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素人だから言えることもある

日本にジョブズは誕生するのか

こんなツィッターがあった。

ジョブズが日本に居ないからいいのよ。彼のような人間は日本に誕生しないし、誕生しても、50代前にもう特に牢屋か精神病院に居るはず。
https://twitter.com/#!/sohbunshu/status/122519651983949824
これを書いたのは、評論家の宋 文洲氏。このツィッターは、
どこの新聞も「若者よ、ジョブズに続け」的な社説やコラムを載せているが、その前に、ジョブズは記事を書いている自分達と同年代だという事を、記者達は思い出した方がいい
https://twitter.com/#!/aoi_mokei/status/122462993282895872
の返答として。宋氏は、それにつづけて、
ペプシーを砂糖水の会社と呼び、海軍を海賊以下といい、マイクロソフト(小さくて軟い)をビルゲイツの下半身を揶揄したりした。そんな行かれたやつが日本社会で生きていける訳がない。
https://twitter.com/#!/sohbunshu/status/122521393303789568
と書いた。つまり、日本ではこのような人間は非常識であり、今の日本では人間性が疑われてつぶされるというのだ。池田信夫氏は、ジョブズ氏は独創的でなかったとして、
ニューズウィークにも書いたように、ジョブズは長期的なビジョンを語ったことはなく、まったく新しいアイディアを創造したこともない。むしろエンジニアにとっては常識だった新しい技術を商品として実現したことが彼の功績だ。

(中略)

イノベーションにとって最大の問題は、新しいアイディアを思いつくことではなく、それを商品化することだ。大企業になるとソニーのように社内政治がひどくなって、レコード部門との利害対立でMP3プレイヤーが製品化できないといった擬陰性が増える。問題は技術ではなく、開発から製品化までの距離を短くして、擬陰性を減らすことだ。

ジョブズは、アップルを脱統合化してハードウェアをアウトソースし、彼のmicromanagementによってすみずみまでコントロールした。工業化社会では工程は複雑化し、組織は官僚化して、商品は凡庸になりがちだ。それを逆転して、個人的な思い入れを商品化できるサイズに企業の実質的な規模を小さくしたことが、彼の本質的なイノベーションだ。新しいアイディアを思いつくのは、ただの発明家である。イノベーターは作品を出荷するのだ。(真の芸術家は出荷する)

ジョブズ氏のワンマン経営が可能になったのは、ニューズウィークの池田氏のコラムによると、アップルの内紛のためだった。
アップルは、ジョブズを追放してからも内紛が絶えず、経営者が交代するたびに経営方針が変わり、多くの幹部社員が辞めていった。巨額の赤字を出し、CEO(最高経営責任者)の仕事は買収してくれる企業をさがすことだった。しかしマイクロソフトとの戦争の敗者を買収する会社はなく、異例のCEO不在という事態になり、ジョブズに懇願して「暫定CEO」として迎え入れたのだった。

このためジョブズは、まるで創業のときのようにすべての決定権をもち、当時の役員をすべて辞任させ、製品系列を大幅に削減して大量の社員を解雇した。その結果、アップルはよくも悪くもジョブズの「ワンマン企業」になったのだ。これがジョブズがアップルを生まれ変わらせることができた第一の原因である。普通は、アップルのように全世界に現地法人をもつ大企業を一人で経営することはできない。経営陣のゴタゴタも、各部門を担当する役員の内紛によるものだった。しかしジョブズは、35系列あった製品を5系列に絞ることによって、こうした社内政治をなくし、彼がすべての製品を直接コントロールした。(スティーブ・ジョブズの「生涯で最高の出来事」)

事実、ソニーがアップルの買収を考えたことがあった。僕は、「ジョブズとソニー」で、こんな引用をした。
アップル社は倒産の危機に瀕しているように思えた。その株価は、1992年には1株当たり60ドルだったものが1996年末には、17ドルまで落ちていた。そうしている間にも、他のコンピュータ関連株の価格は、2倍から3倍に急激に上昇したというのに。

会社の年間売り上げも、110億ドルから70億ドルへと転落していた。それに伴ってマーケットシェアも、優勝間違いなしの12%から入賞すらできない4%に落ちてしまった。その結果、前年は10億ドルの損失を出し、どうやらさらに数10億ドルを失いそうだった。

数年に渡り、歴代のCEOたち——まずジョン・スカリー、次にマイケル・スピンドラー——は、会社の売却を考えていた。売り先としては、大手の国際的な家電メーカーなど——フィリップス、シーメンス、コダック、AT&T、IBM、東芝、コンパック、ソニー——あたりをつけてはみたものの、買い手は見つからなかった。(「スティーブ・ジョブズの再臨」)

当時のソニーの出井社長は、
92、93年頃のあるリサーチで、ソニーが好きな人とアップルが好きな人はかなり重なっている、という結果が出たことがあります。さっそくアップル社の企業価値を株価評価に基づき算出してみたら、およそ4760億円と出ました。

アップル買収。その可能性を、VAIO開発前の私はかなり真剣に考えた時期があります。アップルを買収して、コンピュータや携帯電話といったソニーの情報機器すべてを「アップル」というブランドにしよう、と考えたのです。(「迷いと決断」)

結局、資金問題で断念したわけだが、買収が成功していたらジョブズ復活は無理だっただろう。いくら雇われCEOであっても、ジョブズ氏がソニーの言うことを聞くとも思えない。

もし、ソニーが内紛のために、アップルのような立場に立ったとしても、アメリカと日本ではあまりにも国民性が違いすぎる。宋 文洲氏の言うように、どれほど才能があっても、まずその企業にふさわしい常識を求めたに違いない。そうしないと、確実に社内でつぶされただろう。池田氏はこう書いている。

このようにジョブズの奇蹟は、シリコンバレーという特異な風土で、大きな失敗を繰り返す中で生まれてきたもので、他の国でまねることは不可能だろう。しかし日本の企業がそこから学ぶことはできる。それは失敗を許し、そこから学ぶことが重要だということである。日本の大企業では、新しいアイディアは複雑な組織の中で生まれる前に死んでしまい、ジョブズのように失敗することもできない。

ジョブズは、アップルから追放された経験を「生涯で最高の出来事だった」と振り返っている。その失敗に学んで彼は視野を広げ、企業を経営する知恵を身につけたのだ。イノベーションのほとんどは失敗であり、失敗を恐れていては創造性は生まれない。日本企業の失敗を許さない組織を、失敗しやすいしくみに変えていくことが必要だ。(スティーブ・ジョブズの「生涯で最高の出来事」)

本田宗一郎氏は失敗した人をなじる会議を「ニワトリ会議」と呼んでいる。
ホンダ(本田技研工業)創業者の本田宗一郎氏は、このような組織を「ニワトリ会議」をする組織として、将来の成長を止めてしまうものだと厳しく戒めました。

ニワトリは、傷ついたニワトリがいると、それを寄ってたかって皆でつついていじめ、しまいには殺してしまうことさえある動物だそうです。本田宗一郎氏は、挑戦したがうまくいかず失敗に終わった人を、傷ついたニワトリになぞらえて、このような戒めをしたのです。

失敗には二種類あります。一つは、手抜きをした、きちんと準備をしなかった、全力を出さなかったといった類の失敗です。これは、二度とそのようなことがないようにと、厳しく指導することが必要です。

一方で、失敗には、「全力で挑戦した。しかし結果が思うようにはいかなかった」という類の失敗もあります。

このような失敗を捉えて、「だから無理だったんだ」「何をやっていたんだ」「君のせいだ」「前のままの方が良かったんだ」等の言葉でなじったとしたら、その挑戦をした人はどのような気持ちになるでしょうか。ましてや、その結果、昇進が止まるなどの人事上のペナルティが与えられるとしたら、どういう感情になるでしょうか。

おそらく強い無力感を覚えるでしょうし、余計なことはやらないほうがいい、と言う感情が芽生えるでしょう。(河合太介+渡部幹著「フリーライダー あなたの隣のただのり社員」講談社現代新書)( 成功と失敗のセレンディピティとニワトリ会議)

また、この「ニワトリ会議」をまとめた「ニワトリを殺すな」(ケビン・D・ワン著/高橋裕二監修/幻冬舎)には、創造のための教訓として、
失敗を奨励せよ。
・経験のないことをやって誤るのは本当の失敗ではない
・進歩のためにはまず第一歩を踏み出すこと。「試してみよ」だ
・ただし、失敗したら原因を追究し、正しく反省せよ
・正しい失敗・正しい反省をした人を攻撃してつぶすな(ケビン・D・ワン著/高橋裕二監修「ニワトリを殺すな」幻冬舎)( 成功と失敗のセレンディピティとニワトリ会議)
と書かれている。日本にジョブズが登場するときは、失敗が奨励されているときである。
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