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素人だから言えることもある

失敗を許さない国

僕は、「コリコウな人々」でこう書いた。

このようなタイプは、細かいことによく気がつき、大きな失敗はしない。だが、大局に立つことは苦手だ。ほどほどに知能が高く、常識を守り、保守的だ。常識を打ち破る人間に対して、抵抗したり、足を引っ張る。官僚的、組織的ともいえる。また、目の前しか見えないので、自分の今の地位や生活を守ろうとする。「バカ」なら、先に不安を感じないが、「コリコウ」ゆえに、あらゆる情報から不安の種を見つけ出してくる。今、日本人の大半はこのタイプだ。(コリコウな人々)
なぜ、日本にはこのタイプばかり増えるのか。ヒントになる対談があった。現代ビジネスの田原総一朗×夏野 剛「立ち上がれ!ガラケー日本!!」である。
田原:僕はね、日本の大企業には経営者がいないと思うんです。
夏野:本当の意味での経営者がね。
田原:いない。だって例えばね、パナソニックの社長を、どっかの企業が引き抜きに来るかといえば、来ない。こんなの経営者と言わない。いや、パナソニックだけじゃないですよ、トヨタの豊田章夫さんを、どっかが引き抜きに来るかといえば、来ない。もっといえば日本の経営者の多くは新入社員で入って、30数年間社員として働いて、運がいいと経営者になる。問題は、よく言うんですが、日本の場合、経営者になる条件って私は4つあると思う。一つは30数年間失敗しないこと。
夏野:日本では大事ですよね。
田原:昔、企業を取材していたとき、この男はおもしろい、っていうのはいたんですよ。でも彼らは、その後、だいたい常務止まりなんです。
夏野:常務までいけばいい方なんじゃないですか。
田原:ああ、そうです。なんで常務止まりかというと、こういう男はチャレンジするんですね。チャレンジすると失敗もある。その段階で、日本ではアウトですよ。
2つ目。経営者になるにはね、人づきあいがいいこと。
夏野:人当たりがいい?
田原:人当たりがいい。だから、悪口を言われないことなんですよ。だいたいね、業績を上げるとか、会社に変革をもたらす人は個性的な人が多い。でもね、例えばいまここにいる瀬尾さん(編集長)みたいなのは個性的だから、絶対これ役員になれませんよ。だいたい個性的なのは、褒める人もいれば、貶す人もいる。貶す人がいたらだめなんですよ、日本では消去法ですからね。
夏野:日本はね。
田原:貶す人がいない人が社長になる。3つめは運がいい、そして4つめには力がある。こういう人が社長になる。
だから彼らが考えるのは、まず失敗したくないということです。
夏野:政治も似たような感じですね。いまの日本の政治。
田原:そう、失敗をしたくない。だから、チャレンジをしない
夏野:思いきったことをしない。(田原総一朗×夏野 剛「立ち上がれ!ガラケー日本!!」)
このような4条件を満たす人は、大きなチャレンジをしないので画期的な成功をすることができない。夏野氏といえば、僕は、「iPhoneを発想できなかった日本」でインタビュー記事を引用したことがある。
例えば、タッチ・パネルについて日本のメーカーや携帯電話事業者がディスカッションすると「入力が難しいんじゃないか」「ユーザーが受け入れないんじゃないか」といった否定的なことを言う人が、もう9割9分なんですね。でも、キーボードがない方が間違いなくかっこいい。問題は、難しさにチャレンジする気になるか、難しさを理由にやめてしまうかです。日本のメーカーや携帯電話事業者の開発の過程を見ていると、結構、早いうちにあきらめてしまうことが多い。それは信念がないからだと私は思う。結局、従来の延長戦上で開発を進めることが多くなります。みんなで議論しないと前に進まないので、とんがった部分がなくなってしまう。(日経エレクトロニクス2008年8月11日号「トップが信念を貫かなければ,「iPhone」は作れない」)
トップに立つ人間ほど、自分の失敗を恐れるため、周りから足を引っ張られる。日本のトップのほとんどがそうなれば、結局は、外国の発明の後追いとなってしまう。

また、この対談記事で興味深いのは、ソニーの久夛良木氏の名前が出てくる。

田原:決定の早さでいけばね、孫さんはその強みをよく知ってます。それに三木谷さん。いずれも、夜役員たちに電話がかかってくるんです。「こういうことやりたい、お前ら調べろ。明日の夕方会議やって決定する」と。日本の経営者はね、こういうことをやろうとまず思いつかない。下から上がってくるの待ってるだけです。思いついても、会議、会議で数ヵ月、下手したら1年以上かかっちゃう。
夏野:でも、例えば、ソニーのプレイステーション。あれをつくったのは副社長にもなった久多良木健さんという方なんですが、あの人は、まさにそのスタイルなんです
田原:そうなんすか。
夏野:PSPのデザインなんて、デザイナーと自分でやってました。「こうしたほうがいい、これでいけ」と。だからやろうと思えばできるんです。でも、そういう人が上に上がっていくのは難しい。
田原:常務、専務どまり。
夏野:みんなが怖いんですよ。久多良木さんが社長になるっていう噂はずっとあった。でも結局は社長になれなかった。ソニーの中で反対がたくさんあったと新聞に書いてあったんです。その反対の理由は何かと言うと、ソニーのためじゃなく、自分のためなんです
田原:怖いんだ。
夏野:政治家は国のこと考える、社員は会社のことを考えなきゃいけない。自分のことを考えて人を選んだら、人事は失敗ですよ。(田原総一朗×夏野 剛「立ち上がれ!ガラケー日本!!」)
久夛良木氏といえば、「昔のソニーには猛獣がたくさんいたし猛獣使いもたくさんいた」で、こんな言葉を引用した。
今、僕は世の中がリスクをとらない風潮に向かっていることをすごく心配している。産業界に共通してリスクをとらずに、確実に利益をとりにいく風潮があるよね。例えば、かつてのソニーは、失敗を恐れずにどんどん挑戦した。大きな失敗もいろいろとしたけど、いろんな挑戦の中からキラッと光るものが生まれた。挑戦をやめたら、進化は止まるし、未来はつくれない。僕のSCEでの人生は、未来への挑戦の歴史だと思う。リスクを背負って、果敢に挑戦してきたつもり、SCEを離れた後も、そういう僕の生きかたは変わらない。(週刊東洋経済 2007/5 / 19 号 「僕がやめる本当の理由を語ろう」)
チャレンジをせずにリスクをとらない、つまりリスクゼロの世界である。僕は、「リスクゼロ社会の幻想」で、
全ての企業が、このように内向きになっている時代、これを瓦解することはできないのか。それはノイズを排除するのではなく、むしろノイズを増やす。今まで、ノイズはムダと言うことで排除してきた。だが、ムダの中から新しいアイデアが生まれてくるのである。むしろ、自分の地位を守ることに汲々としている管理職こそ何の役にも立たないムダの骨頂だ。したがって、ノイズを増やすことで会社の方向を決めるキュレーターが生まれてくる。
と書いたとおり、「失敗を許す社会」にチェンジしていかない限り、日本の企業に未来はない。
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