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素人だから言えることもある

フェイスブックとグーグル

ようやく、「フェイスブック若き天才の野望」を図書館から借りることができた。僕は、「スティーブ・ジョブズ」のような話題の本を除いて、わざわざ自腹で買って読むことはしない。今回の本は、たまたま予約していた本の順番が来たので、読むことができた。

ジョブズとソニー(4)「スティーブ・ジョブズ」のソニー部分(1) 」「ジョブズとソニー(5)「スティーブ・ジョブズ」のソニー部分(2) 」では、ジョブズの考えるソニーについて取り上げたが、今回も「フェイスブック若き天才の野望」(デビッド・カークパトリック 著/滑川海彦・高橋信夫 翻訳/小林弘人 解説/日経BP社)の中から創業者のマーク・ザッカ―バーグたちがグーグルについてフェイスブックと比較する部分をとりあげる。

グーグル――サンドバーグの古巣であり、紛れもなくインターネット広告の王者――は、ユーザーが欲しいとすでに決めているものを探す手助けをする。これに対してフェイスブックは、ユーザーは何が欲しいかを決める手助けをする。

グーグルで何かを探すと、検索ボックスに打ち込んだ単語に応じた広告が表示される。その広告がユーザーにとって当を得ていることが非常に多いため、このプロセスはグーグルに何十億ドルという金をもたらす。しかし、ふつうユーザーがそこでクリックするのは、自分が探しているとわかっているものに応じた広告だ。広告用語で言えば、グーグルのアドワーズ検索広告は「要求を満たす」。

対照的に、フェイスブックは要求を生み出す。グループはそう結論した。それが長年テレビを支配してきたブランド広告のしていることであり、広告宣伝費の大半が費やされている場面でもある。ブランド広告は人の脳に新しいアイデアを注入する――ほら、あなたはこれにお金を使いたいはずですよ。しかし、その種の広告がグーグルでうまく働いたためしはない。(デビッド・カークパトリック 著/滑川海彦・高橋信夫 翻訳/小林弘人 解説「フェイスブック若き天才の野望」P379-380/日経BP社)

確かに、検索欄の広告をクリックするより、フェイスブックで友人が紹介した商品をクリックする可能性のほうが高いかもしれない。
透明性をいっそう高めることを必然とする信念の一方で、ザッカ―バーグは当然そこから導かれる問題を懸念していた――誰がユーザーの情報を制御するのか。彼は言う。

「世界がますます透明な方向へと動いていくことは、次の10年、20年に起きる変革のほとんどを後押しするトレンドになるだろう。ただし大規模な暴力行動や政治崩壊がないことが前提だ。しかし、どうやってそれが起きるかという大きな疑問が残る。誰かに透明性についてどう思うかを聞くと、頭の中にマイナスイメージを浮かべる人もいる――監視世界の光景だ。本当に陰惨な未来を描くことだってできる。果たして透明性は、集中した権力を分散化するために使われるのだろうか。ぼくは、透明性が高まっていくトレンドは不可避だと信じている。もっとも、この側面【われわれが常に監視される社会になる】がどうなるかは、正直なところぼくにはわからない」

「シナリオを2つ書いてみよう。それぞれシリコンバレーのふたつの会社に対応している。ここまで極端ではないが、彼らはスペクトルの両端にいる。一方の端にいるのはグーグルで、この会社は主として現在進行中の物事を追跡することで情報を取得する。彼らはそれをクローリング(這い回ること)と呼ぶ。ウェブを這い回って情報をかき集め、自分たちのシステムに持ち帰る。地図をつくりたいと思えば、みんなの家の写真を撮るワゴン車を大量に手配して、彼らのストリートビューシステムに使う。そして、彼らが広告のために人々のプロフィールを組み立てる方法は、ダブルクリックとアドセンスのクッキーを通じて、みんながウェブのどこへ行くかを追跡することだ。それが、人の興味に関するプロフィールを作る彼らのやり方だ――グーグルはすごい会社…」

彼がためらう。

「だが、これを論理的にとことん押し進めていくと、ちょっと恐ろしくなることがわかるだろう。反対の端でぼくたちは、違うやり方があるはずだと考えて会社をスタートさせた。みんなが共有したいものを共有できるようにして、何を共有するかを制御できる良いツールを渡せば、さらに多くの情報が共有されるようになる。しかし、全員とは共有したくないものを、全部フェイスブックで共有することを考えてみてほしい。クローリングやインデックスされたくないものだってある――家族旅行の写真や自分の電話番号、会社のイントラネットで起きたことすべて、あるいは個人間のメッセージやメールなど。だから、多くのものがどんどんオープンになっていく一方で、全員に対してはオープンでないものがたくさんある」

「これは今後10年、20年で最も重要な問題のひとつだ。世界がますます情報を共有する方向に進む時、それが確実にボトムアップで行われる、つまり人々が自分たちで情報を入力して、その情報がシステムでどう扱われるかを自ら制御できるようにする必要がある。どこかの監視システムに追跡される集中制御方式ではなく、これは世界のために決定的に重要なことだと私は思っている」

彼は少し気恥ずかしそうに笑い、熱が入りすぎて見えたことに気づいたようだった。

「これはぼくの人間の中で非常に重要な部分で、ぼくがいつも真剣に考えていることだ」

ザッカーバーグの高尚な論調をよそに、フェイスブックの立場がまったくの無害ということはない。グーグルはともかくとして、フェイスブックが常に個人情報を慎重に保護してきたわけではない。出だしで個人情報の扱いを誤ったものに、ニュースフィード、ビーコン、そして利用規約がある。2009年末には、個人情報のプライバシー制御の改定で、「全員に公開」をデフォルト(既定)の設定にしたことで厳しい批判を相次いで浴びた。

データを他人の略奪行為から保護する仕組みがいくら提供されていても、会社としてのフェイスブックは常にわれわれのデータを見られる。フェイスブック自体は中央集権であり、われわれに関するこのすべての情報を、一企業の傘の下に集めている。ザッカーバーグが情報略奪者から人々を守ることの重要性に関して、ここまで情熱を傾けていることには勇気づけられる。しかし、フェイスブックユーザーにとって、彼のこの善意を永遠に受けられるという保証はない。最悪のシナリオとして、将来いつかザッカ―バーグが自ら創った会社の支配を失った時、フェイスブック自体が巨大な監視システムになりかねない。(デビッド・カークパトリック 著/滑川海彦・高橋信夫 翻訳/小林弘人 解説「フェイスブック若き天才の野望」P471-474/日経BP社

情報を一手に握るということは、当然ながら狙われやすいということだ。果たして、プラットフォームは一社に収まることがよいのかどうか。結局、情報を載せる方も慎重になるべきだろう。訪れる人が善意だとは限らないのだから。
ザッカーバーグの大局観のアドバイザーで取締役会メンバーのシールが、グーグルについて似たような点を指摘する。2人は時間をかけて話し合ったに違いない。

「グーグルはいろいろな意味で、驚くべき創立ビジョンを持つ驚くべき会社だ」とシールは言う。

「しかし非常に深遠な違いだと私が思うのは、グーグルがその根本で、このグローバル化プロセスが終わった後、世界の中心はコンピュータになり、すべてをコンピュータが行うように信じていることだ。おそらく、グーグルがソーシャルネットワーキング現象で機会を逸した理由のひとつがそれだろう。グーグルをけなすつもりはまったくないが、グーグルモデルでは情報が、世界の情報を体系化することが、最も重要なのだから」

フェイスブックモデルは根本的に異なる。完全なグローバル化に関して私が最重要だと思っていることの中に、ある意味で人類はテクノロジーを支配するものであり、その逆ではないということがある。会社の価値は、経済的、政治的、文化的――何の価値であれ――一番大切なのは人であるという考えに端を発している。世界中の人たちが自らを組織化するのを、手伝うことが一番大切なことだ」

ザッカーバーグとシールが指摘する対比のうちいくつかの様相は、すでに明白になっている。フェイスブックは、世界中の情報をインデックスして整理するというグーグルの使命に、明確な脅威をもたらしている。(デビッド・カークパトリック 著/滑川海彦・高橋信夫 翻訳/小林弘人 解説「フェイスブック若き天才の野望」P474/日経BP社)

両極端とはいえ、フェイスブックがグーグルのことをこのように考えているというのは大変興味深い。
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