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ソニーのSCE化でアップルに対抗できるか(ホームサーバの戦い・第108章)

アップルとソニーの手法の違い

ロイターの記事でソニーの平井次期社長はこんなことを語ったという。
4月1日付で平井氏は、副社長から社長兼CEOに昇格する。2005年から会長兼CEOを務め、今年6月の株主総会で会長を退くハワード・ストリンガー氏について平井氏は「『ソニー・ユナイテッド』のスローガンでソニーのさまざまな事業をまとめてきた」と評価した。その上で「私はそれを受け継がなければならない。スローガンは『ワンマネジメント・ワンソニー』だ」と述べた。

平井氏は「ソニーはハードを重視する会社になるか、ソフト重視の会社になるか」との質問に対し、「ハードもソフトもコンテンツサービスもすべて重要だ」と答えた。自身の出身母体のSCEを例に挙げ、「SCEはハードとソフトが支え合っている。ソニーもこうした会社に進化できる」と指摘。その上で、今後の方向性について、ハードウェアだけではなくネットワークを通じたエンタテイメントコンテンツを供給することで「『ソニーらしい商品』を生み出す会社から、『ソニーらしいユーザー体験』を提供する会社に進化したい」と語った。(ソニー、ゲーム子会社の事業モデルでアップルに対抗へ=次期社長)

そしてアップルとの違いについて、
高収益を続ける米アップルのビジネスモデルについては「(われわれが目指すのは)それとは違うビジネスだ」と指摘。「SCEの事業はハードがソフトを強化し、ソフトがハードを強化する。そしてそれらはすべてネットワークでつながっている。これはゲーム事業でやってきたことだが、このコンセプトはこれからのソニー全体に応用できる」と繰り返し強調した。(ソニー、ゲーム子会社の事業モデルでアップルに対抗へ=次期社長)
佐々木俊尚氏のツィートでは、
ソニーが重視してきた「ソフト」というのはDVDとかゲームのコンテンツのことでは? 大切なのはソフトとハードの間のアプリで、ソニーはそこが決定的に弱いと思う。/ソニー、ゲーム子会社の事業モデルでアップルに対抗へ=次期社長 ロイターhttp://j.mp/yH4sVu
(https://twitter.com/#!/sasakitoshinao/status/167751895291666434)

確かに、どこか勘違いしている部分がある。これは、コンテンツを忘れたハードに未来はない(2) でこんなことを引用した。

しかしながら、Androidタブレットの抱える問題は、時間や成熟度といった観点から解決できるものではない。Googleと、そのパートナーであるハードウェアメーカーは勝負のしどころを間違えているうえ、そのことにまだ気付いていないのである

Googleに背中を押された)サムスンASUSTeK Computer(ASUS)、東芝は高解像度カメラやUSBポート、HDMI端子、クアッドコアプロセッサ、キーボードドック、いくつかの周辺機器を用意しさえすれば、自社のタブレットがAppleiPadよりも優位に立てると考えているようだ。彼らは真面目に「われわれのタブレットはiPadよりも多くの機能を搭載している」と主張しているように見えるのだ。(「iPad」や「Kindle Fire」を超えるタブレットが登場しない理由)

この勘違いの原因は何か。僕は、ジョブズとソニー(5)「スティーブ・ジョブズ」のソニー部分(2)で、「スティーブ・ジョブズ」の中でソニーがなぜアップルに追いつけないかを書いた部分を引用したことがある。
ウォークマンでポータブル音楽プレイヤーの世界を拓いた実績もあれば、すばらしいレコード会社を傘下に持っている。美しい消費者家電を作ってきた長い歴史もある。ハードウェア、ソフトウェア、機器、コンテンツ販売を統合するというジョブズの戦略に対抗するために必要なものはすべてそろっているのに、なぜ、ソニーは失敗したのだろうか。

ひとつは、AOLタイムワーナーなどと同じように部門ごとの独立採算制を採用していた点だろう。そのような会社では、部門間の連携で相乗効果を生むのは難しい。
アップルは、半ば独立した部門の集合体という形になっていない。ジョブズがすべての部門をコントロールしているため、全体がまとまり、損益計算書がひとつの柔軟な会社となっている。
「アップルには、損益計算書を持つ『部門』はありません。会社全体で損益を考えるのです」
とティム・クックも語っている。

もうひとつ、ふつう会社はそういうものだが、ソニーも共食いを心配した。デジタル化した楽曲を簡単に共有できる音楽プレイヤーと音楽サービスを作ると、レコード部門の売り上げにマイナスの影響が出るのではないかと心配したのだ。
これに対してジョブズは、“共食いを怖れるな”を事業の基本原則としている。
「自分で自分を食わなければ、誰かに食われるだけだからね」


だから、iPhoneを出せばiPodの売り上げが落ちるかもしれない。iPadを出せばノートブックの売り上げが落ちるかもしれないと思っても、ためらわずに突き進むのだ。
この年の7月、ソニーは音楽業界で豊富な経験を持つジェイ・サミットをトップとして、ソニーコネクトというサービスの構築をはじめた。iTunesと同じように楽曲をオンラインで販売し、ソニーのポータブル音楽プレイヤーで再生できるようにするサービスだ。
ニューヨークタイムズ紙はこう報じた。
「この動きは、衝突することが多いソニーのエレクトロニクス部門とコンテンツ部門をまとめるためのものだろう。ウォークマンを発明し、ポータブルオーディオ市場最大のプレイヤーであるソニーがアップルに完敗したのは、この社内抗争にあると言われている」
ソニーコネクトは2004年5月にサービスを開始したが、わずか3年強で終了する。(ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳「スティーブ・ジョブズ?」講談社/p192)

アップルはソフトを持っていない。ソニーは、ソフトとハードの共食いを怖れてより深く進化することができなかった。

ストリンガーの役目

これらの共食いを怖れる原因は、サイロだと言われる。ストリンガー氏の決意(ホームサーバの戦い・第103章) で、
2005年、会長兼CEO就任直前、ソニー幹部社員1,000人を集め、「マンチェスター・ユナイテッドみたいな話だが、ソニーは『ソニーユナイテッド』になるべきだ」と訓示した。
これは「グループ全体が一致団結すべきだ」というメッセージである。彼は、現在のソニーをこうみている。組織はアナログ的なタテ社会で、縦割りの体質がある。社員はそれぞれの小さなタコツボの中に入ったまま、出てこない。タコツボの壁を横断する形でコミュニケーションを取っていなかった(いわゆる“サイロ型システム”)。これらは、典型的日本社会の特徴とされてきた部分であり、通常の日本人にとってソニーは最もそれらと無縁と思われてきた。しかし外国人であるストリンガーの目には、ソニーこそその悪循環の縮図が展開されていると見えたのである。(ハワード・ストリンガー-Wikipedia
この『ソニーユナイテッド』が成功したかどうかは、これからの商品を見ていかなければならない。しかも、ソニーはアップル手法を真似することはできない。条件も違うし、ジョブズ氏のような(言い換えれば久夛良木氏のような)カリスマはいない。

『ソニーらしいユーザー体験』とは何か

佐々木氏のツィートに書いてあるように、ソニーはハードとソフトの間のアプリが弱い。それは、サイロのために、ハードとソフトの双方からそれぞれアプリを作っており、連携していなかったからだ。その使い勝手のよいことをユーザー・エクスペリエンス(体験)ということもある。アップルが強いのは、このユーザー・エクスべリエンスがよいことである。

ユーザー・エクスペリエンスとは、

「エンドユーザーと、会社およびそのサービス、製品との相互作用のあらゆる面を含んでいる。典型的なユーザーエクスペリエンスの第一要件は、つまらぬいらいらや面倒なしに、顧客のニーズを正確に満たすことであり、次に所有する喜び、使用する喜びとなる製品を生産するといった簡単、簡潔なことである」と定義している。(ユーザー・エクスペリエンス)(ユーザー・エクスペリエンスの時代(ホームサーバの戦い・第98章) )
とある。アップルに勝つには、より優れたエクスペリエンスを成し遂げることしかない。
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