革新が進むと久夛良木氏は語る。ネットワークでつながったサーバ群が連携して分散処理し、膨大な計算量が必要な動画でも問題なく扱えるようになるというのだ。
 「いまは文字ベースでの検索やマッシュアップだが、これがぐりぐり動き出す世界がいつかくる。クライアントで処理しようとすると数十年かかるが、複数のアルゴリズムとデータベースがクラウド的につながれば、これまで考えもしなかったようなことが起こるだろう」(久夛良木氏)
 たとえば最近のカメラで標準搭載されている「笑顔認識技術」のように、メタデータがなくても動画の内容をシステムが自動的に理解し、ユーザーが欲しい動画だけを抜き出すといったことが可能になるというのだ。
 そこで求められるテレビの機能については、「HDMIなど最先端の接続機能と、JavaやFlashが動くブラウザ、最新のネット環境が今後数年間利用できるプラットフォームが欲しい。逆に、それ以外は要らないから入れないでと言いたい。新しいプラグインが入れられないといったことはして欲しくない」と久夛良木氏。つまり、柔軟性と余裕のあるプラットフォームだけを搭載し、ネット経由で機能の拡張やカスタマイズができるテレビこそが、今後求められる姿だとした。
 「未来のテレビは桁違いの可能性を秘めている。電波と違って、ネットには国境がない。文字が映像に拡大するだけで、とてつもないことが起こるだろう。10年後ではなく、もっと早い時期に動き始めるのではないか」(久夛良木氏)(久夛良木健氏と麻倉怜士氏が描く、テレビの未来とは)
 決められた放送時間やチャンネルではなく、ユーザーが見たいと思ったときにネット上の膨大なコンテンツから取り出せるクラウドコンピューティングが起きるだろうという。そして、久夛良木氏によれば、テレビもゲームもユーザー個人のエクスペリエンス(体験・経験)こそが大切になってくると考えているようだ。
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