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素人だから言えることもある

地上デジタルのダークサイド

東京スカイツリーとアナログ放送のレターボックス

 墨田区に建設中の電波塔、東京スカイツリーが338メートルになり、東京タワーの333メートルを越えた3月29日、池田信夫氏のブログにこんな記事があった。
始まった「いやがらせ放送」
きょうからアナログTVの画面の上下に黒い枠を出す「レターボックス」の放送が始まった。これはHDTVの横長の映像を左右を切らないでアナログTVに出すもので、「アナログ放送はもうすぐ終わる」と知らせるためのいやがらせ放送である。さらに来年4月からは、下のように放送画面の全体に「デジタルに買い換えろ」という表示が1日中出る予定で、7月に電波が止まる前にアナログ放送を見ることは事実上不可能になる。
 最近、デジタル放送ばかり見ているので気がつかなかったが、アナログ放送に切り替えてみると確かに一部の局でレターボックス化は始まっている。総務省アナログ放送終了計画(改定版)によれば、レターボックス化は4ステップに分かれた3ステップ目である。
レターボックス化と告知スーパーの常時運用等
アナログ放送で、常時「レターボックス」による放送を行うとともに、常時「告知スーパー」を表示する。また、アナログ放送のみで、アナログ放送終了のスポットやミニ番組を集中的に放送するほか、アナログ放送の放送時間を差別化することも検討する。
なおデジタル化の進捗状況を勘案し第4ステップの取組を前倒しするなど、取組の強化についても検討する。(アナログ放送終了計画(改定版)
 4ステップ目は
「お知らせ画面」の一部で通常番組の表示等の実施
2011年7月1日から全ての放送時間帯について、下記(1)〜(4)のいずれかの表示方法による放送とする。
(1) 「お知らせ画面」の一部に通常放送を縮小表示
(2)通常番組の上に「お知らせ画面」の文字を全面スーパー表示
(3) デジタル放送への対応をお願いするミニ番組等を繰り返し放送
(4) 「お知らせ画面」(静止画)のみの表示
(1)〜(4)のいずれの表示方法とするかは各放送事業者で判断する。
ただし、上記(1)〜(4)による放送中であっても、緊急報道の際には通常の表示方法で放送する。
2011年4月以降を第4ステップの前段階ととらえ、必要性とデジタル受信機の普及率を踏まえて、(1)〜(4)の対応を前倒し実施し、漸次時間を増加させることを検討する。(アナログ放送終了計画(改定版)
 このPDFでは、第4ステップは、2011年7月1日からとなっているが、池田氏は4月からといっており、前倒し実施を含めていると考えられる。ともかく、第4ステップになれば、アナログ放送は見るに耐えないものになる。(なお、(1)の通常放送の縮小画面は4分の1以下に指定されている)このような放送は、アナログ放送視聴者にとって、池田氏の言う「いやがらせ放送」以外何物でもない。

 一方で、東京スカイツリーの報道で、地デジに興味を持たせ、他方でアナログ放送でレターボックス化を始めている。まるで、住人を無視して住居の取り壊しが始まったような気さえする。

なぜデジタル化が始まったかを語るものは誰もいない

 ところで、総務省よくある質問にこんな答えが載っていた。
Qなぜ、地上テレビ放送のデジタル化を進めるのですか

A 次の理由で、地上テレビ放送のデジタル化を進めているところです。

多様なサービスを実現
現代の生活のなかで最も身近な「テレビ」もテレビのデジタル化によって、今までにない多様なサービスを実現します。地上デジタルテレビ放送では、デジタルハイビジョンの高画質・高音質番組に加えて、双方向サービス、高齢者や障害のある方にやさしいサービス、暮らしに役立つ地域情報などが提供されています。
また、携帯電話、移動体向けのワンセグサービスも開始されています。

電波の有効利用
電波は、もう、目いっぱい使われています。
通信や放送などに使える電波は無限ではなく、ある一定の周波数に限られています。現在の日本では、使用できる周波数に余裕がなく過密に使用されています。
デジタル化すればチャンネルに余裕ができます。
デジタルテレビ放送では大幅にチャンネルを減らすことができます。空いた周波数を他の用途への有効利用が可能になります。

世界の潮流
地上デジタルテレビ放送は1998年にイギリスで最初に開始されました。現在は欧米ではアメリカ、ドイツ、イタリアなど、アジアでは韓国、中国、ベトナムなど、世界の20以上の国と地域で放送されており、デジタル放送は世界の潮流となっています。

情報の基盤
地上デジタル放送対応テレビをネットに接続し、より多くの情報を得ることができます。テレビをデジタル化することで、誰もが情報通信技術の恩恵を受けられるような社会にすることは国の重要な未来戦略であり遅らせることのできない施策です。

 電波の有効利用というのは、地上デジタル化に対する一般的な答えである。だが、ほぼ世界で一斉に地上デジタル化に走っている理由にはならない。なぜなら、各国の電波が同じ時期に一斉に不足するなんて事はありえないからである。つまり、「電波の有効利用」と「世界の潮流」は矛盾しているのだ。池田氏は、地上デジタル放送FAQでこんな事を言っている。
Q5.なぜ需要予測もはっきりしないまま、地デジを始めたのか?

A. もともと日本は、NHKの開発したハイビジョン(MUSE)で試験放送していたが、アメリカが1993年にMUSEを排除し、デジタル化することを決めたため、1994年にハイビジョンをやめてMPEG-2というデジタル圧縮に切り替えた。これはデジタル技術の進歩によって、デジタル圧縮の効率がハイビジョンを上回ったためだ。しかもアメリカが1998年にデジタル放送を始めたことから、「家電王国の日本がデジタルで遅れをとるわけには行かない」という郵政省の面子で始めた。
私は当時、NHKでハイビジョンの開発番組をつくっていたが、「解像度だけではNTSCを代替できない」という点で、現場の意見は一致していた。ブラインドテストをやっても、テレビの画質の違いは、ほとんどの人がわからないからだ。しかも画質でいちばん違いがわかるのはコントラスト、次が色温度で、解像度は最下位。平均的な画面(当時20インチ程度)では、数%の人しかわからなかった。
ところが郵政省は、テレビを知らない御用学者だけを集めた審議会で、アメリカに追随するという結論を出してしまった。需要予測はまったくやっておらず、消費者はカラー化のときのようにHDTVに飛びつくと考えていた。家電産業の優位を守るという産業政策の側面が強く、省内でも「通信衛星なら200億円でできるデジタル化を1兆円もかけてやるのは非効率で、ビジネスとしても行き詰まる」という有力な反対論があったが、政治の力に押し切られた。(地上デジタル放送FAQ)

 ただ、この書き方だと、NHKのMUSE方式ハイビジョン(アナログ)とアメリカのデジタル化の関係がよくわからない。そもそも、アメリカはデジタル化など考えていなかったのに、NHKがMUSE方式ハイビジョン(アナログ)を売り込みに行ったために、日本に自分たちの市場を荒らされてはならないとデジタルを開発したのである。(地デジが生まれた本当の理由(読者ブログ版)誰も語らない地デジの歴史参照)

ハードが変わるときはソフトが売れなくなったとき

 僕は、地デジが生まれた本当の理由(読者ブログ版)でこう書いている。
 メディアが変わるときはいつも供給側の都合である。決して需要側の要望を受けたものではない。たとえば、レコードがCDに変わったときも、レコードの売れ行きが落ち、ある程度いきわたってしまったためであり、これ以上需要を掘り起こせなかったからである。レコードを手に入れたものは、また同じレコードを買おうとは思わない。CDになれば、また同じ曲であっても買ってくれる。映画においても同様である。DVDが一通りいきわたると、今度は安売り合戦が始まっている。数千円で売っていたものが今では千円以下で手に入れることもできる。したがって、ブルーレイディスクやHD DVDで同じ映画をもう一度高く売ろうと考えるのである。
 そして、NHKがアナログハイビジョンを開発した理由も同じだった。
 視聴者の受信料で成り立っているNHKは、日本中のほとんど全世帯が加入したあとは大幅な収入の伸びは期待できず、人件費の高騰や設備更新のために資金の余裕がなくなる。それを打開するには、ハイビジョンなどの付加価値の高いチャンネルを新たに確保して別料金として新たな収入を確保するか、世界的なネットワーク化に対応してエリアを広げるか、ソフトを輸出するなどして再利用して生き延びるしかない。(ジョエル・ブリンクリー著/浜野保樹・服部桂共訳「デジタルテレビ日米戦争 国家と業界のエゴが『世界標準』を生む構図」アスキー
 アメリカがNHKを呼び出した理由は、モバイル通信に電波を取られないためだった。
 物語は86年に始まる。ケーブルテレビに市場を奪われ、さらに未使用だったUHF帯の電波を移動体通信に取られそうになった米国のテレビ業界が、「将来はHDTVという高解像度テレビを放送するのでチャンネルを確保したい」という口実を思いつく。しかし、その時点で、高解像度テレビが証明できるのは日本のハイビジョンだけで、放送業界のお家の事情が説明されないままNHKが招かれる。(ジョエル・ブリンクリー著/浜野保樹・服部桂共訳「デジタルテレビ日米戦争 国家と業界のエゴが『世界標準』を生む構図」アスキー
 面白いことに「電波の有効利用」というのはアメリカ側の口実だった。今、さかんに日本で総務省が使っているが。
 この「デジタルテレビ日米戦争 国家と業界のエゴが『世界標準』を生む構図」を読むと、放送規格をめぐって日米の放送技術者が何カ月もデジタルテレビ開発に没頭する姿は、頭が下がり、アメリカ側の底力を感じさせる。しかし、日本のアナログハイビジョン放送が、アメリカとヨーロッパを刺激し、世界の地上デジタル化を促進したのは紛れもない事実である
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