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素人だから言えることもある

アップルと任天堂が目指すカジュアル化への道(ホームサーバの戦い・第93章)

デシタルハブの変遷

WIRED VISIONにこんな記事があった。
6月6日(米国時間)に始まった米Apple社の『世界開発者会議』(WWDC)で、『iCloud』の詳細が明らかになった。

Apple社にとってiCloudは、過去に『MobileMe』で失敗した試みに続く、オンライン・ストレージとデータの同期化に向けた大進撃だ。同社のスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)によると、同社は100ドル[日本では9,800円]の年間費用がかかるMobileMeを中止し、すべての顧客に無料で提供されるiCloudに置き換えるという。

iCloudは、この秋に予定されている『iOS 5』オペレーティング・システム(OS)のリリースに合わせてデビューする予定だ。iOS 5は200にのぼる新機能と1,500の新しいAPIを搭載する。開発者はベータ版を現在入手できる。

これまでは新しいiPadiPhoneを購入したときには、まずパソコンに接続してiTunesに接続しなければならなかったが、iOS 5ではパソコンなしで登録できるという。OSアップグレードのダウンロードやインストールも、パソコンへの接続なしで可能だ。(Apple、モバイルとPCを融合する『iCloud』発表)

このiOS 5によって、初めてiPadiPhoneのユーザーは、パソコンから離れることができる。IT mediaのWWDC 2011基調講演リポート:クラウドを中心にしたデジタルハブ――ポストPC時代の幕開けによれば、スティーブ・ジョブズ氏は、この講演の中で10年前の発表に触れたという。
10年前の2001年1月、スティーブ・ジョブズ氏は、Macworld Expo/SAN FRANCISCOの壇上で「デジタルライフスタイル」時代の到来を宣言した。

PCがさまざまなデジタル機器の中枢(デジタルハブ)になっていく、という考えで、例えばデジタルカメラで撮影した写真やビデオをPCに取り込んで編集し、DVDや音楽プレーヤーで利用できるようにする、といった世界を描いていた。

最初は他社のデジタルカメラや音楽プレーヤーとの連携に力を入れていたが、なかなか他社製品にいいものがないことを悟り、アップルは同年中にiPodを発表する。iPodは、まさにデジタルハブを体現したデバイスで、PCにつながないと使うことができない仕様だが、その代わりPCとケーブル接続で同期するというやり方で、圧倒的な使いやすさを実現した。これが世界中の人々に支持され、大ヒットとなった。

やがてアップルは、このiPodの魅力をさらに発展させた携帯電話、iPhoneで人々の暮らしのさらに奥深い部分に切り込みをかけ、これまでになかったカテゴリの製品であるiPadさえ、新しいデジタルライフスタイルの道具としてわずか1年余で定着させてしまった。

今日の発表で、ジョブズCEOはこの10年前の発表を振り返り、デジタルハブが新しい形に変わりつつあることを紹介した。

10年前に描かれたデジタルライフスタイルの構図では、中枢となるハブはPC、つまりMacだったが、今日この中枢になるのは、Macでも、ポストPC機器と呼ばれるiPhoneiPadでもなく、それらを自然に結びつけるクラウドサービス、つまり新発表のiCloudだというのだ。

確かにこの10年で世の中のコンテクストは大きく変化した。10年前のデジタルガジェットといえば、デジタル音楽プレーヤーやデジタルカメラが花形で、いずれもネット接続機能を持たない単機能の専用機であり、PCに接続をしないとほとんど何もできなかった。

しかし、今ではiPhoneiPod touchiPadといった、標準でネットワーク接続機能を持った汎用のiOS機器が世界で2億台使われており、これがカメラとしても音楽プレーヤーとしても愛用されている(写真共有サービスのFlickrで最も使われている“カメラ”は、まもなくiPhoneになるだろう)。

アップルのデジタルライフスタイル構想が第2章に入り、その中枢がクラウドサービスのiCloudになったことで、ケーブル接続も面倒な操作も一切なしですべてがつながり、同じユーザーが使う機器は自動的に同期される――そんな世界が生まれようとしている。(WWDC 2011基調講演リポート:クラウドを中心にしたデジタルハブ――ポストPC時代の幕開け)

PCがすべてのメディアのハブになるということは、ノンPCユーザにとって、近づきがたいことである。ここを開拓しない限り、マーケットを広げることはできない。

このような圧倒的大多数のパソコンを嫌っていたユーザーに、どうやって機器を使ってもらうか、なぜキーボードを廃したiPhoneiPadをアップルが作ったのか。iPhoneを発表した時、ジョブズ氏は、電話を再発明すると語った。

電話を再発明する---。米AppleSteve Jobs CEOは1月9日(米国時間),「Macworld San Francisco」の基調講演でこう宣言し,携帯電話機「iPhone」を2007年6月に米国で発売することを発表した。iPhoneは3.5インチの全面タッチパネル式液晶や,4G/8Gバイトのフラッシュ・メモリーを搭載したスマートフォンで,価格は499ドルから。米Cingularと共同で販売する。

Steve Jobs氏は,開発コード名が「iTV」だったセットトップ・ボックス(STB)の「Apple TV(Appleは同社のロゴマークを使用している)」を正式発表した後に(Apple TVの詳細については本記事最後で紹介する),表情を改めて「今日は3つの革命的な製品を発表する」と切り出した。以前から噂になっていた「全面タッチパネル式液晶のiPod」,「携帯電話機」,「革新的なインターネット・コミュニケーション・サービス」だという。

ただし,それらは別の製品になるのではなく,1つの製品として登場する。それが今回発表された「iPhone」である。Jobs氏は「BlackBerry」や「Tero」に代表される現在の「スマートフォン」をこう批判する。「これらはスマートではないし,使うのが簡単でもない」。特にJobs氏は,スマートフォンの多くがフル・キーボードを搭載し,操作にスタイラス・ペンを使用することを批判し,「キーボードとコントローラでは何も変わらない」と主張する。

それに対してiPhoneは「電話に革新的な新しいユーザー・インタフェース」を提供する」(Jobs氏)という。「われわれは20年前(Macintoshを発表した1984年)に,どのような用途にも使える新しいユーザー・インタフェースと,新しいポインティング・デバイスとしてのマウスをリリースした。現在のスマートフォンのようなスタイラスは誰も使いたがらない。iPhoneは生まれたときから誰でも持っているデバイス,つまり指を使う」。 (「電話を再発明する」---Jobs氏がMac OS X搭載の携帯電話機を発表)( 魔法の杖と携帯端末(ホームサーバの戦い・第31章))

この2007年1月の発表以来、現在のスマートフォンやタブレットはすべてタッチパネルになっていった。そしてようやく、4年たって、本格的にクラウドという脱PCの時代になった。

WiiUのコントローラーがなぜタブレットになったか

任天堂のホームページ「社長が訊く」でこんな対談があった。
岩田 ただ、社外のみなさんは開発の過程をご存じないわけですから、2011年に、これが発表されたのをご覧になったみなさんには、「あ、任天堂はコンソールにタブレットをつけるのか」って見えてしまうのかもしれないなと思うんです。

宮本 ああ、はい、はい。

岩田 でも、僕らがその議論をしていたときって、世の中に「タブレット」というデバイスはまだ一般化していない時代でこれは、ニンテンドー3DSのときとすごく似ているんですけど、社内で議論して開発していたら、ちょうど世の中に投じる頃にそういうものがホットになっている、というのが何か続いているな、という気がしているんです。

宮本 どんどん時代がそうなってきましたね。こう(縦向きに)すればタブレットに見えてしまうわけで。こう(横向きに)すれば、テレビの画面とあわせて2画面のDSとして使えるよね、という(笑)。

だから、DSとのコネクティビティーをやりたいとか、タブレットに近づこうとか、そんなことを思っていたわけじゃないんですよね。

(中略)

岩田 いままでずっと、据置機というのはリビングの中心にテレビという家電製品があって、テレビゲームはずっと、それを利用させてもらうという形でやってきました。

竹田(玄洋)さんはよく、「テレビに寄生している」という言い方をするんですけど(笑)。

ところが、「テレビゲームが自分で独立した画面を持ったら何ができるのか?」 そう考えると、我々が感じていたいろいろな問題が解決できる、ということなんですよね。

宮本 そうです。ここへ来て、家庭にあるテレビがいろんなことに使われるようになったり、テレビのシステムが複雑になったことで電源をたちあげるのに時間がかかったりするようになってきましたよね。

WiiはWiiで、青いランプでおしらせをしてきましたけど、ランプでおしらせできる情報量は限界がありましたし・・・。

岩田 やはり、情報があるかないかしか伝えることができないので、やれることに限りがありましたよね。

宮本 はい。だから、「ああ、何かちっちゃなモニターがテレビとは別にあって、つねにWiiの状態がわかればいいな・・・」ということからスタートしたんです。

岩田 その小さなモニターがどこにあったらいいのか、ということも含めて、すごくいろんな議論や実験をしましたからね。

宮本 そう、画面は大きいほうが魅力的ですけど、「そんな大きい画面のものが予算の中でおさまるはずがない」というようなことも議論になって、二転三転して・・・。

そうこう言っているあいだに、ちょうど時代の流れが追い風になってくれたので、当初から目指していたものに近づけることができた、という感じです。

岩田 ちなみに、Wiiリモコンをつくるときに「どうしたら、ゲームをこれまで遊んでこなかったお客さんにも怖がらずに触ってもらえるものにできるのか?」ということを、ずいぶん議論しましたよね。

そして、「ボタンやスティックがいっぱいあるのはいけないんじゃないか?」という議論を経て、Wiiリモコンはものすごくシンプルな形になりましたよね

一方、今回、この新しいコントローラをつくるときに、そういう流れを見ていた人から、「ボタンやスティックがどうしてつくんですか?もっとスッキリさせればいいのに・・・」という意見が、けっこうありましたよね。

でも、それに対して宮本さんは、「何を考えているんだ!」と強烈に意見されていたのをすごく覚えているんです。あのとき「ABボタンがなくなればいいのに」とか、「十字ボタンなんかいらないのに」という声に対して、宮本さんが何を考えておられたのか、ちょっと話してもらってもいいですか?

宮本 あ、はい(笑)。 いや・・・僕はね、かなり大胆に「潔いことをやれ」とか、 「新しいことにチャレンジする」とか日常叫んでいたりしていますが・・・。その一方で、けっこう、小心者なんです。

岩田 大胆だけど小心者なんですか(笑)

宮本 大胆だけど、やっぱり慎重に。

やっぱりいろんなお客さんがおられるわけで、自分の中にも長年ゲームとつき合っている自分と、はじめての人にとってどう見えるか?を考える自分がいるんですよ

Wiiリモコンのときも、ボタンを減らしていくことで、過去のゲームの作法のようなものを失わないように、「ボタンを減らすこと」をデザインの骨子として推し進めていこうとしていたので、ボタンを1個減らすにしても、一番悩んでいた当事者だったと思っているんです。

岩田 はい。

宮本 だから、「もっとボタンを残してほしい」という意見に対しては「それは痛いほどわかる、だけどあえてここはこうするんだ。その先にもっと新しい操作の標準が生まれることもある。」という意識でWiiリモコンはつくってきたんです。

今回の新しいコントローラになると、タッチスクリーンのあることとか、テレビが映っていなくてもいつでもここで情報が見られることで、数段わかりやすい道具になったわけなんです。

じゃあ、これを使えば、もっといろんなゲームが遊べてもいい、ってなると、多少・・・ この大きさになっちゃいましたから。 だからデザインで、すかしてキレイにおさめることよりは、これでいろんなことができる可能性を持つほうがよいと思ったんですね。 逆に、これがボタンだけのものなら、また相変わらず怖がられる機械になったと思うんですけど・・・。(社長が訊くE3特別編)

ここで強調される「怖がられる機械」とは何か。僕は、「任天堂がWiiで映像配信を始める理由(ホームサーバの戦い・第32章) 」で、宮本氏と岩田社長のこんな発言を引用した。
Engadget:なるほど。でも考えようによってはDSもポータブルHDデバイスみたいなものといえませんか。もうひとつ画面があることで表示面積が増えて、新しいゲームプレイが広がったと。だからHDゲーム機もただグラフィックが細かくなっただけではなくて、増えた解像度で別の情報を表示するような使い方があるんじゃないでしょうか。

宮本:そういうことはあるでしょうね。でもとりあえず、まずインタフェイス含めたダイナミックな変化というものが必要で、それはなぜかというと、いまのゲーム機は、ゲーム機であるがゆえに遊ばないって人がたくさんいるんですね。世の中には。

もっと高精細なテレビでマルチスクリーン化していろいろ使ってということもそれはそれとして有効なんでしょうけども、そういうことをやってもゲームが複雑だからとか、ゲーム機やコントローラが邪魔になるから部屋に置かないで欲しいとか思っている人はたぶん戻ってこないですね。もっと大勢の人がゲームを興味を持ってくれるようになれば、また画面の性能とかそういったものが重要な要素に戻ってくるんですけど、いまはそれ以前のところで、大きなお客さんを逃していってるのがゲーム産業の一番大きな課題だと思っています。(Engadget&Joystiq 宮本茂インタビュー)

「子供がテレビゲームで遊んだ後、コントローラーが片付けられていないのを見て、お母さんがきーっとなっているとか、家には既に複数のゲーム機があって、お母さんはもう1台もいらないと思っているとか、とにかくゲーム機は邪険に思われていたんです。だから、家族の誰からも嫌われないようにしないと、ゲーム人口の拡大なんかできっこないというのが、まずありました」 お母さんは高性能に喜ばない。だから、技術を基点とする設計は意味がない。では、お母さんは何を嫌い、何に喜ぶのか。お母さんのご機嫌を基点とする発想が、Wiiを特徴付けていく。(井上理著「任天堂“驚き”を生む方程式」日本経済新聞出版社)

遊ばない・嫌われる・怖がられる人とはだれか。それは、この場合は、お母さんであり、ゲームに関心がない人である。これらの人たちは、ボタンだらけのコントローラーはわからないから嫌う。

これはまた、ジョブズ氏の言うPCについているキーボードのことである。僕は、「iPhoneやDSが暗示するタッチメディアの可能性」でこんなことを書く。

テレビに比べ、パソコンがもうひとつ売れないのは、キーボードの問題である。キーボードさえなければ、もっと感覚的に動かせるのに。そう思った人も多いだろう。だが、テレビもハイビジョンになり、地上デジタルだの、プラズマだの、 BS だの、 HDMI だのわけのわからない言葉のオンパレードである。任天堂 DS や Wii が売れたのは、コントローラーやキーボードを操作する感覚でなく、直接自分で手触りできるという感覚が受けたのだろう。これは、タッチスクリーンやタッチディスプレイなどのタッチメディアがこれから大流行するのではないだろうか。

コアとカジュアル

任天堂の対談のラストにこんな話があった。
岩田 もうひとつ、Wiiが発売されてしばらくして、ゲームメディアやゲームファンのみなさんの認識が、Wiiはファミリーでカジュアルな機械というポジショニングとなり、マイクロソフトさんやソニーさんのゲーム機は、非常に似たポジションで、ゲームを熱心に遊ぶ人たちのための機械、というようなものになりましたよね。

いわゆる、カジュアル向けとコア向けという分け方です。

私自身は、コアゲーマーという言葉の定義はもっと広いもので、いろんな方向への新しいチャレンジに、貪欲につき合ってくださるのがコアゲーマーの定義ではないのかなと思っていたので、ステレオタイプなコア対カジュアルという言い方には、違和感を感じていました。

その一方で、Wiiがすべてのゲームを好きな人たちのすべてのニーズに応えられたとはもちろん思っていませんから、そのこともちゃんと解決したいと思っていました。

今回のE3でのプレゼンテーション上のキーワードでは「deeper and wider(より深く、より広く)」としましたが、私自身はこの「Wii U」でそういう提案をしていきたいと思っているんです。 当然、Wiiのときには、widerはすごくやっていたとだれもが認めてくれていたと思うんですが、deeperもある部分ではかなり取り組んだはずですが、それが世の中の認識では、 「ああ、任天堂はカジュアルね」というふうにどんどんなっていった印象もありますから。

そもそも、いまのコア向けのゲームと呼ばれているものの構造の基礎のある部分は、間違いなく宮本さんのアウトプットが元になったはずなんですから。

宮本 そうですね・・・どうしてもコアとカジュアルというようにジャンル分けされたほうが認識しやすいので、メディアのみなさんにもそういう傾向はあるんですけども、ゼルダなんかを見てもらったらわかるように、任天堂には、かなりコアなつくり込みをするメンバーがそろっているんですね。

ですから、僕ら自身はあまり意識していないんです。

ただ、「HDという選択をWiiのときにはしなかった」ということが、いまコアとカジュアルを分けている大きな要素になっていて、もちろんそれ以外にも、コントローラの問題、課題とか、ネットワークの機能とか、いろんなものはあるんですけど、やっぱり一番みなさんにわかりやすいところではHDが大きなポイントだったんじゃないでしょうか。

今回のハードというのは、HDとしては同じようなことができて、その上に、この新しいコントローラを使う新しい構造が付加されているんですね。だから、いままでのコア向けと呼ばれるゲームが、さらにおもしろい構造に発展するチャンスを持っていると思うんですよ。

そういう意味では、コア、カジュアル関係なくいろんなゲームが出てきたらうれしいなと思っていますね。

岩田 いまの、コア対カジュアル論は、何か解けない対立のように論じられているんですけど今回の「Wii U」の提案で、そのコアカジュアル論が変わる可能性があると思うんですよ。

いままで、両者の間にあった障壁は、何となくのイメージで、実は心理的なものにすぎないのではないか、とも思うんですね。

たとえば、ゼルダは間違いなく骨太なお客さんのゲームとしてずっとつくられ続けてるわけで、任天堂にそういうものがないわけじゃないんですよ。それなのに、心理的には「任天堂=カジュアル」と考えておられる方も多いんです。

この「Wii U」で、ちゃんとその心理的な壁が壊せていけたら、「ゲーム人口拡大」という私たちの目標が、次のステップに行くというか、お客さんの数が増えて、新しい人が入ってきて、その人たちの中から、もっと凝った操作、深い遊び込みの要素に反応してくれる人たちが育っていって、結果的にその人たちがものすごく熱心なゲームのファンにもなってくれるということが可能になると思うんです。

そもそもゲームの歴史ってそうだったはずなんですから、その流れがなくならないようにしたいと思っているんです。 それが、本当の意味での“みんなのゲーム”なんですよ。

“みんなのゲーム”というのは、 ただ広いだけじゃなくて、深さを持ったみんなのゲームだと思うんですね。

宮本 そうですね。今回は、リビングに置いても、プライベートの部屋に置いても、それなりの機能を発揮するという機械になってきたような気がするんですけどね。

岩田 では最後に、任天堂がこの「Wii U」を、お客さんにお届けするにあたって、世界中の、これを見てくださっている方々に、宮本さんからのメッセージをお願いできますか?

宮本 そうですね・・・。やっぱり長いビデオゲームの歴史の中で、やっと任天堂のハードだけで遊べるようになりました、ということですね。

いつもテレビにお世話になっていたけど、やっと親から独り立ちしました、みたいな感じなんです(笑)。

岩田 はい。

宮本 この機能が、たぶん、いろんな据置型のビデオゲームの限界を変えていくと思うので、世界中のゲームをつくっている人たちが何を生み出してくれるのか、期待して見ている部分もあります。

みなさんに積極的に生活の中で使ってみてほしい、と思っています。

岩田 僕らが長年議論した、「リビングルームにある新しいゲーム機の姿」、「ゲーム機の使われかた」が、この構造でいかに実現できるのか。それは、責任重大だとも思うし、わくわくもするし。そんな気持ちで、これから発売に向けてがんばります、っていうことですね。

宮本 はい、そうですね。家でもフルに使われる機械にしたいと思っています。 「これなしの生活には戻れない」と、そんなふうに、なればいいなと思っています。

岩田 これを読んでおられるみなさんだけじゃなく、みなさんの家族全員にそう思ってもらいたいですね。(社長が訊くE3特別編)

僕は、このエントリーをとりあえず「カジュアル化への道」としたのは、この対談でいう、Wiiはファミリーでカジュアルな機械という意味ではない。

もちろん、PS3やXbox360の層が圧倒的男性ゲーマーが多く、任天堂がファミリー層が多いというのは承知の上だが、もっと幅広くゲームをする層とゲームをしない層、アップルの場合もパソコンを使う層と使わない層を指して、これらの使わない層が、タッチパネルなどの機器を通してゲームやiPadを使う層に進出していくことである。

つまり、マイノリティだった使う層が現在ではマジョリティになる、そのことをカジュアル化するという意味で呼んだのだ。

ゲーム据え置き機の限界

ところで、後半に出てきた「据置型のビデオゲームの限界を変えていく」というのは面白い考え方だ。

任天堂のゲームは、比較的低年齢が多く、ゲーム機がリビングに置かれる。一方、PS3やXbox360の対象は高く、自分の個室におかれることも多い。「WiiU」によって、これが変化するかもしれないというのだ。

岩田 ネットワークにつながってない人にとっての答えの中で、宮本さんがいま一番注目している可能性はどこですか。

宮本 新しいコントローラが可能にする新しいマルチプレイのプレイスタイルはもちろんですが、ふだんのテレビ放送に対してのゲームのあり方ですよね。

いまはやっぱりゲームというものが、「子どもさんがゲームを遊んでしまうと親御さんはテレビを取られる」となり、「親御さんがテレビを見ていると子どもさんは遊ばせてもらえない」という構造になりがちですが、新しいコントローラによって、明らかに共存できるような形になってきましたし・・・。

岩田 これまでは、その対立によって、「リビングルームにゲーム機が来ることはすばらしいことなのに、リビングルームにゲーム機を呼んでしまったので皮肉なことに遊ぶ時間が制限されてしまった」っていう、別の問題が起きていたわけですよね。

宮本 そうでしたね。 (社長が訊くE3特別編)

WiiU」では、コントローラーをテレビから離しても、コントローラーの液晶によって自分の部屋で操作することもできる。これは、ある意味、前項「これからはトランスファリングが主流になる?(ホームサーバの戦い・第92章) 」のトランスファリングを自宅限定ながら、達成することができるということだ。

トランスファリングとは、対応するゲームは限られるが、リビングのPS3とセーブを共有しているPS Vita(年末発売予定)でゲームの続きを操作できるというシステムだ。それが、「WiiU」では1台で可能になるかもしれない。

いつも誰からも嫌われないゲーム機を作ろうとしている任天堂らしい発想であり、それがいつの間にか、PS3とPS Vitaの連携とかぶっている点が面白い。もっとも、そこまでユーザーが考えて「WiiU」を買うわけではあるまいが。
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