夢幻∞大のドリーミングメディア

素人だから言えることもある

ジョブズ氏の最後の夢(ホームサーバの戦い・第102章)

スティーブ・ジョブズⅡ」から

ジョブズとソニー(4)「スティーブ・ジョブズ」のソニー部分(1) ジョブズとソニー(5)「スティーブ・ジョブズ」のソニー部分(2) で、「スティーブ・ジョブズⅠ・Ⅱ」(ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳/講談社)の中のソニーに関する部分を抜き書きしてみた。この本には、ジョブズ氏のこれからやりたいことも語られていた。
ジョブズには、これから実現したいアイデアやプロジェクトがたくさんあった。iPad用の電子教科書や電子教材を作り、教科書産業をバラバラにして生徒を重いバックパックから解放し、背中の痛みをなくしてあげたかった。初代マッキントッシュ時代からの古い友達、ビル・アトキンソンとは、暗い場所でもiPhoneですごい写真が撮れるようにと、ピクセルレベルで作用する新しいデジタルテクノロジーを開発していた。コンピュータや音楽プレイヤー、電話を変えてきたように、テレビもシンプルでエレガントにしたいと強く望んでもいた。

「とっても使いやすいテレビを作りたいと思ってるんだ。ほかの機器やiCloudとシームレスに同期してくれるテレビをね」

そうすれば、DVDプレイヤーやケーブルテレビのややこしいリモコンで苦労することもなくなる。

「想像したこともないほどシンプルなユーザーインターフェースにする。どうすればいいか、ようやくつかんだんだ」(ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳「スティーブ・ジョブズⅡ」講談社/p407-408)

電子教科書と日本対応

このiPadを使った電子教科書については、ソフトバンクの孫正義社長も対談で語ったことがある。孫氏の理想と夏野氏の悲嘆(孫正義VS池田信夫「光の道」対談(夏野剛司会)を読むでは、引用しなかったが、オリジナルの書き起こしでは、孫氏の電子教科書について語られている部分がある。
で、もうひとつ。なぜ、光の道が必要なのかというのに、デジタル教育だ。高度なIT教育、プログラムの提供。それから、いろんな大学だとか専門学校、いろんなところで、全部で使えるようにしていくべきだ。例えば、教科書。紙の教科書で十分だ、という人が、時々いますけど、じゃあ紙の教科書で正しい英語の発音できますか?

まあ、僕も中学校で英語習いましたけど、アメリカに16歳で渡ってみて、ほとんど日本で習った英語の先生がしゃべっていた発音はなんだったんだ。やっぱり日本人が見よう見まねでじゃべる発音より、外人が直接しゃべるネイティブの発音をですね、しゃべってくれる電子教科書のほうが、正しい発音を学べますね。化学記号だ、物理だとかいうのも、感動だとか好奇心をもっと刺激してくれる。歴史だって、面白くなる。検索能力も大いに飛躍できる。この教科書は3600億円でできます。1台あたり、約2万円で作れます。なにもiPadに限らなくて、AndroidもこういうiPadみたいなものがこれから続々と出てきます。

そういうことで、1台あたり、だいだい2万円くらいでできるわけですけども、すべての1800万人の学生全員にタダで配っても、年間700億円、3600億円でワンタイムのコストで済みますが、これ八ッ場ダム1本分より安い。八ッ場ダム1本分より安くて、八ッ場ダムなくても日本国家なくならないけど、日本の子どもたちが情報武装しないと、日本の国家がヤバイ。(【書き起こし】孫正義VS池田信夫「光の道」対談(夏野剛司会)Part3)

この「光の道」構想は、原口総務相時代にぶち上げられたものだが、今になって思えば、日本の縦割り行政がそれを阻害している。だから、引用した部分でも
AndroidiPad的なヤツはPCを前提にしてないようなものもこれから出てくるでしょうし、iPadでもスティーブ・ジョブズは当然、いまから何年か先にはPCはもうほとんど人がいらない。Wi-Fiが十分速度を持った、あるいは、光になった、という時代がくれば、直接iPad自身がもうPCを超える能力を持つようになってくる。

夏野:そうですね。ただ、いまはまだ実現していないです。
もう一つ、やっぱり、かなり最初にやったのは、ちょっと私も手前味噌なんですが携帯だと思うんです。携帯は、PCの知識がなくても、インターネットにアクセスすることを実現し、いま国内で約1兆円くらいのデジタルコンテンツが携帯でなっているんですが、日本はガラパゴスといわれますが、そこまでいっているんですが。これ、やっぱり総務省さんのビジネスモデルの介入で、非常に日本からこういう新しい携帯が出て来なくなっちゃいましたね。こういうことを一方でやっているとですね、せっかく、光の道で孫さんがおっしゃっているような、あるいは大臣がおっしゃっているようなことも、利活用と、人に対してのやさしいインターフェイスも国内もなかなか出てこないという、さらに難しい。ここどうしたらいいでしょうかね。

:これは両方だと思うんですよ。結局、例えば5年後を目標にして、規制も、全部どんどん改善していきましょう。利活用のための障害になっているものはなんですかということを、全部因数分解して、諦めるんじゃなくて、事をなすということのために、障害になっていることを全部リストアップして、1個1個全部潰していけばいい。(【書き起こし】孫正義VS池田信夫「光の道」対談(夏野剛司会)Part3)(孫氏の理想と夏野氏の悲嘆(孫正義VS池田信夫「光の道」対談(夏野剛司会)を読む) )

単純に「1個1個全部潰していけばいい」とはいうが、このつぶすべき規制の裏側には、さまざまな既得権益があり、それが抵抗勢力になってくる。「スティーブ・ジョブズ?」で引用した部分にも、「教科書産業をバラバラにして」とあるとおり、そのジャンルにかかわる既製産業の構造を破壊する必要がある。

究極のテレビ

ジョブズ氏の「とっても使いやすいテレビ」とは何か。Tech Waveの湯川鶴章氏は、
トータルなエクスペリエンスとして、今日のテレビは最悪の状態にある。

どこの家庭でもお茶の間のテーブルの上には、複数のリモコンが置かれている。地上波番組を見るにはテレビのリモコンを操作。ケーブルや衛星放送を見る場合は、テレビの入力ソースを切り替えて、ケーブルや衛星放送のリモコンを操作する。そしてそれぞれのリモコンには多数のボタンがついている。リモコンがスライド式になっていてスライドさせれば、さらに多くのボタンが現れるものもある。ゲームをしたければ、入力ソースを切り替えて、また別のリモンが必要になる。

複雑極まりないインターフェースである。

これをどうすればすっきりさせることができるのだろうか。

ジョブズは「分かった!」と語った。恐らくそれは既に多くの人が指摘している通り、今回のiPhone4Sに搭載された音声エージェントのsiriなのだろうと思う。

siriをテレビに搭載することによってリモコンを不要にしようというわけだ。「何かおもしろそうな番組をつけて」とテレビに向かって語りかけるだけで、過去の視聴履歴などから幾つか番組を提案してくれる。そんなテレビをAppleは作ってくるのだろう。(Appleは必ずテレビを作るだろうし、その機能を予測するのは困難ではない【湯川】)

つまり、たくさんのリモコンの代わりに人間の音声でコントロールしようというのだ。キーボードがタッチメディアになるように、人間本来の五感を使うことが「想像したこともないほどシンプルなユーザーインターフェース」となるのである。

これは、また、テレビ産業への挑戦でもある。電子教科書が教科書産業への挑戦であるように。ジョブズ氏がアップルに復帰して以降、作りあげた製品はいずれも、過去に成り立っていた産業構造を否定してきた。

イノベーションの本質

人間はどうしても、過去の製品をイメージして考える。ジョブズ氏はこういっている。
「顧客が望むモノを提供しろ」という人もいる。僕の考え方は違う。顧客が今後、なにを望むようになるのか。それを顧客本人よりも早くつかむのが僕らの仕事なんだ。ヘンリー・フォードも似たようなことを言ったらしい。「なにが欲しいかと顧客にたずねていたら、『足が速い馬』と言われたはずだ」って。欲しいモノを見せてあげなければ、みんな、それが欲しいなんてわからないんだ。だから僕は市場調査に頼らない。歴史のページにまだ書かれていないことを読み取るのが僕らの仕事なんだ。(ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳「スティーブ・ジョブズⅡ」講談社/p424-425)
また、こうも言っている。
IBMマイクロソフトのような会社が下り坂に入ったのはなぜか。僕なりに思う理由がある。いい仕事をした会社がイノベーションを生み出し、ある分野で独占かそれに近い状態になると、製品の質の重要性が下がってしまう。そのかわり重く用いられるようになるのが“すごい営業”だ。売り上げメーターの針を動かせるのが製品エンジニアやデザイナーではなく、営業になるからだ。その結果、営業畑の人が会社を動かすようになる。IBMのジョン・エーカーズは頭が良くて口がうまい一流の営業マンだけど、製品についてはなにも知らない。同じことがゼロックスにも起きた。

営業畑の人間が会社を動かすようになると製品畑の人間は重視されなくなり、その多くは嫌になってしまう。スカリーが来たときアップルもそうなってしまったし――これは僕の責任だった――パルマーがトップになったときマイクロソフトもそうなった。幸いなことにアップルは立ち直れたけど、マイクロソフトはバルマーが経営しているかぎり変わらないだろう。(ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳「スティーブ・ジョブズⅡ」講談社/p427)

技術畑がイノベーションを起こしても、営業畑がその利益を保持しようとして、新たなイノベーションが起こせなくなる。イノベーションは、結局、過去の破壊だからだ。企業が大きくなるほど、さまざまな製品を作り出す。それぞれの製品は、イノベーションで作り出されたものだ。時間がたって、新たなイノベーションを起こすと、過去の製品の営業を否定しかねないこともある。いわゆる『共食い』である。前項「ジョブズとソニー(5)「スティーブ・ジョブズ」のソニー部分(2) 」で、ジョブズ氏は、
ジョブズは、“共食いを怖れるな”を事業の基本原則としている。
「自分で自分を食わなければ、誰かに食われるだけだからね」
だから、iPhoneを出せばiPodの売り上げが落ちるかもしれない。iPadを出せばノートブックの売り上げが落ちるかもしれないと思っても、ためらわずに突き進むのだ。 (ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳「スティーブ・ジョブズⅡ」講談社/p192)
という。イノベーションを起こすことは、世界を敵に回すことなのかもしれない。
ブログパーツ