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素人だから言えることもある

欧州の録画事情 (ホームサーバの戦い・第74章)

 新apple TVとtorneに見る日米録画事情(ホームサーバの戦い・第71章) で、僕はアメリカの録画事情を紹介した。いつかは、欧州の事情を紹介しなければならないと思った。そのきっかけになったのは、日本のネット配信の問題とソニーの戦略(ホームサーバの戦い・第73章) である。その中で、日本放送協会 NHKオンデマンド室 小原正光部長のこんな記事を引用した。

 理想は、民放さんが通信でも放送と同じように「無料モデル」が成立するようになることです。そうなっていれば、我々が無料配信しても「民業圧迫」にはなりませんから。つまり、一番いいのは、みんながネットで「広告モデル」を成立させることなんです。新聞でも雑誌でもそうでしょう。ただし、今は「ネットの広告では金がとれない」という話になっている。(西田宗千佳の ― RandomTracking ― NHKオンデマンドから見える「ネット配信」の現状と課題 〜Flash対応の理由とこれからの展開〜)
 この言葉を受けて無料配信をしている放送局を探さねばならないような気がした。ヒントになったのは、
イギリスの公共放送であるBBCは、NHKオンデマンドの「見逃し番組」に近いサービスを無料で行なっている。(西田宗千佳の ― RandomTracking ― NHKオンデマンドから見える「ネット配信」の現状と課題 〜Flash対応の理由とこれからの展開〜)
と言う言葉である。見つけたのは、麻倉怜士氏のリポート記事【IFA2010】「BRAVIA Internet Video」が欧州で大繁盛と言う記事であった。
欧州では元々,テレビ局が無料でIP再放送をしていた。英国国営放送局の放送済み番組がすべて無料で見られるアイプレーヤー・サービスが大ヒットしたことをキッカケに,民放局が一斉に同様のサービスを始めたのである。しかし,これらはパソコン(PC)向けだったためにいまひとつ視聴者が増えず,従ってスポンサーもなかなか付かなかった。それが,BRAVIA Internet Videoではテレビで見られるとあって人気が急上昇,スポンサーも付くようになったのである。
 坂本氏は,「『儲けはないし,サーバー費用は大変だし』と悩んでいた放送局のIP事業担当者に,『テレビに配信したらどうですか。テレビならたくさんの人々が見てくれますよ』と売り込みました。するととても良い反応でした。今では,多くのプロダクションが売り込みにきています。こちらの人数が足りずに対応しきれていない状況です」と,嬉しい悲鳴を上げる。(「BRAVIA Internet Video」が欧州で大繁盛)
 この坂本氏というのは、ソニーの坂本祐司氏(ソニー・ホームエンターテイメント事業本部企画戦略的部門長)のことである。そもそも、ヨーロッパでは、無料配信がすでに始まっている事を受け、テレビにそのサービスを持ってきたわけである。「BRAVIA Internet Video」は、たびたび書いているように、Qriocityのことてある。なぜ、ヨーロッパでこのサービスが始まったか。
 なぜ,放送局に売り込みに行ったのか。「ユーザー調査をしてみたら,テレビとPCをつなげている,つまりPC画面をテレビで見ている人の割合が,米国では16%,日本では12%だったのに対し,欧州は44%もいたんです。驚きました。何を見ているのかを調べたら,キャッチ・アップ・コンテンツだったんです。PC向けに配信された画面を,それでは小さいので,テレビで拡大して見ていたんです。これは商機(!)だと思いました」(坂本氏)。欧州では過去に放送したすべての番組(一週間程度)を無料でテレビで見られるとは,なんと素晴らしいことか。実にユーザー・ニーズにかなったサービスと言えるだろう。日本では,著作権問題などでこのような便利なサービスはなかなか実現しない。(「BRAVIA Internet Video」が欧州で大繁盛)
 勘違いしてもらいたくないのは、ここで取り上げているのは、あくまでもキャッチアップサービスであり、いわゆるビデオオンデマンドではないということだ。日本では、そのサービスさえ、有料である。各国の放送事情が書かれている「NHKデータブック世界の放送2010 」のイギリスのページに、
 2009年3月末現在、ブロードバンドの接続世帯は全世帯の70%に当たる1760万世帯に達し、1年間で8.4%増加した。こうしたなか、各放送事業者はインターネットを利用して、見逃したテレビ番組のキャッチアップサービスを行っている。公共放送BBCは、2007年12月25日からiPlayerを本格的に開始した。これらより放送後7日間は見逃したテレビ番組をパソコンにダウンロードして30日間はそのまま保存でき、またコメディーやドラマのシリーズ放送については、第1話までさかのぼってアクセスできるようになっている。IPlayerは、ケーブル事業者のVirgin Mediaや衛星放送のBSkyBのオンラインサービスでも基本サービスとして提供され、サービス開始から2009年3月末までに3億6000万回の利用を記録した。(NHKデータブック世界の放送2010 )
 思えば、ソニーが「Play TV」を欧州で導入し成功したのも、このような放送スタイルの需要があったためであろう。(欧州のPS3のテレビ録画システム「PlayTV」3月発売か? 参照)

 欧米はこれほど条件が違いながらも、確実にネット配信の方向に進んでいる。ところが、日本は放送局の抵抗にあい(地方民放抵抗の理由(ホームサーバの戦い・第72章)参照)、なかなか進展しない。そのため、日本は鎖国状態のように見える。このままでは、欧米と日本のレベルの差がコンテンツの質の差になりかねないのではないか。
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