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素人だから言えることもある

ストリンガー氏の決意(ホームサーバの戦い・第103章)

ソニーの4スクリーン戦略

ソニーのストリンガーCEOは11月11日、ニューヨークで決意を語ったという。
「(英国の)女王はある年を『アヌス・ホリビリス(annus horribilis、災厄の年)』と呼んだが、わたしも同じ思いだ。今年はほとんど全てのCEOにとって困難な年だったと思う。われわれも本当に色々と考えさせられた」


2005年からソニーを率いているストリンガーCEOは、来年3月の今年度末に同氏が辞任するという米紙ニューヨーク・ポスト(New York Post)の報道を否定し、「現職を退くつもりはない。わたしは戦っているし、これからも戦う意欲がある。わが社に困難を乗り切らせるつもりだ」と述べた。

今年は円高、プレイステーション・ネットワーク(PlayStation Network)に対するサイバー攻撃、東日本大震災、タイの洪水と悪条件が次々に重なり、ソニーは業績予想を下方修正して4年連続の赤字になる見通しになった。ストリンガー氏は、さまざまな影響に伴う損失は、全体で30億ドル(約2320億円)前後に上ると推計した。

ストリンガー氏は、「来年末までにはわが社の接続機器は3億5000万台に到達する。その全てでコンテンツを届ける。人びとが最もほしがっているのは音楽、テレビ、映画、ビデオゲームだ」と述べ、娯楽コンテンツと同社製品を結びつけることがソニー復活の鍵になると述べた。

「そういった機器がつながれば、ソニー・エンタテイメント・ネットワーク(Sony Entertainment Network)は(アップルのオンラインエンターテイメントストア)iTunesと同じくらいスムーズに、グローバルにコンテンツを提供するようになるだろう。同じことができる会社は他にないはずだ。当社は他のどの会社よりも多くの人びとに触れているのだから」と、ストリンガー氏は自信を示した。(ソニーのストリンガーCEO、続投して「災厄の年」克服する決意)

今年は、ソニーにとって確かに厄年だった。だが、それでも意気盛んなのは、ソニーの方向性が決まってきたということなのか。最近のソニーの動きを見ていると、ソニー・エリクソンの合弁解消や、サムスンとの液晶パネル合弁解消など、今まで競合会社との提携をやめることで、ハードウェアをソニー独自のシステムに持っていこうとしているかのようだ。アップルが、すべてのハードウェアを一社で統合製造してきたように。Tech Waveの湯川鶴章氏は、
ソニーが5年間にわたって進めてきた「4スクリーン戦略」の研究開発が完成したという話を書いたが、「Chan-Toru」はこの「4スクリーン戦略」の第一歩なのだろう。確かにフツーに便利。

テレビ番組などの動画を大画面で見る、という行為の中心はこれからもテレビになるのだろう。だがその操作は、ケータイやタブレット、PCなどでするほうが便利だ。そしてたまには、番組をケータイやタブレット、PCでも見たいというニーズもある。そうしたこともできるようになるのだろうと思う。

つまり?3つのスクリーンがテレビという1つのスクリーンをサポートする?4つのスクリーン間でコンテンツの共有するーこれが今後のテレビの進化の方向なんだろうと思う。これをどれだけ簡単な形にするのかが、メーカー各社の腕の見せ所になるのだと思う。(ソニーの4スクリーン戦略の第一歩「Chan-Toru」がフツーに便利な件【湯川】)

ソニーの4スクリーン戦略について、AV Watchには、ソニー・エリクソンの合弁解消のとき、こう書いている。
この取引で、ソニーからエリクソンに対して、10億5,000万ユーロが現金で支払われる。ソニーは「ネットワーク対応コンシューマー製品群の中にスマートフォンをより迅速に組み込んでいく事が可能になる」としており、広範な知的財産権のクロスライセンス、及びワイヤレスモバイル技術に関する5つの重要特許群も合わせて獲得する。子会社化は2012 年1 月を目途に、各国において必要な政府当局や監督官庁の承認を得た上で実行される見込み。

子会社化の理由について両社は、「携帯電話市場の中心がスマートフォンに変化し、その 重要性を考慮し、合理的な結論として今回の取引に至った」と説明。エリクソンに関しては、「先進的な技術及び通信サービスのポートフォリオと、携帯端末事業双方を保有することによるシナジーは低下している」という。エリクソンは今後、ソニーとワイヤレス接続の分野で協力し、「様々なプラットフォームを接続するワイヤレス通信の普及を推進し、発展させていく」としている。

ソニーのハワード・ストリンガー代表執行役会長兼社長CEOは、「スマートフォンという成長事業を統合し、同時に、広範なクロスライセンスを含む戦略上大変重要な知的財産権へのアクセスを取得することで、我々が目指す“フォー・スクリーン戦略”の体制が整った。ソニーは、スマートフォン、タブレット、ノートPC、テレビなどをシームレスに連携させ、より迅速にまた強いラインナップで提供している。これらの製品とプレイステーションネットワークやソニーエンタテインメントネットワークを通じて、新しいオンラインエンタテインメントの世界を開拓していく。今回の株式取得により、商品設計、ネットワークサービスの開発、マーケティング活動など多くの事業領域で、商品群を横断した事業の効率性の向上も目指す」とコメント。 (ソニーがソニー・エリクソンを100%子会社化 −スマホの重要性考慮。4スクリーン戦略へ)

この知財戦略は、ハードウェアばかりではなく、コンテンツにもわたっているようだ。EMIの楽曲の著作権を持つ音楽出版社を買収した。
英音楽大手EMIがソニーが加わる連合と仏メディア大手ビベンディに分割買収されることで、世界の音楽産業は集約がさらに進む。市場が縮む中、各社は再編による規模の追求が求められている。投資ファンドなどと共同でEMIの音楽出版会社を買収するソニーは音楽著作権事業で世界首位に浮上する見通しだ。

国際レコード産業連盟(IFPI)によると、2010年の世界音楽売上高は09年比8.4%減の159億3300万ドル(約1兆2270億円)。音楽会社の主力のCD販売は14.2%減と11年連続で減った。EMIはビートルズを生み出した名門とはいえ「四大メジャー」で最も規模が小さく、単独での生き残り断念を迫られた格好だ。

音楽産業はアーティスト発掘やCD販売を手掛ける「レコード会社」、著作権管理の「音楽出版会社」に分かれる。後者はCD販売やネット配信、テレビ放映などを通じて利用料を受け取る。

ソニーは同社子会社とマイケル・ジャクソン遺産管理財団が折半出資する会社を通じ75万曲以上の著作権を保有。130万曲以上の著作権を持つEMIの音楽出版会社が加われば、ビベンディ傘下のユニバーサルミュージック・グループを抜き首位に立つ。規模拡大で経営を効率化でき、自社の音楽ネット配信にも有利に働くとみている。(ソニー、保有楽曲で世界首位 音楽産業3強の戦い EMIを分割買収)

このことによって、ソニーはアップルのiTunesからも当然著作権料徴収もできるが、それよりも世界一の楽曲を持てば、アップルよりも有利にネットワークを維持できることになろう。

ソニーのサイロを壊せ

僕は、ジョブズとソニー(5)「スティーブ・ジョブズ」のソニー部分(2) で、ソニーとアップルの違いを
アップルの場合、社内で協力しない部門は首が飛びます。でもソニーは社内で部門同士が争っていました」。(ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳「スティーブ・ジョブズ1」講談社/p180)
とか、
ひとつは、AOLタイムワーナーなどと同じように部門ごとの独立採算制を採用していた点だろう。そのような会社では、部門間の連携で相乗効果を生むのは難しい。

アップルは、半ば独立した部門の集合体という形になっていない。ジョブズがすべての部門をコントロールしているため、全体がまとまり、損益計算書がひとつの柔軟な会社となっている。


「アップルには、損益計算書を持つ『部門』はありません。会社全体で損益を考えるのです」
とティム・クックも語っている。

もうひとつ、ふつう会社はそういうものだが、ソニーも共食いを心配した。デジタル化した楽曲を簡単に共有できる音楽プレイヤーと音楽サービスを作ると、レコード部門の売り上げにマイナスの影響が出るのではないかと心配したのだ。

これに対してジョブズは、“共食いを怖れるな”を事業の基本原則としている。

「自分で自分を食わなければ、誰かに食われるだけだからね」
だから、iPhoneを出せばiPodの売り上げが落ちるかもしれない。iPadを出せばノートブックの売り上げが落ちるかもしれないと思っても、ためらわずに突き進むのだ。(ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳「スティーブ・ジョブズ2」講談社/p192)

などを引用し、ソニーの中の社内間の売り上げ競争が問題を作り出していると書いた。実際、久夛良木氏が副社長のとき、スゴ録PSXが利益を食い合ってしまった。この問題をストリンガー氏はどう解決したか。ストリンガー氏がやってきたとき、「ソニーユナイテッド」をしようといった。
2005年、会長兼CEO就任直前、ソニー幹部社員1,000人を集め、「マンチェスター・ユナイテッドみたいな話だが、ソニーは『ソニーユナイテッド』になるべきだ」と訓示した。

これは「グループ全体が一致団結すべきだ」というメッセージである。彼は、現在のソニーをこうみている。組織はアナログ的なタテ社会で、縦割りの体質がある。社員はそれぞれの小さなタコツボの中に入ったまま、出てこない。タコツボの壁を横断する形でコミュニケーションを取っていなかった(いわゆる“サイロ型システム”)。これらは、典型的日本社会の特徴とされてきた部分であり、通常の日本人にとってソニーは最もそれらと無縁と思われてきた。しかし外国人であるストリンガーの目には、ソニーこそその悪循環の縮図が展開されていると見えたのである。

ソニーユナイテッドは、「これまでの壁を取り払った会社になろう」というメッセージである。製品ラインや境界線を越えて全社的にコミュニケーションを取ることを求めている。さらに、部門間の垣根を越えた、シャッフルするような領域横断的な文化を求めている。これは、例えば、従来型の古い技術者にとって、頭の切り替えが難しいことである。とすれば、ストリンガーは、技術者の頭の切り替えをも望んでおり、狭い専門知識にとらわれるのではなくソニーのためになる行動を求めている。(ハワード・ストリンガー-Wikipedia)

中鉢氏が社長を退任し、ストリンガー氏がCEO社長に就任時にも、
中鉢氏が退任し、ストリンガーCEOが残ることになるが、自身の経営責任については、「“サイロ(旧来のしがらみ)を壊す”と言って就任したが、すべてのサイロを壊したかといわれるとまだだ。しかしかなり達成し、世界的にうまくやった。日本国内に最も多くのサイロが残っている。そこをもっとやっていく」と言及。また、「自分が体験した最悪の景気後退であるが、新しい方向に向かう、新しいマネジメントを導入するいい機会だ。これが今できるのも中鉢さんが作った基盤のおかげだ」と語った。(ソニー社長交代。ネットワークを軸とした新経営体制に −会長社長兼務に。PSNを核にゲーム/VAIOなど集約 )
アップルはジョブズ氏の個人商店のようなものだった。ソニーがその真似をしようとしてもできはしない。それでも、ストリンガー氏は自分の役割は、ソニーのサイロを壊すことだと自覚していた。ソニーが、アップル並みの力を持つ十分な条件はそろっていたのに、サイロのためにその力を発揮できなかったのだ。

ソニーはちゃぶ台返しを準備している

ソニーの技術開発本部長の島田氏はこういう。
ソニーは次の時代の覇権を握るための仕込みをしている」――。ソニー技術開発本部長の島田啓一郎は明かす。

詳細について島田の口は堅いが、「すでにOSの覇権争いは結果が見えている。その競争に加わるつもりはない。しかし、水面下でもう新しい競争は始まっている。ポスト・フェイスブックやポスト・ツイッターも含めて考えなければならない。もちろんソニーはその準備をしている」と続ける。


いくつかのテーマについて専任者を張り付け、次世代プラットフォームの覇権を握る研究に着手しているという。ソフトウエアの力だけで魅力的な仕組みがつくれるとは限らないと見ているのか、材料や電子部品、デザイン、ネットサービスなどさまざまな切り口から総合的な検討をしているもようだ。

プロジェクトのポテンシャルを問うと島田は「(アンドロイドやフェイスブックなど)現在の産業のちゃぶ台をひっくり返す」と答えた。数年のうちにはプラットフォームの一端が見えてくるという。

タブレットなど自社製品へのアンドロイドの搭載について島田は、「他社への迎合などではない。いい技術が手に入るなら、それはそれで使うということ。それで浮いた人的資源を(OS以外の部分での)差異化に使う」と語る。そうやって目の前の製品需要に対応しつつ、次の時代を制するプラットフォーム確立の努力を続ける。「それがソニーの遺伝子だ」と島田。仮に成功すれば、盟主の座を逃した「2003年の屈辱」へのリベンジになる。(ソニー、覇権奪回へ 動き出した極秘プロジェクト)

今年は、iPodが生まれて10周年だという。ウォークマンが、iPodに逆転されて、8年たったわけだ。しかも、ジョブズ氏の最後の夢(ホームサーバの戦い・第102章) で触れたように、ジョブズ氏は、ソニーの牙城、テレビを狙っていた。いくら、コモディティ化で赤字を垂れ流しても、テレビまでアップルに主権を取られるわけにはいくまい。ジョブズ氏の死後になっても、ホームサーバの戦いはますますヒートアップしてきた。
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