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素人だから言えることもある

ホームサーバの戦いシリーズの原点(ホームサーバの戦い・第117章)

初めはプレイステーションだった

「ホームサーバの戦い」シリーズは今回で117回目。このシリーズで取り扱う分野はあまりにも広い。ゲーム、テレビ、電子書籍、新聞などあまりにもさまざまなジャンルが含まれつつあるため、原点が見えにくくなった。

僕が「ホームサーバ(ー)」という言葉を初めて知ったのは、SCE会長時代の久夛良木健氏の言葉だった。第一章にあたる家電屋VSコンピュータ屋、ホームサーバーの戦いで引用している。

ネットワークで配信(再配信)可能なコンテンツには、ゲームの他にも、映画・音楽、許諾を受けた放送番組、あるいは個人が撮影した膨大な数の写真や動画などがあるだろう。今後、家庭において「プレイステーション 3」自体がホーム・サーバーとなり、他の携帯機器やネットワーク接続されたデジタル家電機器、さらにはパソコンにも、ゲームや映像や音楽を配信することも可能になる。(久多良木健氏からの手紙、「PS3が創るリアルタイム・コンピューティングの未来」)
ここで、僕は、ホームサーバという言葉を初めて知った。もちろん、いわゆるPCのホームサーバーとは意味が違う。コンピュータメーカーの発想するホームサーバーではなくて、家電企業のソニーの久夛良木健氏の構想するホームサーバはあらゆるデジタルコンテンツを自宅のPS3に貯め込む構想だった。

ビル・ゲイツXboxを作った理由

マイクロソフトビル・ゲイツ氏は、Windowsで成功を収めたものの、リビングに進出したいと思っていた。パソコンは書斎に置かれ、リビングのテレビにつながれるゲーム機にあこがれを抱いた。Xbox vs PS2(ホームサーバの戦い・第8章) で、その頃の話を描いた。
しかし、ゲイツはあきらめなかった。彼は1999年にプレイステーション2(PS2)が発表されるよりずっと前に、ソニーのCEO出井伸之に、マイクロソフトのプログラミングツールを使ってほしいと持ちかけている。次に出るPS2用のゲームを作るのがこれで楽になると主張したが、出井は断った。

(中略)

失敗に終わったソニーとの交渉の場から戻ってくると、ゲイツは部下に言った。ソニーはマイクロソフトと競いたがっている。PS2は、単なるテレビ用のセットトップボックスやゲーム機の枠に収まらないだろう。PCにとって脅威になるのは間違いない。ゲイツの口ぶりから、マイクロソフトの幹部たちは、交渉がなごやかに進んだものと勘違いした。実際、出井が受けた印象は正反対だったのだが。(ディーン タカハシ著/元麻布 春男監修/永井 喜久子訳「マイクロソフトの蹉跌—プロジェクトXboxの真実」ソフトバンク)

この「PCにとって脅威になるのは間違いない」とは何か。当時3DOのトリップホーキンズはこう言っているという。
MITで開かれたゲームサミットで、3DOのトリップ・ホーキンズは、ソニーのPS2のことを「トロイの木馬」と評した。ただのゲーム機のつもりで買うと、テレビ接続の通信端末やPCの役割をいつの間にか分捕って、エンタテインメントの主役に収まってしまうからだ。ホーキンズは、1993年に3DOリアルマルチプレイヤーを発売したときにも同じことを言っていた。ホーキンズの読みでは、ソニー製「トロイの木馬」の方が、家庭向けのエンタテインメントボックスとしてPCに置き換わるチャンスが高かった。(ディーン タカハシ著/元麻布 春男監修/永井 喜久子訳「マイクロソフトの蹉跌—プロジェクトXboxの真実」ソフトバンク)
PCとゲーム機の壁はそれほど厚かった。ゲーム機のコントローラーなら使えても、キーボードを扱うには敷居が高かったのだ。マイクロソフトは、Xboxを作りファミリー層に親しまれるようになる。アップルはキーボードをタッチパネルに変えて、iPhoneiPadを作った。

ジョブズのデジタルハブ計画

スティーブ・ジョブズ氏が2001年にこんな構想を打ち出している。
ジョブズは、アップルを変革し、同時にテクノロジー業界全体さえも変革しようとする壮大な構想を打ち出す。パーソナルコンピュータは脇役になどならない。音楽プレイヤーからビデオレコーダー、カメラにいたる、様々な機器を連携させる「デジタルハブ」になる――としたのだ。あらゆる機器をコンピュータにつないで同期する。そうすれば、音楽も写真も動画も情報も、ジョブズがいう「デジタルライフスタイル」のあらゆる側面をコンピュータで管理できる。(ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳「スティーブ・ジョブズ?」講談社/p147)( ジョブズとソニー(5)「スティーブ・ジョブズ」のソニー部分(2) )
久夛良木健氏の構想と違う点は、真ん中にPS3でなくコンピュータというだけである。この構想を生かすことができないソニーとアップルの違いという問題もあるが。やがて、アップルは、この中心になる機器をクラウドに変える。
ユーザーとクラウドとの関係を管理する会社に僕らはならなきゃいけない――音楽や動画をクラウドからストリーミングする、写真や情報、場合によっては医療情報までをクラウドに保管する。コンピュータがデジタルハブになると見抜いたのはアップルだ。だから僕らは、iPhotoiMovieiTunesなどさまざまなアプリを作り、それをiPodiPhoneiPadといった機器に結び付け、抜群の使い勝手を実現したんだ。でもこの先数年で、ハブはユーザーのコンピュータからクラウドに移る。デジタルハブ戦略という意味で同じだけど、ハブの場所が変わるんだ。そうなれば、どこからでも、自分のコンテンツが使えるようになり、同期する必要もなくなる。

僕らはこの移行にちゃんとついて行かなきゃいけない。クレイトン・クリステンセンは「イノベーションのジレンマ」という言葉で「なにかを発明した人は自分が発明したモノに最後までしがみつきがちだ」と表現したけど、僕らは時代に取り残されたくないからね。モバイルミーは無料にするし、コンテンツの同期も簡単にできるようにする。サーバーファームもノースカロライナに準備中だ。ユーザーが必要とする同期は全部僕らが提供する。そうすれば、アップルから離れられなくなる。(ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳「スティーブ・ジョブズ?」講談社/p374-375) ( ジョブズとソニー(5)「スティーブ・ジョブズ」のソニー部分(2) )

ホームサーバの戦いは、現状ではアップルの一人勝ちにも見える。だが、あらゆる世界中の業界やメディアを巻き込んでいく中で、現状を維持するのは至難の業だ。新鮮なニュースと過去のエントリーを駆使しながら、「ホームサーバの戦い」のシリーズを書き続けていきたい。
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