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素人だから言えることもある

ソニーのものづくり魂(2)(ホームサーバの戦い・第88章)

井深・盛田対談

前項ソニーのものづくり魂(1)(ホームサーバの戦い・第87章) の続き。今回は、前項と同じく「ものづくり魂 この原点を忘れた企業は滅びる」(井深大著/柳下要司郎編/サンマーク出版)の中の、1986年雑誌「ソニー・ファミリー」に掲載の「二人で歩んだ40年」より。
盛田 戦争に負けたときは、いったいどうなるかと思ったけど、考えてみればいいときに生まれたな。

井深 ああいうドン底からスタートしなかったらソニーはなかったんじゃないかな。

盛田 私は会社がスタートしたとき25歳だったんだけど、その25年間ていうのは子どものころから軍事教育、戦争に行って負けて、25年たっちゃった。だけど、そのあとの25年というのは私の人生の登り坂でしたよ。それでちょうどその25年を登りきったころ、オイルショックがあって世界の動きが一変した。オイルショック前と後ではぜんぜん違ってきた。

井深 そのオイルショックだけど、私はあれは非常に日本にとってハッピーだと思っている。当時からそう言ってたんだ。チャンスだとね。

盛田 あの時は油がない、これは大変だというんで日本中大騒ぎしましたよね。それでイギリスやメキシコが石油を掘り当ててうらやましいなと思ってたけれども、石油価格の暴落でいまや大変なお荷物になっているんですね。今、考えると何もない日本が一番楽でしょう。

井深 僕は方々で講演した時に、何もなかったことが幸いしたと言ってたんですよ。このごろやっとそれが実感としてわいてきたね。

盛田 やっぱりあの時に日本にモノがあったら、ここまでならなかったでしょうね。

井深 しかし、あのオイルショックをよく持ちこたえられたね、日本は。やっぱり企業の力が大きいと思う。

盛田 日本は危機に関してのマネジメントっていうのはうまいんですね。日本人は逆境に立つとなんとかしてしまう。自然に協力し合って一所懸命やるんてすよ。

井深 その代わり、いいときの後始末がヘタだね。

盛田 非常にヘタですね。お金ができてもそれをうまく使えない。やっぱり貧乏性なんでしょうか。日本は。

井深 そうかもしれないね(笑)。しかし、人材教育となると、戦後日本の企業の功績は大きいね。いい素質をたくさん育てた。

盛田 私は日本ぐらい平等な社会はないと思うんですよ。外国でいう大金持ちはいないし、貧民もいない。80パーセントが中流意識って言うでしょ。

井深 これは大変なことですよ。そんな国はないからね。

盛田 しかし、わが社はハングリーな時の方が一所懸命でしたね。

井深 うん。もうちょっとハングリーにならなきゃいけないかな。

盛田 満ち足りすぎて心配ですね。現状に満足しちゃいかん。

井深 やっぱりソニーは新しいものを生み出さなきゃウソだよね。

盛田 組織が大きくなるとフレキシビリティがなくなる。人間も年をとるとフレキシビリティがなくなりますね。“ソウイ”という意味は二つあって“総意”と“創意”がある。企業というのはクリエイティブの方の創意でなければならんのですよ。コンセンサスの総意では、進歩もないし改革もできない。

だけど、クリエイティブであるということは、なんでも人と変わったことをやればいいということじゃない。ときどきわが社でもこの風潮がある。自動車は毎年毎年、新型車が出るけれども、ブレーキとアクセルの位置は必ず同じです。ブレーキは左、アクセルは右と決まっとるわけです。あれを逆にしたらえらいことになる。

ところが、ときどきソニーの中では、とにかく何でもいいから変えればいいというので、ブレーキとアクセルの位置を逆にしたようなものを作ってる。やっぱりクリエイティブにも基本はあるわけでね、思いつきでは困る。

井深 ソニーの製品をシステムで使おうとするとね。コマンダーが4つぐらいいるんだね。どうなってんのかね(笑)。イノベーティブな考え方っていうのができなくなるね。努力はするんだけども……。ウチも気をつけないとね。

盛田 リスクをとるということがやりにくくなってくる。ソニーだって初めはつぶれてもいいくらいのつもりでやってましたからね(笑)。

井深 そうそう。

盛田 つぶれるか成功するかという瀬戸際で、これやらなけりゃもうだめだという気構えでやってるから、思い切ったことができたんですよ。

井深 ふり返ってみると、トランジスタなんかね、僕自身が難しさを知らなかったからよかったと思うよね。あの難しさを知ってたらね、さっきのリスクの話じゃないけど手を出さなかったと思うね。

盛田 井深さんがトランジスタやろうと言い出した時はびっくりしたものね。こんなもので増幅できるのかって。

井深 よく思い切ったよね。

盛田 しかし、大きくなってくると安全運転になってきちゃうんだな。ひとつ間違えると被害が大きいから。

井深 そりゃ、生産体系だってまるっきり違ってきてるからなぁ。ちょっと変えるってわけに行かないしね。

盛田 コンピュータがいろんなところに入ってきて便利になってきてるけど、逆に小回りが利かないからめんどくさい面もある。

井深 そのコンビュータだけども、これだけコンピュータだ、ロボットだ、ってなってくると、これからは企業内における人間の選び方っていうのも、全然違った評価にしないといけなくなってくるような気がする。ただモノを知っていればいいというだけじゃなくてね。

盛田 さっきのトランジスタじゃないけど、モノを知らなかったことが幸いする場合もある。まあ、あのころとは技術の進み方が違いますけどね。えらい速さですよ。

井深 それと金がかかるしね。

盛田 あるところで聞いた話ですけどね、将来の技術予測をさせるとね、学者が一番保守的なんだそうですよ。SF作家の予測はそれよりは上を行くそうです。ところが、現実の進歩というのは、さらにその上を行くっていうんですね。つまりあまりモノを知りすぎると、かえって考えが保守的になってしまうわけです。

井深 コンピュータが第5世代とかいってるけど、あれはコンピュータを知りすぎた人間がやってるから基本的に変わってないんですよ。スピードが速くなるだけで。左脳だけでしか考えてないんだな。左脳は言語、理論、計算なんかをつかさどる。対して右脳は音楽、芸術、信仰といった言葉で表せないものをつかさどる。これからの世の中は、その言葉で言い表せないところが重要になると思うんだ。もうそろそろ右脳で考えたコンピュータを真剣にやらないとね。コンピュータの行く末は知れちゃいますよ。

盛田 モノの考え方のプロセスを変えていかないとね。

井深 コンピュータが進歩して何がわかったかというと、人間の頭とはおよそ違う方へとどんどん進んでるってことがわかってきた。人間の心とか感情っていうのは、全然入り込めないようになっちゃってるんだ。

(中略)

井深 うん。文化論だけれども、ソニーも関係あるね。

盛田 やっぱり今はものの考え方が西洋的になってきましたからね。日本は古来からいろんなものを目標にしてやってきた。中国文化が入ってくればそれに追いつこうとし、日本なりにうまく消化した。西洋文化もしかり。しかし、現在はというと、いろんな面で日本は追いついちゃって、ヘタをするとナンバーワンの部分かある。そうなると追いかけるものがないもんで、どこへ向かって走っていいんだかわからなくて非常に困るわけですね。

井深 これは教育の問題とも関係があると思うね。明治以来、日本の教育というのは、モノ的に追いつこうという教育できてます。精神的にリーダーシップがとれるようになるという教育をひとつもしてないんですね。

物理的な面でここまで進んだ以上は、精神的なリーダーシップがとれなきゃウソだと思うんだ。あいつは金ばかり持ってて何してやがんだ、ってことになっちゃう。それがいまの日本じゃないかな。しかし精神的な部分を築きあげるのは、急にやろうたって並大抵じゃない。やはり子どもの時からインプットしていかないとね。

盛田 日本の政治というのは、マスに頼るんです。行政も前例に頼る。これではクリエイティブになれません。

井深 企業というのは競争があり、利益を出そうというところから始まっている。ところが政治とか行政には競争がないからね。選挙にはあるけど(笑)。これからの日本をどうするってよく言ってるけど、口で言うほど簡単じゃないね。

盛田 これは日本人全体の大問題ですよ。

(中略)

盛田 ひとつの技術をなんとしてもビジネスに結びつけるという貪欲さがなくなってきましたね。昔は何か一つ技術を開発したら、それを売ってかなきゃ食っていけなかった。

井深 ちょっと、こう……くたびれちゃったんだな。テープレコーダーとか、トランジスタラジオとか、ビデオとか、すごいものばかり出してきたんで、それを超えなきゃというプレッシャーがあるんじゃないかな。
いまはね、LSIを使えばどんなこともできるんですよ。科学万博で見たロボットじゃないけど、お金をかけてLSIをたくさん使えば、どんな仕事でもやれちゃうわけ。だからハードウェアで解決できる仕事はますます増えるでしょうね。

ところがソフトウェアとなるとそうはいかない。さっきのコマンダーじゃないけど、使い勝手がまだまだなんですよ。8ミリビデオでだいぶ良くなってきたけれど、まだまだやることはいくらでもある。いまあるハードウェアを組み合わせることで、うんと使いやすくなることだってあると思いますね。

ハードウェアのためのハードウェアを作っていては、どっかで限界が来るような気がするんです。コンピュータがいくら発達しても、人間みたいなひらめきはありませんからね。

盛田 とにかく好奇心がなくなったら人間ダメですね。今のソフト問題にしても、こうすれば使いやすいのに、なぜこうできないのだろうというところからスタートするんじゃないでしょうか。(井深大著/柳下要司郎編「ものづくり魂 この原点を忘れた企業は滅びる」サンマーク出版)

今から25年前の対談である。ニュースとしては古いものの、井深・盛田対談としては数少ない一編であり、これほど率直に「モノづくり」について語ったものはない。

前項ソニーのものづくり魂(1)(ホームサーバの戦い・第87章) の「わが友・本田宗一郎」が、井深氏が本田氏の人生を通して、「ものづくり魂」の精神について語っているのに対し、この対談は、ソニーが大きくなり、なかなかリスクが取れず創業者自らが苦悩し、そのことが25年後のソニーまで続いていることを浮き彫りにしている点で興味深い。
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