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素人だから言えることもある

PS3の値下げとリビングの覇権(ホームサーバの戦い・第34章)


PS3新型29980円


 かねてからの噂どおり、PS3の値下げが決まった。9月3日より30%スリムのPS3が発売される。



 新型のPS3は、現行のPS3の基本機能を踏襲しながら、大幅にスリム化を実現し、120GバイトのHDDを標準搭載している。主要半導体から電源ブロック、冷却機構に至るまで本体各部を徹底的に見直し、新たに設計・生産することにより、初期PS3モデル(HDD 60Gバイトモデル)を基準に、体積・厚さ・重さともに約3分の2の薄型・軽量化を実現。さらに、消費電力も初期モデルの約3分の2に削減し省電力化を図ると同時に、ファンノイズを低減し静粛性をより高めているとのこと。(新型PS3が日本では2万9980円で9月3日発売決定)


 従来型より実に1万円の値下げである。かなりのインパクトがある。一時、ストリンガー会長が、



「PS3を作るたびに損失が出ているのだから当たり前」(ソニーのストリンガー会長、ActivisionのPS3値下げの圧力を拒絶)


と言ったのが7月の記事だったが、そのころは既に新型の生産が始まっていたと思われる。さらに、SCE平井一夫プレジデントが4月に「ネットワークプロダクツ&サービスグループ(NPSG)」のトップになっている。5月末に、「家電向けネット事業化へ ソニー、平井一夫・NPSGプレジデント」という記事があった。



 4月1日の組織改革で、ソニーのパソコンや携帯音楽機器、ゲーム機事業の統括部門「ネットワークプロダクツ&サービスグループ(NPSG)」のトップに就任した平井一夫プレジデントは28日、フジサンケイビジネスアイなどの共同取材に応じ、デジタル家電向けのネットワークサービスを事業化し、ゲーム事業の早期黒字化を目指す考えを明らかにした。
 詳細は、現在詰めているが、薄型テレビやオーディオ、パソコンなど、ソニーの家電製品向けに、インターネット経由による音楽や動画配信のほか、利用者同士が双方向で画像などをやりとりするなど、従来のデジタル家電の用途を進化させる仕組みを提供する考え。
(中略)
 すでに米国では、ソニーの液晶テレビ「ブラビア」向けに、DVD発売前のハリウッドの話題作を無料で配信する実験を行うなど、ネット機能と融合することで自社製品の差別化と利用者の囲い込みを図る考えだ。
 一方、08年度まで3年連続で赤字が続くゲーム事業は、部材の共通化などによりコストダウンを図り、「黒字化をいち早く実現させる」と強調した。次世代ゲーム機の投入については、言及を避けた。(家電向けネット事業化へ ソニー、平井一夫・NPSGプレジデント)


テレビリモコンとゲームリモコン


 そこで、プレスリリースを読むと、この新型には、



ブラビアリンク対応
新型PS3®はソニー株式会社の液晶テレビ<ブラビア>と連動するブラビアリンクにも対応。<ブラビア>と新型PS3®HDMIケーブルで接続すれば、テレビに付属しているマルチリモコン※3で直接PS3®XMBを操作できるほか、テレビの電源を切るとPS3®の電源も自動的にオフになる「システムスタンバイ」機能などをご利用いただけます。


とある。つまり、ソニーのテレビ・ブラビアとのリンクにPS3と初めての対応をうたっている。もちろん、テレビのリモコンでゲームを操作できるわけではないが。ここに平井SCEプレジデントの存在価値がある。今回の新型の特徴は、PS3の黒字化とブラビアなどのソニーの機器の連携を強化したという点である。


 据え置き型ゲーム機にとって、テレビはなくてはならない機械である。ソニーがテレビも作っている会社であるのに対し、任天堂マイクロソフトはテレビを作っていない。同じゲーム機メーカーであっても、ソニーのほうがよりテレビに近くなるのは当然である。ところが、今まで、SCEにしてもソニーのテレビ部門にしてもお互いに近づこうという努力をしなかった。「PSX」という失敗作があったが、これなどは、当時売れていた「スゴ録」と「PSX」が同時に発売したために、お互いのよさを打ち消しあってしまった。少なくとも、今回はこれらの反省の上に立って、作られていると信じたい。(追記、「コクーン」としていましたが「スゴ録」の間違いでした。訂正します。)


 さて、PS3がブラビア・リモコンで動くとすれば、思い出すのは、Wiiリモコンのテレビ化だ。



WiiリモコンがTVリモコンに!「テレビの友チャンネル Gガイド for Wii」配信開始
WiiリモコンがTVのリモコンに
 「テレビの友チャンネル」が起動している間は、テレビのリモコン代わりに、Wiiリモコンを使って、チャンネルの切り換えや音量の変更などを行なうことができる。


 PS3がテレビのリモコンを使ってゲーム機対応にしているのに対して、Wiiは、ゲーム機側がテレビ対応しているように見える。事実、任天堂の岩田社長は、



Wiiはテレビにチャンネルを増やすような機械にしたい


細切れの時間をいつでもどこでも使える携帯型ゲーム機に比べ、据え置き型には毎日電源を入れてもらう強い動機がいる。脳トレやニンテンドッグスといったゲーム機をやらない人でも楽しめるソフトも当然作るが、それだけでは足りない。


テレビは家族全員の共有物。みんなで見る番組があれば、子供だけが見る番組もある。見たい番組が重なれば、チャンネル争いも起きる。同じようにWiiも、家族全員に関係があり、毎日誰かが見たくなるようなチャンネルの1つでありたい。それこそが、据え置き型の存在意義なのではないか。(井上理著「任天堂“驚き”を生む方程式」日本経済新聞出版社)


とあるように、Wiiはテレビの一部になりたいと思って作られている。


リビングの覇権≒エンターテイメントの主役


 しかも、岩田社長は、



「別に僕はリビングルームの覇権を狙って、それで大儲けしようと考えてWiiを作ったわけじゃないんです。


そうじゃなくて誰の敵にもならない箱を作ったら、いやぁ、リビングの覇権も付いてくるかもしれないみたいなものになった。


リビングの覇権は目的じゃないんですよ。だけど、気づいたらゲリラ的に、覇権を握るのに一番近いところにいるのかもしれない」(井上理著「任天堂“驚き”を生む方程式」日本経済新聞出版社)


この発想にはテレビがリビングの王様というイメージが根底にある。それは、マイクロソフトの発想も同様だ。「Xbox vs PS2(ホームサーバの戦い・第8章) 」で、



 リビングルームへの進出をもくろむビル・ゲイツ会長にとって、テレビ用ゲーム機の開発は懸案のひとつだ。テレビこそ、PCを掌握した彼が次にねらっていたものだった。自社のソフトをゲーム機に組み込ませるという道もあったが、言うのは簡単でも、実現するのは困難だった。 (ディーン タカハシ著/元麻布 春男監修/永井 喜久子訳「マイクロソフトの蹉跌—プロジェクトXboxの真実」ソフトバンク)


この「リビングルーム」という言葉も象徴的なものである。パソコンは、通常、家庭では書斎に置かれる。書斎というのは、24時間誰もが訪れるものではない。どうしても、家族みんなが集まるリビングこそが輝かしいステージに見えてくるのだ。テレビにつながるゲーム機こそが次のビル・ゲイツの取るべき方向だった。



 しかし、ゲイツはあきらめなかった。彼は1999年にプレイステーション2(PS2)が発表されるよりずっと前に、ソニーのCEO出井伸之に、マイクロソフトのプログラミングツールを使ってほしいと持ちかけている。次に出るPS2用のゲームを作るのがこれで楽になると主張したが、出井は断った。


(中略)


 失敗に終わったソニーとの交渉の場から戻ってくると、ゲイツは部下に言った。ソニーはマイクロソフトと競いたがっている。PS2は、単なるテレビ用のセットトップボックスやゲーム機の枠に収まらないだろう。PCにとって脅威になるのは間違いない。ゲイツの口ぶりから、マイクロソフトの幹部たちは、交渉がなごやかに進んだものと勘違いした。実際、出井が受けたい印象は正反対だったのだが。(ディーン タカハシ著/元麻布 春男監修/永井 喜久子訳「マイクロソフトの蹉跌—プロジェクトXboxの真実」ソフトバンク)


 面白いのは、Xboxが誕生したきっかけがPS2にプログラミングツールを持ちかけて断られたためであり、プレイステーションが誕生したきっかけも任天堂スーパーファミコン用のCD-ROM機の契約が破棄されたことからであった



 初代プレイステーションの開発に着手する前、ソニーは任天堂と製造業務提携を結んでいた。ところが1991年、京都を本拠地とする任天堂は、ソニーを裏切って、突然フィリップと契約を結んでしまう。のちにプレイステーションの生みの親となった久夛良木は、冷水を浴びせられたような思いで、自分にゲーム機を作らせてほしいと進言した。当事ソニーのCEOであった大賀典雄も、同じく復讐に燃えていた。そして、議論が沸騰した製品選定会議の席上で、大賀は腕を振り回し、怒りもあらわに言い放った。「やれ!」ソニーに鼻であしらわれたビル・ゲイツも、きっと同じ思いだったに違いない。それから何年もたった後、今度はソニーが復讐される側になることは容易に想像がついた。(ディーン タカハシ著/元麻布 春男監修/永井 喜久子訳「マイクロソフトの蹉跌—プロジェクトXboxの真実」ソフトバンク)


 ともかく、現在この三社が世界のゲーム業界を握っている。



 MITで開かれたゲームサミットで、3DOのトリップ・ホーキンズは、ソニーのPS2のことを「トロイの木馬」と評した。ただのゲーム機のつもりで買うと、テレビ接続の通信端末やPCの役割をいつの間にか分捕って、エンタテインメントの主役に収まってしまうからだ。ホーキンズは、1993年に3DOリアルマルチプレイヤーを発売したときにも同じことを言っていた。ホーキンズの読みでは、ソニー製「トロイの木馬」の方が、家庭向けのエンタテインメントボックスとしてPCに置き換わるチャンスが高かった。(ディーン タカハシ著/元麻布 春男監修/永井 喜久子訳「マイクロソフトの蹉跌—プロジェクトXboxの真実」ソフトバンク)


 そういえば、3DO REALの発売や、GAME CUBEのDVDシステムを開発したのは松下電器(現パナソニック)だった。ソニーの真似をしてゲーム機を狙う気が多かったのかも。ともかく、エンタテインメントの主役になるには、ノンゲームである映画やテレビ番組の配信を手がける必要がある。Wiiについては、「任天堂がWiiで映像配信を始める理由(ホームサーバの戦い・第32章) 」でSDながらノンゲーム配信をしている。いわば、Wiiのターゲットがファミリー層なので、ここまでは認められるということなのだろう。ところが、PS3やXbox360は比較的ゲーマー層が多いので、より層を広げるためにもノンゲーマーを対象に映画配信やテレビ配信は避けられない。僕は、その発表は9月末の東京ゲームショウだと思っている。なぜなら、既に欧米では始まっているから。


 またその点で、今月29日にCNET Japan主催で開かれる「ネットサービスで変革する情報機器・家電の世界」も注目したい。ソニーやパナソニックの関係者による次世代のネットワークの世界が聞けるからである。


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