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「ザ・ベストテン」の謎(「新春TV放談2013」後半部分補足情報・6)

抜き書き「新春TV放談2013」後半部分(2) で登場した「ザ・ベストテン」の話題は次の2点。「ランキング方式」の謎と「生中継」の謎。

「ランキング方式」の謎

秋元康氏は、
秋元 だから1回目の放送の時の会議が一番大変で、その週の一番売れている人たちが来る訳じゃないですか。テレビの常識からいうと、オープニング、全員いた方が、数字、いいんじゃないのっていうのが、あったんですよ。だから、先に全員紹介して、後からその人が何位かというふうにするか、やっぱり隠してるか、どっちかにしようというのが、どっちかにしようというのが、ずっと、あったんですよ。でも、結局隠してる方にしたんですけどね。(抜き書き「新春TV放談2013」後半部分(2) )
この「ザ・ベストテン」の「ランキング方式」の問題は、企画段階からあった。当時の「ザ・ベストテン」のディレクター、プロデューサーであった山田修爾氏は、こう書く。
私はTBSに入社して10年目だった。『ザ・ベストテン』と同じ時間枠の木曜夜9時から10時まで『トップスターショー』という音楽番組を担当していたが、視聴率がかんばしくなく、それに代わる新しい音楽番組を企画していた。その企画会議では様々な企画案が出たが、最終的に、音楽番組のコンセプトで意見が真っ二つに分かれた。

キャスティング方式かランキング方式か……。
前者はおおむねベテランスタッフが主張し、後者は若手社員が後押しした。
私は、ランキング方式支持派だった。キャスティング方式による音楽番組の魅力も認めるが、視聴者の声をストレートに反映させていないと思っていたからだ。

当時、ニューミュージックと呼ばれた曲は、テレビではほとんど紹介されない。例えば、私の大好きな中島みゆきさんの「アザミ嬢のララバイ」は若い世代のハートをつかんでいる曲なのに、キャスティング方式では、そのニーズを汲み取ることができていない。そう感じたのは私だけでなく、ランキング方式支持派の若いスタッフも同じだった。

そんな私たちの意見に、キャスティング方式支持派の人たちがランキング方式の問題点を指摘する。

「ニューミュージック系の歌手は、ベストテンにランキングされても、出演しないと言ってくる可能性があるぞ。その時、視聴者にどう説明するんだ?」
「視聴者には“出演できません”と正直に謝るしかないですね」
「それじゃあ、番組として成立しないだろう」


痛いところを突いてくる。だが、ウソをつかない正直なランキングをすれば、視聴者は制作者の真摯な態度を理解してくれるのではないかとの期待を私たちは持っていた。
視聴者という一般の人たちは、職場や家庭といった日常で一生懸命仕事や家事をしているが、すべてがうまくいくわけではない。成功もあるが失敗も多々ある。テレビ制作の人間がギリギリまで出演交渉してダメだったら、そのダメだったことを素直に伝える姿勢は、一般の人たちと同じ目線に立つことであり、それが視聴者の共感を呼ぶのではないか。私は、冷や汗をかきながらも反論した。


「テレビは確かに“虚飾”の部分があり、それが必要なことも十分に認識していますが、今の時代は、我々製作スタッフが視聴者と共通の精神構造を持つことが、テレビに求められているのではないでしょうか……」(山田修爾著「ザ・ベストテン」ソニーマガジンズ)

このキャスティング方式とランキング方式の論争が解決するのに3か月かかった。司会の黒柳徹子氏と山田氏の対談がこの本の巻末にあった。
黒柳徹子 12年間で結局、何回放送したんでしたっけ?

山田修爾 前夜祭と最後のスペシャルを入れると、全部で605回です。ただ、『ザ・ベストテン』も本来、普通に10月から始まる予定だったんですよ。

黒柳 あら、いや、その前の年の?

山田 はい。ところが企画段階でかなりモメてしまいまして、10月に間に合わすことができなかったんです。新しい歌番組を始めるにあたり、部内が「ベストテン方式派」と「キャスティング方式派」に割れまして。激論になってしまったんですね。それで正月明けになってしまいました。

黒柳 へぇ、知らなかったわ。キャスティング方式というのは、その時々に人気のある歌手の方たちを幅広くお招きするということ?

山田 はい、そういう意味です。問題は、それだと従来のスタイルと変わらないということなんですね。TBSでは、それまで何年も歌番組を作ってきましたが、どうもこれという決定打を放てませんでした。そんな中で、より強い歌番組を作ろうと考えた時、僕たち若手はベストテン方式しかないなと。

黒柳 どうしてそれが良いと思ったの?

山田 芸能界のしがらみとか、レコード会社の事情とか、そういった大人の事情には決して縛られない――いわば視聴者が本当に聴きたい曲だけで構成された番組を作ってみたいと思ったんです。でも諸先輩方は、やっぱりキャスティング方式の方が無難だろうと。それでモメてしまいまして……。

黒柳 山田さんのグループは、若い世代が中心だったのね。

山田 ええ。ですから今ひとつ信用がなかった(笑)。ただ、そうやって意見が対立していた頃に、たまたま制作局長が変わりまして。いい加減決着しなければという時、新しい局長が「それは当然若手の意見だろう」と言ってくれたんですね。それで予定より3か月遅れで、1月にスタートすることができました。

(中略)

黒柳 でも私も、一緒に歌番組を作っておきながらこんなこと言うのも何ですけれど、歌謡界の事情なんてちっとも詳しくなくてね。それで山田さんから司会のお話をいただいた時、「順位の操作は絶対にしないでください」て。お引き受けする条件としてそれだけお願いしたんですね。だって、実際は1位じゃない人を「今週の第1位です!」と紹介するのは嫌でしたから。

山田 ええ、そうでした。よく憶えています。

黒柳 きっといろいろ大変なこともあったと思うんですけど、スタッフはその約束を最初から最後まで、本当にしっかり守ってくださって、1位から100位までコンピュータでパーッと集計した紙を、毎週きちんと見せてくださったのよね。私たち、それを毎週ちゃんとチェックして、へぇ、こんな風になってるんだって。

山田 それだけに出演交渉が難航して、ランクイン組のうち何人もがスタジオを欠席してしまったことも多々ありましたけれど(笑)。

黒柳 だから、久米宏さんが毎回謝ってましたものね(笑)。「○○さんは現在海外でレコーディング中です」とか「○○さんは今週も出ていただけませんでした」とか、いちいち視聴者の方に説明して。時には三人も四人も出られなくて、謝りっぱなしだった日もあったでしょう。

山田 ありましたね。あまり名誉なことではありませんが。

黒柳 でも逆に言うと、それが新鮮だったんでしょうね。この番組は、こっそり順位を繰り上げちゃったりしないということが伝わって。「これこそ正真正銘のベストテンなんだ」って信用していただけたんでしょうね。

山田 そうですね。歌手に出演を拒まれたことを隠さずに視聴者に伝えた歌番組は、おそらく『ザ・ベストテン』が最初だと思います。(山田修爾著「ザ・ベストテン」ソニーマガジンズ)

「生中継」の謎


キャスティング方式の番組だと、中継などいらない。スタジオに出演できる人を集めれば済んでしまう。一方、ランキング方式だとそうはいかない。
上田アナ 「ザ・ベストテン」といえば…。全国どこからでも生中継。
秋元 これ、専門的に言うと、昔は、生放送、生中継とかだと。2段で飛ばしてたんですよ。これは、すごい大変な事なんだけども、見てらっしゃる方は、全然そんなこと…。ねえ。
昔は、電話回線も、ず〜っと、つないだりしてたんですけど、やっぱり、技術が、今のように進んじゃうと、こういう緊張感がなくなってくるんですよね。
上田アナ やっぱり、かなり緊張?
秋元 それはもう、だって、松田聖子さんが歌って、新幹線に乗って帰る訳だから。
上田アナ 時々、新幹線が発射しちゃったりする時も…。
秋元 ありました。
上田アナ え〜歌が途中なのにみたいな。(抜き書き「新春TV放談2013」後半部分(2) )
この生中継の発想はどこから来るか。
音楽番組の生中継も『ザ・ベストテン』が最初ではなかろうか。
生中継は、現場にカメラなどをそろえた中継車が出向き、それを視聴者に伝える放送システムである。報道番組では、よく活用している。事件・事故の現場から逐一報道される情報は、視聴者にインパクトを与えるからだ。

しかし、音楽番組の“現場”とは、いったい何なのか。
ザ・ベストテン』はランクインした歌すべての紹介を大前提としているだけに、放送当日にスタジオ入りできない歌手をつかまえる場合は、その時刻に彼らがいる場所へ出向くことになる。地方のコンサート会場や他局の収録現場、あるいはレコーディングスタジオ、時には列車で移動中の場合も考えられる。その撮影の可能性は全国各地になる。
それを放送することができるのか、さらに言えば、移動中の歌手を放送する可能性があるのか。先例がないだけに制作スタッフは、暗中模索の中で解答を導き出すよりほかなかった。

放送作家の塚田茂氏(故人)からアドバイスを受けたことがある。塚田氏は、こう語った。
「例えば、百恵ちゃんが生放送の時間帯は移動中で、木曜夜9時30分頃には東海道新幹線に乗って蒲郡を通過しているとしたらさ、蒲郡でその走ってる新幹線をカメラに収めりゃいいんだよ。新幹線の窓際に座った百恵ちゃんが窓の外に笑顔で手をふるかもしれない。それを固定カメラが捉えられるかもしれない。現場リポーター(後の追っかけマン)が“今、山口百恵さんは、新幹線で蒲郡付近を通過しているところです”と実況する。大切なのは、生の百恵ちゃんを番組がしっかり追っかけている姿勢を見せるかどうかだと思うよ」
生中継の真髄を語っていただいた。まさしく「それだ!」と私も感じた。

しかし、たった数分間の中継のために、ディレクター、AD、カメラマン、照明などの製作スタッフを現場に派遣することはできなかった。
それまでの音楽番組中継と言えば、例えば、北海道の雪祭りで何人もの歌手が歌うシーンを放送するために、東京のTBSからスタッフが北海道に大挙出向き、旅費・宿泊費などを含めて多くの予算を必要とする制作手法だった。それでは経費がかかり過ぎる。どうすればいいのか。

その時、ヒントになったのがフジテレビの『プロ野球ニュース』だ。
名古屋、大阪、広島、福岡などの地方で開催されたゲームをフジテレビ系列の放送局が中継または取材して編集し、各地から解説者とアナウンサーが5分ほどの生入中をする。
それを見て「TBSにも全国に系列局がある。そこに中継の協力を依頼すれば、短時間の生中継も難しい事ではない。よしこれだ!」と思った。

さっそく放送開始の約1か月前にネットワーク(JNN)の制作担当者にTBSに集まっていただき、番組趣旨を説明して協力を仰いだ。
だが、先例がないと、なかなかイメージが湧かない。
「なぜ、たった3分の中継に、ウチのデカ中(大型中継車)を出す必要があるのですか。困るんですよね、そう言われても……」
私が系列局の人間であったとしても同じ意見を言ったかもしれない。当時、JNNを使うのは報道番組だけであり、音楽番組に大型中継車を使うのは前代未聞のことだった。それもたった3分の歌のために。

正直言って、系列局が積極的に『ザ・ベストテン』に協力するようになったのは、番組がスタートしてから1〜2年経過してからだ。視聴率が上がることで番組内容が広く知られるようになり、生中継という放送スタイルの重要性が認識されてからは、TBSスタッフが現地に出向くと「待ってました!」とばかりに我々を歓迎し、中継にも率先して支援してくれるようになったのだ。
数字を取る(テレビ局制作の場合は視聴率、一般企業では売り上げ・利益)というのは、どの業界においても“黄門様の印籠”のような性質を持っている。(山田修爾著「ザ・ベストテン」ソニーマガジンズ)

面白いのは、萩本欽一氏が、素人いじりの面白さを知った「オールスター家族対抗歌合戦」の作家が塚田茂氏、「ザ・ベストテン」の生中継のヒントを与えたのが同じく塚田茂氏であったことだ。さすがに、あらゆる業界を知っている塚田氏は、番組をどうやれば面白くするかを知っている。

「ミラーゲート」の謎

抜き書き「新春TV放談2013」後半部分(2) の中で千原ジュニアがこんなことを言っている。
千原 あのころの、諸星君の話とか、聞いたら、すごいですよね。
ザ・ベストテン」最終回1位、光GENJIやったらしいんです。最終回1位やったら、あのドア、持って帰っていいって言われて、家、持って帰ったんですよ。諸星君。ホンマに「ザ・ベストテン」に出てくるアイドルの人たちを、ホンマの自宅の、あの回転扉から出してたっていう。
(一同-笑い)( 抜き書き「新春TV放談2013」後半部分(2) )
そこで、やはりこの「ザ・ベストテン」の本の巻末のリストを調べてみる。ところが、通常の603回目の最終回は光GENJIではなかった。
f:id:mugendai2:20130115033659j:plain(山田修爾著「ザ・ベストテンソニーマガジンズ)


これは「ごくろうさま黒柳さん」と書いてあるように、最終日のランキングボードである。1位は確かに光GENJIになっている。しかし、よく見れば「先週の総合ベストテン」と書いてあるのが分かるはずだ。つまり、光GENJIは602回の1位だったのだ。f:id:mugendai2:20130201145933j:plain(山田修爾著「ザ・ベストテンソニーマガジンズ)

それでも、光GENJIはこのミラーゲートの取得にふさわしい。というのは、602回まで7週連続で1位を死守したのだから。なお、日々?、Santakuというブログでは、TBSでザ・ベストテン・ミュージアムのリポート記事があった。そこにあった最終回のランキングは、
f:id:mugendai2:20110806125659j:plain(日々?、Santaku)

確かに工藤静香が1位になっている。

ところで、ミラーゲートというのは一体どんなものだろう。
f:id:mugendai2:20130201145934j:plain(山田修爾著「ザ・ベストテンソニーマガジンズ)(日々?、Santaku )

ベストテンに入った歌手が登場するゲートはどのようなものが良いのか。演出、美術のデザイン会議は“ある素材”を見つけ出し、盛り上がった。それは薄いフィルム状の鏡だ。鏡というとガラスだが、それはかなりの重量になる。しかし、見つけてきたフィルム状のものは紙と同じ程度の重量なのだ。最高に豪華で華やかな、そう! ヴェルサイユ宮殿の鏡の間みたいな豪華で華やかに、鏡を使って登場ゲートを作ろうということになった。回転扉にすればゲートは万華鏡のように登場歌手をキラキラ写し出す。床も壁も天井も全部フィルム状の鏡でできたザ・ベストテン“ミラーゲート”はこうして生まれた。(山田修爾著「ザ・ベストテン」ソニーマガジンズ)
なお、フィルム状の鏡はすでに販売されている。検索すれば、本物の鏡よりも安く手に入る。
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